4話

迎えた大会最終日。




やはり、ウェリントン国でも、一、二を争う大会は、そう易々と突破出来る訳が無かった。


初戦の相手は武器の相性が悪すぎた。


片手斧では、受けて流す程の刃渡りが無く、まともに受けたらそれこそ剣が折れてしまうし、流してもすぐにずれて立て直されてしまう。

ジリジリと防戦一方に体力が削られる。斧相手の戦いも勿論経験が有ったが、荒削りの賊と鍛練した剣士では雲泥の差だ。


焦りは禁物だと分かってはいるが、隙が出来ない事に苛立つ。



自分の実力はここまでなのか。


集中しなければいけないと分かっているのに、頭の中で不甲斐ない自分への問いが浮かんで来る。


このまま、何も得ることも無くアレクシスの期待も姉の思いも応えられずに、おめおめ家に帰って慰められて、果たしてそれで自分は良いのか。その後の日々を満足して過ごせるとでも言うのだろうか。



エレーンの頭の中が考えで一杯になる。




三階から眺めていたアレクシス王子は、エレーンの苦戦に気が気じゃない様子。


ロバートに落ち着く様に促されるが、それどころでは無い。入城など関係なく、エレーンが怪我でもしたらどうしようかそちらばかり心配で、なんなら試合中止を申し出たいぐらいだ。


始めは、女剣士の物珍しさに興味が湧いた程度だった。勿論腕前も充分だと思っていた。

しかし、初めて会ってからの二晩でエレーンの真面目さと直向きさに、きちんと納得を得るまでは今回の話しは無かった事にしても良いかな…と思ったのも正直な話しだ。これ以上、頑張っている彼女には無理をして欲しく無い。


アリーシャも、今回ばかりはアレクシスの横でずっと立ったまま観戦していた。しかし、不安げなアレクシスと違い、その姿は落ち着き払っている。


「…殿下。あの子は、末っ子で甘やかされて来たのにとても真面目でしょう?昨晩の話しだって、あの子らしいなと思いました。でも、本人はまだ気付いて無いんですけど…。」


「?、何を?」


アレクシスはソワソワしつつ、夫人を見返す。今は悠長にお喋りする間も惜しいのだ。


「年齢で括るのは好きでは無いんですが…。あの子は兄や私を追い越そうといつも努力しているんです。裏を返せば守ろうと思ってくれてるからなんですけどね。でも、歳が離れているから重ねた経験が違うでしょう?それなのに、ですよ?」


アリーシャの話しの方向を掴みかねて、きっと自分は怪訝な顔をしたに違いない。今は一秒でもエレーンから目を離したくは無いのに。遠回しな言い方に少し苛立ち、アレクシスは王族らしからぬ心情を顔に出てしまった。


「つまり、かなりの負けず嫌いなんですよ、あの子。私達兄姉と自分を比べて、まだまだだと自分自身を評価して謙遜するけれど、越える位強くなりたいって確固たる意志が有るんですもの。結構図々しい子なんですのよ?今日だってきっと勝って見せますわ。」


そんなアレクシスの様子も介せず、アリーシャはにっこり微笑んだ。


「きっと、貴方方兄姉を誇りに思い、目標にしているから更に努力する…そんな思いなのでしょうな。」


ロバートは微笑しながら、窓の外を眺めた。アレクシスはそれでも心配そうにエレーンを見守った。




まだ結果は出ない。


ずるずると長引けば体格も体力も違う相手に、自身が不利になるのは明らかだ。エレーンは相手の攻撃を紙一重で躱しながら未だに考えていた。



このまま諦めて……皆にどんな顔をして会う?また来年頑張るからと、そんな腑抜けた言い訳を、送り出してくれた者達に果たして言えるのか。

振り落とされた斧を、既の所で右に飛び込む様に避ける。その刹那、倒れて動けなくなる映像が頭に浮かんだ。ちゃんと避けている筈なのに、嫌な感情に息が荒くなる。



負ける?今ここで。


心臓の音が耳の中で響いて煩い。会場の歓声はもうエレーンの耳に届いて来ない。


何もない。この身一つで帰路に立つ?父は何と、母はどんな顔をする?よく帰って来たなと、大会など初めから無かったかの様に迎えて貰うのだろうか?出場した事に意味があるからと。……成る程、父はそう言うかも知れない。そして、それを甘んじて受ける自分……。


