君が見た海

嘉乃ヨシ

第1話 君が見た市内電車

広島駅を降りて南口をでる。


海を持つ町の独特の日の強さが君を一気に襲った。


焼けつくような日差しに、君はうなじをしっとりと湿らせながら、宮島口行の市電の乗り場を探す。


重たいキャリーケースを引っ張る君の白い腕にも汗がたらりと流れた。東京の快適な地下移動に慣れた君にはこの日差しは少し酷だったかもしれない。


そのうち外国人観光客に囲まれ、飛び交う言葉は様々でここが実は日本ではないんじゃないかと、君は不思議な錯覚を覚えながらも足を進めた。


市電の乗り場は分かりやすい。


三両程度の東京じゃなかなかお目にかかることはない路面電車がいくつか停車しているところだった。


新しいタイプのものから古いタイプのものまで広島の市内電車は様々だ。

君はカープにデコレーションされた電車を横目に、改めて広島に来たのだと実感したと思う。


さて、本来なら君は新幹線を降りてそのままJRに乗り、岩国方面の電車に乗った方が早く快適に目的地まで着くのだが、君はそうしなかった。


初めて住む広島の地をゆっくりと見ながら新居に向かいたいと思ったのだ。


僕も君の考えには賛成である。


市内電車はいい。


この県は市内電車とともにあると僕は常々思っている。君も気に入ってくれたらいいんだけれど。


さて、そんな僕の感傷はいいんだ。


君は無事に市内電車に乗り込み、冷房の効いた車内で一つ息を吐く。

じっとりと汗でしめった背中は冷やされ、少し寒さを感じるぐらいだ。

ゆっくりと車内を移動し、ちょうどいい席を見つけて君は腰を下ろす。


キャリーケースが動かないようにしっかりと両足で挟み、ようやく君は安心したように窓の外を見た。


案外ビルが多く、田舎だとばかり思っていた君は案外と広島は都会じゃないかと考えを改めざる得ない。これならなんとかなりそうだと、これからの高校生活に少し光がさす。


君が向かう駅はここからだいぶ先の宮内。

どうか君がこれからのこの地での生活を楽しんでもらえたらと思う。


僕と出会うのももう少し先になるけれど。


とりあえずはこの一言を。



ようこそ、広島へ。



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