第107話 命の洗濯

 心地よい温かさの春も終わりを迎え、暑い日もぽつぽつと増え始めたころ。ついに公衆浴場が完成した。

 ハシバ国では毎年冬に石けんの無料配布を行っていることもあり、自分用の石けんをもって浴場に足を運ぶ国民も多い。

 男女別でそれぞれに大浴場1つと小浴場2つ、それにサウナもついているという日本の銭湯にも引けを取らない施設だ。

 また一部の壁はマコトがパトロンを務める芸術家のアデライトが描いたタイル画で彩られていた。


「あ゛ぁ゛~~~~~……極楽、極楽。やっぱり風呂は良いなぁ」


 マコトはようやく国内に風呂場が出来たことに感動していた。以前は川で体を洗うか、わざわざ都市国家シューヴァルにある浴場まで行かなくてはならなかったので特に。

 やはり日本人である以上、風呂のない生活というのはあまりにも味気が無かったのだ。




「オイ! 時間だ! 交代しろ!」

「いいじゃんもう少しだけ、もう少しだけ」


 マコトは何かの声がするので向いたところ、壁の前で男数人が肩車して覗きをやっていた。

 男湯と女湯を仕切る壁は上の部分が少し開いている。そこに目をつけ覗こうとする輩が後を絶たない。


「コラ! 何をやってる!? さあ、こっちに来い! 来るんだ!」


 もちろん衛兵が飛んできて連行されるのだが。さすがに全裸で捕まるのは恥ずかしいのか1度捕まって噂が流れるとさすがに懲りて2度とやらないという。




 時刻は夕方。一日の疲れをいやすために仕事を終えた人々がやってくる。訓練を終えたミノタウロスの集団だ。


「♪~~♪♪~~~~♪~~~」


 鼻歌交じりに身体を洗った後、浴槽に身を沈める。


「あ゛ぁ゛~~~~~……やっぱ訓練後の風呂は最高だな!」

「ああそうだな! 前は汗臭かったのがきれいさっぱり無くなったよ!」

「風呂上がりはエールで1杯やろうぜ。酒場「母乳」でな!」

「ははっ! そうこなくっちゃ!」

「まぁあせるな。酒は逃げねえんだまずはゆっくり温まろうや」


 次いでドワーフの鍛冶師たちが仕事を終えてやってくる。その中にミノタウロス達の知り合いがいて声をかける。


「おお! アンタ、ギレムじゃないか! 俺たちの斧をメンテしてくれてるんだって!? 助かってるぜ!」

「おうアンタらか! あの斧はずいぶんと歴史が詰まってるじゃねえか、いい斧だぜあれはよぉ。年季を感じさせるぜ! 俺たちドワーフからしても惚れ惚れする位の奴さ」

「嬉しいねぇそう言われりゃ。実を言うとありゃオヤジが使ってた斧を譲り受けたものなんだ」

「へぇそうかい! ちょっと作りが古いとは思ってたんだがそういう事だったのか!」


 話に花が咲く。

 地球でもそうだったが、浴場には単に湯船で疲れをとるだけではなくこの交流の場という意味合いも持つ。裸の付き合いというやつだ。


(やっぱり作ってよかったな。楽しんでもらえてるみたいだし。後は病気が減れば言うことなしだな)


 マコトは半分は自分のために浴場を作ったようなものだが、もちろん国民の事も考えての事だ。

 浴場で身体を洗う習慣が出来れば清潔になり不衛生による病気の予防ができる。健康な国民を生むための手段の一つだ。


(後は他の地域にも作らないとな……)


 今のところ浴場があるのはマコト直轄ちょっかつの首都地域だけだ。各領地にも建設しているが完成までにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 これに関しては競争してるわけでもないのでゆっくり行こうかとも思っていた。




【次回予告】

ついに生者の国と死者の国がぶつかり合う。


第108話 「決起」

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