269.『精霊魔術研究所』へ

「うーん、ボクの魔法技術じゃ『精霊魔術』はまだ早いって言われたよー」


【ブリーズウッド】到着翌日の午後、再び4人で集合して状況を確認する。

 イリスには各ギルドへ行った時に『精霊魔術研究所』の紹介状がもらえるか聞いてみるように頼んだのだ。

 結果は先の通り、紹介状はもらえなかったようだが。


「やっぱりある程度の魔法系スキルを覚えてる必要があるのか。ちなみに、イリスの魔法系スキルで一番レベルが高いものってどれなんだ?」

「えーっと、【嵐魔術】が29かなー?」

「なるほどね。ちなみにトワとユキの魔法スキルで一番レベルが高いものってどれ? 私は【溶岩魔術】がレベルマックスだけど」

「俺は【雷鳴魔術】と【神聖魔術】が45だな」

「私は【神聖魔術】がレベル50でマックスになってます」

「うーん、そうなると判定基準は30から40くらいかしら? 45って可能性もあるけれど……」

「まあ、詳しいことは教授に調べてもらおう。さすがにそこまで調べるのは時間がかかりすぎる」

「それもそうね。とりあえず教授にメールを送っておいて」

「了解。少し待ってくれ」


 柚月の指示に従い、教授へとメールで現在の調査状況を報告する。

 さほど間をおかずに教授から返信があり、紹介状をもらえる基準が「上級魔法スキルレベル40以上」である事が送られてきた。

 どうやらこの辺のことについては既に調査済みだったらしい。


 メールではそのまま『精霊魔術研究所』のある【ノーザンブレス】に向かってほしいと言うことだったので、その指示に従って移動することとなった。

 イリスはついてくる必要性はないのだが、観光ついでに転移門を開通させるためついてくることとなった。


 なお、【ノーザンブレス】に向かう途中のエリアボスは『ジャイアントフォレストディアー』という鹿のモンスターらしい。

 弱点属性は雷属性らしいので、俺が一気に削ってしまえば問題ないだろう。

 レベルも40しかないらしいし。


【ブリーズウッド】の北門を抜けて、一路【ノーザンブレス】へと向かって騎獣に乗って駆け抜ける。

 パーティ編成は昨日と同じで、プロキオンとエアリルがパーティに加わっている。

 途中のモンスターについては、相手にしているだけ時間の無駄なので無視だ。

 1時間半ほど進んだところでエリアボスに辿りついたので、戦闘準備を行う。

 基本的には俺とエアリルの雷鳴魔術で一気に決めてしまう予定なので問題は無いだろう。


「さて、準備はいいわね? 戦闘を開始するわよ」

「ああ、大丈夫だ」

「早いところ片付けちゃおー」

「私も大丈夫です」


 全員の準備が出来たことを確認してから開始された、ボス戦。

 だが、今の俺達にとってレベル40程度のボスはまったく障害にならず、速攻で倒されていた。


〈エリアボス『ジャイアントフォレストディアー』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉


 ボス撃破ボーナスのSP6を入手した後は、改めて北へ向かって駆け抜ける。

 ボス戦から30分ほど経過したところで、目的地である【ノーザンブレス】へとたどり着いた。


【ノーザンブレス】にたどり着いた後は転移門の登録を行い、早速目的地である『精霊魔術研究所』へと足を運んでみた。

『精霊魔術研究所』には俺達以外にも異邦人プレイヤーと思われる人間が多数いた。

『精霊魔術』と『原初魔術』については情報が掲示板でもある程度出回っているらしく、その情報を元にそれぞれのスキルを覚えられる場所へと向かっているんだとか。

 ここもそんな異邦人プレイヤーが集まっているようだな。

 さて、周囲の様子を窺うのはこれくらいにして中に入ってみよう。


「ようこそ、『精霊魔術研究所』へ。紹介状はお持ちでしょうか?」


 研究所に入ってすぐの受付で係員からいきなり紹介状の提出を求められた。


「私達は持ってるけどこの子は持ってないのよ。それじゃあダメかしら?」

「紹介状をお持ちでない方はこの先へはお通しできません。正しくは、この先で受けてもらう試験を通過できるほどの魔力が無いとみなされるのでお通ししても意味がないのですが」

