序章 花嫁は黄昏に嫁ぐ

王がべる土地のそうを食せば可能性の火を得る国


 王につらなる者がようあやつる力を持つ国


 王に連なる者にやしの力をあたえる国


 王が統べる土地にある者たちすべてを守る国


 この世にはしんせんの加護を受けた国が四つあるが、なにゆえこの国が一番すぐれているのか?


 答えを見つけたあかつきにはその血に星宿を背負う権利を与える





 遥かな異国からやってきた花嫁に、申し訳なかった。

「公主という話でしたが、何やら貧相なむすめのような……」

「よいのではありませんか? どうせお相手はさく耀よう様なのですから」

 自分のせいで彼女は悪く言われるのだ。

(けれど……美しいじゃないですか、ぼくの花嫁は)

 ちやくにあたるちん皇后に妻を探してやろうと言われた時、心の底からぞっとした。

 むごたわむれのいつかんとして妖魔をあてがわれることさえ予想していた。動物ならましな方だ。

 だが十月末日の夕方にとうちやくし、十一月さくじつの明け方にこうていはいえつたまわった花嫁は、人間であったばかりかうるわしかった。

 ようこくいつぱん的な美人の条件とされるたいの豊かさはない。

 しかしくれない地に金襴のたんの帯を石榴ざくろいしはいぎよくを下げたほそごしに、ぎんしゆちようくんがまとわりついてゆかに広がるさまは、十歳の朔耀が目をみはるほど美しかった。

 こうけいった頭からあやぎぬかぶっていた。なめらかな白磁のはだに牡丹紅にられたくちびる、白い耳にはしゆすいみみかざり、かみから下がるいくつもの金玉のようが歩くたびれ、かすかな音を立てている。えんおうと梅の文様がしゆうされた檸檬レモンじようじゆさわやかなりよく色のはん、紅のうわぎの上に重ねられたかすみはくは長く、彼女が宮城の女性とは全くちがった歩き方でじゆうたんみしめる度にひらりとを引いた。彼女一人だけまるで別の世界にいるようにふんが違っている。

 ただ異国のじようちよはない。華燁国の風習に合わせたのだろう。

 彼女はおのが国の利益のために売られてきたようなものなのだから。

(……仲良くなれるかな)

 ねんれいたけも上の女性だ。けれど朔耀の心に不満はいつさいなかった。

 遠い異国の地からやってきた彼女であれば、まだなんのしがらみもない。

 彼女は朔耀にとって、宮城でゆいいつの味方となってくれるかもしれない。

(あ、顔を上げた……)

 父である皇帝へのこうとうを終えた彼女の顔に長旅のつかれはうすく、そのひとみみがかれたすいぎよくのようになまめかしく、彼女のすいという名にふさわしかった。



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