345.マイスタークラス予選

 お昼ご飯を食べて戻ってきたら、予選の受付が始まっていた。


「えーっと、会場にはこのボタンを押せば移動できるんだよね」


 運営からのメールに付いていた参加ボタンを押せば、会場入りできるらしい。

 準備も万端だし、早速予選会場に移動しよう。

 ボタンを押して移動した先は、『武闘大会会場』と書かれた入口のあるエリアだったよ。

 あそこにある受付で、手続きを済ませればいいのかな?

 周りにいる参加者がかなり少ないけど、混雑緩和のための措置だと思っておこう。


「おや、イリスじゃねえか? こんなところでどうしたんだ?」


 後ろから声をかけられたので振り向いてみると、そこには鎧の壁があった。

 顔を上げて見ると、そこにいたのは鉄鬼だったみたい。


「ここは参加者受付だぞ。……まあ、ここに入れるってことは、イリスも参加するんだろうがよ」

「今回はボクも武闘大会にでるよー。鉄鬼はどうしてここにいるのー?」

「とくに用事があるってわけじゃないが、俺たちシード勢も入場できたからな。せっかくだし、受付の空気を味わいに来たってところだ」


 鉄鬼は相変わらずこういう雰囲気が好きなんだなぁ。

 なんだかすごく楽しそうに話しているよ。


「……ところで、曼珠沙華から聞いてるが、トワは本当に不参加なのか?」


 先ほどまでの様子とは一変して、多少トーンダウンした口調でトワの話を確認してきた。


「うん。トワは不参加だよー。今日の昼間と明日の夜、どっちもいないからって参加しなかったねー」

「やっぱり本当かよ。せっかく、今回こそ倒してやろうと思ってたのによ」


 ボクの回答を受けて、鉄鬼は本当に悔しそうにしている。

 鉄鬼からすると、昔から負け続けていた相手が、今回は不参加なんだよね。

 そう考えると、トワの勝ち逃げみたいな感じになっちゃうのかな?


「……まあ、気持ちを切り替えるか。イリスは予選からの参加なんだろ? 遠距離職でバトルロイヤルは大変だろうが、頑張れよ」

「うん。それじゃあ、よかったら応援してねー」

「おう。できれば決勝トーナメントでな」


 手を振ってくれている鉄鬼と分かれて、入口に向かって歩く。

 受付は二列になっていて、ほかの参加者たちが順番に手続きをしていっているみたい。

 ボクも列の最後尾にならんで順番を待つよ。


 二分くらいでボクの順番が回ってきたので、受付での参加申請を始めた。

 ここで決めなくちゃいけないのは、持ち込む装備についての選択みたいだね。

 防具は一セットしか持ってないから、このまま装備中のものを登録でいいや。

 武器のほうは、何種類か持っているからそれらを使用武器にしていく。

 矢は消耗品扱いのようで、持ち込み登録の対象外だって。

 消耗品だから、勝ち進んだあとでも、違う種類の矢を持ち込むこともできるし、足りなくなっても大丈夫だね。

 それから、今回は自分が参加する以外の予選を観戦できるようにしたらしい。

 前回大会はほかの試合の様子を確認できず、かなりの時間待ちぼうけだったってトワに聞いたから、その改善かな?


 そういった受付作業が完了したら、控え室に移動するかを聞かれたので『はい』を選択して移動したよ。

 さっきまでいた受付エリアに比べて、ここはかなり人が多くなってる。

 周りを見回してみるけど、武器の素振りをする人や、瞑想みたいに目を閉じている人、武器の手入れをしている人などさまざまだね。

 見た限りでは知り合いもいないみたいだし、ボクも集中して予選が始まるのを待っていよう。


《お待たせいたしました。マイスタークラス予選を開始いたします》


 二十分くらい待っていたら、予選の開始を告げるアナウンスが聞こえてきた。

 これから試合が始まるみたいだね。


《第一試合および第二試合の参加者を会場へと転移させます。そのほかの皆様はもうしばらくお待ちください。また、別室に移動することで試合の様子を確認することができます》


 次のアナウンスが聞こえると、控え室にいたプレイヤーの一部が転移して消えていった。

 どうやらボクの出番はまだみたい。

 誰が何番目の試合になるのかは教えてもらえなかったから、いきなり始めるみたいになるんだろうね。

 動揺してペースを乱さないように気をつけなくちゃ。

 ほかの試合を観戦できるらしいだけど、ボクはいいや。

 他人の様子を確認するより、集中してコンディションを整えるよ。

 だけど、大多数の参加者は考え方が違ったみたいで、試合の様子を確認できる部屋へと移動していった。

 やっぱり、ライバルになりそうなプレイヤーの情報は気になるのかな?

