346.マイスタークラス組み合わせ抽選会
「やっほー。いま戻ったよー」
試合が終了したので、ボクは『ライブラリ』の皆がいる観戦スペースにやってきた。
自分の予選が終われば、控え室にいる必要がないからねー。
「あら。お帰り、イリス。割と余裕のある勝利だったわね」
「うんうん、勝つにしてももう少し苦戦するとか思ってたよ」
柚月と曼珠沙華はもう少し苦戦すると思ってたみたい。
でも、苦戦する要素はほとんどなかったんだよねー。
「試合内容については、ほとんどトワが対策してくれた展開ドンピシャだったんだよー。だから、ある程度の余裕があったのかもー」
「なるほどのう。β時代の経験が生きている、ということじゃろうか?」
ドワンがあごに手をやりながら聞いてくるけど、そこまではよくわからない。
ただ、トワとしては『自分がやられたらめんどくさいことに対する対策』を教えてくれてたんだよねー。
普段は対人戦の練習をしてるところなんて見たことないのに、あれだけの対策を用意できるトワはやっぱりすごいよ。
「それで、イリスはこのあとどうするの?」
曼珠沙華がこのあとの予定を聞いてくる。
でも、ボクも結構疲れたし、休みたいな。
「うーん、このあとは予選の続きだと思うから、少し休憩かなー?」
「そうね。予選は二試合同時進行ではあるけど、まだ少しは休めるんじゃないかしら」
柚月がボクに現在の進行状況を教えてくれた。
確か、予選って全六試合で各二試合同時進行だったかな?
「これから第五試合と第六試合の開始だから、二十分くらいは大丈夫だよ。決勝トーナメントの抽選会のときに戻っていれば問題ないはずだしね」
曼珠沙華もいまの進行状況を教えてくれたし、平気そうだね。
「だねー。それじゃあ、少しログアウトしていようかなー」
「ええ、行ってらっしゃい。ただ、これから始めるのが最終戦だから、あまりのんびりはできないわよ」
「わかってるよー。またあとでねー」
ボクは一旦ログアウトして、少し休憩を挟んだよ。
その時、お姉ちゃんもいて、予選を通った話をしたら喜んでくれたし応援もしてくれた。
うん、決勝トーナメントも頑張らなくちゃだね!
―――――――――――――――――――――――――――――――
短い休憩を終えて再びログインすると、ちょうど第六試合が終わりそうなところだった。
この試合のあと休憩時間を挟んで、決勝戦の抽選会なんだよね。
「あ、イリス。もうすぐ最後の試合が終わるよ。ちょうどよかったね」
「うん。いいタイミングだったみたいでよかったよ」
ボクに声をかけてくれた曼珠沙華のほか、柚月やドワンも観戦スペースに残っていたみたい。
ふたりもいまのところは急ぎの用事がなく、今日明日は試合観戦を続けるつもりらしいねー。
「この試合はなかなか面白かったぞ。ガンナーやアクスファイターのようなマイナー装備のプレイヤーが勝ち進んでおるしのう」
「確かに、斧使いって珍しいわよね。対人戦だと、やっぱり扱いにくいのかしら?」
「わしも、斧はサブウェポンじゃからな。ただ、重量級武器は当てにくい、というのはありそうじゃが」
柚月とドワンは武器談義をしているよ。
そういえば、遠距離武器の銃はともかく、斧使いっていうのもボクの相手をした中にはいなかったかな?
「そうなんだねー。ボクは弓しか使わないけど、ほかの武器はほかの武器でいろいろ大変なんだねー」
「うむ。武器ごとにクセが出るからのう。たとえば、斧ならば先端部が重いので振り抜くときに遠心力がかかる。それ故に、当たった時は威力も高くなるが、外したときはバランスを崩しやすくなるからのう。この特徴は、長柄武器を振り回すときも一緒じゃがな」
「そうなんだねー。じゃあ、ドワンがよく使っているメイスとかはー?」
「うむ。メイスも先端が重くなっておる。なので、上手くコントロールせねば、斧と一緒じゃろうな。ただ、メイスは斧のように刃の部分がないので扱いやすくはなっておるがの」
なるほどなー。
確かに、斧だと刃の部分を気にして叩きつけなくちゃいけないから、メイスより難しいかも。
ボクが斧を使うのって、樹木系モンスターを伐採する時くらいだから、動き回る相手は想定してないんだよね。
いちおう、斧も武器登録しているけど、出番は無さそう……。
「うーん。ボクもサブウェポンに斧を持ち込んでるけど、使わないほうがいいかなー?」
「そうじゃのう。使わずともなんとかなるのならば、無理せんほうがよいじゃろう。トワはなにも言ってなかったのか?」
「トワは『確実に当たるタイミングなら有効だろうけど、そうじゃないなら弓で牽制しろ』みたいなことを言ってたー」
「ふむ。トワも積極的に使う必要はないという判断か。それならば、トワの言葉に従ったほうがよさげじゃな」
「だねー。斧は最終手段にするよー」
扱いがイマイチ決まってなかった斧の使い方も決まった。
それとほぼ同じ頃、歓声が大きくなったよ。
『第六試合終了!! 勝ち上がったのは、シフト選手、レイン選手だー!!』
実況の音声で勝ち残った選手の名前が告げられた。
試合内容は見てなかったけど……まあ、仕方がないよね。
『ただいまの試合をもって、予選は終了いたしました! 三十分後より決勝トーナメント抽選会を始めます! 出場者の皆様は必ずログインしていてください!』
「抽選会はまだ先のようじゃの。イリスどうする?」
