382.終幕:エピローグ
ついに更新最終日となってしまいました。
長かった連載も今日で一区切りだと思うとちょっと感動です。
それではエピローグ、どうぞ!
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「さて、調子はどうであるかね、トワ君」
オーディンを討伐してしばらくたったある日、教授がうちのクランにやってきた。
「調子か。相変わらずだな。俺はまだ大丈夫だが、ドワンは刻印装備の依頼でてんてこ舞いだよ」
「であろうなぁ。オーディンを刻印なしで勝ったというのはまだ報告がないゆえに」
オーディンが初めて討伐されてから、ポツポツとレイド攻略者も出てきたらしい。
オーディン戦でドロップした即死無効アクセサリーや各種高性能装備などが供給されたり、オーディン以外のレイドでも即死無効アクセサリーが発見されたりした結果だろう。
やはり、あの即死槍が一番の難関だったようだ。
「そういえば、教授もオーディンに勝てたんだったか」
「うむ、勝てたのであるよ。ついでと言ってはなんだが、各種データもきっちりとってきたのである」
さすが教授、抜け目がない。
「ふうん。そのデータって教えてもらえるのか?」
「かまわないのであるよ。まず、オーディン本体であるが、物理防御よりも魔法防御のほうが低いのである。逆にあの即死槍……仮称グングニルは魔法防御のほうが高いのであるな」
「そうだったのか。なら、即死槍……じゃない、グングニルか、あれがきたときは即死無効の物理アタッカー全員で落としたほうがいいのか?」
「そう簡単な話はないのである。即死無効が付いていたとしても、回避に失敗した場合は普通にダメージを受けるのであるよ。しかも、攻撃力はかなり高めな上、MPとSTにもダメージが入るのである。即死無効と喜んでいたのであるが、わりとぬか喜びであったのであるな」
確かに、そうだろうな。
即死はしなくても、戦線復帰するためには各種ポーションのお世話になりそうだ。
……ああ、そういうことか。
「それで最近、カラーポーションの需要が増えていたわけか」
「おそらくそうであろうな。レイドで即死無効アクセサリーをそろえたプレイヤーたちが、オーディンに負けて各種物資を買いあさっているのであるよ」
「なるほどなぁ。まあ、こちらとしては作れる分のアイテムしか生産しないし、頑張ってくれとしか言い様がないな」
「であるなぁ。ところで、トワ君のスレイプニルは成長したのであるか?」
「いいや、ほとんど成長させてないな。というか、狩りにほとんど出かけてないや」
「もったいない話である。スレイプニルは育つとなかなか攻撃力の高いアタッカーになるのであるよ」
「そう言われても、狩りに行く必要がないからな。機会があったら考えるよ」
「わかったのである。それから、グングニルのスキルを覚える条件もわかったのであるよ。オーディンの使ってきたグングニルにダメージを与えたトップ一名がスキルを覚えるようである」
なるほど、わかりやすいような、わかりにくいような。
「注意しなければならないのは、オーディンのグングニルで死亡すると与えた蓄積ダメージ値がリセットされるらしいことであるかな」
うん、やっぱりわかりにくい。
「結構めんどくさい条件なんだな」
「わかれば簡単な条件なのであるよ。狙ってとるのは結構難しいのであるが」
だろうな。
破壊に失敗すれば、全員即死なんだから、そのプレッシャーの中でダメージ調整とかかなり厳しいぞ。
「他に何か聞きたいことはあるのであるかな?」
「いんや、特にないかな」
「わかったのである。それでは、失礼するのであるよ」
単に雑談をしにきただけらしい教授は、会話が終わるとあっさり帰って行った。
それと入れ替わりにやってきたのは、ドワンにイリス、柚月の三人だ。
「あれ、教授さん、もう帰っちゃったのー?」
「ああ、もう帰ったぞ。イリス、何か用事があったのか?」
「用事って言うか、何か新しい木材の情報がないかと思ってねー。ドワンと柚月ばっかり新しい素材が手に入ってずるいよー」
そう、最近は新しい木材が全然入手できていない。
新規レイドもクリアされているのだが、そちらで入手できる素材関係も鉱石か皮、布ばかりなのだ。
イリスとしては、いい加減新しい素材がほしいところなんだろう。
「そういわれてものう。こればかりは実装する側の問題じゃろうて」
「そうねぇ。木材が入手できないはずはないと思うんだけど……トワ、今度、教授に聞いてみてくれる?」
「わかった。イリス、急ぎか?」
「うーん。急ぎではないかなー?」
「じゃあそのように伝えておくよ。新しい素材が手に入ってたら、さっききたときに話が出てたと思うけど」
「だよねー」
雑談をしに来ただけとはいえ、その手の情報を置いていかないはずもない。
きっと、教授も新しい情報をつかんでないのだろう。
「そういえば、曼珠沙華とクルミはどうした?」
「曼珠沙華は、劇団のほうの仕事が忙しくてしばらくこっちに来ていないわよ。夏休みに一本新作の演劇を公演予定ですって。ウォルナットは、最近ログインできていないみたい。大学のほうの研究が忙しくてそれどころじゃないそうよ」
「ふーん。大学って忙しいんだなぁ」
「学校とか学部、所属する研究室にもよりけりでしょうけどね。まあ、本人が楽しんでいるみたいだしいいことよ、きっと」
学業を楽しめてるんだからいいことなんだろう。
学校が苦痛だと毎日が大変だからな。
……リクのように。
「それで、皆の調子はどうなんだ?」
「私はまあまあね。布装備や革装備に刻印を付与することは少ないから、依頼が立て込むこともないし、気楽にやらせてもらってるわ」
「ボクも楽しんでるよー。刻印装備の依頼も落ち着いたからねー。できれば、新しい素材でいろいろ研究したいんだけど、素材が手に入らないんじゃなぁ……」
「わしは……まあ、依頼が殺到しておるのぉ。いい加減、刻印装備は作り飽きたわい」
「お疲れ様」
「そういうトワはどうなのよ? 最近、忙しいの?」
俺か?
