325.ハロウィンパーティ 5

「これはこれは。かなり乱戦になってるな」


『百鬼夜行』の本隊とともに、現在主戦場となっている場所まで辿り着いたが、なかなかの乱戦具合だった。

 完全に後手にまわっての防衛戦だったし、押し込まれた状態だから仕方がないのかな。


「よし、まずはこの状態をなんとかしないとな」

「そうは言うけど。この状況だと、そんな簡単にはいかないんじゃないのか?」

「ある程度の苦戦は覚悟の上だ。装備品によるステータス補正も効いてない以上、俺らにできる事はとにかく各個撃破することくらいだからな」

「……まあ、それもそうか。それで、総指揮官殿、俺達はどうすればいい?」

「俺達の第二パーティおよび第三パーティと一緒に行動してくれ。ある程度、前線の統率が取れたら第二パーティ経由で指示を出させてもらう」

「了解。それじゃあ、始めるとしましょうか」


『百鬼夜行』の第二パーティと第三パーティは、既に準備が完了して近場のモンスターを掃討する体勢に入っている。

 俺達『ライブラリ』もそれと一緒に行動すればいいので、作戦としては楽な部類だろう。


「さて、トワ。お前達の準備は大丈夫か?」

「こっちも準備完了しているぞ、鉄鬼。早いところ行動を開始した方がいいんじゃないのか?」

「そっちの準備が終わってるなら、今すぐにでも動くさ。さあ、行くぞ!」


 鉄鬼の号令とともに『百鬼夜行』のパーティが動き出す。

 狙いを定めていたモンスターに対して、一気に攻撃を仕掛けて全滅させるあたりはさすがの戦闘力としか言いようがない。


「俺達ものんびりしてると置いて行かれるな」

「そうね。私達も行くわよ!」


 俺達も『百鬼夜行』の後を追いながら戦闘を開始する。

 主な戦闘内容は、『百鬼夜行』が倒しきれていないモンスターに止めを刺していくことだ。

 もっとも、そんなモンスターはほとんど存在していないので、俺やイリス、曼珠沙華といった長距離攻撃ができるメンバーが『百鬼夜行』のサポートをする程度でしかないのだが。


「よっしゃ、この辺はこれで大丈夫だろ。さて、次に……あ、了解。それじゃあ、このあたりに陣取るぜ」

「鉄鬼、仁王からの指示か?」

「ああ。俺達がいまいる場所が戦場の中心付近に近いらしい。ここに陣取って【神楽舞】でデバフをばらまいてくれ、だと」

「わかった。それじゃあ、そのようにさせてもらう。ただ……」

「わかってる。この場所じゃ全方位から攻撃される恐れがあるからな。そこらへんはカバーしてやるから、存分にやってくれ」

「了解。……ユキ、頼めるか」

「うん、わかった。デバフはなにを使えばいいですか?」

「ああ、ちょっと待ってくれ。……移動速度減少、物理攻撃力減少、物理防御力減少、魔法防御力減少。この四つがいいってよ」

「わかりました。すぐに始めても大丈夫ですか?」

「少し待ってくれ。……よし、俺達の布陣は完了だ。盛大にやってくれ」

「わかりました。それでは始めます」


 ユキによる【神楽舞】が始まると、戦場の空気が一気に変わった。

 乱戦状態で苦戦していたプレイヤーは敵の攻撃力が弱まったことで体勢を立て直したし、あと一歩詰め切れてないプレイヤーは敵の防御力減少により一気に倒しきっていた。

 そして最大の変化は、非戦闘中だったモンスター達が一部を除いてこちらに攻め込んできたことだった。


「ちっ、やっぱり敵視無視のモンスターも混ざってやがったか!」

「どうするんだ? おそらく、俺達じゃこっちに向かってきているモンスターの対処だけで手一杯だぞ?」

「わかってる、いま仁王に連絡した。あっちの方で遊撃部隊をいくつか編成したから、その部隊で対応するそうだ」

「そうか。なら、俺達は俺達の仕事をこなすとするか」

「おうよ。それなり以上の数が群がってきやがったな。さっさと倒しちまうぞ」


 鉄鬼の言葉通り、俺達の方に向かってきているモンスターの数は、決して少なくはない。

 いくらかは戦闘が終わった手近なパーティ達が引き受けてくれているようだが、それを差し引いてもかなりの数が詰め寄せてくるだろう。


「さて、ここから先は腕の見せ所だな」

「そうだねー。射程に入ったら、一気に叩いていこー」

「そういえば、二人はテンペスト系のスキルを持っているんだっけ。羨ましい」

「必要なら、曼珠沙華も取りに行くといいよー。ボク達、毎週土曜日に『妖精郷の封印鬼』を周回してるからねー」

「それなら、その時に便乗させてもらおうかしら。……ああ、でも、人数は大丈夫?」

「事前に白狼さんと相談しておけば大丈夫だろうよ。……さて、そろそろ攻撃開始だな」


 移動速度減少が効果を発揮しているため、敵の移動速度は遅くなっている。

 ただ、それなりに時間が経っているため、俺達の射程範囲に敵が入り込んでくるところだ。


「さて、開戦だ。テンペストショット!」

「テンペストアロー!」

「ええい、本当にうらやましい! ハイチャージバレット!」


 俺とイリスの攻撃に続くように、曼珠沙華も攻撃を仕掛けていく。

 他にも、俺達と同じ部隊に所属する事になったガンナー達が、それぞれの手段で敵を攻撃していく。

 モンスターのレベルがまちまちなせいで、一撃で倒せる敵と、複数発あたっても倒せない敵が分かれるが、撃ち漏らしについては近接部隊や魔法部隊が倒してくれると信じ、長距離攻撃ができるものは深追いをせずに新しい敵を攻撃していく。


