第2話 加藤 誠

 マコト、本名「加藤 誠」がこの異世界にやって来たのは1ヵ月ほど前の話だ。


 西大陸と呼ばれる異世界の大陸に王として召喚されるまでは反骨心だけは強い部下と現場の事を全く分かってない上司の板挟みにあう36歳の係長、いわば中間管理職だった。


 その日、いつものようにズタボロの状態で寝ていたら夢の中に虹色のドラゴンが現れた。

 夢の中にしてはやけにリアルで、まるで本当に目の前に彼女(何となく女性を思わせる目と曲線的な身体をしていた)がいるかのようだった。

 そして彼女からの声……頭の中に直接響くような母性に満ちた声が聞こえてきた。


「あなたは選ばれた人間です。私が生み出した世界に来ていただき戦乱の世を治める王になってくれませんか?」というお願い、さらには

「地球とか言いましたね。その世界では失踪して行方不明という事になってしまいます。父親も母親も不安に思うでしょう。それでも大丈夫でしょうか?」

 という心配ごとにどうせ夢の中の話だろうと適当に返事した。




 そうしたら、朝目覚めたら今住んでいるボロ城の寝室のベッドの中で、唯一寝る前布団と一緒に中にあったためかスマホだけは持ち込めた。(あと着ていたパジャマも)というのがこの世界にやって来た経緯だ。


 閑散とした倉庫の中にあった宝箱には2500ゴールド程のお金と保存食が数人分、それにこぶし大の大きさである虹色に輝く石、神霊石が4個保管されていた。


(何故か分かるけどこの神霊石を使えば部下を召喚できるんだよな……)


 マコトはそう思いながら石を3つほど持って地下にある召喚の間へと歩む。




 神霊石……あらゆる生命の母と呼ばれる万色の神である虹色のドラゴンの力を宿すとされる、同じように虹色の石。

 主に異界(要は地球)から万色の神によりこの世界に来た王が配下となる者を召喚する事と、その者の願いをかなえるのに使われる。

 時には死人すら蘇らせるほどの奇跡を起こせる力を秘めた石だが、それなりに高価ではあるものの普通に店で売り買いされている石でもある。


 その神霊石を召喚の間にある魔法陣の中心に置き、召喚の儀を行う。魔法陣が白く輝いた。


ノーマルか……」


 最低ランクのレアリティにマコトは一人ごちる。

 魔法陣の色で召喚される者のレアリティは分かる。ノーマルなら白、レアなら緑、HRハイレアなら青、VRベリーレアなら赤、SRスーパーレアなら金、そしてSSRダブルスーパーレアなら虹色に輝くという。


 現れたのは縦に尖った耳に突き出た長い鼻、そして深緑色の肌という人間ではない生き物、ゴブリンだった。そいつが魔法陣の中心で力なくぶっ倒れている。武器なのか小型の弓を背負っていた。


「お、おい。大丈夫か?」

「い、いやぁ……全然大丈夫じゃねえですよ。ここ2日間水しか飲んでねえんで……」


 そいつは明らかに飢えで衰弱していた。


「一応聞くが、お前の望みは何だ?」


 マコトは聞く。地球から来た王に召喚された者はどんな願いも1つだけ叶えられる。それは事実であり王たちにしか扱えない神霊石の奇跡とも言える力だ。ゴブリンは答えるかわりに空腹……というよりは飢えて弱った腹の虫がか細く鳴いた。


「やっぱり腹減ってんのか」

「へい。一度でいいから腹がはちきれそうになるまで飯が食いてえ。それがおいらの願いです」

「分かった。他にも仲間を召喚するからちょっと待っててくれ」


 もう一度別の神霊石を魔法陣の中央に置き、召喚を行う。今度は魔法陣が緑色に輝いた。レアだ。少しだけ期待した王の目の前に現れたのは、ゴブリンの時と同じように力なく横たわる赤みがかった肌と2本のツノが特徴の大柄の女鬼オーガだった。


「おい、大丈夫か?」

「いや。腹が減ってめまいがするんだ。立ち上がるのも億劫でさぁ」

「……一応聞くがお前の願いは何だ?」

「飯食わせてくれないか? あと酒も浴びる様に飲みたい」


 とりあえず倉庫内にあった保存食をかじらせながら一行は街……都市国家シューヴァルへと向かっていた。




「うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい!」

「ちょっと! 肉も酒も足りないよ! じゃんじゃん持ってきて!」


 食堂に着くやいなや2匹とも凄まじい勢いで料理を食べる……というか、胃袋の中に詰め込んでいく。周りはもちろん、給仕さえその食いっぷりにぽかんとするが飢えていた2匹にはどうでもいいことだ。散々飲み食いして……


「ううう。やべぇ。食い過ぎた」

「ふー。食った食った」

「会計は……485ゴールドか。これでいいかい?」

「あ、はい。あ、ありがとうございました。またお越しください」


 国庫の2割にあたるおよそ500ゴールド分の食事を食い尽くしてようやく止まった。


「お前たちの願いはかなえた。今度はそっちの番だ」


 地球から来た王に召喚された者は自分の願いをかなえてもらえる代わりに、誓いの言葉を発することで王の配下として忠誠を尽くす事になる。


「へい。オイラはゴブリンのゴブー。何て言えば良いのかな、まぁこれからは大将についていくよ。こんごともよろしく」

「アタシはオーガのお虎。まぁここで知り合ったのも何かの縁ね。こんごともよろしくな、大将」


 2匹がそう言った瞬間、ゴブーの胸から白い、お虎からは緑色の光の球が出てくる。そしてそれはマコトが持っているスマホの中へと入っていった。画面を見ているとさっきまでは自分だけしかいなかった配下の一覧表にゴブーとお虎が載っていた。


 これが、マコトが初めて配下を持った瞬間だった。それ以来3人、正確に言えば1人と2匹で貧乏ながらこの世界に何とかしがみ付きつつ、1ヵ月が過ぎた。

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