第74話 包囲網消滅

ハシバ国包囲網参加国残り2国の王が今後について話し合いをしていた。


「ついにイシュタル国が陥落、か。アッシュル国の王も戦死したらしい」

「包囲網も名ばかりのものになっちまったな。イシュタル国もグーン国も落ちてアッシュル国には裏切られる。残りは俺たちだけだ、どうする?」

「どうするもこうするもねえよ。傭兵雇った程度じゃどうしようもないくらい戦力差がある。こんなのどんな天才でも挽回不可能だよ」

「認めたくはないが、そうだよなぁ。ハシバ国からの降伏勧告は届いているか?」

「ああ届いてる。民の奴隷化も改宗もなし。税制もハシバ国本国と同じにして差別はしないと来たもんだ。『妙に良すぎる』条件で不気味だぜ」


 彼らの常識からすれば、戦争に負けた国の民は勝った国の奴隷となり、圧政と搾取の嵐が吹き荒れる、それが普通だ。

 マコトの示した条件はあまりにも好待遇過ぎて逆に怪しまれていた。


「降伏期限は2ヶ月後らしいが、どうする?」

「ハシバ国王と話をしたい。奴の出方をうかがおう」

「そうしよう」




 2週間後。

 2人はハシバ国王との首脳会談に臨んだ。


「マコト殿、まずはこういう機会を設けていただき、ありがとうございます。今回お話ししたい内容はずばり、我々への降伏勧告に対するものです。

 単刀直入に申し上げます。マコト殿の我々に対する処置があまりにも穏便すぎます。何か裏でもあるのでは? それとも虚偽の内容が含まれているのですか?」

「ふーむ……」


 率直、なおかつ裏表のない進言をマコトは真正面から受け止める。


「いいだろう。信じてもらえるかどうかは置いといて話そう」


 マコトは語りだした。


「今から10年もたたないうちに西大陸北部にヴェルガノン帝国という不死者の大帝国が生まれる。

 そこはエルフたちの伝説に残る「渇き」という化け物を復活させ、西大陸の全土を掌握するために攻め込んでくるんだ。

 それに対抗できるための戦力を確保するために俺たちハシバ国は西大陸南部を統一するために動いているんだ」

「はえー。エルフ達の伝説を持ち出すとは。ずいぶん話のスケールがでかくなりましたな」


 包囲網の2か国の王はぽかんとしている。あまりにものスケールのでかさについていけないのだろう。


「まぁ信じられないだろうが、事実だ。

 降伏条件を君たちの感覚からしたらとてつもなく穏便な処置にしてるのはあくまで『力を貸してほしい』だけで支配するつもりはないということもある。

 そんなわけだ。お前たちの力がいるから貸してくれないか?」

「……すぐに返事はできませんね。勧告期限はまだ先なのでもう少し考えさせてください」

「私も彼と同意見です。もう少し判断材料を集めるために時間をください」


 マコトとの対談に臨んだ王たちは話相手のあまりにも突飛なことにすぐに答えを出すことはなかった。




 祖国への帰り道の途中、2人の王は都市国家シューヴァルへと足を運んだ。マコトの話の裏を取るためだ。


「ヴェルガノン帝国ですか……正直あそこは狂ってますよ。不死者に対する禁忌きんきを犯して不死者を従えていますし、

 各地の村や町、さらには都市国家までも攻め滅ぼしているそうですよ。恐ろしい話です」

「それ、本当の話なんですか?」

「本当だとも。実際北部に住んでいる私の友人と連絡がここ最近ずっと取れていない。風のうわさでは住んでた町は不死者に滅ぼされたらしい」

「……」


 シューヴァルの商館を出た2人は互いに顔を突き合わせる。


「……裏がとれたな。ヴェルガノン帝国とか言ったか? 大陸北部にある国をどうやって知ったかは分からんが」


 マコトや彼らの住む西大陸は陸地を南北に分断する山脈があって、北部と南部の間では人、モノ、情報の行き来は難しくなっている。

 そんな中でどうやって知ったのかは謎だがとにかく裏となる証拠は取れた。


「……で、どうする?」

「俺にとっては残念なことだが……降伏しかないな。どっちみち戦争をやったところでほぼ負ける。マコトの言い分を信じるしかなさそうだな。お前は?」

「お前と同意見だ。戦になっても負けるのが見え見えだしな。鞍替えするしかなさそうだな」


 2人ともマコトに降伏する道を選んだ。後日、2国は正式にマコトのもとに降伏し、包囲網は消滅した。




【次回予告】


包囲網を取り込み肥大化するハシバ国。ここまでくると「暴力を使わない戦争」で国は次々と落ちていった。

第75話 「交渉という名の暴力」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る