未来を変えろ

第43話 絶望の未来から来た男

 マコトがこの世界に来て2度目となる収穫の時期を迎え、領土を拡大できたため昨年よりも豪勢な祭りが行われた。

 国民が収穫祭を大いに楽しんでいた頃、マコト達国の者は事務処理に追われていた。

 経理が出来る人間を雇っていたため昨年ほどは忙しくはなかったが、それでもジェイクなど使える人間はこき使っていた。


 そんな中、各地に放った内偵達からの報告書が上がる。


「閣下。イシュタル国を盟主として周辺国が同盟を結び、我が国に対する包囲網を結成しているもようです。その総合した規模は我が国を上回るかと思われます。いかがいたしましょうか?」


 それによると、ハシバ国周辺5か国が同盟を結び、包囲網を結成しているという。酒場の噂話は本当の事だったのだ。


「なるほど。追う側から追われる側へ、か」

「閣下、いかがいたしましょうか?」

「まだ決断を下すには早い。これからどうするかは後日決める。引き続き調査を頼むと伝えてくれ」

「ハッ!」




「閣下、いかがなさいますか?」


すっかり腹心の部下となったディオールがマコトに問う。


「実をいうとな、俺あんまり国を大きくしようとは思ってないんだ」

「ほう。それはまた何でですかな?」

「そりゃあ国はでかければでかいほどいいんだろうが、自分の身の丈に合う大きさっていったら大体このくらいなんだろうな。っていうのがある」

「そうですか、閣下は欲望の小さな方ですね。私としてはもっと大きい国でも良いと思うのですがね」

「過ぎた欲望は身を滅ぼすっていうからな。そこそこで良いんだ」


 不必要な領土拡大を狙わないマコトであった。が、ある出会いをきっかけに方針を180度転換し、国家拡大にまい進することになる。

 その出会いはヒグラシも少しずつ姿を消し、涼しく過ごしやすい日々が続くようになったハシバ国の入り口近くで警備をしていた兵士が、「彼」と出会った事がきっかけだった。




「あれ? 閣下? どうしてここに? 視察でしょうか?」

「ゴホッ、ゴホッ。ああ、気にするな。それより水持ってないか?」

「閣下、その……ずいぶんとやつれたご様子ですが、お体は大丈夫でしょうか?」


 その見た目は彼らが仕える王そのもの。だが37という年齢にしてはやけに老けて見えるし、顔面は蒼白。

 なによりほほが明らかにこけていて、誰がどう見ても病的で不健康な身体だ。

 兵士から水筒を受け取ると「やせた」というよりは「やつれた」と言った方が正しい彼は中身をガブガブと一気に飲み干す。相当渇いていたらしい。


「ふうっ、助かった。頼む。城にいるだろう俺と話をさせるよう手配してくれ」

「え? 今なんと?」

「だから城にいる俺と話をさせてくれ。城に行けばわかるはずだ」

「?????」


(隊長、どうします?)

(うーむ。でも閣下にそっくりだからなぁ。追い返すのも気が引けるよなぁ。とりあえず案内するか)

(わ、わかりました)


