252.【防衛戦2日目】開戦

 夕食も食べ終わり、いよいよ2日目の本番が近付いてきた。

 昨日よりも早めにログインした俺は、昨日と同じように最後のポーション作成を行う。

 作るのは個人用のMPポーションだ。

 今から作戦本部に持っていくつもりはないし、配って歩く時間もない。

 なので個人の事情を優先させてもらった。


 ポーションを作り終えてインベントリに入れ、昨日と同じように集合場所に向かう。

 流石に時間的には早すぎるので誰もいないかと思ったが、霧椿や白狼さんなど何人かは既に来ていた。


「こんばんは。自分が言うのもなんですけど、随分と早いですね」

「ああ、トワ君ももう来たのか。僕が早いのは最後の会議に参加してたからなんだけどね」

「最後の会議ですか。何か変わった事でもあるんですか?」

「このギリギリになって変更するような事は無かったよ。あえて言うなら、今日は出し惜しみせずに全力で攻めていくことを確認したくらいかな」

「……まあ、今日で終わりですからね。出し惜しみしてもしょうがないでしょうね」

「そういうことだよ。できれば、昨日よりも早めに終わらせたいところだよね」

「昨日と同じ戦力だったらですけどね」

「確かに。ここの運営が考えることだからね。昨日とまったく同じ構成という事は無いだろうね」

「どこを変えてくるかが問題ですが……」

「それは実際に戦闘が始まらないとわからないからね。できることと言えば、柔軟に対処してみせることくらいかな」

「それしかないですよね。まあ、できるだけ頑張りますよ」

「ああ、今日もよろしく頼むよ。昨日みたいに全力で攻撃しても大丈夫だからね」

「わかりました。それじゃあ、遠慮なくやらせてもらいますよ」


 他のメンバーと打ち合わせがあるらしい白狼さんと別れ、一人素振りをしている霧椿の様子を見る。

 手に持っている大太刀は昨日は持ってなかった武器だな。

 なんだか禍々しいオーラが出てる気がするけど……これは邪竜帝装備かな?


「うん? トワか。もう来たんだな」

「それを言ったら霧椿だって既に来てるだろう」

「まあな。早めに来て新しい刀の使い勝手を確認していたところさ」

「やっぱりそれは邪竜帝装備か?」

「ああ。イベント報酬でもらった邪竜帝装備の大太刀さ。切れ味もバツグンだけど呪いのバステがつくのがいいね。発動する効果はランダムだけど、防御力減少や行動阻害を引いた時は一方的に攻撃できるようになるからね。……まあ、今日の戦いでどの程度出番があるかはわからないけどね」

「……相手は悪魔だしなぁ。呪いが付与出来るかは怪しいよな」

「そうなんだよな。まあ、バステがなくても十分以上に攻撃力が高いし、耐久力無限だからそっちを気にしないで使えるだけでも十分さ」

「耐久力に制限がないのがそんなに重要なのか?」

「重要だね。あたしが覚えてる特殊刀術【オウカ流刀術】は刀専用のスキルを使えるんだけど、どのスキルも耐久力の消耗が激しくてね。予備も含めて大量に刀を持ち歩かないといけないからさ。その点、昨日のイベント報酬のオリジン装備は耐久力無限だったから、耐久力の消耗を気にせずにバンバン使えるのが嬉しいね」

「なるほどな。俺の覚えた流派とは特性が異なるのか」

「おや、トワも何か特殊流派を覚えたのかい?」

「【ツキカゲ流刀術】って言うのを覚えてるよ。……ああ、でも、俺が刀のスキルを使う場合、元からオリジン装備だったっけ。普通の装備で使った場合の耐久力の消耗とか考えたことがなかったな」

「ふうん、【ツキカゲ流刀術】ね。それってあたしでも覚えられるのかい?」

「さあ、どうなんだろうな? そもそも特殊流派って複数覚えられるのか?」

「さて、どうだろうね? 特殊流派の情報はあまり出回ってないみたいなんだよ。覚えてるプレイヤーもそれなりにいそうだけど、秘匿してるのか情報系クランに聞いてもあまり情報が出てこないんだよね」

