274.マナリーフ王国

 翌日、学校から帰ってきた後、いつも通りに夕食やお風呂などを済ませた後、ゲームにログインする。

 ログイン予定時刻は大体でしか決まってないため、ログインした後に改めて集合する手はずとなっていた。


「……さて、ログインした訳だが、柚月もユキもログイン状態になってないな」


 ログイン予想時間は昼間のうちにメールで連絡していたが、その時間よりも早い時間帯にログインできてしまった。

 ……改めてメールを送って集合時間を変えるほど早い訳じゃないし、適当に時間を潰すか。


 竜車発着所を抜けるとそこはマナリーフ王国との国境付近である。

 国境付近には転移ポータルが設置されているので、それを登録して転移可能にしておく。

 その上で一度クランホームに戻り、生産活動……と言うよりも各種ポーション用の素材を買い集めておくとしよう。

 ハイポーションや蘇生薬は一応市場でも買えるようになってきたが、カラーポーションやメガポーションの素材は今のところ住人NPCから買う事しかできない。

 しかも、一定期間ごとに買い取りできる数量に制限があるのだから、なるべく毎日購入して、作らないまでにしても素材のストックは増やしておきたい。

 という訳で、フォレスタニアとワグアーツ師匠のところに行って素材を買い取っておいた。

 だが、ワグアーツ師匠のところを出る前にワグアーツ師匠から話しかけられた。


「時に、トワよ。最近忙しそうだが何かあったのか?」

「忙しいと言えば忙しいですね。魔法スキルを覚えるために、先日まではフォレスタニアに、今日からはマナリーフ王国に行く事になってますから」

「ふむ、フォレスタニアとマナリーフ王国か。その2つに行くときに調合ギルドから紹介状はもらっているか?」

「ええ、しっかりもらっていますよ。フォレスタニアではメガポーションのレシピを入手出来ました」

「そうか、それならばいい。錬金薬士としては新しい薬のレシピは大切だからな」

「ええ、まあ、まだ試作段階で褒められた出来にはなってないですけどね」

「何事も最初はそういうものだ。むしろ上位生産物をいきなり高品質で作れる方がおかしい」

「なるほど、確かにそうかもしれませんね」

「まあ、作り方で行き詰まったら聞きに来るといい。ヒントは教えてやろう」

「ヒントだけですか。厳しいですね」

「錬金薬士として、既に一人前の腕前になっているのだ。一から十まで教えるのもおかしいだろう?」

「……まあ、それもそうですね。とりあえず、しばらくは忙しいと思うので落ち着いたら聞きに来ますよ」

「わかった。……ところで、覚えに行っている魔法スキルとはなんだ?」

「『精霊魔術』と『原初魔術』ですよ。とりあえず『精霊魔術』は覚えられるようになりましたが、『原初魔術』はまだこれからですね」

「ふむ、そうか。……それらはどちらかしか覚えられないと記憶していたが、両方を使えるようにするのか?」

「まあ、両方を覚える方法がないか、と言うのが受けている依頼の内容ですから。ワグアーツ師匠も何か知ってませんか?」

「生憎、それらの魔法については詳しくは知らないな。知っていることと言えば、先程話したように同時に覚える事が出来ないという事ぐらいだ」

「そうですか……。わかりました、それじゃあ、また薬草を仕入れに来ますね」

「うむ、気をつけてな」


 ワグアーツ師匠のところから薬草を仕入れて戻ってきたところで、ユキからメールが届く。

 どうやらユキもログインしてきたみたいだ。

 さほど時間をおかずに、柚月からもメールが届いたので、柚月もログインしているのだろう。

 マナリーフ王国との国境にある転移ポータルで待ち合わせと言う事になったので、買って来た薬草を倉庫にしまったらすぐに待ち合わせ場所に向かう。


 待ち合わせ場所である転移ポータルでは、ユキと柚月が既に到着して待っていた。


「こんばんは、トワくん。遅くなってごめんね」

「こんばんは、ユキ。薬草の仕入れで出歩いていたから大丈夫だぞ」

「そう、それならよかった」

「お疲れ、トワ。早速だけど国境を通過するわよ」

「了解。柚月もポータルは登録してあるんだよな?」

「今日の日中に登録を済ませてあるわ。ユキもさっき登録したみたいだし、問題はないわね」

