第9話 秀吉の入れ知恵

「……」


 早朝、ディオールは両手を握ったり開いたり、または関節を動かして調子を見る。動かすたびにかすかだが痛みと違和感を感じていた。耐え難いというほどではない。大して我慢もせずに簡単にごまかせる程度だったが、確かに痛みや違和感はあった。


「昨日少し動いただけでこれか……歳はとりたくないものだな」


そうつぶやいて身支度を整え、部屋から出た。




「とにかく話を聞くことが重要です。

 人は何かとしゃべりたがりますがもし聞くよりも話すことが重要だとしたら人間の身体は口は2つに、耳は1つになっているはずです。

 耳が2つあり口は1つという事はそれだけ聞くことの方が重要だから万色の神は人間を今の姿に造ったのですよ」

「へぇ、いい事聞いたわ。お前は何でも知ってるなぁ。俺とは大違いだわ」

「ホッホッホ。この程度の知識でしたらいくらでも授けますよ、閣下」


 マコトがディオールとのマンツーマンの授業をしていたところにゴブーがやって来る。


「勉強中の所失礼いたしやす、大将。シューヴァルの研究所から地質調査の結果が出たので来てくれとの事ですぜ」

「分かった。すまないディオール。勉強は中断して研究所に行くぞ」




 分析結果が出たとの事なのでマコト達は学者たちが都市国家シューヴァルに構える研究所へを足を運んだ。


「マコト様ですね、お越しいただきありがとうございます。分析結果が出ましたのでお知らせいたします。

 まず城から見て東側の山一帯からは粘土が豊富に採れます。ですが成分的に陶器や磁器には向いていませんね。レンガ程度なら、という感じでしょうか。

 西の山一帯は良質な安山岩で、建材として使えそうです。調べた限りでは城や城壁に使えるほどの強度を持っているようです」

「鉱石はあったか?」

「私たちが見た限りでは鉱石はありませんでしたね」

「うーむ……鉱物資源は無しか。銅くらいは出てもよかったんだがなぁ」


 分析結果に嬉しさ半分、落胆半分で一行は研究所を後にした。




「閣下、どこへ行かれるつもりですかな? 城へ帰るなら向こうですが?」

「ギルドに顔を出す。ついてきてくれ」


 研究所を出たマコトはディオールと一緒に街のギルドに顔を出すことにした。


「マコト様ですね。お仕事をご紹介いたしますね。えっと……」

「いや、それもあるが今日は仕事を依頼しにやって来た」


 受付嬢がマコトの顔を見るやいつもの流れで仕事の紹介をしようとするが、断りを入れる。


「どのようなご用件でしょうか?」

「レンガ職人、石工、大工を小規模で良いんでそれぞれ2チームずつ手配してくれ。頭領とチームリーダーはそれなりの資質を持った者にしてくれ」

「閣下、お言葉ですが1チームだけでも良いのでは?」

「ディオール、ここは俺に任せてくれ。いい考えがあるんだ」


 マコトの目がきらりと輝いていた。




 数日後、ドワーフの石工、大工、レンガ職人が頭領を務める職人集団がマコトの国へとやってきた。

 ドワーフ達は一人前として認められヒゲを生やすことを許されたばかりである若者だった。


 西の山から安山岩を切り出し、東の山の粘土からレンガ職人にレンガを作ってもらっている。それら「比較的高価」な建材は城の補修と国民用住宅の1階部分に使い、残りを売って手に入れた大量の木材と共に大工に住宅を建てさせている。彼らは来てからというもの、実に良く働いている。

 テキパキと働く職人たちにアゴヒゲをいじりながら感心するディオールに、マコトは「いい考え」をお披露目する。


「それにしても職人たちは良く働きますなぁ。そう言えば『いい考えがある』とか言ってましたなぁ、閣下?」

「ああ。ちょっと工夫をした。職人たちを2つのチームに分けて先に仕事を終わらせたり、1日の成果が高かった方に報奨金を出す。

 ただし手を抜いたり相手チームを妨害したらその時点で賞金は相手のものにする。って事にしたのさ。

 これなら競争させることでペースが上がって工期が短くなる。結果的に費用は安くなるのさ」

「ほほぉ、考えましたなぁ。さすが我らの王ですな」

「ま、俺が考え付いたことじゃないけどね」


 チーム制にして競わせるというのはマコトが発案したものではない。

 豊臣秀吉が壊れた石垣の修理をする際、割普請わりぶしんというチーム制にして速さを競わせたことでそれまでは20日かかっても終わらなかった工事を1日で終わらせた。というエピソードをヒントにしたものだ。


「ようやく国らしくなってきたなぁ」


 出来た家を公営住宅として貸し出し賃料を取る。もちろん家一軒丸ごと買いとってもらうのもありだ。

 少しは明るくなった未来にマコトはようやく安堵の表情を浮かべた。

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