「そうか。……なら、イベントが終わったらツキカゲ流の道場に行ってみるか? 複数覚えられるなら覚えられるかもしれないし、ダメだったらダメだったときだろう」

「それもそうだね。それじゃあ、約束したからね。ちゃんと案内してもらうよ」

「ああ、わかった。念のため聞いておくけど、ジパンには行けるんだよな?」

「もちろん。今はジパンの星見の都をホームタウンにしているくらいだからね」

「わかった。それなら多分大丈夫だろう。イベントが終わって落ち着いたら案内するよ」

「頼んだよ。なんならあたしの流派も紹介するからさ」

「……俺が近接メインにできると思うか?」

「思わないね。HP最低物理防御最低の狐獣人だ。近接メインにしたら倒すか倒されるかの綱渡りを常にすることになるだろうからね」

「そう言う訳だ。近接戦闘もできるがそっちをメインにする気はないよ」

「了解了解。それじゃ、あたしだけ案内してもらう形でいいんだね?」

「ああ、それで構わない。複数流派を覚えられるかどうかの確認とでも思ってくれればいいさ」

「それじゃあ、確認出来たら情報を売るとでもしようか。情報料は折半でいいね?」

「……俺はあまりお金に困ってないから折半じゃなくてもいいんだけどな」

「せめて折半にしないとあたしの気が済まないさ。……今日もお互い頑張ろうな」

「ああ、お互い頑張るとしよう」


 俺との会話が終わると霧椿は新しい刀を取り出してまた素振りを始める。

 今度の刀は輝竜装備のようだけど……確か昨日も輝竜装備は使ってたよな?

 ひょっとして輝竜装備のオリジンを手に入れたんだろうか?


「トワくん、こんばんは。今日は早いね」

「うん? ああ、ユキか」

「やっほー、トワ。ボクもいるよー」

「イリスも来たのか。……まだ開戦までは時間があるよな?」


 振り返るとユキとイリスがいた。

 こっちも今日は早めに来たようだな。


「うん、まだ時間があるよ。でも、これ以上料理の在庫を増やしても仕方が無いから早めに来たの」

「ボクもこれ以上やることがないからねー。ああ、南門の防衛設備はバッチリ修復しておいたよー」

「南門の防衛設備は、って事は修復しきれなかった門もあるって事か」

「西門は間に合わなかったねー。魔導バリスタの再設置を優先してたから、バリケードの作成数が昨日よりも少なくなっちゃったよ」

「まあ、バリケードだけなら問題ないんじゃないかな。……実質、あまり役に立ってなかったし」

「あはは。まあそうだけどねー」


 結局、どの門もバリケード前に陣取って戦闘していたらしく、バリケードが有効活用された様子はないようだ。

 もっとも、今日も同じ状況になるとは限らないから気は抜けないけど。


「それでトワは準備大丈夫なのー?」

「大丈夫じゃなかったらまだ工房に篭もってるさ」

「それもそうだよねー。それじゃあ、回復ポーションの備えはバッチリ?」

「もちろん。昨日と同じペースなら2時間撃ち続けても息切れしない程度には持ってきてるよ」

「それはそれでポーション中毒が恐いけどねー。ともかく、南門の防衛は大丈夫そうだね」

「昨日と同じペースならな。……ここの運営がそんな甘い設定にしてるとは思えないけど」

「それもそうだねー。まあ、今日もがんばろー」

「そうだな。頑張るか」

「はい、頑張りましょう」


 その後も『ライブラリ』メンバーで固まって話をしていると開戦の時間が近くなってきた。

 開戦30分前になったら白狼さんの元に集まって最後の顔合わせと確認だ。

 どうやら、俺達のレイドチームは昨日と同じ顔ぶれみたいだな。


「皆、集まってくれたようだね。今日も集まってくれてありがとう。幸い僕達のレイドチームは全員同じ顔ぶれだから、今日は簡単に予定だけ確認しよう。この後、開戦したら昨日と同じように配置についてもらう。昨日と違うことがあるとすれば、開幕初撃でトワ君に例の広範囲攻撃を行ってもらう事かな。トワ君、大丈夫だよね?」

「ああ、もちろん大丈夫ですよ」

「それならよかった。昨日の結果を踏まえて、遊撃部隊の半数は西門の防衛にあたることになったからね。遊撃部隊の助力を願う必要が出ないようにしないとまずいんだ。各門が可能な限り、事前に割り振られた戦力だけで乗り切れるようにね」

「なるほど。了解したぜ。だが、そうなると遊撃部隊の連中が暇なんじゃないか?」

「そこは大丈夫だと思うよ。グレーターデーモンが登場した時点で、遊撃部隊は防衛戦力がもっとも手薄な門の援護に向かう手はずになっているからね。遊撃部隊の主戦力は『百鬼夜行』だからその辺も考慮しないといけないらしいんだ」

