Episode2 紫の自愛は夢の中
放課後の音楽室。
もうすっかり習慣となったその場所で、そっとベースを手にとる。
一人きりのその空間に重く重圧のあるでも心地の良いベース音が鳴る。
重低音が鳴る。
重くのしかかるようなその音は心地が良くて、一人目をつぶって笑う。
その空間と時間が楽しく、心地いいのだ。
『認めて欲しくなぁい?』
不意に聞こえた声に辺りを見渡すも、その場には自分しかいない。
当たり前である。
ここはこの時間帯貸切状態で、誰も使わないのだから。
それに、その問いかけは図星でしかなかった。
そんなことはわかっていることだが、ではいまの声は?
『誰かにそのベースのこと褒めて欲しいって思わないの?』
「だから、誰だよっ!!!」
『君は知らなくていいことだよ』
聞こえる声は聞いたことがあるのにそれが誰なのかわからない。思い出せない。思い出そうとするとその記憶に靄がかかる。
飄々と。淡々と。ケラケラ笑いながら話しかけてくるその声にイライラして。
それでもそれを悟らせぬように、話を続ける。
『ふふっざぁんねんでした』
もやもやとした記憶に吐き気を覚えながら立ち上がろうとして、ひどい頭痛に襲われ、俺の意識は途絶えたのだった。
「郁哉くんのベースってかっこいいよね」
え、、、?
「郁哉カッケェなぁ」
、、、、へぇ
「一緒にバンドやらねぇ?」
、、、、ほぉ
「うちの事務所でやりませんか」
、、、、すっげ
俺のベースが認められた?
見てもらえた
嬉しさに頬が緩む
これで見てもらえる、やっと、俺は褒めら、れ、
不意に目がさめる。
誰も居ない。
何もない。
先ほどまでいた音楽室で一人。
何も変わらない
認められても褒められてもない。
俺は、一人だ。
きっとこの先だって認められることなんてない。
不意に目に入る誘い込むように開け放された窓が目に入る。
わかりきっていた。
わかっているのに先ほどの夢にすがろうとした。
覚めなければいいのに、と。
近寄り窓枠に手をかける。
どうせ認められないなら
もう生きてる意味なんてないじゃないか。
足をかける。あとは飛ぶだけ。
不意に手を掴まれて引き戻される。
振り返った自分を見る兄の姿にいつも通りの笑みを浮かべてやれば睨まれる。
「っざけんな、死のうとしてんじゃねぇよ」
「ははっ兄さんそんなに怒んないでよ」
「怒るに決まってんだろ。俺、お前の音楽が好きなんだから」
「、、、んだよ、、いん、じゃん」
『つまんないの』
そう吐き捨てた少年の声は兄とともに音楽を奏でる少年の耳に入ることはなくかき消された。
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