273.教授への報告と次なる目的地

「そう言えばお兄ちゃん、『精霊魔術』の取得はどうなったの?」


 夕食が終わったあと、時間に余裕があったのでリビングでくつろいでいると、遥華が尋ねてきた。


「んー、教授から頼まれた依頼だからな。あまり詳しいことを教えるのも問題があるだろうから伏せさせてもらうが、とりあえず取得条件を満たしてスキルがアンロック状態にはなったぞ」

「おお、もうアンロック状態まで持って行けたんだ。って言うことは、スキルの解放条件を満たすのは簡単なのかな?」

「そこまでは教えられないな。掲示板とかを漁ればそう言った情報も出てくるんじゃないのか?」

「それが『精霊魔術』と『原初魔術』についてはさっぱりなんだよね。皆、意図的に情報を隠してるみたいで、導入部の情報しか見つからないんだよ。もっとも、外部サイトまで調べてる訳じゃないんだけど」


 ここでいう外部サイトというのは、運営が管理しているサイト以外の個人運営のサイトとなる。

 場合によっては、公式サイトの掲示板より有益な情報を手に入れられるが、誹謗中傷だのゲームとは関係ない話などといった問題もあり、特に低年齢のプレイヤーには閲覧は非推奨となっている。

 もっとも、今の時代、ユーザーの年齢にあわせたサイトブロッキングは普通に導入されているので、そう言った意味ではあまり心配いらないのかもしれないが。


「ともかく、これで『精霊魔術』の調べは終了なんだよね。それじゃあ、フォレスタニアに遊びにいってみようかな」

「教授が俺達の報告を聞いて情報を売り出すかどうかは別問題だけどな。フォレスタニア観光だと思ってのんびりしてくるといい」

「はーい。経験値上昇イベントもあるから、そっちとの兼ね合いも見て行って見ることにするよ」


 妹様との会話を終えた俺は、お風呂に入ったりして寝る支度を調えてから自室に戻る。

 誰かからメッセージが届いていないか、念のためチェックはしてみたが特に誰からもメッセージは届いていなかった。


 さて、それじゃあ教授との打ち合わせにログインするとしよう。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 『ライブラリ』のクランホームにログインして談話室に行くと、そこには既に教授が待ち構えていた。

 相変わらず、自分の興味がある事には行動が俊敏だ。


「トワ君、『精霊魔術』側の調査が終わったそうであるな」

「ああ、一応は。とりあえず、スキル取得が可能な状況にはなったぞ」

「ふむ、ではまず、その経緯から聞かせてほしいのである」

「その前に皆揃ってからの方がいいだろ? 同じ話を二度聞くことになるぞ」

「……それもそうであるな。詳しい話は揃ってからにするのである」

「そうそう、それがいい」


 しばらく今回の件とは関係ない内容で教授と話していると、ユキと柚月も合流した。

 これでようやく説明を開始できるな。


「ごめんなさい。遅くなりましたか?」

「いや、まだ約束の時間前であるよ。私が早く来すぎただけであるので、気にする必要はないのである」

「そうでしたか。それならよかったです」

「それにしてもトワが先に来ているっていうのも珍しいわね。何かあったの?」

「何もなかったから早いんだろう。部屋でゴロゴロしてても仕方がないからログインしただけだ」

「なるほどね。それで、説明ってどこまでしてあるの?」

「説明についてはまったく手をつけてない。先に説明してしまうと、あとから同じ場所を説明する必要が出てくるからな」

「……それもそうね。全員揃ってからやった方が早いか」

「そう言う訳だ。説明を始めるから席についてくれ」

「うん、わかった」

「わかったわ。それじゃ、始めましょうか」


 全員揃ったところで、俺達は【精霊魔術】をアンロックするまでの経緯を説明した。

 メインは柚月が話して、俺とユキはそのサポートにまわる形を取った。


 説明内容は、まず、フォレスタニアの首都で各ギルドマスターから紹介状をもらったこと。

 次に、【ノーザンブレス】にある『精霊魔術研究所』に入るには紹介状が必要だったこと。

『精霊魔術』を取得するためには精霊との契約が必須だったこと。

 研究所で試された魔力テストは精霊との好感度に関係があるらしいこと。

 最後に、【精霊魔術】スキルをアンロックするための3つの課題について話して終了だ。


「ふむ、やはりトワ君達も同じ道程を通ったようであるなあ」


 俺達の報告を聞いた教授はそんな事をつぶやいた。


「同じ道程って事は教授達も同じ事をやったってことか」

「うむ。我々は直接『精霊魔術研究所』に行って門前払いを食らった訳であるが、その後はまったくと言っていいほど同じ手順だったのである」

「つまり、ギルドマスターから紹介状をもらって、テストを受けて、課題をこなした、と」

「そうであるよ。ここまでの手順が一緒という事は、【精霊魔術】をアンロックする方法は確定であるな」

「そこの判断は教授に任せるよ。それよりも大きな問題が残っているだろう?」

「ふむ、『原初魔術』の問題であるな。今の現状、『原初魔術』を求めるプレイヤーの方が多い訳であるが」

「そうなのか? てっきり『精霊魔術』だと思ってたぞ」

「そもそも精霊と契約出来ているプレイヤーのほうが少数なのであるよ。【妖精郷の封印鬼】はそう簡単にクリアできるレイドではないのであるからな。クランや固定メンバーであれば周回も可能であるが、野良パーティーで挑んでも惨敗する事が多いのである」