ふと想像してみる。


エレーンは身震いした。それは最早剣士では無い。何も持たず、そして何も出来ない只の娘だ。剣を持つ資格など、そんな娘にある筈もない。なんて事だろう。今の今まで、沸き起こるだろう悔しさにも気付かずに、大会を終えようなどと、呑気に考えていたのだ。自分は。



今度は横から斧が飛んで来る。



心ここに在らず、微動だにしないエレーンに、会場から悲鳴が上がる。




そんな自分なんて、剣士として恥ずかしくて顔向け出来ない!!



何も無いならば進んで手にしなければ。既にこの手に剣を取ったのだから。剣士の道はもう引き返す気も無い。ふと、アレクシスの不敵な笑顔が脳裏を過る。



名が無いのならば、挙げてみせる。


決意は固まった。



迫る斧を後ろに飛び、エレーンは間一髪の所で回避した。


決意が固まったと同時に、頭はすっきりと冴え渡った。とにかく相手の動きを注視する。


打ち負かすチャンスは一度きり。失敗すればこちらが負けるだろう。相手が突っ込んで来るのを待つ。


一振りを受けて、柄に刃を立てて何とか耐えるものの、エレーンは体がぐらつく。そこへ、刹那離れた斧が更に斜め上から力を込められ、頭上へ迫る。と、同時に素早く剣を走らせた。


先程刃を立てた同じ箇所へと、渾身の力を入れた結果、カンっと音を立てて斧の先端があらぬ方向へと折れ曲がった。


斧を振りかざしていた手の力が突然重心を取れなくなり、勢い良く相手の体が内側へと蹣跚ける。すかさず肩を押さえて腕を取り、ひらりと相手の後ろへ躱した所で、後頭部を見下ろす。その無防備な場所へと勢い付けて、叩き割るかの様に剣の柄を握る腕を振り落とした。


相手の頭蓋骨から鈍い音が出る。そのまま勢い良く前に足元から崩れた。打ち負かした当人は立ち尽くし、激しい呼吸と合わせて髪が揺れる。相手に意識はあったが、斧の柄を断ち切り、大きな一撃をお見舞いして、エレーンは一勝を勝ち取った。


その時。


会場は一瞬しんと静かになったかと思うと、比べられない程に一段と大きな歓声や拍手が上がり、この国では珍しい、まるで地震の音の様に鳴り響いた。








時は流れ、その夜。


主催者と関係者、入賞者三十名で夜会が催された。アレクシス王子の視察は関係者にしか知らせれていなかった為、会場は王子殿下の登場にどよめいた。



第二戦も辛くも勝ったエレーンだったが、第三戦目に何の因果かルーカスと当たり、あっさりと負けてしまったのだ。

さすがに第二王子の側近をするだけ有ってルーカスは殊更に強かった。早さも、判断も、勘の良さも。どれを取っても経験の差が出る形になった。


恐らく、大分手加減をしていたに違いない。それは悔しいが、自身の力量を理解するのも大事な事だと自分に言い聞かせたのだった。


結果、順位は二十六位。見事、入賞して見せた。

因みにルーカスは三位。この規模の大会では凄い事だったが、特別出場なのに一位にならないとは…とアレクシスに小言を言われていた。普段弄られる彼の仕返しなのだろうか。



夜会では王子達への挨拶を終えた後、エレーンは他の入賞者達に囲まれてしまい大変苦労した。


飾り毛の剣士が少女だと噂になっていた中、本人を目前にして改めて認識した者。感心する者。ドレス姿のエレーンを褒め、ダンスに誘う者。戦い方があーでもないこーでもないと論じる者……何度か晩餐会のパーティーに参加した事があるエレーンだったが、流石に対応する人数が多すぎて困惑する。姉達は主催者で挨拶廻りに忙しいし、主賓のアレクシス達も同様に次から次へと挨拶の相手がやって来て、対応に追われている。


