断章

断章1.墓参り

いつもお読みいただきありがとうございます。

本日より3日間は断章としてリアル側メインのお話になります。

作者の趣味全開の暗めのお話になりますので苦手な方は読み飛ばしていただいても結構です。

(基本的に読まなくても本編にはあまり影響がありません)


3日目は普通の掲示板回なのでそっちは普段通りだと思います。






それではどうぞ。



**********





 夏休みイベント前半戦の最終日、8月14日。

 残念ながら俺と遥華は最終日のイベントには不参加と決めている。

 昨日発表されたイベント情報によれば数回、大規模レイドイベントが行われるらしいがどちらも不参加だ。

 時間的な話をすれば夜のイベントには間に合うのだが……とてもじゃないけど参加しようという気力はないだろう。


 この日、俺達は墓参りに出かける。

 俺と遥華だけでなく父さんや母さんももちろん一緒だ。

 それから現地では海藤家のご両親――つまり雪音と陸斗の両親も合流する予定となっている。

 なお、雪音と陸斗は墓参りには参加しない。

 これは特段都合がつかないという訳ではなく、である。


 服装や身だしなみを整えた俺達は、父さんが運転する車に乗り込み墓所へと向かう。

 途中でお供え用の花を買い込み車でしばらく走ったところにある墓所へとたどり着く。


 墓所に到着したのは俺達が先らしく、海藤家のご両親はまだ到着していなかった。

 あと10分ほどで到着するという事なので、車内で到着を待つ事に。

 窓から眺める空はあいにくの曇り空。

 今のところ雨が降り出しそうな気配は感じられないが、夏の日差しを厚い雲が遮っている。


「ねえ、今年もうちのお墓参りが終わった後に海藤さんのお墓に行くって事でいいんだよね?」


 誰も言葉を発しない中、遥華が今日の予定を尋ねてきた。

 もっとも、俺に対してという訳ではなく両親に対してだろうが。


「そうね、例年通りになるけどうちのお墓にお参りした後、海藤さんのお墓にお参りする形になるわね」

「いつも通りの事だ。特に心配する事はないぞ」

「うん、まあそうだけど……やっぱりちょっと心配かな」

「心配? 何がだ?」


 遥華が珍しく『心配』という言葉を口にする。

 ……まあ、墓参りの時に関しては珍しい訳ではないかもしれないが。


「やっぱり、ほら、ね。雪姉には黙ってきているわけだし……いつまで黙っていなきゃいけないのかなって」

「なんだ、そんな事か」


 このやりとりも例年通りである。

 俺達が雪音に黙って海藤家の墓にまで墓参りをするのには訳がある。

 ここで話すような内容ではないのだが。


「気付かれない限り、いつまでも黙ったままだよ。そして、雪音にを思い出させるわけには行かないんだ」

「うん、それはわかってるけど……やっぱり罪悪感がね」

「……それなら無理してついてこなくても良かったんだぞ」


 遥華は沈痛な面持ちで首を振る。


「秋姉のお墓参りだもん。そう言う訳にもいかないでしょ? 雪姉や陸斗さんは来られないんだし」

「まあ、そうだな。……どうやら雪音と陸斗の親御さん達も着いたみたいだ。そろそろ車を降りるぞ」


 海藤家の車が到着した事を確認した俺達4人は車から降りて海藤家の両親と合流した。


「お久しぶり……と言うほどでもありませんがご無沙汰しております。悠君も遥華ちゃんも毎年毎年すまないね」

「いえ、気にしないでください。秋姉のお墓参りはちゃんとしなきゃいけない事ですし」

「そうですよ。俺達だっていやいや来ているわけではありませんから」

「そう言ってもらえると助かるよ。さて、それじゃあ行くとしようか」


 海藤家の父親に促されて俺達一行は墓所内に足を踏み入れる。

 墓所については特筆すべき点もなく、ただ整然とお墓が並んでいるだけである。

 夏休みという事もあり、俺達以外にもお墓参りをしている姿が見受けられた。


 お墓参りの順番としては、先に述べたとおり都築家うちのお墓からお参りする事になる。

 順番的には大きな意味があるわけではなく、うちのお墓の方が入り口から近いというだけである。


 うちのお墓に着いたらまずは掃除をし、その後でお参りを済ませる。

 うちの場合は祖父母も健在であるため、近い近親者でも曾祖父母となっている。

