第13話
まだそれほど経っていないのに、横にいるのが当たり前に感じるのは何故だろうか?
ポッテリとして艶やかな唇、涼やかで色気のある目元、ホッソリとした首からデコルテにかけて妖艶な色香を匂わせた美女──
彼女は
何故だ?
何故こんな、普段生活してたら絶対に同じ次元に存在することすら許されないであろう女性が隣を歩いているのか。
もしかしてあの日──彼女を見つけたあの日に、自分は知らぬ間に車に突っ込まれたとかの事故にあって、醒めない夢を見ているのではないだろうか?
だとしたら納得出来る。
じゃなければ納得出来ない。
そうだ、これは夢なんだ。
幸せで残酷な夢。
醒めたら現実に打ちひしがれる
唯一、本当に夢でもあって欲しい事が1つある。
彼女がきてから、電気代が跳ね上がった事だ。
日中エアコンを入れっぱなしという事もあるし──
しかし、たかが半月で2万超えの請求が来た時は、文字通り本当に目ん玉飛び出るかと思った。
非常勤安月給の
バイトを増やそう──
彼は心に硬く誓った。
「どうしたんです? 私の顔に、何かついていますか?」
ずっと見つめる
手を頬や唇に沿わせて、ついているかもしれないゴミを探す。
「いや、そうじゃないんだ。その……嘘みたいだなって思って」
いつの間にか彼女を凝視してしまっていた事に気付いた
慌てて何事もなかったかのように前へと向き直る。
「何がですか?」
「えっと……
「
気のある女性に言われたら、脈なしとしてガッカリするところであるが、
むしろ、適度な距離をとるようになった。
夜は一緒の布団に転がり込んでくる事もなくなった為、
今まで疎かにしていた近所づき合いは、彼女が架け橋になってくれて出来るようになったし、今までパスタ料理しか作れなかった
ただし、容赦なく
そして。
女性との距離感の取り方、女性の脳構造から見た考え方、女性の身体構造からホルモン変化による心理構造まで、
ハウツー本というより、かなり科学的な側面からの話だった為、保健体育も担当している
逆に
人との距離の取り方、扱う言葉のチョイスや、逆に女性らしく見えない態度についてなど。
かなり
彼女──
これでいい。
これでいいんだ。
据え膳食わぬは男の恥
などという
最後まで責任を果たせないのであれば、手を出すべきではない。
逆に手を出すのであれば、向こうから拒否られるまでその責務を果たすべき。
誠心誠意相手を愛し、そして愛されるよう尽力し、精神的に誠実な関係を結ぶべき。
しかし、今の自分にはそれが出来るのか?
──否。
ならば、据え膳など懇切丁寧に謝罪して、差し出してくれた相手を労ってから返却すべきである。
なので彼女から『古風な考え方』と言われたのだ。
しかし。
いくら崇高な理想を掲げてても、
その生理的反応を打ち消す為の、全力疾走であり過重スクワットであった。
効果はあったし、身体も細マッチョになった。
いつも夏バテを流行先取りで体験していた
──電気代を除いて。
今日はバイトが夕方で上がった為、外で待ち合わせてスーパーに買い出しに来た。
まるで恋人同士のようだな──なんて甘酸っぱい気持ちを持って
彼女はスキャンダル記事まみれの週刊誌をジックリ端から端まで立ち読みしていた。
淡い幻想は木っ端微塵になった。
色気を封印して欲しいと頼んだのは
まさかここまで人間臭くなるなんて……
でもいい。
裏道を通るとスーパーまでの道程がショートカット出来る事を知っている
この時間が──永遠に続くといいのに──
猛烈なガラスの破壊音。
そして女性の悲鳴。
そんな音と共に大男が目の前に転がり出て来た。
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