「はい、問題ありません」

「なら、早速国境を越えるわよ。教授からのメールだと、生産系ギルドでもらえる上位の身分証があれば割とすんなり通れるらしいからね」

「わかった。それじゃあ、国境を通過するか」


 マナリーフ王国との検問所は山中に作られた砦であった。

 そこから、国境を主張するように壁が続いている。

 幸い、国境を通過しようとする人間は少なく、大して待たずに入国審査を受ける事ができた。


「……ふむ、主な目的は我が国の生産ギルドへの挨拶と『原初魔術』についての調査ですか」

「ええ、そうなるわね。何か問題でも?」

「いえ、身分証はしっかりしたものですし、入国については何の問題もありません。ただ……」

「ただ、何かあったのか?」

「何かあったと言う訳ではありませんが、『原初魔術』を求めて入国する異邦人がかなり増えてきたなと思いまして。大多数は特に問題を引き起こさない温厚な人物ですが、中には暴れる輩もいましてね。『原初魔術』を教わるには少々ハードルが上がってまして」

「……元々、それなりにハードルは高かったんじゃないか?」

「ええ、まあ。我が国で開発された技術ですからね、そう簡単には教えてませんよ。ただ、最近は不心得者が多くなってきたので、審査がより厳しくなっていると言うところです」

「そうなのね。何かいい方法はないかしら?」

「皆さんのギルドランクなら、一度首都まで赴き、各ギルドマスターから推薦状を書いてもらうのがいいでしょう。そうすれば審査も通りやすくなると思います」

「やっぱりここでもギルドマスターにお願いすることになるのね。わかったわ、そうします」

「それがよろしいでしょう。お互いに余計な手間が省けていいというものです。……さて、入国審査はこれで終了ですね。ようこそ、マナリーフ王国へ」

「ああ、それではこれで失礼させてもらうよ」

「ええ、それではいい旅を。……そうそう、首都まで直接行くなら竜車での旅をお薦めしますよ。普通に馬で移動するとなると数日かかってしまいますからね」

「竜車ね。了解したわ。それじゃあ、色々とありがとう」

「ありがとうございました」

「いえ、よい旅を」


 検問所を抜けた先はマナリーフ王国だが、目に映る景色はさほど差がなかった。

 山中に作られてるだけあって、国境を越えたくらいじゃ目新しい変化はないようだな。

 さて、まずは転移ポータルを開通させて、次に竜車発着場に行くが……ここで問題が発生した。


「マナリーフ王国の首都まで移動する竜車の移動時間が1日がかりですって?」

「ええ、もっと速度の出る竜車もあったのですが、それらは全て使われておりまして」

「そう、そう言うことなら仕方がないわね。……トワ、どうする?」

「どうするもこうするもないな。今日は移動日と思って諦めるしかないだろう。ちなみに、その速度が出る竜車って言うのが戻ってきたとして、どれくらい移動に時間がかかるんだ?」

「そうですね……大体4時間くらいかと」

「……まあ、そう言う訳だから、今日を移動日としてしまうのはしょうがないという訳だ」

「……仕方がないわね。でも、今から竜車に乗るんじゃかなり時間が余るわよ?」

「そこは一度クランに戻って色々とやることを済ませておこう。この調子じゃ明日も移動に大量の時間を割かれそうだからな」

「確かに、それが一番といったところかしら。それじゃあ、一度クランホームに戻りましょう」

「わかりました。行きましょうか」


 思わぬところで足止めを食らうことになったが、俺達は一度クランホームに戻ることになった。

 クランホームに戻ってみると、イリスやドワン、おっさんが談話室で休憩をしていた。


「あら、皆。どうかしたの?」

「別にどうもしないよー。たまたま帰ってきたタイミングが一緒だっただけだよ」

「そう言うことじゃの。いやはや、ドワーフの国の金属加工技術は一枚も二枚も上手じゃわい」

「確かにそうだねぇ。おじさんもあの技術を学ぶのにしばらくかかりそうだよ」

「そっか。それで、イリスはブリーズウッドに戻ったあとはどうしてるんだ?」

「弓の訓練所に入門して流派スキルを覚えられるように練習中だよー。ただ、その流派って言うのが魔法スキルと組み合わせて使うスキルだから、今は魔法スキルの練習を優先してる感じかなー」