 曾祖父母については、俺が小さいときに亡くなってしまったためどんな人物かはあまり覚えていない。

 遥華にするとまだ物心つく前に亡くなっているので尚更だろう。


 俺達一行は都築家での墓参りを済ませると、海藤家の墓へと向かう。

 海藤家の墓も偶々ではあったが、同じ霊園内にあるという事でこうして一緒に墓参りをする仲となっている。

 もっとも、海藤家にとってはうちの曾祖父母と多少の面識があったくらいでそこまで深い関係ではなかったらしい。

 ただ、これから向かう海藤家の墓は、俺達にとって大切な意味合いを持つ事になる。

 海藤家の両親と一緒に墓参りをする理由は、俺達が海藤家の墓にお参りする事が主な目的である。


 都築家の墓からしばらく歩いたところに海藤家の墓がある。

 こちらについても、まずは墓の清掃から始めて、綺麗になったところでお参りとなる。

 海藤家もうちと同じように祖父母は健在である。

 ちなみに曾祖父母についても健在という事であり、本当の意味でご先祖様にお参りするという形である。

 ただ、それだけならば俺達がお参りする意味は薄い。

 今では、都築家と海藤家は家族ぐるみのお付き合いとなっているが、お互いのご先祖様にさかのぼってまで付き合いがあるかというとそんな事はない。

 家がかなり近所に在ったと言う事と、俺と雪音が仲良くなった事が主な理由で付き合いが生まれた形だ。

 そんな、比較的付き合いの浅い家庭同士がなぜ墓参りというイベントを一緒に行うかと言えば、海藤家でもっとも最近に亡くなった人との関係があるからだ。

 特に、俺や遥華にとっては大事な人であった。


 海藤家の墓の前で手を合わせながら、遥華が小声だが良く通る声でこう言った。


「秋姉、一年ぶり。今年もお参りに来たよ。……何から話そうか。やっぱりお兄ちゃんと雪姉の事からかな?」



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 今日、私の家の両親は2人で墓参りへと出かけている。

 家族の墓なんだから家族みんなで行きたいと毎年言っているのだが、私と陸斗は毎年お留守番だ。

 なんでも、お墓参りに行った先で他の人とも会う事になっているかららしいのだけど……それなら日を改めて私達も行ったって構わないと思う。

 だけど、私達がお墓参りに連れて行ってもらった事は一度も無い。

 ……おじいちゃんやおばあちゃんもだけど、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんも元気だし、そう考えると本当にご先祖様を供養しに行くって事になるのかな?


 お墓参りに連れて行ってもらえないのは子供の頃からずっと続いている事なのでこれ以上は考えない事にしよう。

 それよりも私と陸斗のお昼ご飯の事なんだけど、どうしようかな?


「陸斗、お昼ご飯は何にする?」

「んー、簡単な物でいいぜ。そうめんとかまだあったよな?」

「それでいいならそうするけど。それだけでいいの?」

「おう、構わないぞ。まあ、今日はやる事もなくて暇だけど」


 そう、今日は陸斗も朝からゲームもせずにダラダラとしている。

 普段だったら時間があればゲームをして過ごしているんだけど、どういうわけか今日はずっとリビングにいるのよね。

 ……でも考えてみると、お父さん達がお墓参りに行った日は毎年家にいる気がする。

 特にVRゲームなどでゲームしたりせずにリビングにいる事が多い。

 普段はゲーム第一で行動している陸斗なのにどういう風の吹き回しなんだろう?


「雪姉、お湯沸いてるぜ?」

「あ、うん。ちょっと考え事してた。すぐにそうめん茹でるね」


 キッチンで火を使いながらぼーっとしてるなんて私らしくもないかな。

 早いところそうめんを茹でてお昼にしないとね。


 キッチンから外を見るとどんよりとした曇り空が広がっている。

 天気予報だと降水確率50%ぐらいだって言ってた気がするけど、何となく雨が降り出しそうな嫌な天気。

 お父さんやお母さんが雨に濡れないで済むといいんだけど……


 そんな私の願いも空しく、私達がお昼ご飯を食べ終わる頃には外は小雨がぱらついていた。

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