けものさんと食われたがり少女

風谷閣下

食べてください

「けものさん、けものさん」


(なんだ?)


 片目を開けて動かすと、小さな二足歩行が視界に入った。


(人間か)


「けものさん、大きいねえ」


 耳の下あたりの毛がさわさわ動く。


(二足で立って、手を伸ばしてその高さか)


 人間は、まだ子どものようだった。


 見回すまでもなく、他に呼びかけるような相手はいない。


「大きい動物さんは、けものっていうんだよ。だからけものさん。けものさんすごいねえ、大きいねえ」


(そうだったか? まあいい。……おい、もたれかかるな)


「えへへー」


 へらへらと、だらしない顔で笑っている。


「もふもふだねえ。ユチねえ、もふもふすきー」


(そうか)


 目を閉じて、好きなようにさせてやる。この人間が何をしようとも、さほど影響はあるまい。



 ――不意に、好き勝手していた人間の手と身体が、動きを止める。


「あのね、けものさん」


 薄く目を開く。


 人間は、身体と、あるいは存在すべてを預けるようにして囁いた。


「ユチのこと、食べてくれる?」

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