そんな中、挨拶に来た貴族の一人が自慢げに話しかけて来た。


「ご存じですか?貴女の通り名が決まったそうですよ。」


何の話しかさっぱり分からない本人に、貴族は高らかに続けた。


「『剣姫』です。細い剣で相手に打ち勝つ、自身がまるで一本の折れぬ剣の様だと。観客達がそう噂していました。」


まさか自分に通り名が付くなど思いもしていなかったので、大層驚いた。続けてダンスに誘われたので、それは丁寧にお断りした。畏まった場は苦手な上に、ダンスが殊更苦手なのだ。



「『剣姫』どの。今宜しいか?」


耳馴れぬ呼び方に、エレーンは戸惑った。が、声の主に少しほっとする。どうやって周りを撒いたのか、アレクシスが一人で向かって来る。

エレーンを囲んでいた人垣は、アレクシス王子殿下の登場にさっと道を開けた。挨拶をしようと声を掛けようとする者達を、アレクシスは笑顔で牽制する。


「すまない、挨拶は後で受けよう。皆、此度の大会入賞おめでとう。その技量を今後も遺憾なくこのウィンチェストは素より、ウェリントン国の為発揮して貰えると私も嬉しい。まだ演奏も残っている様だ。今日は充分楽しんでくれ。……少し『剣姫』どのに話しが有るのだ。宜しいか、エレーンどの?」


畏まった挨拶に、こくりと頷く。


アレクシスの申し出に、周りが二人に付いて来る事は無かった。王子殿下自ら剣姫を誘い出した事で少しざわめいてはいたが。



バルコニーに出ると、会場内の熱気は届かず、冷たい風が入り込む。春先といえども夜はまだまだ冷える。エレーンが寒さに身震いすると、アレクシスは自分のマントをエレーンの肩に掛けた。


「!、私は大丈夫です、殿下。殿下が御寒くなります。」


「良いんだ。俺の方が着込んでいるから。エレーンどのはドレスで肩も出ている、まだ夜風は冷えるから着ていて欲しい。それに、誘ったのはこっちなんだ。風邪をひかれたら申し訳ない。」


優しく微笑む彼に恐縮しきりだったが、有り難く着ている事にした。満月の光がバルコニーの二人を淡く照らす。


そういえば、慌ただしく準備に追われ、今後の事を詳しくは話していなかった。どう切り出して良いのか、エレーンが考えあぐねていると、アレクシスから口火を切って来た。


「また改めてになるけど、入賞おめでとう。」


「ありがとうございます。」


「……本当に貴女は凄い方だ。今日……本当は心配しきりだった。俺の申し出のせいで、変に気張って無理をして、エレーンどのが怪我をしたらどうしようか、そればかりを考えていたんだ。」


「それは、お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。」


エレーンは慌ててパッと頭を下げた。


「違う!頭を上げてくれ!」


アレクシスも慌てたが、直ぐに呼吸を整え、エレーンの頭を上げさせた。


「違うんだ。俺の方がエレーンどのに失礼だった。確かに一日目の戦いぶりを見て、剣術の技量を確信した筈だった。そして……貴女の意見も聞かずに入城を賭けの様に決めて、その癖心配で堪らなくなるなんて、貴女を尊重する所か、信用もしていないようで恥ずかしい。」


そう言ってエレーンに向かい合うと、深く頭を下げる。


「本当にすまない。」


突然の事態に慌ててアレクシスの手を取った。そっと、自分の手で包み込む。、


「っ殿下!頭を御上げ下さいっ。」


突如手を取られ、アレクシスは顔を上げてエレーンを凝視した。


「心配なさるのは、私が…まだ自分がどうしたいか分からないまま、不甲斐ない戦い方をしたからです。殿下のせいではありません。昨晩お話ししました、剣を取ったきっかけは皆を守りたい、ただそれだけでした。しかし、この度の大会では自分が思う様には出来ず、何とも言い難い歯痒い思いをしていたんです。」


手の事等忘れ、二人は見つめ合う。


「私は、私が考えていたよりももっと深い所で、何者でも無い自分自身が悔しかったんです。今日やっと分かりました。……殿下が、名の有る剣士に成れば良いとおっしゃって、期待をかけて頂いたからこそ、初めて私は新たな決意が持てたのです。このままおめおめ負けて故郷に帰りたくは無い…と。今居る自分は殿下、貴方様のお陰なんです。」