「木工の方では何かいい技術はなかったのか?」

「そっちもあったけど、まずは戦闘スキルが優先って感じかなー。戦闘スキルの方が優先度高そうな感じだったから」

「そっか、まあ頑張ってくれ」

「うん、頑張るよー。それで、トワ達は何で戻ってきたのー?」

「今日も一日竜車での移動で潰れそうだからな。竜車に乗り込む前に生産作業なんかを終わらせておこうと思って」

「なるほどのう。魔法王国は移動に時間がかかるパターンか」

「魔法王国だけじゃなくて、帝国も行こうとするとかなり時間がかかるらしいけどな。まあ、あっちは戦闘系コンテンツの宝庫だし、俺達が行く機会もほとんどないだろ」

「そうじゃの。……さて、それではわしはそろそろ修練に戻るぞい」

「おじさんもそうしようかなぁ。またね、皆」

「僕も戦闘訓練に行ってくるー。またね皆ー」

「……さて、俺達もそれぞれの生産に入るとするか」

「それもそうね。リアル時間の23時頃にまた集まって、全員で一緒に移動しましょうか」

「わかりました。それじゃあ、私は材料を買ってきますので、また後で会いましょう」

「私はこのまま工房かしら。トワは?」

「俺も素材は買い集めてあるから工房だな。それじゃあ、また後で」

「ええ、また後で」


 自分の工房に戻ってくると、オッドが忙しそうに生産をしていた。


「オッド、今日も修練ご苦労様」

「おや、ご主人様、お帰りですかニャ?」

「いや、ある程度生産したらまた出かけるんだが」

「わかりましたですニャ。それから、ご主人様に頼まれていたミドルポーションは倉庫に移しておきましたニャ」

「そうか、助かるよオッド」

「いえいえ、ボクもようやくご主人様の役に立てるようになってきたのですにゃ。これからも頑張っていきますニャ」


 そう、夏休みイベント期間中にオッドが進化可能な状態になっていたのだ。

 しばらくそっちの様子を確認出来なかったから、いつ進化できるようになっていたかはわからないが、進化できることがわかった時点で進化させておいた。

 進化の結果、熟練クラスに成長したオッドは今までに比べて遥かに良質な生産品を作れるようになっていた。

 実際、ミドルポーションなら★8品を問題なく作れるようになっているので、今みたいに用事があって出歩くことが多い場合はオッドに頼んでミドルポーションを補充してもらっている。

 最初の頃は本当に微妙だったのだが、熟練まで育てるとそれなり以上に活躍できるようで何よりだ。


「さて、それじゃあ、オッドに任せられないレベルのポーションを作ってしまうとしますか」

「わかりましたですニャ。横で作業を見学させてもらっても構わないですかニャ?」

「ああ、構わないぞ。それじゃあ、始めるか」


 そこからは時間が許す限りハイポーションやカラーポーション、それにまだ練習段階のメガポーション作りを繰り返した。

 実際の作業時間は2時間程度だと思うが、なかなか充実した時間だった。

 ……やっぱり、今の俺には生産活動をしている方が性に合うんだよなぁ。


 ポーション作りをしている間に約束の時間になったとユキから告げられたため、キリのいいところで作業を止めて柚月と合流する。

 その後は、マナリーフ王国側の国境付近に移動して竜車発着場に移動、そこでマナリーフ王国の首都【マナファウンテン】行きの竜車へと乗り込んだ。

 あとは、明日になれば【マナファウンテン】まで到着しているはずだ。

 一通り空の景色を楽しんだ後は、それぞれログアウトして自動移動に頼ることになる。

 明日からはマナリーフ王国の探索だが、何も起こらなければいいんだけどな。

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