228.【1日目】されど、会議はやはり踊る
「質問だが、結局のところどうすればいいんだ?」
「まずは戦闘系プレイヤーには生産系プレイヤーの補助をしてほしいのである。先程も述べたとおり、都市ゼロのモンスターは最低でレベル60なのである。はっきり言って、普通の生産系プレイヤーでは魔封石を集められないのであるよ」
「まあ、その理屈はわかった。だが、俺達も魔封石は必要だろう。そこはどうすればいいんだ?」
「そこが難しいところであるなぁ。はっきり言ってしまえば、初期段階では戦闘系プレイヤーが生産系プレイヤーの手助けをすることで得られるメリットはないのである。拠点が開放されれば、各種アイテムを供給してもらう事が出来るのであるがな」
「だが、今までの話だと素材も外に集めに行かなきゃならないんだろ? その時はどうすればいいんだ?」
「そこについても、戦闘系プレイヤーに護衛なり採取依頼をする必要があるのである。戦闘系プレイヤーが素材を抱え込んでいても意味がないのであるからして」
「そうは言われても、こっちだってせっかくのイベントを楽しみたいんだ。生産者の面倒ばかり見ていられる訳じゃないぞ」
「どちらにしても生産系プレイヤーの援助は必要であるぞ? この先、回復アイテムや消耗品、装備を融通してもらうのに生産系プレイヤーの助けは必須であるからな」
「だけどよ、イベントサーバーで手に入るのはイベントサーバー専用なんだろ? だったら通常サーバーでアイテムを揃えればいいじゃないか」
「通常サーバーのアイテムは高騰中である。先日の大規模レイドイベントで消耗品関係は特に品薄である。それらをイベント中にまかなえるほど流通量が復活するとは考えにくいのである」
「……結局はイベントサーバーでもある程度以上の供給ができないといけないって事か」
「そうなるのである。それで、最初に言ったとおり戦闘系プレイヤーの協力が必要になるのである」
「ちなみに、生産系プレイヤーってどれくらいいるんですか?」
「さて、それはまだヒアリングできていないのである。ただ、現時点で把握している人数からいくと、戦闘系プレイヤー5に対して生産系プレイヤー1の割合であるな」
「その予測は正確なのか?」
「生産系プレイヤーが予想より多くても、戦闘系プレイヤー4に対して生産系プレイヤー1と言った割合であるよ」
「つまり戦闘系プレイヤーのパーティに生産系プレイヤーが1人ずつ入れば問題ないって事か」
「今のところの予測ではそう言ったところであるなぁ。それで問題ないのであるか」
「……問題あるかどうかはわからんが状況は把握した。その程度なら協力できるプレイヤーも多いだろうよ」
「助かるのである。他に質問はあるのであるか?」
その後も色々と質問が出るが、結局は戦闘系プレイヤーがアイテム集めを行い、それを使って生産系プレイヤーがアイテムを生産、作ったアイテムを戦闘系プレイヤーに渡して再度アイテム集めに向かう、というサイクルで概ね決まったようだ。
質問をしていたプレイヤーのほとんどは個人参加のプレイヤーのようでクランで参加しているプレイヤーはほとんど質問していない。
むしろ、積極的に戦闘系プレイヤーと生産系プレイヤーが協力するように話を持っていこうとしていた。
この様子だと、クラン関係者には事前に話を通してからこの会議に臨んでいるようだな。
それから、教授側からモンスターを倒したり素材アイテムを入手することでイベントポイントが入手できることも発表された。
生産系プレイヤー側では、アイテムを作成したタイミングで相応のポイントが手に入ることも同様に発表された。
これによって、初期段階であっても生産系プレイヤーを手助けする恩恵がある事がわかり、少なくともこの会議の中では積極的に生産系プレイヤーの援助をしていこうという空気になっていた。
「さて、それでは最初の段階として戦闘系プレイヤーが生産系プレイヤーを助けるという事でかまわないのであるな?」
教授の確認に対して反対するプレイヤーはいなかった。
「それでは今後の課題であるが、戦闘系プレイヤーが集めてきた、または生産系プレイヤーが自力で集めたアイテムを生産系プレイヤーに渡す際の対価について相談しなければならないのである」
やっぱりそこが問題になるよな。
