オレイカルコス連合制圧戦

第81話 接触 オレイカルコス連合

 ハシバ国は建国5年目になるポカポカ陽気の春を迎えた。


「ほーれほれリーリエー。おじいちゃんだぞー」

「ううう……びええええ!!」


 メリルとアレックスの父親であるビルスト国王のカーマインは孫娘のリーリエを見てデレデレの顔をしているが、それを見た彼女は大泣きしだしてしまった。

 マコトとメリルの間に産まれた、メリルに似たこげ茶色の髪と瞳を持つ第2子は人間の女の子でリーリエと名付けられ、すくすくと育っていた。


「父上の顔ではあやすのは難しいかと。ほらほらリーリエ。叔父さんだぞー」


 今度はアレックスがあやすとすぐ笑顔になった。


「ハァーア。リーリエは俺の事嫌いなのか? 傷つくなー」

「お父様、年にもなくすねないで。あなた、お父様はこういう人だから気にしないで」


 多少うんざりしたような顔をしてメリルはこういう男は特に乗っからずに軽く流せと説く。


「そ、そうか。じゃあ俺は視察に行くからリーリエの事は任せた」


 マコトは和気あいあいと家族がやっているのを見て一安心し、その場を任せて一人視察へと向かう。




 ギズモの工房についたマコトは設計図を描いているギズモを見かけ、声をかける。


「ようギズモ。何をやってるんだ?」

「ああ、カシラですかい? 今はシスティアーノの姉御の技術を使って設計図を書き直している段階ですわ」


 10年後のマコトが持ってきた戦車タンクの設計図はシスティアーノが関与していない、言わば「旧式」のものだ。

 ギズモたちエンジニア達は水車小屋を建設するかたわら、彼女の技術をもとに設計図を書き直している段階だった。


「カシラァ。そろそろ素材製作の試しをやりたいんですけど、カシラの国で言う『ヒヒイロカネ』とでも言えば良いんですかね?

 そいつで装甲を作るんですが材料の紅鉛鉱こうえんこうが無くて……。

 オレイカルコス連合とかいうドワーフの国に行かないと手に入らないようなんですわ。何とかしてくれませんかねぇ?」

「ふむ、わかった。手の空いてるやつを派遣しよう。すぐに手に入るから少し待ってくれないか?」


 ヒヒイロカネ……漢字で書くと「緋緋色金」となる太古の日本にあったとされる伝説の金属。

 その正体は……クロム合金鋼である。


 クロム合金鋼の材料である「紅鉛鉱こうえんこう」はまさに「緋緋色」と言える鮮やかな朱色で、合金にすると非常に硬くなるという伝記にも矛盾しない。

 さらに製鉄技術が無かったころの鉄はニッケルを含んだ隕鉄(鉄でできた隕石)を材料に使っていたため、鉄、クロム、ニッケルの合金となる。

 これは現代地球で言う「ステンレス鋼」であり、これもまたヒヒイロカネ製の物は錆びないという記録にあっている。


 マコトは戦車タンク設計のため、さっそく使いをオレイカルコス連合の支配地域に派遣することにした。




 使いの一人、ジェイクはハシバ国から一番近いオレイカルコス連合の支配地域にある商館を訪ねていた。土地柄かドワーフの老人が相手をする。


「いらっしゃい。要件は何ですかい?」

紅鉛鉱こうえんこうを仕入れたい。あるだけ全部買う。大丈夫、カネならあるぜ」

「へぇ。景気のいい話じゃないですか。……ん? そのターバン頭、あんた噂じゃハシバ国のものだとは聞いているが?」

「へー知ってんのか。なら話は早いな。俺は……」

「じゃあお前との取引はできんな」


 さっきまで上機嫌だったドワーフの老人は急に態度を崩してぴしゃりと断った。


「えっと……今なんて言った? 俺の耳が正しけりゃ「取引は出来ない」といったように聞こえたんだが?」

「お前の耳は正常だよ。貴様との取引はできん」

「オイオイ、俺は客だぜ? いくら何でもさすがに言い方が酷いんじゃないのか? それになんだよ貴様って!?」

「ケッ。テメェらと取引なんて末代までの恥だ恥。おい! こいつをつまみ出せ!」


 ドワーフの中でも特にガタイの良い男2名がジェイクをつかんで外へと引きずり出すそうとする。ジェイクはもがくが2対1では勝ち目はない。


「ちょっと待て! 俺は何もしてないぞ!? なんでこんなことを!?」

「ハァ!? 俺たちは何もしてないだあ!? よくそんなふざけたセリフが吐けるな! 2度と来るんじゃないぞ! もうそのツラ見るだけで不愉快だ!」


 ジェイクは商館の外まで引きずられ、つまみ出されてしまった。




【次回予告】


ハシバ国による紅鉛鉱こうえんこうの仕入れを拒否するオレイカルコス連合。

ならばとマコト自ら動き出すが……。


第82話 「オレイカルコス連合との交渉」

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