HM- N01-001

 意識はあった。

 しかし明瞭じゃない。


 覚醒と鎮静を秒単位で繰り返しているかのように、頭の中で整合性のとれた考えを浮かべる事が出来なかった。


 目を開けても焦点が合わない。

 眩しい光が眼前でユラユラしているのが分かっただけ。


 瞬きの速度がとてもゆっくりに感じられたが、

 感じるだけか、

 それとも本当にゆっくり瞬きしているのか。

 自分の身体の事なのに、意識と身体がとてつもなく遠く離れてしまっているかのような、変な感覚だった。


 水の中で音を聞いてるかのように、変に響いて明瞭にならない音がする。


 誰かの声なのだという事は何故か分かった。


 その声がしきりに繰り返す。


「り……そえ。り……そえ」


 意味はわからないのに、なぜか言葉が脳にこびりつく。


「……はかわ……う? ちい……だ、……そいこ……。たま……だ……?」


 やめてくれ、そんな事思ってない。

 やめてくれ、そんな事出来ない。


「……まえも……こだ。り……おん……。

 かん……う? あじ……だ……う?

 ……んぶ……わえ。む……ちゃ……ろ。

 り……そえ。り……そえ」


 やめろ

 やめろ

 やめてくれ

 嫌だ

 嫌……


 ……。


 なにもかんがえられない


 ナニモ

 カンガエ

 ラレナイ


 しきりに耳元で繰り返される言葉。

 ハッキリと聞こえないのに、脳に染み込むように残り続ける言葉。


 唯一ハッキリ聞こえたのは


「契機は着信音。それ以外は忘れろ」


 その言葉だけだった。

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