 隊長と隊員は小声で話し合い、決断を下す。


「分かりました。城に案内いたします」




「閣下、奇妙な男が閣下との謁見を望んでいます。何でも自分は10年後の世界からやってきたマコトだ、などと言っていますが」

「10年後の俺? どういう事だ?」

「それが、私にもサッパリ分からないのですが、いかがいたしましょうか?」

「まぁいい。追い出すのもアレだし話だけでも聞いてみるか。連れてきてくれ」


 そう言って兵に指示を出す。彼に連れられマコトの前にやってきた男はこの国の王が病気か何かでゲッソリとやつれたような顔と体をしていた。


「お前は誰だ?」

「俺は加藤 誠……正確には今から10年後の未来から来た、47歳のお前だ」

「10年後? 47歳? どういうことだ?」

「歴史を変えるために10年後からこの世界に来たんだ。俺がお前だという証拠もある。これを持ってるのはこの世界では俺だけだろ?」


 やつれたマコトは証拠として王に自分が持っていたスマホを渡す。10年後のお前だと名乗る人物のスマホは確かにマコトのものだった。

 こちらの世界では作成不可能なのを考えると、本人確認としては最適なものだろう。

 そのカレンダーは10年後から来たと言う通り、マコトの持つものから10年が経過していた。


「……念には念を入れて、お前が俺であるか検証させてもらう。生体認証をパスできるか試してもらおうか?」


 念のためマコトは自分のスマホの生体認証画面を表示させて相手に渡す。相手はスマホを操作して……突破して見せた。


「うーむ……本当に突破できるとは」

「これで俺がお前であることは信じてくれるか?」

「……信じさるを得ないな」


 マコトの顔は納得した。というよりは納得しなくてはいけない。そんな表情だった。


「写真も見てくれないか?」

「あ、ああ。って何だこりゃ!? このゾンビ、クルスとディオールか!?」

「そうだ。この世界が辿る歴史が俺の時と同じなら今から10年後、不死の軍団と「渇き」を率いるヴェルガノン帝国が侵攻してくる。ゴホッ、ゲホッ。

 俺達はそいつと戦って、負けた。メリルも、ディオールも、クルスも、みんなみんな殺されてあいつらの仲間になってしまった。俺を生かすためにな。

 最後の希望として残った王たちは神霊石を片っ端からかき集めて、他の王と仮契約をして願いをかなえるという形で、俺をこうして過去へ飛ばすことにした……うっ、ガハッ!!」


 そこまで言って彼は血を吐いた。


「!! お、おい! しっかりしろ!」

「手当はしなくていい。瘴気と感染症で俺の身体はもうボロボロで長くはもたん。

 頼む、10年前の俺。今すぐ国を出来るだけ大きくしてヴェルガノン帝国と戦える戦力を持て。それこそ西大陸南部全てを統一支配できるくらいにな。

 そうでないと、とてもじゃないが不死の軍団であるヴェルガノン帝国には、そして「渇き」には……勝てない。うっ、ゲホッ! ゴホッ! ガホッ! ゴフォッ!」


 再び彼は血を吐く。顔からは元々薄かった血の気がさらに引いていく。彼は震える手でマコトに羊皮紙の束を託す。


「これを持っていてくれ。俺が出来なかったこと、後悔したことを記してある。それと「渇き」を倒すための兵器の設計図だ。これを使えば少しは明るい方へと未来は変わるはずだ!

 10年前の俺……もうお前だけが頼りだ……どうか……俺達の……未来を……それと……メリルに……すまない……と……」


 そこまで言って彼は事切れた。



◇◇◇



 簡素だが埋葬が終わった。一応マコトのリクエストで集団墓地ではなく専用の墓を作ってもらった。


「マコト=カトウ ここに眠る 享年47」


 簡素な墓石にはそう刻まれていた。


「閣下、彼の言う事を信じるのですか?」

「ああ。10年後の未来からやってきた、なんて本当の事を言うと突拍子も無さ過ぎてとても信じられないが信じざるを得ない。

 あいつは俺が持っている物と全く同じスマホを持っていた。しかも日付も10年後だった。そして写真も撮っているって事は操作もできるって事だ。

 この世界ではスマホは作れないし、操作方法を知っているのは地球からやってきた王だけだ。何より生体認証を突破できたのがでかいな」

「『せいたいにんしょう』とはどういうものですかな?」

「簡単に言えば自分の身体そのものが開錠するカギになっている錠前みたいなもんさ。カギをかけた本人にしか解除できない。それに、こいつだ」


 マコトは未来から来たマコトが渡した羊皮紙の束を見せる。


「ざっと見たんだが彼が出来ずに後悔した事のリストは「日本語で」書かれている。日本語が使えるのはこの世界では地球の日本出身の王だけだし、字のクセは全部俺の物だ。これもアイツが俺であることの大きな証拠の一つさ」




クルスの日記

後アケリア歴1238年 10月11日


 信じられねえ話だがオヤジが言うには「歴史を変えるために10年後の未来からやってきたオヤジ」と話をしたらしい。

 その10年後のオヤジが言うにはヴェルガノン帝国がこちら側に攻めてきて負けたらしい。

 今のオヤジはその無茶苦茶な話を信じたらしいが俺にはとてもじゃないが信じられないなぁ。

 まぁヴェルガノン帝国が攻め込んでくるってのは好都合だが。




【次回予告】

その剣は、いったい誰のために振るわれるのだろうか? 死のため? あるいは理想の世界のため?

第44話「For whom is the sword drawn?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る