186.第2回公式生放送
本日は水曜日。
ゲームの方は昨日の昼から長時間メンテナンスが入っており、今日いっぱいはプレイできない。
ならばと言うことで、俺の家に集まって宿題をやっているのだが……
「うぇ~、悠、ここ教えてくれ……」
「またか……どれ、見せてみろ」
案の定、陸斗の宿題の進み方が悪かった。
学期末テストに関しては、レイド準備以外の時間を勉強に充てさせたので問題なかったが、やっぱり身に付いてはいなかったようだ。
「もう、陸斗。ちゃんと自分で解きなさい」
「ちゃんと自分でやってるよ……問題の解き方を聞いてるだけで」
「それがちゃんとしてないって言ってるの」
「そうは言われてもなぁ……できないものは仕方が無いだろう?」
「……もう、これだから陸斗は……」
「その辺にしておいてやれよ。……少なくとも、きちんと毎日少しずつはやってたみたいだし」
「おう、そこはきちんとやってたぜ。……まあ、わかるところから」
「それでも私達より進み方が遅いじゃない。本当に大丈夫なの?」
「……夏休み明けまでには何とかするって」
「とてもじゃないが夏休み明けまでに終わるペースには見えないけどな」
「……そこはほら、ラストスパート的な力で」
「……夏休みの宿題、写させませんからね?」
「……いや、わかってるよ? ちゃんと最終日までには終わらせるって」
この姉弟のやりとりも大体毎年毎回の事ではあるが……進歩しないな。
「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ」
「ん、もうそんな時間か」
「おう、それなら早いところ準備しないとな!」
「陸斗はもう少し宿題を続けなさい。準備はあなたがいなくてもできるでしょう?」
「いや……はい」
とりあえず陸斗のことは放っておいてPCの電源を入れる。
今日の午後3時からUnlimited World公式生放送が始まる予定なのだ。
時間は午後2時50分、今から準備しても早すぎるが……まあ、遅くなるよりはマシだろう。
PCの起動が終わったら、生放送のサイトにアクセスする。
画面には『ただいま準備中』の文字だけが表示されている。
ちなみに現在のアクセス者数は……既に5桁か。
夏休み中という事もあって、昼間の放送なのにアクセス者数はどんどん増えて行っている。
午後3時、開始時刻になると『ただいま準備中』のテロップが消え、ゲームのメインテーマが流れ出す。
……どうやら新規PVを流すようだな。
薄暗い森の中にある開けた広場。
薄く靄がかかっているその中に森の中から黒い影が飛び込んでくる。
「あれ、お兄ちゃん、これって……」
「ああ、妖精郷の封印鬼だな」
最初に飛び出してきたのは、俺達にとってはなじみ深い相手となってしまった『妖精郷の封印鬼』だった。
森の木々にも並ぶ巨躯に東洋式の甲冑を着込んだ鬼はなかなかの迫力がある。
俺達にとってはもう長い付き合いのボスだが……初見だと迫力があるだろうな。
それからは封印鬼と冒険者――自分達が生産職であるから忘れがちだが異邦人は冒険者なのだ――の戦いをベースに、様々なシーンが音楽に合わせて切り替わって行く。
映り込むシーンの中には武闘大会のシーンもあり……俺と鉄鬼の戦闘シーンもワンカットだけだが入っていたな。
やがて音楽がクライマックスを迎えると同時、画面に映っている封印鬼が咆吼を放ち高く舞い上がった。
封印鬼は冒険者達の中心に降り立ち、その金棒を振り回す。
冒険者達は封印鬼に吹き飛ばされながらも戦列を整え直し、再び封印鬼へと向かっていく。
封印鬼に攻撃を仕掛けようとする冒険者達の武器が光り輝きだして……って、これ……
「聖霊開放の連発かー。余所から見ると派手だなー」
「ねえ、お兄ちゃん、これって……」
「ああ、俺達の初討伐のシーンを再現してるみたいだな」
冒険者達が持っている武器から様々な聖霊が開放され、夜の森をその輝きで染め上げる。
そして最後に残った冒険者が空高く飛び上がり、聖霊開放を行った剣で封印鬼に斬りかかり――ここでタイトルロゴが表示され、PVは終了した。
「最後のって白狼さんのヤツだろ? さすがかっこいいよな」
「まあ、間違いなく俺達の初回討伐時の戦闘内容から作られたPVのシナリオだな……」
「聖霊武器の一斉開放って結構かっこいいんだね」
「私達、あんな風だったんだ……」
それぞれが今のPVの余韻に浸っている中、カメラが切り替わり一人の男が写された。
「皆様、こんにちは。私は『Unlimited World』運営管理室室長の榊原 直人です。初めましての方は初めまして、お久しぶりの方も結構多いと思いますがいかがでしょうか?」
俺達としても
「先程の最新PVはいかがでしたでしょうか? モチーフはここ数日話題になっているレイドクエスト『妖精郷の封印鬼』です。PVに出てきたあの鎧をまとった鬼がラスボスである『妖精郷の封印鬼』ですね」
俺達としては既知の事実だが、大半の視聴者にとっては初見である。
コメント欄はなかなかの盛り上がりぶりだ。
「先程のPVですが、初回討伐チームの映像記録を参考にPV作成班が仕上げたものです。いやあ、戦闘中の聖霊開放連発シーンは実際に行われた戦術だったのですが、見ていて興奮しましたね。フルレイド36人が全員聖霊武器を持ち込んで、最後の詰めの段階で一気に開放していく。その絢爛さはPVで見ていただいたものよりも、実際に行われた戦闘の時の方が派手ではあったのですが……ご覧に入れられないのが残念です」
初クリアチームが俺達だというのは既に知れ渡っているらしいが、だからと言って戦闘シーンまで公開することはできないらしい。
……攻略方法とかもわかってしまうからな、勝手に見せるわけにはいかないのだろう。