「ああ、もう! 本当に数は多いわね、数は!」

「確かにな。敵の強さがまちまちだから、倒せる敵と倒せない敵を見分けるのが大変だ」

「同じ姿でも、レベルが違うみたいだしねー。敵のレベルを調べてから攻撃じゃ遅いから、余計大変に感じてるのかもねー」


 そう、見た目は同じなのにレベルが違うモンスターが大量に混じっているのだ。

 見た目と強さが一定なら、深追いをせずに倒せる相手と倒せない相手を区別できるのだが、見た目が同じでも強いモンスターと弱いモンスターが混じっているため、つい深追いしてしまう。

 深追いしすぎると、そこの弾幕が薄くなり、近接部隊や魔法部隊の負担が増してしまう。

 上位陣の手慣れたプレイヤー達はそのあたりの見極めもできているが、一般レベルのプレイヤーでは判断が難しいようだ。

 まだまだ余裕があるからなんとかなってるけど、あまり長い時間戦っているとどこかで決壊しそうではあるな。

 さて、どうしたものか……


「お待たせしました。トワさん、援軍にきました!」

「うん? ロックンロールか。後の連中は?」

「俺のクランのメンバーです。仁王さんから、こちらの増援をするように指示を受けてきました」

「わかった。それならすぐに攻撃を始めてくれ。押し込まれそうになっているところを補助してもらいたいけど、それはできるか?」

「任せてください。遠距離戦なら俺達の得意分野です!」

「じゃあ、そっちは任せた。俺達も加勢できるようになったら遊撃にまわるけど、この状況だからな。期待していないでくれ」

「はい。さあ、お前ら、しっかり前線を支えるぞ!」

「「「おう!」」」


 ロックンロールを始めとしたガンナー部隊が増員されたことで、長距離攻撃にも余裕がでてくる。

 そうなると、多少強めの相手に攻撃を集中させて体力を削ることも可能で……全体的に余力が生まれてきた。


「へー。あの人達、結構強いじゃない」

「どうもそのようだな。俺としてはあまり接点がないのだけど、ガンナーとしての腕前はこういう場面でも十分通じるだけの戦力を保持しているようだな」

「頼もしいわね。私も負けないように頑張らないと!」

「……曼珠沙華も生産職だろう? 本職の戦闘職に勝てるとは思えないんだが?」

「そこはそれ、これはこれよ。せっかくのお祭り騒ぎなんだし、乗らなきゃ損じゃない!」

「……ほんとお祭り好きだな。ともかく、戦闘を続けるぞ」

「おっけー。さあさあ、どんどんかかってきなさい!」


 やる気をみなぎらせた曼珠沙華は、俺とは別方向のモンスター達を攻撃するために場所を移動していった。

 そういう行動をとっても前線が崩れない程度には余裕が生まれてるから、曼珠沙華の好きにさせておこう。

 本当にまずかったら、きちんと動くだろうし。


 そのまま、前線を維持しながら戦闘を続けることしばらく。

 とどまることを知らないモンスターの波状攻撃を受け続け大分疲弊してきた頃、待ちに待ったアナウンスが流れた。


《防衛戦終了時間です。一定時間の防衛に成功したためプレイヤー側の勝利となります》


 そのアナウンスが流れるとともに住人の騎士部隊が戦場になだれ込んできて、モンスター達を倒していく。

 ……俺達はそれなりに苦労したというのに、住人の方が強いというのも空しいものがある気がする。


《戦闘貢献度に応じて経験値などを配布します。集計が終わるまでしばらくお待ちください》


 戦闘中は一切レベルが上がらないと思ったが、報酬枠として別にもらえるようだ。

 分配の方もシステム任せだから、問題は起こりにくいだろう。

 さて、俺はどの程度の報酬がもらえるやら。


《集計が完了いたしました。各プレイヤーに経験値などの報酬が配布されます》


 集計は思ったよりも早く完了したようだ。

 そしてもらった経験値だが、種族レベルがアップするのに十分な経験値がもらえたようだ。

 職業レベルもそれなりに上がったし、そこそこ貢献度が高かったという事だろう。


「お疲れ様、トワくん。報酬はどうだったの?」

「ああ、お疲れ様、ユキ。しばらく上がらなかった種族レベルが上がったし、それなりだな。ユキの方は?」

「私も似たような感じかな? 種族レベルと戦闘職の職業レベルが上がったよ」

「それはよかった。……さて、これからどうしたものかな」


《これより、ハロウィンパーティの続きが再開されます。パーティ会場として二階テラスも開放されます。是非、ご堪能ください》


 どうやら、パーティ会場が拡張されたようだ。

 これでまた盛り上がれればいいのだが。

 先程まで激しい戦闘を繰り広げていたプレイヤー達も、思い思いに引き上げていっていた。


「トワくん、私達も戻ろう」

「そうだな。鉄鬼、俺達は戻るけど構わないよな?」

「おうよ。俺達も撤収するから問題ないぞ」

「それじゃあ、またな。お疲れさん」

「おうお疲れ。またな」


 俺達は『ライブラリ』のメンバーと合流してパーティ会場へと戻った。

 その後は、また各自が分散してパーティの続きを楽しむことに。

 しばらくして、またアナウンスが流れて花火の打ち上げを行うということになったため、テラスへと移動。

 ゲーム内で見る花火というのもなかなか悪くなかった。


 花火の終了と同時にハロウィンパーティの終了が告げられたため、解散してログアウトすることとなった。

 曼珠沙華は明日のパーティも気合を入れて参加するらしいが、はてさて、明日はどうなることやら。

 わかっている事は、どう転んでも曼珠沙華によってメンバー全員がパーティに参加することになることぐらいだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る