第10話 植物系男子

暖かな日が続く中のとある穏やかな日……


「頼むぞ……」


 マコトは新たな仲間を呼び出そうとしていた。

 地質学者をさらった魔物たちのねぐらから見つかった、おそらくゴブリンが貯めこんだのであろう神霊石2つのうち片方をマコトは祈りを捧げたのち魔法陣の中央に置く。

 魔法陣が「白く」輝いた。


(またノーマルか……)


 ハァ。とため息をついた後、彼の目の前に現れたのは頭から緑色の髪……というか「葉」と青い花を生やした、頭から下の身体が土色の子供のような人……に見える生き物だった。


「とりあえず自己紹介してくれねえか?」

「ハイ! ボクはマンドレイクのオヒシバと言います。野菜作りなら任せてください!」


 マコトが呼び出したのはまたもや人外の魔物だった。


「マンドレイクか……お前たちの叫び声を聞くと死んじまうって聞いたが?」

「ええ!? そんな物騒な噂があるんですか!? 人間たちの狩りから逃げ出した時にみんな叫んでたけどなんともなかったですよ?」

「そうか……で、お前の望みは何だ?」

「ボクの一族を復活させたいんです。これを使って」


 どうやらマコトの世界のマンドレイクとは少しは違うらしい。オヒシバは背中に背負ったボロボロのリュックからいくつかの球根を取り出す。


「ボクの家族や親友たちの球根です。これを植えればまた同じように生活できると思います。そのための土地をお貸しいただければと思います」

「分かった。俺の国は開拓地のようなものだ。土地ならいくらでもある。まともに整地されてないがそれを使うがいい」

「そうですか! ありがとうございます。このオヒシバ、枯れ果てるまで王様に忠誠を誓います! 今後ともよろしくお願いします!」


 オヒシバの胸から白い光の球が飛び出し、マコトのスマホに入る。追加された彼のページを見てステータスを確認するが、戦闘には全く向かない数値だった。

 一応は自分の配下だが戦力としては全然期待できないので一般国民扱いになるだろう。


「ところで王様、ショーニン族の人間はいますか? 人間の中のいる「オカネ」とかいうものを他の物へと交換してくれる能力を持った一族なんですが」

「ショーニン族? もしかして商人の事か? だったら広場にいるアイゼルっていう白髪の男がそうだぞ。ところでお前カネはあるか?」

「大丈夫です。お金ならありますので」


 そう言うとオヒシバはトコトコと歩いてアイゼルの元へと向かっていった。




「あなたがショーニン族のアイゼルさんですね? 農具一式に野菜の種と肥料が欲しいのですが。大丈夫です! お金ならあります!」


 そう言ってオヒシバはリュックの中から球根を2つ取り出した。


「ボクたちマンドレイクの球根です。そのままでもそれなりのお金にはなると思います。これで調達してくれませんか?」

「マンドレイクの球根ねぇ……」


 マンドレイクはその全身が錬金術や貴重な薬の材料になる。そのため乱獲されていてなかなか見つからないのだ。球根だけでもかなりの価値はある。


 とはいうもののアイゼルは普段は現金でやり取りするため物々交換はやってない。が、オヒシバを見るとその眼はキラキラ光っていた。将来の繁栄を無条件に期待する希望に満ちた眼だった。


 それを否定することなど、出来ようもない。


「OK分かった。引き受けよう。ところで球根って事はお仲間さんを売り飛ばすことになるがいいのかい?」

「ああ、大丈夫です。それはボクの身体から出た球根です。人間からすれば切った爪や抜けた髪の毛みたいなものだと思っていただければいいですよ」

「分かった、仕入れのために1日だけ待ってくれ。すぐに手配するぜ」


 当の本人がさらりと言ってのけるだけあって仲間を売り飛ばすという事態にはならなくて済みそうだ。アイゼルはその日の商売は早めに切り上げ、球根を持って都市国家シューヴァルへと向かった。




 2日後




 城の裏側にあるだだっ広い平地でぼうぼうに伸び放題な雑草を大鎌で刈っているオヒシバの姿があった。

 一見すると「鎌に振り回されている」ような危なっかしい動きだがそれでも草はきちんと刈れていた。

 小さいスペースながらも開墾もされており、野菜の種と「親類や友達」の球根が植えられていた。


「あ、王様。視察ですか?」


 オヒシバの様子を見に来たマコトに気付いて声をかける。


「まぁそんなとこだ。それよりお前に頼んだ開拓の進展具合はどうだ?」

「今のところ順調ですね。あと数日でそれなりの成果は出ると思います」

「分かった。今のところ働き手はお前ぐらいしかいないから頼んだぞ」

「はいっ! お任せください!」


小さな働き手による作業は続く。その成果が移民を受け入れる土壌になるのはもう少し先のお話である。

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