どうしてだろう、今にも泣きそうだ。これでは彼が不安に思ってしまうのではないだろうか。エレーンはそう思って笑顔を作ってみるものの、果たして上手く笑えているのかは、甚だ疑問だった。


「私は、今日やっと生まれて始めて本当の意味で『剣士』に成れたのです。それに、信用は共に居なければ生まれなくて当然です。この先、共に居て殿下の信頼を頂けましたら、私は幸いです。」


「それは…。」


アレクシスはぐっとエレーンの手を握り返す。


「共に王城に行ってくれるのか?!」


「…はい。殿下の御心がお変わり無ければ。」


「よっしゃー!!」

「きゃっ」


アレクシスは勢い良くエレーンを抱き締めた。

ど、どうしよう?!声をかけるにも唇ははくはくと空を噛んで、声が出ない。



「……もしもし殿下?こんな暗がりで何やってるんです。」


バルコニーの扉に、いつの間にかここ数日食事を共にしたいつもの面々が勢揃いしていた。気付いて二人は思わず固まる。


「…いや、まずは離れません?まあ、そのままでも良いですけど。」


ルーカスに突っ込まれ、エレーンははっとする。直ぐ様離れたが、お互い既に顔が真っ赤だ。


「殿下…大人の階段昇るのはまだ早いかと…。じいは嬉しいですけど。」


「「?!」」


明後日な方向への注意喚起?に二人は困惑した。


「ちち違う!これは、嬉しくてついっ!!」

「あああの、そうです!違うんです!」


二人はアワアワと空やら下やらに向けて激しく両手を振り回した。


「大丈夫です、殿下。求婚の了承貰ったんですね!そりゃあ熱い抱擁もするって話しです。おめでとうございます。」


「もうそのネタは良いっ!!」


にっこり嬉しそうなルーカスに、慌てるアレクシスでもう場は大混乱。収拾する為か、真っ赤な顔でアレクシスは大きく咳払いした。


「今しがた、エレーンどのに入城の同意を貰ったんだ。早速王城に戻り、正式に手続きしたい。」


「あっそれはお待ち下さい。」


「?!」


突然の待ったに、アレクシスが固まる。その様子に、エレーンは失言したかと少し焦って訂正した。


「違うんです、あっいえ、入城はさせて頂きたいのですが、一度家に帰らなければいけません、私は近衛兵隊もお休みして今回参加していた身ですので。皆にきちんと挨拶をしたいんです。」


「殿下…。確かに嬉しいからって拐うのはいくら王子殿下でも許されませんよ…。」


さっきとは手のひら返しでルーカスが呆れて呟く。


「ふむ、確かに。直ぐにとはおっしゃってましたが、流石にルーカスじゃないんですから、姫君を公爵どのに許しも得ず連れて行くのは頂けませんな。」


ロバートの言い草にルーカスはえぇ~と返したが、華麗に無視された。


「…………分かっている。」


「えー、絶対入城してから後で書状で済まそうとか思ってたんですよ、この人。荷物だって後で送って貰えば良いとか。」


「殿下、軽率ですぞ。物事には順序と言うものが…」


「分かったわーかった!明日マルシュベン公へ挨拶に向かう!!」


「えっ?!」


自分は一人で帰ろうと思っていたので、本当に驚いた。それに反して、アレクシスは頬は赤いままだが、優しげな労りの瞳で此方を見つめる。……エレーンは心なしかまた頬が熱くなる気がした。


「エレーンどのに心残りが有っては堪らないしな。疲れていると思うが、同行して構わないかな?」


「はい…。」



こうして、当人の困惑を他所に、剣姫の華麗な凱旋が決定した。






夜会も終わり、エレーンは部屋で人心地ついた。


こんなに自分の環境が目まぐるしく変化するなんて、出場するまで思いもしなかった。ただ少しでも上の順位に行けたら良い。そんなぼんやりとした目標しか無かったのに。


今は剣士として、期待に応えてそれに足るべく進みたい。覚悟を決めて、剣を握る。決意が固まるとこんなにも心は晴れ晴れとするものなのか。昨日の自分に教えてやりたい位である。


