232.【2日目】上級錬金術士

 翌朝、目が覚めた後、いつもの日課をこなして家事も行い、時間に余裕ができたのでログインすることに。

 何か連絡がきていないかと思いクランホーム側にログインしてメッセージボードを確認するが、特に増えているメッセージは存在しなかった。

 メールの方も特に届いていないので完全にフリーな時間となる。

 今日の昼食はハルが作る事になっているし、お昼近くまで遊んでいても問題ないだろう。


 という訳で、早速暇になったわけで。

 さて、何をしたものか……


「あ、おはよう、トワくん。この時間からログインって珍しいね」

「ん、ユキ、おはよう。時間が空いたから少しログインしようと思って」

「そうなんだ。それで何か用事でも増えてた?」

「いや、メールもメッセージもなかったからどうしようかと思って」

「それなら上級錬金術士のジョブを取ってきたらどう? 昨日、言ってたよね」

「……ああ、そういやそうだった。あの後忙しかったからすっかり忘れてた」

「それなら、また忘れないうちに錬金術ギルドに行った方がいいんじゃないかな?」

「それもそうだな。ありがとう、ユキ」

「どういたしまして。それじゃあ、私は工房で料理をしているね」


 ユキとは工房前で別れ、俺はホームポータルから王都の錬金術ギルドに向かう。

 錬金術ギルドではいつも通りに2階へと向かい、サイネさんの受付へと向かった。


「いらっしゃいませ、トワ様。本日のご用件はいかがいたしましたか?」

「上級錬金術士になりに来たんだけどどうすればいいかな?」

「かしこまりました。上級錬金術士の試験はギルドマスターの了解が必要となります。トワ様なら問題ないはずですが、確認してまいりますので少々お待ちください」


 サイネさんはいつものようにカウンターの奥へと向かい、数分後戻ってくる。


「ギルドマスターの確認が取れました。トワ様に上級錬金術士の認定試験を受けていただくことが可能となります。試験はすぐにでも受ける事ができますがいかがなさいますか?」

「それじゃ、試験を受けることにするよ。何か必要なものはあるかな?」

「いえ、試験に必要なものは全てこちらでご用意させていただいております。それでは、試験を受けるための部屋にご案内させていただきます。こちらへといらしてください」


 サイネさんがカウンターから出てきて先導をしてくれるので、後を着いて行くことに。

 階段を上り3階にある部屋の前で立ち止まったので、ここが試験を受けるための部屋なのだろう。


「こちらが試験会場となります。試験官を連れてまいりますので、中でお待ちください」


 サイネさんの案内に従い、部屋の中へと入る。

 部屋の中には上級の錬金用と調合用の生産セットが準備されており、試験内容もおおよそ見当が付くと言ったところか。

 10分弱ほど待っていると部屋の入口がノックされて、初老の男性が一人、入室してくる。


「わしが今回お主の試験を担当することになった試験官じゃ。……ああ、名前は名乗らんでも良い。お主の名前は聞いておるし、わしとの接点は今回の試験だけじゃろう。お互い名乗るほどの間柄にもなるまいて」

「わかりました。それで、試験の内容は?」

「うむ、それでは早速じゃが試験の内容を発表させてもらう。ここにハイポーションの素材を30個分用意した。これを使い25個以上のハイポーションを★12にしてみせよ」

「わかりました。奥の機材は好きなように使っても?」

「むしろ機材が使えんとハイポーションを作れんじゃろう。機材は上級のものを用意してある。好きなように使うがよい」

「ありがとうございます。それでは早速ですが始めさせてもらいます」

「うむ。わしはここでお主の作業を見させてもらう。それでは頑張るのじゃぞ」


 試験官に作業を確認、あるいは監視されながらポーション作りの作業へと移る。

 ハイポーションを作る事自体はもう慣れた作業なので、危なげなく作業工程を進めていく。

 薬草類の下処理を終えた後、錬金術で素材を変換させて実際の調合に移る。

 ワグアーツ師匠に言わせると、この錬金術での変換をしない場合は下処理の方法が異なるそうだ。

 俺達のような錬金薬士にとっては覚えなくてもいい作業だとは言われたが、一度だけそちらの手順も見せてもらったことがある。

 ただし、その作業手順ではハイポーションの品質が上がりにくいらしく、錬金薬士として活動する限り錬金術を使った作業手順にする方がいいとも言われている。


 ハイポーションの製造工程が、最後の調合作業を残すのみとなった段階でもいつものように作業を行いポーションを完成させる。

 出来上がったポーションを瓶詰めして品質を確認すると、30個中29個が★12になっていた。

 残念ながら1つは★12にならなかったが、まあしょうがないだろう。


「完成したようじゃの。……ふむ、品質も問題ない。最後1つが★12にならなかった理由はわかるかのう?」

「いえ、わからないですね。普段からポーションをまとめて作るときは、いくつかのポーションが★12にならないのはいつもの事なので」

「なるほどの。ワグアーツのヤツめ、そこまでまだ教えていなかったか。……ついでじゃし、その理由について解説しておこう。上位のポーションはすぐに瓶詰めしないと劣化が始まってしまうのじゃよ。全てのポーションが最高品質にならない理由はそれじゃろう」

「……なるほど。でもそれだと、いくら頑張っても大量に作る限りは全てを最高品質にするのは難しいのでは?」

「ポーションが完成した段階で不純物や劣化が始まっていなければ保護する方法はある。単純に作成したポーションを覆うように魔力で蓋をしてやれば良い。そうすれば薬効が抜けずに劣化することもないのでな」

「……そんな事、師匠は教えてくれなかったですけどね」

「ワグアーツの事だ。自力で気がついて聞いてくるまで教えるつもりがなかったのじゃろう。……後は、調合セットで使っている設備をアップグレードして設備の方で劣化を防げるようにするかじゃな」