 なるほどね、それで毎週土曜日夜はあんなに人がいるのにクリア者は少ないのか。

 難易度的には慣れてくれば大丈夫と言ったレベルだけど、野良パーティで連携するのは難しいだろうからな。

 もうしばらくは野良パーティでの攻略は難しそうだ。


「ふむ、そうなると『原初魔術』の方に何かキーイベントでもあるのであろうかな……訳がわからないのである」

「うーん、そう言われてもな。……そう言えば、『精霊魔術研究所』で『原初魔術』のことを聞いてたら、研究員がかなり興味を持っていたけど、これって教授達でも起きたイベントか?」

「ふむ? 『精霊魔術研究所』の研究員がであるか? そう言った反応はなかったのである」

「『原初魔術』について色々と聞いてたら興味を持ったみたいで、向こうでも調べてみるって言ってたぞ。研究員の名前は……ガレウスだったかな」

「そのイベントは経験していないのであるな。その頃はまだ両方を覚えようなどとは考えてもいなかったのである」

「それなら教授も戻って話してみればイベント進行するかもよ?」

「であるな。……ただ、そうなると、このイベントの話がいままで話題になっていないのが不思議と言えば不思議であるが……」

「そこまでは俺達にもわからないな」

「そうね。大方情報の独占を狙って動いているとかそんな感じじゃないかしら?」

「……確かにその可能性が大きいのであるなぁ。ともかく、『精霊魔術研究所』にもう一度行ってみるのであるよ」

「そうか、気をつけてな」

「うむ。それから【精霊魔術】は覚えないように注意するのであるよ」

「わかってるって。そう言えば、【精霊魔術】とかのコストってどれくらいなんだ?」

「【精霊魔術】も【原初魔術】も消費SPは40である。それから、どちらかを覚えようとすると警告が出るのであるよ」


 なるほど、知らないうちにもう片方を覚えられなくならないようにするための最終確認があるわけだ。

 試しに【精霊魔術】の取得しようとしてみると、確かにメッセージが表示されて【原初魔術】を覚えられなくなることが記載されていた。


「……確かに、警告が表示されるな。まあ、SP40を支払って覚えるつもりもないから大丈夫だよ」

「うむ。……それで、トワ君達には次に『原初魔術』のアンロックを頼みたいのである」

「わかってるわよ。それで、どこに行けばいいのかしら?」

「『原初魔術』が覚えられるのは、魔法王国と呼ばれるマナリーフ王国にある研究都市である。大まかな流れについては、後ほどメールで送らせてもらうのである」

「わかったわ。それで、すぐにでも出発した方がいいのかしら?」

「いや、もう少しゆっくりしてもらって構わないのである。マナリーフ王国行きの竜車は王都から出ているのであるが、ゲーム内時間で1日以上拘束されてしまうのであるよ。なので、今日やるべき事を全て終わらせてから竜車に乗った方がいいのである」

「わかった。それじゃあ、そうさせてもらおう」

「うむ。では『原初魔術』の調査もよろしく頼むのである」


 ポータルから去っていく教授を見送り、今日の予定を立てる。

 とりあえず、現実時間23時になるまでは各自自由行動として、23時になったらここに集合。

 その後、各ギルドを回って紹介状等がもらえないか確認し、全員でマナリーフ王国行きの竜車に乗ることとした。


「柚月はまだ夏休み中なんだろ? 明日の午前中が暇になるけど構わないのか?」

「夏休みだからって、やることがない訳じゃないからね。家の用事を色々と片付けて置くわ」

「わかった。明日、俺がログインできる時間はいつも通りだけど大丈夫か?」

「私もいつもの時間になると思います」

「そこは適当に時間を潰しているから大丈夫よ。国境までつけば転移ポータルもあるだろうし、一度戻ってきてもいい訳だからね」

「ああ、なるほど。わかった。また後でな」

「ええ、また後で」


 今後の予定も打ち合わせが終わったし、俺はポーション作成かな。

 メガポーションを安定して作れるようになるためにも、スキルレベルを上げなければ。

 幸い、ハイポーションやカラーポーションの類いは作った分だけ売れるので、金策には困らない。

 もっとも、原材料が決まった量しか手に入らないからどうしても生産数に限りがあるのが難点だが。


 約束の時間になり、全員が一度集まったところで、王都にあるそれぞれの所属ギルドに顔を出して話をしてみることに。

 結果、俺の場合は錬金術ギルドと調合ギルドから紹介状がもらえた。

 錬金術ギルドはいつも通りガーゴイルの製法についての話のようだが、調合ギルドでも新しいレシピの話のようだ。

 ハイポーションの強化版はもう持ってるから、カラーポーションの強化版かな?


 無事、紹介状をもらえた俺は竜車発着場へと向かう。

 ユキと柚月は先に到着しており、合流した後竜車乗り場にて乗車券を買って竜車に乗り込む。

 今回は移動距離が長いこともあって相応のお金エニィがかかってしまった。


 竜車に乗り込んだ後は、竜車が飛び立つまでログインした状態で周囲の景色を眺めていた。

 やはり王都の景色を高高度から眺めるという機会はないのでかなり新鮮である。

 竜車の上昇が止まり水平移動に移行した頃、俺達はログアウトする事となった。


 明日、ログインしたときにはマナリーフ王国との国境付近。

 さて、『原初魔術』の取得にはどんな手順が待っているのやら。

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