間章 それぞれの日常
間章1.相原琴音(柚月)の夜
本章は間章としてライブラリメンバーのリアル事情を少々紹介。
最初は柚月のリアル側方面から。
タイミングとしては260話の終了後です。
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「んはー、よく頑張ったわ、私」
VRギアを外してベッドから起き上がる。
今日も数時間寝転がっていたせいで、体が凝り固まっているわね。
こんな時はストレッチでもしましょうかね。
「んー、それにしてもイベント期間はきつかったわ。ホント、しばらくは大がかりなイベントには参加したくないわね」
イベント期間中は接続時間制限一杯までイベントサーバーでアイテム作成。
それが終わったら、進捗状況を確認して夜にはクラン同士の情報交換会に参加。
さらに交換会が終わったら、決まった事を他のメンバーにも周知。
そんな生活を10日間も続けていたのよね。
それは疲れもするわよ。
その後も、防衛戦で消耗した装備の修理に駆け回ってたわけだし。
……まあ、その分報酬はおいしかったけど。
「……そろそろストレッチも大丈夫かしら。それじゃあ、軽く筋トレをしましょう」
ゲームが終わった後は、まずストレッチで体をほぐす。
その後、筋トレをして軽く運動。
それから、朝のジョギングも忘れずに。
これが健康を保つ秘訣ね。
今は大学も休みの期間だから、その気になれば買い物以外は外出しなくても済んでしまうものね。
幸い、と言うべきかはわからないけど、今はアルバイトをしなくても暮らしていけるだけのお金を貯めてある。
高校時代からファッション系の大学に行くって決めてたから、高校時代はバイトに明け暮れてたわね……
アルバイト自体は、去年の冬まで続けてた。
そのおかげで、今はアルバイトをしなくても大丈夫なのだから、貯金はしておくものよね
大学の講義を受ける以外はアルバイトが趣味みたいなものだった私を変えたのは、
アイテム作りがリアルな新作VRゲームがでるって友達から聞いて、なんとなくβテストに申し込んだら当選してしまった。
なお、私にこのゲームのことを教えてくれた友人は落選したのでメチャクチャうらやましがられた。
ちなみに、その友達をβテストの特典で誘ってあげたら、今度はメチャクチャ感謝されたけどね。
ちょうど年末頃からβテストが開始だったから、務めていたバイト先を辞めてゲームの準備を始めた。
バイト先の店長からは引き留められたけど、まあ、バイトだしそこは割り切って辞めさせてもらったわ。
VRギアは私が持ってたもので大丈夫だったからそんなに用意しなくちゃいけないものはなかったけど、私はVRゲームはすることがあってもMMO……つまり、多くの人と接するタイプのゲームをするのは初めてだったから緊張してたなぁ。
大学の授業も冬期休業に入った頃、遂にβテストが始まった。
βテストでは色々あったわね。
ひたすら裁縫系の生産……と言う名目で自分のデザインした服作りをしてたら、いつの間にか裁縫系装備のトッププレイヤーの一人になってて、色々なクランに誘われた事もあったし、その手の勧誘疲れしていたプレイヤー達といつの間にか仲良くなってた。
ああ、この頃だっけ、『ライブラリ』を構成することになるメンバーと知り合ったのは。
それで、勧誘を断り続けるのがめんどくさくなった誰かが、『自分達でクランを作ってそこに所属してしまえばいいんじゃないか』って言い出して、クラン作りをすることになったのよね。
言い出したのは誰だったかしら?
曼珠沙華じゃないし、伽藍堂でもヒマラヤンでもドワンでもない。
鉄鬼やイリスはクランができた後に勧誘して参加したメンバーだし、始まりは誰だったかしらね?
