238.【4日目】特殊3次職への道程
寝る支度を調えて、夜時間のログイン。
とは言っても、今日は妖精郷の封印鬼に向かう日なのでやることは決まっている。
イベントサーバーへの接続時間もほとんど残していないし、準備を整えたら妖精郷の封印鬼に向かうとしよう。
妖精郷の封印鬼前の賑わいは、やはりと言うべきか、これまでの混み具合に比べればかなり少なくなっている。
イベントサーバーでの活動で、ほとんどのプレイヤーが忙しいのだろう。
そんな中に見知った顔を見つける事ができた。
「よう、鉄鬼。今日はお前さん達もここに潜るのか?」
「なんだ、トワか。ああ、その予定だぜ。俺のクランもようやく封印鬼に勝てるようになったからな」
「それは重畳。イベントサーバーでの活動はいいのか?」
「それはお互い様だろうが。特にお前さんは、ポーション作成に銃作成と二重の意味で忙しいんじゃないのか、【魔銃鬼】さんよ」
「まあ、忙しいけどな。とりあえず、今日の接続可能時間はフルに使ってきたから、これ以上何も出来ないんだよ」
「まあ、そうだろうな。俺ら『百鬼夜行』も昼間のうちに接続時間を使い切ってるしな」
「だろうなあ。お前だって装備作成が忙しいだろ?」
「おう、目が回る忙しさだぞ。……そう言えば、イベントサーバーで曼珠沙華に会ったんだが、お前は会ったか?」
「ん? 会ってないぞ。まあ、あいつも都市ゼロに来ている分には何も問題ないだろ。むしろ、あのレベルの裁縫士を遊ばせておく方が問題だ」
「だよなあ。曼珠沙華曰く『元ライブラリメンバーはほとんど都市ゼロにいる』そうだ」
「……さもありなん、と言うところか。俺らの生産能力はトップクラスを走り続けているはずだからな」
「そう言う意味では、おっさんがいないのが残念だったな。おっさんがいれば、アクティブな『ライブラリ』組は全員
「おっさんが復帰したこと、知ってたのか?」
「ああ、おっさん本人からメールで連絡が来たよ。とりあえず元気そうで何よりだぜ」
「確かに元気ではあるがな。おっさんが復帰したのは七月の後半だからなぁ……。流石に1ヶ月程度で、あのサーバーに来られるほどの戦闘力も生産力も手に入らないだろうさ」
「だよなぁ。……さて、俺の方はそろそろ集合時間だ。またな、トワ」
「ああ、またな鉄鬼」
鉄鬼と別れた後、まだ集合時間まで時間があるため、引き続き周囲の様子を窺ってみる。
妖精ほしさに何度も全滅を繰り返しているらしいプレイヤー達や、何とか封印鬼を倒せるようになったため討伐報酬目当ての周回を狙っている者達もいる。
さらに言えば、遠くの方に『アビスゲート』のホリゾンと『ヴァルハラリーグ』のエインヘリアルの姿も見受けられた。
彼らもまた、妖精郷の封印鬼に向かうのだろう。
装備が大分強化されたはずだから、クリアも多少は余裕が生まれているはずである。
そんな風に人間観察をした後、集合時間10分前程度のタイミングで集合場所であるモノリス周辺に行ってみる。
そこには既に『白夜』の3パーティが集まっていた。
俺達『ライブラリ』は……まだ、ユキが来ていないな。
「やあ、トワ君。今日は随分と早い時間に来ていたようだね」
「こんばんは、白狼さん。ちょっと中途半端な時間に来てしまいましたからね。あっちで周囲のプレイヤーを眺めてましたよ」
「そうか。それで、どんな感じだった?」
「そうですね……。皆、クリアに手応えを感じているような雰囲気でしたね。竜帝装備も持ち込めますし、それを除いたとしても回数を重ねてきた分、自信につながっているんでしょうね。さっき見かけた『アビスゲート』や『ヴァルハラリーグ』もそんな感じでしたし」
「彼らは確か先週にクリアできたはずだね。だから、今週は先週よりも余裕が生まれてきたんだと思うよ」
「封印鬼は1回クリアすれば、その報酬でかなり楽になりますからね」
「範囲攻撃中心のスペリオルスキルはおいしいよね。あれが使えるようになってからは、繭の防衛に失敗した事なんて無いんだから」
