第106話 奴隷商人の末路

 奴隷商人ギルドの上層部が集まり話をしていた。その表情、雰囲気は鉛のようにズシリと重い。


「どうする? もう西大陸の南半分はほとんどマコトの物だぞ?」

「今更廃業なんて出来ねえから俺は南大陸に行くことにするよ」

「俺は北大陸で再起を狙う。バクチ要素もあるが仕方ないな」

「お前たちはまだ奴隷で商売するのか。俺はもうあきらめたよ。南大陸からのコショウや香木にくら替えさ」


 反奴隷を掲げるマコト率いるハシバ国が西大陸南部を制圧するまでそう時間はかからない。

 それはすなわち、奴隷商人の居場所が西大陸からなくなることを示していた。

 多くの者は別の大陸へと舞台を移すか、あるいは奴隷を扱うのは辞めて別の商品を扱うことにした。

 そんな中、あくまで西大陸で奴隷貿易を続けようとしている者がいた。


「いや……あきらめるのはまだ早い。西大陸北部にハシバ国に匹敵する国が1つだけある。俺はそこを頼るつもりだ」

「!! お前、まさか!」

「辞めとけ辞めとけ! いくら何でもあそこと手を組むなんて悪手にもほどがあるだろ!」

「うるせぇ! 俺はこの仕事でのし上がってきたんだ! ぽっと出の王なんかに、何の苦労も知らねえあんな奴に言われるがままされるがままでいられるか!」


 ハシバ国への怒りと憎しみ、そしてプライドが混ざり合った感情を吐き出し、周りが制止するのを振り切って彼はヴェルガノン帝国と交渉することにした。




「ほほう。我々と取引がしたい、と?」


 数日後、船で西大陸北部に乗り込みヴェルガノン帝国の使いと交渉に入る。一見すると好意的に接してくれるように見えた。


「ええそうです。もしハシバ国と戦うのでしたら取引とは別に援助もします」

「ふむ。良いだろう。あるだけの奴隷全員を買い取らせてもらおう。いいですか?」

「!! 本当ですか!? いやぁありがとうございます!」


 交渉は割とあっさり終った。しかもあるだけの奴隷全部買うという最高の条件だ。

 なんだ、最初からここを頼ればよかったんだ。意外と良い人じゃないか彼らは、とさえ思った。


 それから10日後、奴隷を連れて約束で指定された商館の中へと入っていく。中にはヴェルガノン帝国皇帝自らが待っていた。


「おお。皇帝恩自おんみずからとは光栄ですな。約束通り、奴隷たちを連れてきました」

「そうか。では代金をお支払いしよう」


 そういうと待機していたゾンビの兵やスケルトンの弓兵隊が次々と館の中へと入ってくる。


「君も奴隷たちと一緒に私のもとで働くがいい。永遠にな」

「じょ……冗談……ですよね?」

「私はいたって大真面目だよ。『やれ』」


 帝国皇帝の命令とともに奴隷たちと奴隷商人は全員殺され、不死者アンデッドとしてヴェルガノン帝国皇帝デュークの忠実なしもべと化した。


「こいつは奴隷商人らしいからかなりの財を持っているだろう。彼を使って財産を全部差し押さえろ。口座もな」

「ハッ」


 デュークは配下のリッチに指示を出す。彼の財をすべて差し押さえるつもりだ。




「……なるほど。西大陸南部はほぼハシバ国の領土か」


 居城に戻ったヴェルガノン帝国皇帝は配下からの報告を聞く。まるで自分たちの勢力拡大に合わせるように領土を広げたハシバ国ではあったが、皇帝は特に問題視はしていなかった。

 我々には『渇き』がある。その封印が解ければこっちのものだ。と思っていたからだ。


「現在我々が押さえている港町はどこも小規模なモノばかりだ。そろそろ本格的な港が欲しい。何かいい意見はあるか?」

「主要な港町は全て都市国家の支配下にあります。南部を攻めるのなら都市国家イルバーンを抑えるのが得策だと思われます」

「船の建造状況はどうなってる?」

「現在帝国各地の港町で三段櫂船さんだんかいせん(要はガレー船)を建造しております。半年もたてば軍事力としては十分なものになるでしょう」

「分かった。そっちは任せたぞ」


 彼はそう指示した。




「ハシバ国のマコト……か。面白い」


 血の気のない顔で彼はひとり呟く。この世を理想の世界にするための聖戦を繰り広げている彼にとって邪魔するものはすべて斬り伏せるだけである。

 だがコイツは久々にかなり骨がありそうなやつだ。彼はにやりと笑った。




【次回予告】

マコト念願であった公衆浴場が完成し、ようやく風呂のない生活から抜け出すことが出来た。


第107話 「命の洗濯」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る