ドワンに聞かれたけど、とくにすることもないんだよね。
「うーん、このまま抽選会まで待ってることにするよー」
「そうか。わしは一旦クランホームに戻らせてもらうぞい」
「私は残ろうかなー。柚月は?」
「私もクランホームに戻るわ。またあとでね」
「うん。ばいばーい」
クランホームに戻る柚月とドワンを見送って、曼珠沙華とふたり、観戦スペースに残った。
「うーん。イリス、このあとも勝てそう?」
「どうかなー。簡単に負けるつもりはないけど、ボクあまり運動得意じゃないし」
「……そんなことないと思うけどなー」
ボクが運動できないことを話したら、否定されてしまった。
苦手ってことはないけど、得意ってわけじゃないと思うんだけどなー。
「ちなみに、イリスは誰と比べて得意じゃないと思ってるの?」
「トワや鉄鬼だよ」
「……イリス、それは比較する相手が悪いわ」
「そうかなー? 身近だとあのふたりじゃない?」
「あのふたりは、リアルで子供のころから武道の訓練をしてたらしいし、比べちゃダメよ」
そうかなー。相手としてはぴったりなのに。
「ともかく、いまはこのあとのことについて考えよっか」
「だね。……まあ、いきなり強い相手と当たらないように祈るしかないけど」
「くじ運も実力のひとつだよね」
こうして、抽選会が始まる時間まで曼珠沙華とおしゃべりをしてすごしたよ。
あまり緊張しないで過ごせたし、曼珠沙華に感謝かな。
―――――――――――――――――――――――――――――――
『皆様お待たせしました! ただいまより武闘大会マイスタークラス決勝トーナメント抽選会を始めます!!』
実況さんのかけ声と共に抽選会が始まった。
舞台にいるのは、予選を勝ち残った十二人とシードだった鉄鬼と……たしかきこりーやさん、だったかな。
前回一位だったトワは不参加だし、二位だった人もやめたっていう話。
なので、このクラスではシード枠はふたつだけなんだよね。
『さて、それでは一人目の抽選です! 第一試合……』
あ、抽選が始まった。
全四回戦のうち、第一回戦はボクたち予選通過者だけで争う。
第二回戦はシードのふたりも参戦してくる。
さて、ボクはどんな相手と戦うことになるのかな?
『次の抽選です! 第三試合勝者イリス選手、お願いします!』
ボクの番が来たね。
いまのところ、対戦者が決まってるところはない。
さて、ボクはどうなる?
『イリス選手は四番のカードを引きました! 第二試合の登場です!!』
ありゃ、まだ対戦相手が決まってないところか。
うーん、このまま様子を見るしかないね。
そのあともどんどん抽選は進み、対戦カードが決まっていくけど、ボクの相手は最後まで決まらなかった。
つまり、第六試合の勝者のひとりということで……
『最後の対戦カードも決定だー! 第二試合はイリス選手とシフト選手の勝負となったー!』
シフトさんかー、確かガンナーの人だったよね。
ボクの試合は遠距離職同士の戦いみたい。
「君がイリスさんか。噂に聞いていたよりも背が低いんだな」
試合のことを考えてたら、勝ち残った選手のひとりから話しかけられた。
ボクより背が高いのは当然だけど、耳の形からハーフリングみたい。
……同じ種族でも、元の身長が違うと体格差が大きいね。
「えっと、誰?」
「おっと、名乗るのが遅れたな。第一回戦で戦うシフトだ。よろしく」
「よろしくねー。でも、どうしてボクがわかったの?」
「『ライブラリ』のメンバーは有名だからね。
なにそれこわい。
……でも、ボクたちは有名だし、
「さて、第一試合で戦うわけだが……。お互い全力を尽くそう。勝ち残ったメンバーで、遠距離メインのふたりが早々に当たるというのもタイミングがよすぎるがな」
「そうだねー。お互いがんばろー」
「ああ、そうしよう。それでは」
抽選会が終わったことで、選手の皆も思い思いの行動に移ってた。
さっきのシフトさんみたいに対戦相手に話しかける人や、全体の様子を見る人、人数が減ってるってことはもう会場をあとにした人もいるのかな?
「おう、イリス。相手はどうだった?」
今度は鉄鬼がやってきた。
鉄鬼は第一シードだから今日の試合はないんだよね。
「うーん、普通?」
「……まあ、特徴がなかったってこったな。それよりも、頑張って勝ち上がって来いよ」
「出場したから頑張るけど、どうしてー?」
簡単に負けるつもりはないけど、なんでかなー?
「準決勝まで勝ち上がってくれば、俺との勝負だからな!」
そっか、準決勝までお互い勝ち上がると鉄鬼と勝負になるんだ。
「鉄鬼はもう勝ち上がる前提なんだー?」
「まあな。装備もスキルも強化したし、俺の守りを破ることなんて簡単にはできねーよ」
確かに、鉄鬼の守りを越える攻撃って簡単じゃないね。
「そっかー。でも、それならボクもきついんじゃないかなー?」
「お前なら隠し球のひとつやふたつ持ってるだろうよ。とにかく、対戦を楽しみにしてるぜ」
鉄鬼は、ボクの頭を軽く撫でてから去っていった。
また子供扱いしてー!
鉄鬼が去ったあとは、ボクに話しかけてくる人もいなかったので、舞台から下りた。
決勝トーナメントは夜から始まるから、遅れないようにしないとね!
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