「その前の時点で防衛については、おおよそノーミスクリアの下地ができてましたしね。……どうやら、残りのメンバーも集まってきた見たいですね」
「ユキさんとハルちゃんのパーティだね。後は、リク君のパーティか。集合時間まではまだ結構あるんだけどね」
「どうやら皆、せっかちなようで」
「違いない」
白狼さんと苦笑いをかみしめながら話を続ける。
話題は3次職についての話へと移っていった。
「そう言えばトワ君はまだ、戦闘系3次職になっていないのかな?」
「まだなっていないですね。今のところ条件を満たせそうなので『マスターガンナー』を目指しているんですが……」
「何か困り事でもあったかな?」
「転職条件がちょっと。転職のためのクエストがレイドクエストのクリアでして……」
「ああ、なるほどね。……ちなみに、レイドレベルの指定はされているのかな?」
「それがされていないんですよね。うちの妹は
「ふむ、トワ君の場合はできないかもしれないよ。僕もレイドクエストのクリアを選択したけど、妖精郷の封印鬼ではダメで別のレベル60レイドに挑んできたから」
「……それを聞いたら不安になってきました」
「とりあえずは今日のレイドクエストを頑張ってクリアしてみようか。それでダメだったら、レベル60レイドを案内するよ」
「いや、そこまでやってもらうわけには……」
「そこは構わないさ。トワ君のおかげで僕達はレベル65レイドの最初のクリア者になれたんだからね。レベル60レイドを1周するくらいはイベント期間中でも都合をつけさせてもらうよ」
「……それじゃあ、ここでダメだったらその時はよろしくお願いします」
「ああ、大船に乗った気持ちでいてくれて構わないよ。レベル60レイドはもう何周もしているからね」
「それは頼もしいですね。……どうやらリク達も来たみたいです。それでは、俺は自分のパーティのところに戻りますので」
「ああ、今日も頑張っていこう」
白狼さんと別れて『ライブラリ』の皆が集まっている場所に移動する。
すると、柚月が声をかけてきた。
「随分長いこと話し込んでたみたいね。何かあったのかしら」
「うーん、基本は世間話かな。それから3次職に転職するための条件について、ちょっと話してきた」
「3次職って戦闘系でしょう? まだなってなかったの?」
「特殊3次職に転職するのに前提条件を揃えきってないからな。後は、2次職のジョブレベルをMAXにするのと、転職のためのクエストをクリアするだけのところまでは来てるんだけど」
「そこまでは進んでいる訳ね。……そう言えばユキもまだ2次職なのよね?」
「はい。私も転職のためのクエストを残してまして……」
「ちなみにクエストのクリア条件ってなんなの?」
「一定以上のレベルのレイドクエストクリアだな」
「私も一緒です」
「……特殊3次職ってそんな感じなのね。私は普通に一般的な3次職に就いたから全然わからなかったわ」
「わしもじゃの。そもそも特殊3次職は戦闘系プレイヤーがなるものじゃと思っておったしのう」
「そんな事ないよー。ボクだって特殊3次職を狙ってるんだから」
「イリスもなのね。となるとクエストも一緒なのかしら?」
「うん、同じだったよ。先週のうちにクエストクリアしちゃったけどね」
「あらそうだったの。それじゃあ、もう3次職にはなれたのかしら?」
「ううん、まだだよー。前提条件の一つがクリアできてないからねー」
「そう。でも、できれば防衛戦までには3次職になっておいた方がいいんじゃない?」
「もちろんそのつもりだよー。問題はレベル上げが間に合うかなんだけどねー」
「それは厳しいかもしれないわね。何しろイベントの関係で時間を取られるわけだし」
「俺もレベル上げ終わってないけどな。何とか時間を見つけて上げてしまわないとだな」
「あ、それならどこかに一緒に行くー?」
「それもいいかもしれないな。……ユキは一緒に来るか?」
「うん、行かせてもらおうかな。タンクはプロちゃんに頼めば大丈夫だと思うし」
「わしは流石にパスじゃのう。装備作りだけで手一杯じゃわい」
「私もパスね。……どうやら、準備が整ったみたいよ。それじゃあ、レイドチームを組んで攻略と行きましょうか」
