第66話 衝突

 野戦で敵部隊を蹴散らした翌朝、攻城戦へと移行しようとしていた時だった。ハーピーの偵察隊が報告にやってくる。


「閣下! 敵包囲網連合各国より援軍が出発しました! その数、合計およそ1300! いかがいたしましょうか!?」

「大丈夫だ。後ろを任せている奴らがいる。そいつらに任せればいい」


 ハシバ国包囲網参加国による援軍は順調に行けば日没までにはグーン国へと到着する……はずだった。

 各国の部隊が集合し、後はグーン国へと向かうだけとなった援軍の偵察隊が見たのは道路を封鎖する軍隊、およそ1000前後。

 援軍を率いる総大将であるイシュタル国王が確認に向かうと、その軍旗から相手の正体を察する。


「あれは、ビルスト国の軍旗!? それにイトリー家のものまで!?」

「閣下! いかがいたしましょうか!?」

「大丈夫だ! 数では有利だ。圧し潰せ!」


 マコトは事前に援助を要請してカーマイン率いるビルスト国とイトリー家を動かし、彼らの連合軍で敵の援軍を退ける事にしたのだ。


「カーマイン様! 敵軍、来ます!」

「全軍! 尻尾を丸めるな! 押せ! 押せ!」


 イトリー家とビルスト国が別働隊に牙を向いた。




「どうした!? この程度か!?」


 魚鱗ぎょりんの陣で攻める包囲網連合の兵士たちを偃月えんげつの陣で攻めるカーマインが剣を振るい、蹴散らす。


 獣のごとき身体能力に優秀な師範から受け継いだ優れた剣術、それらに希少なミスリル製のバスタードソードと大盾が組み合わさると対抗できる者は片手で数えられるほどしかいない。

 矢の雨を大盾で凌ぎ、パイク等槍の柄を叩き斬り、雑兵が着込む革製の物なら鎧ごと斬り捨てる。

 その様は鬼神のごときという形容詞がピッタリだ。


 イトリー家とビルスト国連合軍は数では若干劣っていたが総大将のカーマイン自らが切り込み次々と敵兵を倒していくため士気は最高潮と言える位に高く、兵力差を吹き飛ばすには十分だった。

 数が多いもののこのままでは崩されると判断したアーノルドはある案を自らの王であるイシュタル国王に推挙すいきょする。


「閣下! 一騎打ちで敵国の王を仕留めてきます! お願いいたします! 許可をいただけないでしょうか!?」

「アーノルド……わかった、行ってこい。負けても良いから必ず生きて帰ってこい」


 イシュタル王は、こうなったらあいつはテコでも動かないというのを知って彼を送り出した。


「伝令! 閣下と一騎打ちを望む者がいるそうですがいかがいたしましょうか!?」

「我はイシュタル国の将、アーノルド=ケッペル! ビルスト国王カーマイン殿と見受けられる! 一騎打ちを申し込みたい!」

「ほう、一騎打ちか。良いだろう、受けて立とう!」


 カーマインは2つ返事で一騎打ちを承諾した。




 戦場に急きょ設けられたスペース。そこで対峙するのはカーマインとアーノルド。獣の国の王は余裕の表情を浮かべる一方で挑戦者の顔は渋い。

 兵士達が見守る中、お互い最初の一振りを繰り出す。


 ガギィン!


 という金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。


「ぐっ!」


 アーノルドに交えた相手の剣の勢いで腕が持っていかれそうな感覚が襲う。


 彼は対峙した時の相手の雰囲気や威圧感、あるいは気ともオーラとも言えるもので大体は察しがついていたし、実際に剣を交えてそれは確信に変わった。

 相手は自分よりも明らかに格上だ。という事実を。


 アーノルド自身は、26という若さと鍛え上げられた肉体を駆使して力で押すタイプだった。

 カーマインも同じようなタイプだが鍛え上げられた腕の力と、獅子の下半身から産まれる並の人間では到底及ばない筋力からくり出される一撃は、アーノルドのそれを上回る。


 初めこそ積極的に剣を交えるアーノルドだったがだんだん及び腰になっていき、逆にカーマインが攻め返す。

 やがてカーマインの攻撃を何とか防ぐだけの一方的な試合になっていき、ビルスト国の兵士は挑戦者に向かって腰抜けとヤジを飛ばす。


「どうした。最初の威勢の良さはどこへ行った?」

「うう……くっ! 仕方ない!」


 アーノルドは一か八かのセオリーをあえて外した、それでいて上手く通ればリターンのでかい賭けに出る!


「!? しまっ……」


 ……が、それが通るほど相手は甘くはない。いともたやすくあっさりと返され逆にカウンターを喰らい、首に深々と斬撃が入る。そこから鮮血が勢いよく噴き出るのを見るに、致命傷だろう。

 彼はものの2~3分も経たないうちに失血で意識を失い、2度と目覚める事は無かった。




「アーノルド様が一騎打ちの末討死なされたぞ!」

「アーノルド? あのイシュタルの猛虎アーノルドが!?」

「!? 馬鹿な! アーノルドが!?」


 アーノルド討死。その悲報は瞬く間に広がり、援軍を指揮するイシュタル国の王ですら動揺を隠しきれない。


「閣下! アーノルド様討死の報を聞いて兵たちが怯えて逃げ出しています!」

「くそっ! 止むを得ん! 全軍に退却命令を出せ!」


 苦渋の決断。イシュタル国王はハシバ国への敗北宣言とでも言える決断を下すのだった。




【次回予告】

攻城戦へと移行したマコト達ハシバ国軍。だが彼らは破城槌はじょうついを持ってはいなかった。

その秘密はカボチャたちが知っている。


第67話 「グーン国攻城戦」

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