第5話 弟を希望したら妹がやってきた
あきらは学校に来なくなった。隣の市の施設に入ったから、学校もそこから通える場所になったらしい。母親の方で保護をって話も出たらしいが、あきらの父親があきらの行き先を聞き出すために振るった暴力で亡くなってしまったそうだ。
父親は殺人容疑で逮捕され、長い間出て来れないのは間違いないそうだ。
そして、母方の祖父母がいることが判明したけども、今更子供を引き取るほどの余裕はないとのことで、施設に入ることになったそうだ。あきらが嫌がったということもあったらしい。
施設への面会もできなかった。ほかの子供を刺激するとかよくわからない理由だった。そこにいる子供たちは色々と不幸な目に遭って、自分ではどうしようもない事情に巻き込まれてそこにいる。
言い方は悪いけど、普通であることがすでに彼らから見たら幸せなことで、妬みを買うし、施設内の立場で、あきらが困るということだった。
俺もあきらを困らせたいわけじゃないし、まずは少しでも立派な大人になって、稼げるようになってあきらを守ってやるんだと、苦手な算数のテキストをうんうん唸りながら解いている。
「三日坊主にならなかったか」
「というかすごい熱意ね。成績も上がっているし、中学受験とかも視野に入れた方がいいって担任の先生から言われたわ」
「まあ、本人がやりたいならその通りにさせてやろう。しかしあれだな」
「ん? どうしたの?」
「あいつは自分が大人になるころにはあきらくんも大人になって気づいてないんだな」
「ぶっ、たしかに。年一つしか違わないんだけどねえ」
「まあ、その年になって守ってやるってのは」
「プロポーズ、よねえ」
「というかあのアホ息子はまだ気づいてないのか?」
「みたいよ? まだ弟って言ってるし」
「うむむ、誰に似たんだ? あの朴念仁は」
「あなたに決まってるでしょ?」
「ぐぬっ、反論できない」
「そうよね。わたしが何度あなたにアプローチしてもあなた気づいてなかったし、ねえ」
「気づいてはいたぞ?」
「え?」
「お前を守れる自信がつくまで頑張ってたのさ」
「それ、今思いついたでしょ?」
「いやいや、愛してるよ、奥さん」
「うっ。仕方ないわね。騙されてあげる」
「騙すだなんて人聞きが悪いなあ」
「いいわよ。わたし限定で死ぬまで騙しててくれたら、ね」
「お前とあのアホ息子と、それともう一人を幸せにしないと死ぬに死ねんよ」
「うふふ、ありがと」
そうして1年が経った。来年からは最上級生だ。勉強も頑張って成績も上がった。スポーツを初めて体を鍛えた。ちょっとづつだけど、自分が成長した気がする。
「おーい、アホ息子。クリスマスプレゼントは何がいい?」
「アホ息子はやめてよ……」
「ふん、なぜアホ息子と呼ばれるかその理由がわかったらやめてやる」
「じゃあさ、弟なんてどうかな?」
「わかったぞ」
「え?!」
「お母さんと頑張るとするさ」
「ちょっと! それって!?」
「子供は寝て待ってろ」
あの事件から少しお父さんは素を出すことにしたらしい。子供の前では立派な大人じゃないとなって振る舞ってたらしいけど。
「もうお前は大丈夫だろ」
ってなんかいい笑顔で言われた。休みの日はなんかぐーたらしてる。それでもしっかりと家族を守ってる。だから、俺のとりあえずの目標はお父さんみたいになることだ。
というか、いつぞやそう口を滑らせたらすごい勢いで頭を撫でまわされた。ちょっと目元が潤んでた気がする。
12月24日。あれから1年たった。
3人でクリスマスパーティを始めようとしたとき、ふいに呼び鈴が鳴った。
「すまん、ちょっと手が離せないからお前出てくれ」
「わかったよ。ってこんな時間に誰だろうな……」
ドアを開ける。そこにはコートを羽織り、スカートをはいた女の子が立っていた。
思わず固まる。すごくかわいかったからだ。ちょっと戸惑ったように首をかしげるしぐさに見覚えがあった。
「……あきら?」
「気づくの遅いよ、お兄ちゃん」
パパパーンとクラッカーの音がした。後ろには満面の笑みを浮かべる両親がいる。
「ということで、クリスマスプレゼントって言うと語弊があるが、今日からうちの子になったあきらくんだ」
「え? え? え?」
「よろしくね、お兄ちゃん」
そう言ってぺこりとお辞儀をする。間違いない。あきらだ。
「女の子、だったの?」
「だからお前はアホなのだ」
「お父さん、反論できません」
「「あはははははははは!」」
お母さんとあきらが笑っている。自分が笑われているけど不思議と腹は立たなくて、じんわりと暖かいものが胸にこみ上げる。
なんか視界がぼやける。目をこすってあきらを見ると、あきらも泣いていた。笑顔のままでぽろぽろと涙があふれてくる。
思わずあきらの目もとに手をやって涙をぬぐった。
「う、会いたかったよおおおお」
あきらが俺の胸に飛び込んでくる。おもわず抱きとめた。ふにゅっと柔らかい感触がして、ドキドキする。
「んー、養子から義理の娘コースですかね?」
「どっちでもいいぞ。まあ、あれで固まってる当たり先は長そうだけどな」
「あなた人のこと言えないじゃない」
「いやいや、そこはそれ「ちゅっ」はうっ!?」
お母さんがお父さんのほっぺにちゅーしてた。お父さんは真っ赤になって固まっている。
「ね?」
いたずらっぽくお母さんは俺の方じゃなくてあきらの方を見ていた。すると……「ちゅっ」ほっぺたに柔らかくて暖かい感触がして、それが何かを理解した俺は目を回してしまったらしい。
「おにいちゃん!?」
慌てるあきらの声がなんか嬉しかった。
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