「……そんな事が出来る事も聞いたことがないですね」

「それはそうじゃろう。上級生産職向けの話じゃからのう。上級生産職にならねば、設備のアップグレードはできんよ」

「そうですか。それで、試験の方は合格ですか?」

「うむ、問題なしの合格じゃ。それだけの腕前があれば上級錬金術士を名乗っても問題なかろう」

「ありがとうございます。それで、この後はどうすればいいでしょうか?」

「試験はこれにて完了じゃて、わしと一緒にギルドマスターに会ってもらう。そこで正式に契約を交わして晴れて上級錬金術士の仲間入りじゃよ」

「わかりました。俺の場合、『上級錬金薬士』ですか?」

「いや、お主の場合は『上級魔法錬金薬士』じゃの。ワグアーツだけではなくガイムからも推薦状がきているのでな。試験内容としては錬金薬士の試験のみじゃが、推薦状がきているのであれば問題はなかろう」

「……魔法錬金術師の試験はいいんですか?」

「問題ないじゃろう。今更、ミスリルゴーレムを作るのに失敗するかの?」

「……それは失敗しなさそうですね」

「そう言う訳じゃ。さて、ギルドマスターに報告してくるか」


 試験官と一緒にギルドマスターの部屋へと向かい、ギルドマスターと面会する。

 試験官はギルドマスターに試験内容と結果を伝えて退出していった。


「さすがと言うべきかな。上級錬金術士の試験も一回でクリアするとはな」

「普段からやっている作業ですからね。それよりも、上級生産職になった場合、生産設備のアップグレードができるという話をなぜしてくれなかったんです?」

「それについては基本的にあまり知らせていないからな。設備をアップグレードするのに数日かかってしまうし、費用も決して安くはない。なので、上級生産職になれた人間にのみ情報を公開しているのだよ。もちろん、君も上級錬金術士の仲間入りを果たしたわけだからアップグレードすることは可能だがどうするかね?」

「数日使えないってどれくらいの期間利用できないんですか?」

「おおよそ4日ほどだな。わかっていると思うが、アップグレード作業中はその設備は使えなくなる。4日間も使えないことを考えるとアップグレードをする錬金術士は多いとは言えないのだよ。アップグレード無しでも大抵の事は出来てしまうからな」

「……でしょうね。ちなみに調合セットのアップグレードも、錬金術ギルドで頼めるんですか?」

「ああ、錬金薬士については可能だ。どうする、すぐにアップグレードするのかね?」

「……いえ、今は忙しいのでアップグレードはまた今度の機会にお願いします」

「わかった。それでは上級錬金術士になるための手続きに移るとしよう」


 上級錬金術士になるための手続きはあっさりと終わってしまった。

 中級錬金術士になる時と同じように書類にサインするだけで完了だったからだ。


「……これで君も上級錬金術士の仲間入りだ。これからも頑張ってくれたまえ」

「はい。頑張らせてもらいます」

「うむ、よろしい。……ところで、ジパンに行くときに手紙に書いた件だが、ジパンのガーゴイルを見せてもらったかね?」

「ええ、見せてもらいましたよ。作り方も教わりました」

「そうか。セイルガーデンのガーゴイルについては興味がないかね?」

「今のところガーゴイルを作る予定はありませんからね。また今度の機会にでも」

「そうか、わかった。君にはガーゴイルの製法を開示することができるからね。いつでも歓迎するよ」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

「うむ、これからもたゆまぬ努力を期待しているぞ」


 ギルドマスターの部屋を後にした俺は、とりあえずワグアーツ師匠の元へと向かうことに。

 新しい薬草はまだ届いていないはずだが、上級錬金術士になったのだし、挨拶はしておいた方がいいだろう。


「失礼します。ワグアーツ師匠」

「トワか。どうかしたのか?」

「上級錬金術士になりましたので報告にきました。あと、ポーションを作るときに劣化させない方法を教えてくれなかったのはなぜですか?」

「ふむ、まずは上級錬金術士になれたこと、実に嬉しく思う。流石異邦人は上達が早いものだな」

「ありがとうございます。それで、もう一つの方は?」

「自力で気がつくまで待っていたのだがな。ポーションの劣化についてはどこで教わった?」

「上級錬金術士になる時の試験官が教えてくれました。それから師匠が教えてくれなかったであろう理由も」

「……ふむ、という事は試験官になったのはあいつか。まあ、無事に合格できたのだから良かろう。さて、今後の課題だが、今のところ提示できるような課題はない。薬草の販売は続けるので今まで通りに励むように」

「わかりました。今日の分の薬草はまだ届いてませんよね?」

「うむ、まだ届いていないな。もうしばらくすれば届くと思うが、待っていくか?」

「いえ、また後で買いに来ます。それではまた」

「それではな」


 ワグアーツ師匠の元からクランホームへと帰還した俺は、ステータスを確認する。

 サブジョブの方は『上級魔法錬金薬士』に無事ジョブチェンジすることができた。

 ジョブの詳細としては『錬金薬士』と『魔法錬金術士』の双方の特徴を併せ持った強化版といった感じになっている。


 それから、メインジョブの方も『ハイマギガンナー』がカンストしていたので、次の職業として『マナガンナー』を選択しておく。

『マナガンナー』は1次職だし、そんなに時間をかけずとも2次職にジョブチェンジできるだろう。

 念のため、ガンナーギルドに行って3次職の情報を仕入れておくとするか。

 昼食まではまだ時間に余裕があるし、ガンナーギルドに今から向かうとしよう。


 帰ってきてすぐではあるが、俺はホームポータルからガンナーギルドへと向かう事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る