「ああ、油断はしないようにな」
俺達も準備が整っていることを確認してレイドチームを結成する。
このメンバーで失敗することは考えにくいけど、念には念をってヤツだな。
気合いを入れて挑むとしましょうか。
――――――――――――――――――――――――――――――
約2時間半程度で今日の封印鬼も無事に討伐できた。
報酬の分配とかは柚月に任せれば問題ないから、俺はクエストがクリアになっているか確認することにしよう。
さて、結果は……っと。
「トワくん、クエストクリアになってた?」
「ユキはどうだったんだ?」
「私の方はクリアになってたよ。トワくんの方はどうだったの?」
「……クリアになってなかった。どうやら俺の方は封印鬼のレベルじゃダメらしい」
「……そっか。それで、どうするの?」
「それなんだがな。実は白狼さんからレベル60レイドクエストのお誘いを受けてるんだよ。そっちならクエストクリアになりそうなんだよな」
そう、白狼さん達『白夜』にお願いすればおそらくはいけるだろう。
でも、この忙しい時期にお願いするのも気が引けるんだよな。
「それだったら、白狼さん達にお願いした方がいいんじゃないかな? トワくんの戦力が上がれば、向こうも助かる場面が多いと思うし」
「うーん、そうかな」
「多分そうだよ。もっと自信を持って行動しようよ、ね?」
そう言うことなら協力してもらう事にしますか。
白狼さん達はちょうど報酬の分配が終わったところのようだ。
それじゃあ、お願いしに行くとしましょうか。
「白狼さん、少しいいですか?」
「なんだい? ひょっとして転職のためのクエストがクリアになってなかったとかかな?」
「……その通りです。それで、レベル60レイドに連れて行ってほしいんですが」
「わかった。それじゃあ、行くとしようか。ちょうど、明日の夜に挑戦する予定だからそれで構わないかな?」
「はい、お願いします。それで参加者なんですけど……」
「トワくん1人だけでも構わないよ? 残りのメンバーはこちらで用意するからね」
「そこについては、これから話して決めてもいいですか?」
「問題ないよ。挑むレイドクエストは『砂漠の巨影』。3パーティ以上のクエストだけど、『白夜』からは4パーティ出す予定だ。そこに『ライブラリ』で1パーティ追加になるだけだからね。トワくんだったら、シリウスにまたがって移動しながらライフルで援護射撃してくれるだけでも十分な戦力になるよ」
「わかりました。それじゃ、ちょっと皆と話をしてきます」
俺は『白夜』の輪から抜けて『ライブラリ』の皆の元へと戻る。
それで、明日の夜にレイドクエストに挑むことを伝えた。
さて、それに対しての反応だが。
「私は不参加ね。流石にレベル60レイドとか厳しいわ」
「わしも不参加じゃの。自分の種族レベル以上のレイドとなると厳しすぎるわい」
「ボクは参加ー。レベル上げをしなきゃいけないから渡りに船だったよ」
「私も参加しますね。私の神楽舞だったらサポートも容易ですし」
「それじゃ、参加するのは俺にユキ、イリスの3人でいいか」
「ええ、構わないわ。頑張って行ってきてね」
「うむ。土産はいらんが楽しんでくるとよい」
「はーい。頑張ってくるよー」
「ええ、頑張りましょうね」
「参加者も決まったし、白狼さんに伝えてくるよ」
参加予定者が決まったため、白狼さんに伝えに行く。
柚月とドワンが来ないことは想定済みだったらしく、逆にイリスが参加することに驚いていたようだ。
明日の予定を確認して、クエスト開始時間は夜8時開始という事になった。
ただ、俺達『ライブラリ』はクエストの開始場所を知らないため、夜7時半に王都で白狼さんと合流してクエスト開始ポイントに向かうこととなった。
これで、イベント5日目の予定も埋まったかな。
『妖精郷の封印鬼』以外のレイドクエストは初参戦だ。
気を引き締めて行ってみようか。
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