「そりゃ、あそこのクランも戦果無しじゃすまないだろうしな。昨日はボスダメージランキングで上位をとってたが、今日もいけるのかね?」

「大丈夫だと思うよ。昨日のイベント報酬で装備のグレードが上がったらしいからね。いざボス戦になったら、これまで以上に活躍してくれると思うよ」

「だといいが。まあ、出来る事なら、俺達はそっちの手助けを受けずにすませたいもんだな」

「その通りだね。そのためにもこれからの戦いが重要になってくる。気を引き締めて戦ってほしい」

「言われなくてもわかってるさ」

「そうですね。全力でいきましょう」

「昨日に比べて事前配布のポーションにも余裕があるしな。昨日以上のDPSを叩きだしてやるぜ!」


 どうやらこのレイドチームの士気はバツグンに高いようだな。

 これなら心配はいらないか。


「それじゃあ、南門の外に移動しよう。配置は昨日と同じように。トワ君、繰り返しになるけど、最初の一撃をよろしく頼むよ」

「了解。任せてください」


 南門の外に移動したらそれぞれが配置につくことになる。

 俺の配置場所は最前線の櫓の上だな。


「トワくん、私は後方支援部隊のところだからこれで行くね。無理しないように頑張ってきてね」

「ああ、わかってる。そっちもよろしく頼むな」

「うん、任せて。ポーションも昨日より多めに持ってきてるからそこは心配しなくても大丈夫だよ」

「わかった。お互い頑張ろう」

「うん、頑張ろうね」


 ユキも行ったし、俺も自分の配置につくか。


 俺が配置される櫓の上には既に数名のプレイヤーが開戦の時を待ち構えていた。


「やっぱりこの櫓が主戦場か。【魔銃鬼】がいるくらいだからな」

「そりゃそうだろ。この櫓が一番前線に近い訳だしな」

「その分、活躍の機会も多いって訳ね。今日こそはダメージランキングの上位を狙ってみせるわ」

「まあ、最上位争いは【魔銃鬼】と【流星雨】の二人だろうけどな」

「ああ、違いない。そう言う訳だから【魔銃鬼】、気合いを入れて戦ってくれよ」

「そうそう。今日もダメージランキングで南門を一位にしてくれよ」

「ああ、期待に応えられるように頑張るよ」


 お互い軽口を交わしながら開戦の時を待つ。

 そして時間になると昨日と同じように戦闘フィールドが区切られて、やがて巨大な門が現れる。

 その中から姿を現すのは昨日と同じく悪魔の軍勢だが……


「……おい、今日は馬に乗ってる悪魔がいるぞ」

「……まさか騎馬兵が出てくるとは思わなかったぜ」

「白狼さん、聞こえてますか。敵の軍勢の中に昨日とは違う兵種が混ざっています」

『ああ、聞こえているよ。報告も各所から上がってきている。でも、最初の予定は変わらない。タンク部隊が敵の軍勢と接触したタイミングでスキルを使ってくれ』

「了解です。それでは」


 敵の兵種が変わっても予定は変わらずか。

 ……まあ、騎馬兵達も最前線にいる訳じゃなく、最前線は昨日と同じレッサーデーモンのようだし最初は大丈夫かな?

 問題は騎馬兵が動き出したらだけど、何がトリガーになるかわからないからな、気をつけないと。


 悪魔の軍勢が出揃った後、昨日と同じく最後にグレーターデーモンが姿を見せる。

 だが、今日はデーモンジェネラルの姿がないな。


 グレーターデーモンが現れた後、背後の門が閉じて消え去る。

 その後、グレーターデーモンの前口上が始まり、昨日と同じようにクエスト通知が届いた。


《防衛戦イベント2日目が開始されます。防衛目的はクエスト通知を確認ください》


 ―――――――――――――――――――――――


『都市ゼロを悪魔の軍勢から防衛せよ』


 クエスト目標:

  都市ゼロに攻め込んでくる悪魔の軍勢を撃退する

 勝利条件:

  グレーターデーモンの撃破 0/4

 敗北条件:

  街門の破壊 0/4

 クエスト報酬:

  イベントポイント(報酬ポイントは戦闘内容によって変化)


 ―――――――――――――――――――――――


「さあ、始めるぞ人間どもよ! 歩兵部隊、突撃!」


 やはり最初はレッサーデーモンがメインの部隊が攻撃してくるようだ。

 昨日よりも勢いがついた突撃を仕掛けてくるが、タンク部隊によってせき止められる。


「さて、俺の出番かな。行くぞ式神招来・十二天将、騰蛇!!」


 昨日の戦闘でスキルレベルが上がり効果範囲が広くなった十二天将が敵を焼く。

 それを合図に各所から攻撃が繰り出されるようになり、本格的な戦闘が開始された。

 今日はどんな仕掛けが用意されているのやら。

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