どちらのプレイヤーもただ働きはしたくない。
かといってイベント中はお金での取引もあまり意味を成さない……と言うか、イベントサーバーで手に入れたアイテムはイベント中しか使えないのでお金で取引するには抵抗があるプレイヤーがほとんどだろう。
俺としても、あまりイベントサーバーのアイテムをお金で売るつもりにはなれないし。
「やっぱりここはイベントポイントでの取引でいいんじゃないのか?」
「そう簡単にいかないんだよ。生産系プレイヤーはアイテムを作ったタイミングでしかポイントが手に入らないんだ。最初に素材を仕入れる時の支払いはどうするんだよ?」
「そこは……ああ、そうか。ゲームを始めたばかりの時は自力で素材を集めてたものな。その時と同じようにはいかないのか」
「そうでしょうよ。ゲームを始めたばかりの時は敵も弱かったから何とかなったけど、今回は最初から敵が強いんだから同じようにはできないでしょ」
「じゃあ、最初は戦闘系プレイヤーが護衛でついて回るってのはどうなんだ?」
「それでもかなりきついな。俺達生産職のレベルなんてたかが知れてるぞ? レベル60のモンスターから攻撃を受けたら装備の封印がなくても数発でおだぶつだ」
「だったらこの機会にレベリングとかどうよ?」
「はっきり言ってその時間を生産に充てたいな。イベントサーバーにアクセスできる合計時間は、毎日決まってるんだ。戦闘をしている時間があったら、その分生産活動の時間が減ってしまうからな」
「じゃあ、現物交換ってのはどうだ? 装備や消耗品の素材をもらって、できたアイテムは素材を集めてくれたプレイヤーに渡すって事にして」
「悪い考えじゃないけど、それだと素材を集められない戦闘系プレイヤーが割を食うぞ? そう言った微妙な戦力のプレイヤーを優先して強化しないと全体の底上げにならないだろ」
「まあ、確かになあ。かといって、通常サーバーで素材集めってのも厳しいだろ? 結局は堂々巡りになるんじゃないか?」
侃々諤々とした議論が続いたが、結局は答えが出ずにまずは素材の自力採取という事で話がまとまった。
まあ、まとまったと言うよりもそれ以上の答えが出なかった、と言うのが正しいけど。
「そう言えば魔封石って拠点と装備の開放以外に使い道はないのか? 他のサーバーだと別の使い道があるみたいだけど」
「そちらについても調査中である。他のサーバーでは防衛用の兵器に使えるのであるが、
「了解。それじゃ、生産系プレイヤーに配っても余った分については保管しておくわ」
「そうしてほしいのである。何か新しい情報があれば随時イベント掲示板の方に報告するのである。それでは今日のところはこれで解散としたいのである。ただ、生産系プレイヤーについてはこの後、少し打ち合わせをしたいのである。申し訳ないが、この場に残ってもらいたいのであるよ」
教授の解散宣言でほとんどのプレイヤー達は席を立ち会議場を後にした。
ハルやリクはもちろん、『白夜』や『百鬼夜行』と言ったクラン達も立ち去っていった。
会議場に残ったのは20人ちょっとのプレイヤーのみである。
おそらく、このメンバーが都市ゼロに所属している生産系プレイヤーなのだろう。
「さて、生産系プレイヤーの諸君に残ってもらったのは他でもない、このイベント期間に関して受注を受ける場合、出来る限りの受注をしてもらいたいのであるよ」
教授からの提案は装備受注の制限解除だ。
残った面々の様子を窺うとそれぞれ渋い表情をしている。
「……つまり普段は誰かの紹介とかがない限り受けないような依頼も受けてほしいって事ね?」
「そうなるのである。『クラフター連合』や『ノワール商会』、『オリハルコンハンマー』、『鮮烈庵』、それに『ライブラリ』。どこも普段は受注制限をしているクランであるのは理解しているのである。であるが、今回のイベントに限っては個々の戦力アップが欠かせないのである。普段のルールをねじ曲げてしまい申し訳ないのであるが、通常サーバーでの受注を解禁してもらいたいのであるよ」
「……教授殿の言いたいこともわかる。だが、我々としても受注制限はしたくてしているわけじゃない。依頼数に対して素材量が足りないからこそ受注制限しているんだからな」