 ……ボクはそんなことよりも、集中して緊張をほぐすほうが先だけどね、



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



《第三試合および第四試合の参加者を会場へと転移させます。そのほかの皆様はもうしばらくお待ちください》


 さらに三十分ほど待ったかな?

 次の参加者を転移させるアナウンスが流れたとき、舞台の上に転移していた。

 転移後に表示されたメッセージによると、ボクは第三試合だったみたいだね。

 舞台の上には、ボクと同じように予選会場からやってきた参加者たちが配置されていた。

 ボクの居場所は……舞台の中央付近かぁ。

 正直、あまりいい場所とは言えないかな。

 トワいわく『遠距離武器最大の弱点は、攻撃が点であること。なので、全周囲から攻撃を受けそうな状況では対処が遅れる』って話だし、ボクもそう思ってる。

 そうなると、予選では場外負けはないから、後ろを気にしないで戦えるようにできれば舞台端まで行きたいんだけど……。

 試しに歩いて移動してみる。

 でも、ほかのプレイヤーのそばは通れないし、ある程度最初の位置から動いたら、それ以上進めなくもなった。

 やっぱり、最初から一番いい場所をとろうっていうのは無理みたいだね。


『さあ、マイスタークラス予選も三試合目!! 今回はどんな試合が繰り広げられるのか!?』


 実況の人もかなり盛り上がっているみたい。

 観客もすごい熱気だしね。


『さあ、試合開始のカウントダウン、スタート!!』


 10・9・8・7……


 あ、カウントダウンも始まっちゃった。

 こういうときは、どうすればいいのか。

 それもトワに説明してもらってるし、さっそく準備しなくちゃね。


 ……3・2・1・START!!


 最後のスタートが表示されると同時に、ほかのプレイヤーたちも一斉に動き出す。

 周りにいた人たちは、ボクを狙って一気に強襲をかけてきたね。

 ……ここまでトワの予想通りに動くと、なんだか恐いなぁ。

 ともかく、想定されていた状況そのままだから、予定通りに行動することにする。

 まずは自分の足下をめがけて……。


「ブレイズアロー!!」


 このスキルは、指定した場所を中心にノックバック効果のある爆風を発生させる。

 あと、これを使った瞬間、使用者も一定距離後退させられてしまう。

 さて、結果はどうなったかというと……。


「ガハッ!!」

「ちょ、マジか!?」

「くそ、さすがに甘くなかったか!」


 ボクをめがけて迫ってきていたプレイヤーはブレイズアローで吹き飛ばされる。

 このスキル、地味に攻撃力が高いから、結構大ダメージを受けてる人も多いねー。

 そして、ボク自身はというと、ブレイズアローのノックバック効果とスキル効果の後退を受けて、かなり後方へと移動していた。

 それこそ、舞台の端に届くくらいにね。

 このコンボは、βのときにトワも使ってたらしいから知ってる人がいてもおかしくなかったんだけど、移動しやすいように少し飛び跳ねてから使うとか少し技術がいるから、あまり知られていなかったのかな?


『おおっと!開幕いきなり!スキルによる爆風が巻き起こる!!いまのスキルは一体!?』

『【長弓】スキル系統のブレイズアローですね。矢を飛ばす動作が見受けられなかったので、おそらく自分の足下に放ったのではないかと』


 実況の人はともかく、解説の人はボクが使ったスキルもわかってるみたいだね。

 ともかく、狙い通りに移動できたし、ここから先は周りを囲まれないように注意して戦わなくちゃ!