ともかく、クランを結成しようって話になって、誰がクランマスターになるかって話になった。
それで、クランマスターにはネームバリューがある人間がいいって事になって、当時、トッププレイヤーの中でも有名で生産もトップクラスの腕前を持っていたトワに声をかけることになったのよね。
……トワとの縁もそこからだと思うと、ホント、ゲーム内では長いものだわ。
トワにはクランマスターになってもらう代わりに、実務――他のクランとの交渉やメンバー間の連絡など――は全部引き受けるって約束でクランマスターになってもらった。
結成当初の『ライブラリ』は10人くらいだったかしら。
結成後は、同じように勧誘疲れをしていたプレイヤーが何人か増えて、最大で14人まで増えたんだったかしら。
その後、ほとんどのメンバーが自分の好みに合ったクランに移籍して、最後に残ったのがトワにドワン、イリス、おじさん、それに私だったのよね。
私のところにも勧誘は来てたけど、ドワンは実務方面があまり得意じゃなかったし、まさかイリスにクランマスターとしての実務をやらせるわけにもいかない、おじさんは……βテストが終了する数日前にはログインしなくなってた。
なので、私も『ライブラリ』に残ることになったのよね。
そうそう、『ライブラリ』っていう名前の由来だけど、曼珠沙華が言い出した『封印図書館』が元なのよね。
最初は『封印図書館』をそのまま『シールドライブラリ』にしようとしてたけど、それじゃ長いってなった結果、『ライブラリ』に落ち着いたんだっけ。
元々の意味は確か……『技術と言う本を死蔵するための場所』だったかしら。
曼珠沙華って、そう言うところにこだわるのよね。
それで、βテストは生産トップ勢のまま終えてしまって、正式サービス開始時にまた集まることを確認して解散。
私は春までの間は、また講義とバイトの繰り返しだったわね。
そして、春休みに入ってまたバイトを辞めて正式サービスが開始されて今に至ると。
正直、トワが彼女を連れてきたときは驚いたけど、私達の腕前に付いてこれるだけでもすごいわよね。
「……ふう、筋トレもこれくらいでいいかしら」
これまでの経緯を回想しながらの筋トレも終えて、軽く汗をかいたのでシャワーを浴びる。
シャワーを浴びた後は、冷蔵庫から冷えたドリンクを取り出してそれを飲む。
……そう言えば、前に曼珠沙華に会ったとき、『本気で忙しいときはエナジードリンクを決めて立ち向かう。それこそが正義!』って語ってたけど、大丈夫なのかしらね。
「それにしても、よく
冷えたドリンクを飲みながら、ゲーム内での活動記録をメモしたノートを見返し、よく大丈夫だったなと改めて思った。
私だって毎日15セットくらいの装備品を作ってた記憶がある。
イベント期間を考えると、合計で140セットくらいかしらね。
他のクランでも同じくらい作ってた……訳ではないんでしょうけど、それでも戦闘職全員まで装備が届かなかったらしいから、私が作った分って結構多かったのかしら。
「明日からはどうしたものかしらね。イリスは数日いないらしいし、トワもオーバーヒート気味よね。……まあ、2人へのオーダーは私が受けておけばいいか」
あまり他人と接点を持とうとしないトワと、人懐っこくてどこか危なげなイリス。
何回かオーダーを受けてる相手ならともかく、初回のオーダーは私が間に入って話をしておかないと、2人はそれぞれ別の意味で危ないからね。
「あー、それにしても。最高品質の装備品受注を解禁した結果がどうなるかわからないのよねー。設定額が半端じゃないからそんなに受注は来ないと思うけど」
どうにも
私の作れる装備なら、曼珠沙華だって作れるし、『クラフター連合』や『ノワール商会』所属の裁縫士だって作れるはず。
なのに、『ライブラリ』って言う『ブランド力』だけが先行してて、どうにも私達にオーダーが集中しそうな予感。
……いや、大手クランだとまだ最高品質まで作れないプレイヤーも多くて、『本当の意味での最高品質品』を作れるクラントップ勢はそれぞれのお得意様で手一杯なのは理解してるけどね。
その点、
装備を優先して提供してるクランって言うのは実質的に存在してないし、その余力でフリーの依頼をこなせる。
……でも、私達のところに依頼が集中してお金がだぶついても仕方が無いのよね。
素材の料金は変動するとは言え、あまり変わらないわけだし。
「……ああ、もう。やめやめ。これ以上考えても仕方が無いわ。それよりも、新しい服のイメージラフでも描きましょう」
Unlimited Worldを始めたきっかけは、自分のデザインした服を好きなように作れることだったわけだし、いつまでもウジウジ考えてないで自分の趣味に走ろう。
明日のことは明日やっても問題がないはずだしね。
「さて、今度はどんなデザインにしましょうか。そろそろ秋だし、秋物のデザインでもしましょうか」
Unlimited Worldは連携できるアプリで書いたイメージを取り込んで、ゲーム内アイテムを生産するときのイメージとして扱える機能もある。
普段はそれを使って、書いたイメージラフを取り込んでデザインの元にしてるのよ。
まだまだ夏の暑さは残っている時期だけど、冷房の効いた部屋でのんびりデザインも悪くない。
さて、今日はどんなイメージが出来上がるかしらね。
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~あとがきのあとがき~
半分くらい『ライブラリ』結成までの回想になってしまいましたが、柚月のリアル側の描写でした。
一応、パーソナルデータも公開しておきます。
リアル名
服飾系大学に通う大学2年生。
6月生まれなので既にお酒が飲める年齢だが、あまりお酒は好きではない。
(付き合い程度には飲める)
身長171センチのモデル体型。
高校時代から大学1年の冬までコツコツバイトをして貯金を貯めてきたので、今はフリーでUnlimited Worldをやっている。
『ライブラリ』の実質的な運営をしているのは彼女。
もっとも、彼女がいなければ『ライブラリ』も結成されなかった公算が大きいが。
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