俺は、そうだなぁ……。
「忙しくはないな。装備依頼をこなしつつ、ポーションを作って、ユキと適当に過ごして……っていつもと変わりない生活だな」
「そのようね。落ち着いた生活に戻れたならそれでいいんじゃない? オーディン戦やってた頃のトワって、本当に忙しそうだったから」
オーディンをやってた頃か……。
「忙しそうだった、じゃなく、本当に忙しかったからなぁ。五重刻印とかいくつ作ったよ……」
「お疲れ、トワー」
「お疲れじゃ。そういえば、作った銃はどうしたんじゃ?」
「ああ、俺が持っていても仕方がないから、ひとつだけ記念にもらってあとは全部教授に渡した。教授なら適切に有効活用してるだろ」
「それもそうじゃの。さて、それでは休憩は終わりにして作業を再開するとしようかの」
「そうね。がんばりましょうか」
「おー」
「俺も工房に戻るとしようかな」
各自、自分の工房に戻っていく。
俺の工房に戻ると、そこではユキが料理を作っていた。
「あ、お帰りなさい、トワくん。教授さん、なんだって?」
「いや、特に用事はなかったらしい。ただ寄ってみただけだってさ」
「そうなんだ。なんだか珍しいね」
「確かにな。まあ、そんな日もあるだろ」
「そうだねぇ。あ、これ、新作料理なんだけど食べてみて」
ユキに出された料理を食べてみる。
新作料理だというそれは、和風カルボナーラと言った味だった。
うん、味は文句なしだな。
バフは……そこそこ、といったところかな。
「うん、おいしいよ。ただ、バフは少ないから、あまり高値では売れないかな」
「だよね。うん、これは売り物にしないで私たちの食事用にするね」
どうやら、ユキははじめから販売するつもりがなかったらしい。
さっくりと売るのはやめて、自分たちの食事用にしてしまった。
「それにしてもトワくん。銀星を育てなくてもいいの?」
銀星というのは、俺のスレイプニルの名前である。
シリウスのようにあまりいい名前が思いつかなかったため、割と適当な名前になってしまった。
「うーん、あまり育てる必要性もないかなって思って。白狼さんに聞いたけど、育てても移動速度は変わらないって話だろう? だったら狩りに行かないのに育てる必要もあまりないんじゃないのかなと」
「……それはそうかもだけど、せっかく新しい眷属が増えたんだし、少しくらい育ててあげようよ」
うーむ、どうやらユキはスレイプニルを育てに行きたいようだ。
俺としては、無理に育てなくてもいいかな、と思ってたけど、いつまでも放置しておく理由もないんだよな。
「わかった。もう少しポーションを生産したら、スレイプニルを育てるための狩りに行こう」
「やった! ありがとう、トワくん」
うーん、やっぱり俺ってユキには特に甘いよな。
俺個人の問題だと思うから。問題ないのだけど。
「……トワくん、最近って楽しい?」
「なんだ、やぶから棒に」
「ほら、ちょっと前まで、オーディンがらみのあれこれで忙しかったでしょ。あの頃のトワくんって、本当に忙しそうだったから、ついね」
そんなに余裕がなかったのかな。
これは反省しないと。
「楽しいぞ。ようやく、自分のペースで遊ぶ余裕もできて毎日好きなことができるしな」
「そっか。それならよかったよ」
「そうだな……さて、ポーションも完成したし、どこか適当に狩りに行くか」
「うん、いっしょに行こう!」
かなり時間のかかったオーディン討伐も終わり、ようやく自分のペースが戻ってきた。
この先もいろんなイベントがあるんだろうけど、できればペースを乱されることなく楽しんでいきたいな。
さて、まずはユキからのオーダー通りスレイプニルを強化しなくては。
何気ない毎日だけど、ゆっくりと楽しんでいこう。
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完結フラグが立っていない?
さて、私は更新最終日と言ったな。
つまり私はもう一話を残しているのだよ!
……というわけで、もう一話お付き合いくださいませ。
本編とは何の関係もない、奴らのショートストーリーです。
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