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「このっ! ちょこまかと!!」

「その程度じゃ当たらないよ!アローレイン!!」

「な!? この距離でアローレインって!? ぐはっ!!」


 舞台の上に残っている人もかなり少なくなってきたけど、ボクを狙ってくる人はそれなりにいた。

 いまもひとり相手にして、上手く勝てたところだ。

 正直、対戦相手はトワに比べると攻撃も隙が多いし、守りも甘い。

 相手の攻撃を躱しつつ、懐に潜り込んでスキルを使う余裕すらあったからね。


 今回使ったスキルはアローレイン。

 本来は離れたところに対する範囲攻撃スキルだけど、トワに言わせると『至近距離で多段ヒットさせれば恐ろしくダメージがでる技』らしいよ。

 実際、いまの相手は、HPがほとんど減っていなかったところから0まで減ったし。

 理屈はわかるんだけど、それを実現するトワの運動神経ってなんなんだろうね?

 ボクにも分けてほしいよ。


『さて、第三試合もいよいよ大詰め!残る選手はあと四人!!決勝進出決定まであと残り二人だー!!』


 気がついたら、予選終了間際まで進んでいたみたい。

 残るはボクを除いて三人なんだけど……どうやら、遠距離職のボクを先に潰そうとしてるみたいだね。

 三人ともボクに向かって走り込んでくるよ。

 これは、最後まで温存していたスキルを使う場面だよね!!


「食らえ!」

「ゴメン、イリスちゃん! この場は負けてくれ!!」

「子供相手に気が咎めるが、これも勝負だ!」


 三者三様に突撃してくるけど、ボクの迎撃準備は万全なんだよ!


「まずは、テンペストアロー!!」


 ボクはに向けてテンペストアローを放つ。

 するとどうなるかというと……ボクを中心にスキル効果が発動して、ほかのプレイヤーも巻き込んだ。


「いだだだだだ!?」

「ここで、自分中心に範囲スキルとかマジか!?」

「この、ここまできて負けられるか!」


 巻き込んだ三人も含め、スキルの中心に吸い込みながら多段ダメージが発生する。

 テンペストアローが発生している間はボクも動けないんだけど、そもそもスキル効果に巻き込まれているから、動けないとか関係ない。

 そして、このスキルが終わったら、さらにスキルを重ねる。


「ショックアロー!! それから、バーンアロー!!」


 続けて使ったのは、当たった相手とその周囲の敵性対象をスタンさせるショックアローと、着弾地点の周囲に炎属性による継続ダメージ地帯を発生させるバーンアロー。

 テンペストアローによる行動不能は、ボクのほうが早く回復することをトワとの練習で発見したため、このコンボが使えるようになった。

 ショックアローもバーンアローも単体ではあまり強くないけど、組み合わせることでそれなりにダメージを与えられるからね。

 そして、ショックアローのスタンが解除される前に、次のスキルで一気に勝負をかける。


「ボムアロー、ブレイズアロー、スプレッドアロー!」


 着弾地点付近に大ダメージを与えるボムアローでダメージ量を稼ぎ、試合開始直後も使ったブレイズアローで相手の体力を奪いつつ距離を開ける、そして、スプレッドアローで範囲攻撃をすれば完成だ。

 スプレッドアローは扇状範囲攻撃ができるスキルだよ。

 だけど、アローレインみたいに多段ヒットさせることができないので、大人しく最後のスキルとして使うのが、トワに言わせると最良らしい。

 ほかの三人のHPをみてみるけど、ひとりはすでにHPが尽きて消えてた。

 残りのふたりはぎりぎり残ってるけど……どうしよう?


「でりゃ! もらった!!」

「あっ」


 ボクがどうしようか迷った間に、ふたりの間で決着が付いていた。

 先にダメージから立ち直ったほうが、もうひとりを攻撃して勝ち残ったみたい。


『試合終了です!! 勝ち残ったのはイリス選手、ハルシオン選手!!』


 ……無事に予選は勝ち残ることができたけど、締まらない終わり方だったかなー。

 トワなら迷わずにどっちかを倒してたんだろうけど、油断しちゃダメだよね。

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