「βの時の騒動が尾を引いているって言われても仕方ないけどよ、それでも俺達が依頼を受けようとしても無理があるぜ? この場にいない都市ゼロの生産系プレイヤーが総出でかかっても戦闘系プレイヤー全員の装備更新なんて無理な話だ。ぶっちゃけ時間が足りねーよ」
「それに他のサーバーからの依頼はどうする? 同じサーバーからのみ受けるんじゃ公平とは言えないだろ?」
「ある程度不公平なのは我慢してもらいたいのである。だが、そうも言えないのであろうなぁ……」
「オンラインゲームなんて個人の集まりでしかないからな。同じクランや固定パーティであればある程度の集約はできるだろうが、不特定多数の意見をすりあわせるなんて無理だぞ」
「それはわかっているのである。そこを曲げて力を貸してほしいのであるよ」
「……さて、どうしたものか」
「困ったわね。『ライブラリ』としては素材と対価さえあれば受けてもいいと思うのだけど」
「素材と対価か。確かに、それがあるなら引き受けるのもやぶさかではないか」
「隠遁生活を気取って客を選り好みするのを止める機会でもあるか」
「まあ、仕方が無いか。とりあえずイベント期間中だけでもまずは引き受けてみようぜ」
「そうだな。だが、素材も対価もなければどうしようもないのは理解してもらえるな?」
「それは承知の上である。それではよろしく頼むのである」
「それで教授、俺達はどうやって依頼を受ければいいんだ?」
「それについては、イベントサーバーで依頼を引き受ければいいと思うのである。少なくともイベントサーバーなら同じサーバーのプレイヤーなのは確定であるからな」
「それはそれで面倒な気もするが……まあいいか。それで、素材はともかく対価はどうするんだ? 今までの作り方だと★12を供給しているプレイヤーはいないんだろう? 『
「そこについてはリサーチ済みである。全クランが★12を作成することが可能なのは確認済みである」
「ほう、どこで我々が★12を作れると知ったのだ?」
「イベント装備の作成元を辿ったのである。先程あげた5つのクランが竜帝装備の作成元であるよ」
「……ばれてるなら仕方が無いか。『鮮烈庵』と『ライブラリ』以外は公表してなかったのだがな」
「情報系クランが総出で集めた情報であるからなぁ。後は対価の問題であるが……」
「普段、★11装備を素材持ち込み無しで作ってた場合ってどれくらいにしてるんだ?」
「『ライブラリ』としては4~5Mね。素材代が2~3Mだから技術料が2M程度になるわ」
「相変わらずいい商売してるな。そう考えると、★12装備は6~7M程度か?」
「流石にそれだと安すぎるだろ。せめてその倍はとらないと★11までしか作れない人間が太刀打ちできないぞ」
「……それだと高い気もするが流石に8Mだと安すぎるか。素材代は変わらないわけだから、暴利をむさぼるようで気に入らないが、仕方が無いか」
「となると、1つ15M前後程度での取引か。詳しい話は、各クランが決めればいいんじゃねーかな。とりあえず『ノワール商会』としては装備受注の相談を受け付けるって事で」
「『クラフター連合』も同意だ」
「『オリハルコンハンマー』も受け付けるよ」
「『鮮烈庵』もだな。この場にいない連中を納得させるのが手間かもしれないが」
「『ライブラリ』もOKよ」
「助かるのである。それで、クラン所属以外の生産者は★12を作れるのであるかな?」
「俺は無理だな。まだ【魔力操作】と【気力操作】を覚えられてないからな」
「私も無理ですね。★11を確実に作る事は可能ですが、その上は不可能です」
「俺としては★11で作ってもかまわない装備依頼を回してもらえるとありがたいんだけどな。まあ、素材持ち込みでないと受け付けられないけど」
「そこについては後ほど相談であるな。都市ゼロに参加している生産系プレイヤーのリストを作れれば、効率よく作業を割り振る事が出来そうである」
参加プレイヤーのリスト作りとかあまりにも大変だと思うけど、情報系クランが協力すれば何とかできるのかな?
その辺を考えるのは俺じゃないし、出来る範囲で協力すればいいか。
「それでは今度こそ全員解散なのである。お疲れ様であるよ」
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