それから……。夜会のアレクシスの言葉を思い出す。あんなに真摯に自分の事を考えてくれていたなんて。何だか認められた様な気がして、少し鼓動が高まる。


興奮覚めやらぬ感覚が、今はとても嬉しい。





不意にノックの音が聞こえた。


「エレーン?私よ、入っても良いかしら~?」


アリーシャの声だ。

エレーンは直ぐに鍵を開けた。そう言えば、姉もバルコニーに来ていたのに王城組の騒がしさで話しが出来なかったなとドアノブを引きながら振り返る。


「エレーン、入賞おめでとう。そして、決心したのね。姉さんとっても嬉しい。貴女の事だから、考え過ぎて入賞しても家に居るとか言い出すんじゃないかと、ちょっと心配だったけど。」


目の前で優しく微笑む姉に釣られて、エレーンも笑みが零れる。


「…本当は最初のお話しの時に、王子を守るべき方は私ではなく他に相応しい方が居ると思ったし、私では守れないのでは無いか、お側に居ると迷惑がかかるのではないか…そればかりを考えてしまって、お断りしたの。けれど、私が王子を御守りするに足る剣士に成れば良い話しなんだと、王子と姉様とお話しを思い出して気付けたの。まだ私は経験も何もかもが足りないかも知れない。それでも、期待に応えたい。考えがまとまるまで時間がかかったけれど、今凄く清々しい気持ちよ。背中を押してくれてありがとう、アリーシャ姉様。」



二人はソファに座り、アリーシャは微笑む妹の手を取る。


「そうね。決意が固まって、貴女とっても良い顔をしているもの。入城してからはまた苦労が有るとは思うけれど、エレーンの負けず嫌いな所が生かされると思う。貴女、きっともっと強く素敵になるに違いないわ。」


「……姉様、私そんなに負けず嫌いでは無いでしょう?」


エレーンは不服そうに上目遣いで姉を睨んだ。その様子に、アリーシャは大袈裟に驚いてみせた。


「あら!貴女まだ気付いて無いの?!マルシュベン一、二を争う程の負けず嫌いよ。」


ひどーいっとエレーンも怒った振りをしてみせたが、直ぐに二人は顔を見合わせ笑いあった。


「良かった。これで私安心だわ。もう1つ、嬉しい報せが有るの。あのね…」


アリーシャは妹にこっそり耳打ちする。その言葉に、自分の頬の両端が上がって来るのが分かる。


「!姉様、本当に??」


「お父様達には手紙も書くけれど、それと共に貴女から報告して欲しいの。」


「姉様、おめでとう!父様には私からきちんと報告します。」


二人の姉妹はまた笑いあった。



「そう言えば、エレーン。貴女はどうなの?」


「どうなの?って何の事?」


「殿下と仲がとても良いみたいだから。それともルーカス様かしら、貴女昔から強い殿方が好みと言って無かった??どう思っているのか気になっちゃう。」


エレーンはみるみる顔が真っ赤になる。何処からそんな話しになるのか検討が付かない。


「姉様!お二方は私の上司なのよ?!そそそんな不純な事、考えてません!!」


「しーっ!もう夜更けなのに、そんな大声出しては駄目よ~?端ないでしょう?」


「なっ……!姉様!」


口をパクパクさせる妹を余所に、アリーシャはささっと立ち上がった。


「明日お見送りするからね。お休みなさ~い。」



するりと逃げ仰せた姉を見送り、扉の鍵を閉める。エレーンは赤い顔を隠す様にベッドへ勢い良くダイブした。




昨日今日で自分の未来が大きく変わって只でさえ目粉しいのに、殿方の好みの話しなんて出来る筈もない。し、そんな不埒な感情など持つ筈もないのだ。全く、姉ときたら。この早まる鼓動は、少し興奮しているだけ。



これから剣士としての本当の自分の道が始まって、これほどなく忙しいに違いないのだから。エレーンはそう思って、鼓動の速さに言い訳を取り付けたのだった。


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