283.『精霊魔術』と『原初魔術』

「そもそも論として、『精霊魔術』と『原初魔術』、この2つの大元はなんなのか。そこから探り始めたんだ」

「研究都市には『原初魔術』の資料はあっても、他の資料があまりないからな。学術都市こっちに移ったんだ」


 全員が席に着くと、ガレウスとリバウトはそう話を切り出した。


「それで、この都市にある情報を元に『精霊魔術』と『原初魔術』を解析していった結果、一つの結論に到達したんだ」

「『精霊魔術』も『原初魔術』も大元は同じ力の源につながっていて、そこから力を引き出しているんだって事がな」


 同じ力の源か。

 セイメイ殿の言っていたこともこういうことだったのかな。


「それで『精霊魔術』と『原初魔術』、この両方を同時に覚えられない理由も判明した」

「どっちの魔術もこの力の源から無理矢理に力を引き出していたんだよ。そんな状態じゃ2つの力を同時に得ることなんてできやしないさな」

「ふむ、つまり、現状の方法では両方の魔術を同時に覚えるのは不可能って訳か」

「そうだな。現状の方法を使う限り両方の魔術を覚えるには負担がでかすぎる。とてもじゃないが覚えられるはずもないな」

「それじゃあ、両方を覚える事はできないって訳ね……」

「ああ、そう悲観しないで。この都市で研究していたことが役に立つから」

「えっと、役に立つってどういう意味ですか?」

「根本的な問題は、その力の源に無理矢理アクセスしているのが問題だったんだ。それなら、無理矢理アクセスしなくても『精霊魔術』や『原初魔術』を使えるようにしてしまえば、両方の魔術を同時に扱えるんじゃないかって仮定ができた」

「まあ、『無理矢理』って言うのが問題なら『自然に』その力を使えるようにすればいい。ただそれだけなんだけどな」

「そう言う訳で、今、僕らはその力を自然に扱えるようにするためにはどうしたらいいか、その研究をしている訳なんだ」

「まあ、研究とは言っても既にほとんど終わってるんだがな」


 既に終わってるって、話がトントン拍子に進みすぎじゃないかな。

 そんな簡単に話が進むなら苦労しないと思うのだけど。


「それで、ほとんど終わってる研究って言うのは教えてもらえるのか?」

「構わないよ。……と言いたいところなんだけど、一つ問題が、ね」

「この研究は最後の詰めがまだできてないんだよ。仮定と推論はできてるが、その推論通りに上手く行くって言う確証がほしい」

「そう言う訳だから、その確証を得るために君達に手伝ってもらいたいことがあるんだ。頼めるかな?」

「さすがにここまで来て断るというのもね」

「そうですね。私達に出来る事でしたらお手伝いします」

「ただ、難しい理屈を調べるとかは多分無理だぞ。そこまで魔術に詳しいわけじゃないからな」

「ああ、そこは心配しなくてもいいよ。手伝ってもらいたいことは、実際にその力の源から自然と力が使えるようにするための実証をしてもらえればいいだけだから」

「ああ、そういうことだ。やってもらうことは『精霊魔術』や『原初魔術』を覚えたときと同じような事をまたやってもらうだけだ。……まあ、まだ問題があるんだが」

「問題? 何かあったのか?」

「何かあったと言うか、研究を進める上で足りない素材が出てきてね。申し訳ないけど、できればそれを手に入れてきてほしいんだ」

「……わかったわ。それで、何を持ってくればいいの?」

「話が早くて助かる。持ってきてもらいたいものは『プロトタイプゴーレムの魔導コア』だ」

「『プロトタイプゴーレムの魔導コア』ですか? それってどこで手に入るんでしょう?」

「研究都市と【マナファウンテン】の間に巨大ゴーレムが放置されているのは知っているな?」

「プロトタイプゴーレムαだったか? ひょっとして、あいつからそのコアをもってこいって事か?」

「ご明察。プロトタイプゴーレムαは、何回破壊されても復活する特殊機構を組み込んだゴーレムの試作品だったらしいんだけどね」

「今回、俺達がしている研究ではそいつのコアが一番適しているみたいでな。研究を進めていく上でいくつかは入手して、研究を進めていたんだが……」

「残念ながら、最後まで研究を進める事ができるほど数を集められなくてね。それで、不足分を集めてきてもらいたいんだ」

「まあ、事情は把握した。それで、一体いくつ集めてくればいいんだ?」

「そうだね……。3人だから7個あれば足りるかな。済まないけど、よろしく頼むよ」



 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットチェインクエスト『魔力の源泉Ⅰ』


 クエスト目標:

  『プロトタイプゴーレムα』から『プロトタイプゴーレムの魔導コア』を入手する 0/7

  (このクエストはパーティでの進行となる)

 クエスト報酬:

  次段階へのクエスト進行


 ―――――――――――――――――――――――



 シークレットクエストがここで発生か。

 なんというか、ようやく目的のものに近づいてきたって感じだな。

 しかし、『ワールド』クエストじゃないって事は、他のプレイヤーが同じクエストを受けようとしたら、同じ手順でクエストを発生させなくちゃいけないんじゃないか?


