第44話 For whom is the sword drawn?
死の群れが、生を
既に城壁は陥落し、おぞましいほどの数の武装したゾンビやスケルトンで城下町は踏み荒らされて兵士市民関係なく、老若男女関係なく、ひとえに平等に皆殺しにされ、
不死身の軍隊を率いるヴェルガノン帝国皇帝は城の中へと血で汚れた靴で踏み入る。
この国の王は攻城戦で戦死し、残る王女、その夫、そして王妃3人は既に捕えられてスケルトンに囲まれ、侵略者の長の前に引きずり出されていた。
「お願いします! 私はどうなろうと構いません。死ねと言えば死にますし奴隷になれと言えば喜んでなります。ですが、この子は……この子だけは殺さないでくださいっ! まだ産まれて1ヵ月も経ってないんです! お願いします!」
「駄目だ。人間という生き物は、ただ生きているというだけで罪になる醜悪な生き物なんだよ」
王の間で母親であるまだ15歳の王女が涙をぼろぼろと流しながら訴える。生後1ヵ月の赤子も危機を察したのかオギャアオギャアと泣く。そんな母子を皇帝は汚物を見るような目で見つめていた。
並みの男より頭2つはでかい彼の
赤子ごと母親を頭からかち割って両断した。同時に赤子の泣き声が止んだ。
彼は視線を感じると、血走った目で自分を見るついさっき斬り殺した妻子の夫および父親がいた。
「貴様! 産まれたばかりの赤子を何だと思ってるんだ!?」
「人間という生き物は、ただ生きているという事それ自体が罪であり、それに対して死という罰を背負わねばならない醜い生き物なんだよ。例えこの瞬間に生を受けた赤子ですら例外ではない」
「生を受けた赤子ですら、だと!? たった今産まれたばかりの赤子が犯罪者か!? たった今産まれたばかりの赤子が何の罪を犯したというのだ!?」
「人間として生きているという罪を犯した。もっと言えば、人間としてこの世に生を受けたという大罪を犯した。全ての人間は人間として産まれたことを恥じて自ら腹を割いて死ななくてはならないのだよ」
「貴様アアアアアアアアアア!」
逆上した彼が剣を振り上げ襲って来る。それに侵略者の手下であるリッチ共が魔法を唱え、瘴気で出来た短刀のシャワーを浴びせる。無論即死だった。
あとは王妃だけだ。
王族最後の生き残りである彼女はスケルトンに囲まれつつも気高さを失わずにいた。その手にはナイフが握られていた。
「お前ごときに命を奪われるくらいなら、自ら喉を突いて死にます!」
「そうかありがとう。それは助かる」
ありったけの勇気を振り絞り、最期の抵抗をする王妃に皇帝はさらりと、ごくごく自然に言ってのけた。
「あ、あなた、いったい何を?」
「殺す手間が省けて助かるから死にたければ早く死ねと言ってるんだ。ああそうだ。どうせ死ぬならそこから裏庭へ飛び降りてくれないか? 血を拭く手間が省けてなおのこと助かる」
「……」
彼女はがっくりと肩を落とし、その場にしゃがみこんでしまった。ナイフが手からこぼれ落ち、死ぬ勇気すら、出ない。
「そうか。死ねないのか」
彼は自らの得物で一薙ぎした。それだけで彼女の身体は2つに切断された。
一国の長が持つ武器としてはかけ離れているというよりは「正反対」とさえ言えるあまりにも無骨な鋼の塊は一振りで雑兵を鎧ごと叩き斬る、恐るべき凶器であった。
「王族は全滅した。あとは生きている者すべてを殲滅しろ」
「ハッ! 貴様等! 戦え! 死は休息ではない! 死んだ後も戦え! 肉が腐り落ち、骨だけになった後も戦え! 我が王の理想郷のために身が粉になるまで戦い続けるのだ!」
リッチ達が配下のゾンビやスケルトンたちに向かって叫ぶ。この日、王国は死者に踏みにじられた。
◇◇◇
「ヴェルガノン帝国か。良い評判は一切聞かんな」
「ヴェルガノン帝国はどうしてそこまで脅威なんだ?」
「都市国家だよ。噂じゃあいつらは都市国家を攻め落として住人は男女問わず皆殺しにするわ、金品を根こそぎ奪うわと悪行の限りを尽くしているらしい」
「都市国家を攻め落としたところで何にもならないというのに、なぜ?」
「分からん」
都市国家シューヴァルの商館でマコトは館の主と話をしていた。
未来から来たマコトが話したヴェルガノン帝国に関して色々と調べていたがその内容が酷い物しかない。
何でも
その国は山脈で南北に分断された西大陸北部にあるから、ハシバ国のある西大陸南部に来るまで相当な時間はかかるだろうが、彼らが西大陸北部を全てのみ込んだとき、ぶつかるだろう。
その時までに何とかしなくては。
【次回予告】
10年後のマコトから渡された、彼が過去に出来なかったことを悔やんだリスト。
その中でも今すぐに出来ることを試みる。
第45話「エンシェントエルフ システィアーノ」
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