「……らしいけど、イリスはどうする?」

「うーん、入れないんじゃ仕方がないよねー。少しこの街を見学してから【ブリーズウッド】に戻ることにするよー。そっちで色々したいこともあるからねー」

「わかった。それじゃ、またな」

「バイバーイ」


 紹介状のなかったイリスを見送り、残った俺達3人はそれぞれ紹介状を提出する。


「……はい、確認いたしました。それではこちらへどうぞ」

「ああ、わかった」


 係員に案内されて研究所の廊下を歩いて行く。


「そう言えば、なんで紹介状って必須だったんだ?」

「『精霊魔術』の研究自体がある程度の機密であるという事もありますが……最近ですと、紹介状も持たずに押しかけてくる方が多いのですよ。そう言う方に限って『精霊魔術』を扱うための土台がないのですがね」

「あの、『精霊魔術』を扱うための土台ってなんですか?」

「それについてはこの後行う試験を通過いただければお教えいたします。申し訳ありませんが規則ですのでご了承ください」

「わかりました。ありがとうございます」


 その後も係員に簡単な質問をしつつ、やがて案内されたのは魔法練習場のような広場。

 広場の中央には水晶のような物でできた的が用意されていた。


「さて、これより試験の説明を行います。あの広場中央にある魔水晶の標的に向けて魔法共鳴増幅を使った魔法スキルを放ってください。魔水晶にヒビが入ったり破壊できれば試験の合格となります。なお、この広場では魔術士用の杖のような魔法力を増幅させるアイテムの効果は失われているのでご注意ください」


 なるほど、素の魔法攻撃力と精霊を使った増幅だけで攻撃しないとダメなのか。

 そしてこれが試験の内容と言う事は、最低でも精霊と契約している事が『精霊魔術』を覚えるための最低条件なんだろうな。

 それもあっての紹介状かな?


「さて、それじゃあ、私から試させてもらうわね。来なさい、マグナス」


 一番手として柚月が試験を行うようだな。

 柚月の精霊、マグナスが召喚されて柚月との間に魔力のラインが形成される。


「さあ、行くわよ。共鳴増幅ラーヴァブレイク!」


 精霊との間で増幅された魔術が魔水晶に向けて放たれ、大爆発を起こす。

 爆炎が晴れた後、魔水晶には大きな亀裂が走っていた。


「柚月様は合格ですね。それでは次の方は少しお待ちください」

「構わないけど、的を交換しなくても大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。あちらをご覧ください」


 指し示された先にある魔水晶を見ていると、柚月の魔法で入っていた亀裂がみるみる修復されていっていた。


「あの魔水晶は自動修復の魔術がかけられています。粉々に打ち砕いても1分ほどで修復されますので、全力で挑んでください」

「了解、一切遠慮しなくていいって事だな」

「そうなりますね。……そろそろ大丈夫ですね。次の方、お願いいたします」


 二番手は俺がいくとするか。

 エアリルもやる気のようだし。


「さて、それじゃあ俺が先にやらせてもらうぞ」

「うん、頑張ってね。トワくん、エアリルちゃん」

「まっかせなさい! あの程度の魔水晶なんて一発で砕いてみせるんだから!」


 さて使う魔法だが、魔力共鳴増幅を使う以上、雷属性に限られる。

 ただ、俺はまだレベルマックスになってないから、サンダーブレイクのスキルは使えない。

 ……単体威力が高いスキルが良さそうだし、これで行くか。


「エアリル、準備はいいな?」

「オッケー、いつでもいけるよ!」

「それじゃあ、いくぞ。サンダージャベリン!」


 俺とエアリルの間で増幅された魔力を込めた雷の槍は、魔水晶に向けて一直線に飛び、魔水晶上部に突き刺さる。

 そして雷の槍が炸裂し、突き刺さった部分を中心に魔水晶が砕け散った。


「ほう、これは素晴らしい! 魔水晶を砕いた人は久しぶりですよ」

「そうなのか? てっきりそれなりにいると思ってたんだが」

「かなり魔力が高くないと砕けない程度には頑丈ですよ。精霊と契約したばかりでは傷一つつかないくらいですね」

「なるほどな。……でも、もう修復が始まってるな」

「修復できなければ問題ですからね。……それでは最後の方、よろしくお願いいたします」

「うん、頑張るね」


 最後はユキとシャイナの出番だったが、こちらも無難に的に亀裂を入れることができた。

 ……こうして結果だけ見ると、俺の魔法攻撃力が一番高い気がするが気のせいか?


「それでは皆様合格ですね。おめでとうございます」


 ともかく、無事に試験には合格できたようだ。

 これで『精霊魔術』を覚えるための第一歩は完了かな。



**********



~あとがきのあとがき~



単純に装備抜きの魔法攻撃力でいくと、柚月とトワはほとんど一緒です。

柚月も魔術士系ジョブなので普段よく使う【溶岩魔術】以外にも色々とスキルを覚えています。

結果に差ができたのは今後の話で触れる予定です。

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