 ともかく次の目標は定まった訳だし、早速ボス周回といこうか。


「状況は理解した。ともかくコアを7つ集めてくればいいんだな?」

「ああ、7つあれば十分に足りる。済まないがよろしく頼むよ」

「さすがにただの研究者でしかない俺達には荷が重くてな。済まないが頼んだ」


 話も終わったので俺達3人は席を立ち、プロトタイプゴーレムαを討伐するために研究都市へと転移する。

 そして、【マナファウンテン】方面へと向かい、プロトタイプゴーレムαの生息地へと辿り着いた。


「さて、プロトタイプゴーレムαだが、どうやって倒していくかだな」

「倒し方の指定はなかったし、普通に倒しても大丈夫なんじゃない?」

「ここの運営だ。戦い方によってドロップ率に補正をかけている可能性は否定できないぞ?」

「うーん、そうかもしれないけど。とりあえずは私達にできる戦い方で倒すしかないんじゃないかな、トワくん」

「まあ、そうするしかないだろうな。俺達ではどちらにしても魔法頼みの戦い方しかできない訳だし」

「そうそう。私達じゃ物理攻撃で倒す方法はないわけだから、悩むだけ無駄よ。早いところ始めましょう」

「わかった。それじゃあ、始めるとしよう」


 柚月が戦闘開始のための石碑に触れ、プロトタイプゴーレムαを呼び出す。

 さて、それじゃさくっと倒してしまうとするか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「……全然出ないな」

「……出ないわね」

「……出ないね。どうしようか」


 とりあえず1時間ほどゴーレムと連戦を繰り返したが、入手出来たのは3人で3つだけであった。

 ドロップしたのもユキが2つに俺が1つという内容だ。

 大体5分で1体倒せているので10体は倒しているはずだ。

 10体倒しても3つとなると、残り4つを手に入れるのもそんな簡単にはいかないだろう。


「……さて、どうするよ」

「……今日のところは諦めて帰りましょうか」

「そうですね。一度帰りましょう」

「帰ったらついでだから教授に報告するわよ。シークレットクエストが発見できただけでも十分に情報の価値はあるでしょうからね」

「だな。もっとも、今まで誰もこのクエストを発生させてないとは思えないのだけど」

「そこまではわからないわよ。まずは教授に報告よ」

「わかりました。それじゃあ、戻りましょう」


 一旦、プロトタイプゴーレムα狩りを切り上げて教授の下に報告に行く事に。


 幸い、教授も時間があったようですぐに会うことができた。

 そこで、今の時点で判明している内容について説明することになった。


「……ふむ、『精霊魔術』と『原初魔術』の研究者が集まって新たな研究をしているのであるか」

「簡単に言ってしまえばそうなるな。具体的にどんな内容を研究しているのかはよくわからないけど」

「まあ、難しいところはお茶を濁されそうであるからなぁ。それにしても、そのような方法でシークレットクエストが発生するとは聞いたことがないのであるな」

「そうなのか。調べてる人間が今までにもいたと思うけど」

「私が知っている限りではこのクエストを発見したプレイヤーはいないのである。おそらくは、『精霊魔術』や『原初魔術』を覚えるためにそれぞれのクエストを受けたプレイヤーはもう一つのクエストを受けようとは思っていないのであろうな。あるいは、クエストを発見できたとしてもその情報を隠しているかである」

「……まあ、両方のクエストを受けようなんてしないだろうな」

「そう言うことである。それで、見逃されてきたのであろうな」

「で、それを俺達が掘り起こしたと」

「そういうことであるな。……さて、それでは私もそのクエストを受けるために『精霊魔術』と『原初魔術』をアンロックしに行くのである」

「そうか、頑張ってくれ」

「うむ。それから、既にどちらかのスキルを覚えているものが、このクエストを発生させることができるのかも調べねばいけないのである。あとは、ショートカットして直接学術都市に行った時にクエストが起こるかであるな」

「……検証内容は任せるわ。それじゃあ、私達はこれで行くわね」

「ああ、少し待つのである。そのクエストで必要なアイテムは『プロトタイプゴーレムの魔導コア』で間違いないのであるな?」

「ああ、間違いないけど、何かあったのか?」

「『プロトタイプゴーレムの魔導コア』であれば市場で安く買えるのであるよ。普通にプロトタイプゴーレムαを倒しても時々ドロップするアイテムである。ただ、今まで使い道が見つからなかったためハズレレア扱いされてきたものであるな」

「そういうことはもっと早く教えてほしいわね」

「まあ、これでクエストも進展するであろう。それでは頼むのである」


 教授との話が終わった後、市場を調べてみると、確かに『プロトタイプゴーレムの魔導コア』がかなり安い値段で売っていた。

 試しに1個買ってみたが、クエストのカウンターも増えたため、市場で揃えてしまうことにした。

 元より手に入れていた3つに加えて4個購入して、クエストに必要な数を揃えた俺達は学術都市へと戻った。


「やあ、早かったね」

「さすがとしか言いようがないな。……うむ、コアの品質も問題ない。これで、次の過程に進む事ができる」

「次の過程、とやらでは何をすればいいんだ?」

「そう慌てないで。このコアを使って次の段階の修練を行うための魔道具を作るから待っていてほしい」

「そうだな。おそらく明日までには完成しているはずだ。手数をかけるが明日以降に受け取りに来てくれ」

「……まあ、そういうことなら仕方がないか。それじゃあ、また今度な」

「ああ、次に会うときまでにはしっかり道具は用意しておくよ」


 こうして、今日の冒険は解散となった。

 少しばかり遅い時間までプレイしてしまったが、まあ、この程度なら問題ないだろう。

 明日には魔道具とやらを受け取りにこないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る