「さて、本日の予定ですが、まずは現在進行中の大規模メンテナンスの進行状況について。
進行状況ですが、今のところ想定通りの進捗率と言ったところです。
このまま順調に推移すれば、予定通り明日の昼12時には開放できるでしょう」
まず、メンテナンスは今のところ順調と。
「次に、今回のメンテナンスに伴う大規模アップデートについてです。
1つ目の項目としてキャラクターの最大種族レベルが60から70へと上がります。
また、職業レベルについても3次職が開放され、3次職レベル20まで上がるようになります」
アップデート内容、1つ目はレベルキャップの開放。
種族レベルは70まで、職業レベルは3次職20まで開放か。
「それに伴いまして、新しいシステムが開放されます。
『力の羅針盤』と『技の羅針盤』と言うシステムです。
これらの詳細はリリースノートでご確認いただきたいと思います。
概要を説明いたしますと、2次職の職業レベルを維持したまま、同系列の別の職業へと転職出来るシステムです。
口で説明してもわかりにくいと思いますのでフリップを用意させていただきました」
ここで画面外から1枚のフリップが持ち込まれる。
「例えば現在の職業が剣士系列の『ソードグラディエーター』だとします。
この後、同じく剣士系列である『ランスグラディエーター』に転職しようとした場合、『ソードグラディエーター』の職業レベルは1にリセットされてしまいます。
また、『ランスグラディエーター』の職業レベルを上げてもSPは手に入りませんでした。
ですが『力の羅針盤』を入手した状態で転職をした場合、『ソードグラディエーター』の職業レベルはリセットされずにそのまま残り、また『ランスグラディエーター』の職業レベルを上げると1ずつですがSPを手に入れることができます。
このようなシステムが『力の羅針盤』の効果となります。
『技の羅針盤』は生産系・趣味系のジョブに対応したものとなります。
なお、羅針盤を用いて他の職業系統、例えば剣士系列からアーチャー系列に職業を変更した場合、職業レベルは記憶されたままになりますがSPは手に入りませんのでご注意ください。
それから、3次職の中には複数の2次職を最高レベルまで達していないと出現しないジョブなどもありますのでご注意ください」
説明とともにフリップが切り替わるが……まあ、大体のことはわかった。
なぜ羅針盤なのかとか、そう言う根本的な疑問はあるが、そう言うシステムとして理解しておこう。
「次に、新たに行けるようになる場所について。
今回のアップデートでは行けるようになる場所が大幅に追加されます。
エルフの国、フォレスタニア。
ドワーフの国、アイアンギウス。
ハーフリングの集落、グラスバード。
ヒューマンと獣人の帝国、ウルザスカイ帝国。
魔法王国、マナリーフ王国。
東の島国、ジパン。
ちなみに皆様が最初からいる国は、セイルガーデン王国と言う名前です。
島国、ジパンへの移動方法は船でという事になりますが、船はセイルガーデン南にある港町から定期便が出ています。
毎日出航する代わりに移動完了まで数日かかる『定期船』と、週一しか出港せず費用も割高な『高速船』がありますが、どちらを選ぶかは皆様のプレイスタイルに任せます。
それ以外の国々に関しては陸路での移動となります。
騎乗ペットを利用しても1日でたどり着くことは不可能なのでご注意を。
それから、各国家に入国するには身分証が必要になります。
これは各種ギルドから発行されるものとなり、発行元ギルドによって入国の際にかかる税金が変わってきます。
どの国でどのギルドが安くなるのかは言えませんが、複数のギルドから身分証を発行してもらう事も可能ですので、他国へ赴く際にはその辺りも考慮していただければよろしいかと思います。
それから各国家へのアクセスルートは、この後公開されるリリースノートをご確認ください」
ふむ、行ける地域、と言うか国が大量に増えたようだな。
どこに行くのかについてはゲームが開放されてから考えるようにしよう。
「そのほか、新規ダンジョンやレイドクエストの追加、若干のスキル調整などを行います。
それらの細かい内容はリリースノートをご確認下さい。
それでは次に、夏休みに開催されるイベントについての説明に移りたいと思います。
まず夏休みイベントは前半と後半に分かれての開催となります。
前半のイベントは『浮遊島での宝探し!』と題しまして、その名の通り空中に浮かぶ島での宝探しがメインとなっております。
見つけた宝の種類によってポイントが加算され、そのポイントから好きなアイテムが交換出来るようになっております。
必要ポイント数は多いですがスキルチケットなども配布対象となりますので、詳細は後ほどご確認ください。
前半のイベント期間はメンテナンス終了後から8月14日までとなっております。
後半のイベントは『都市防衛戦』となります。
多数のモンスターが襲ってくる都市を守り抜くのが、プレイヤーの皆様の使命となります。
また、各都市に配置されるプレイヤーの数につきましては最大1,000名までとなっております。
各都市ごとに襲ってくるモンスターのレベルなども違い、多くのプレイヤーの皆様が楽しんでいただけるようになっております。
各都市への配置は基本的に参加表明をされた方をシステム側で配置させていただきますが、多少の都市間移動は可能となっております。
その中でも、とりわけ難易度が高い『都市ゼロ』につきましてはトッププレイヤーの皆様の専用都市となっており、こちらの都市につきましては、システム側で割り振られたプレイヤーの皆様しか参加できません。
『都市ゼロ』以外の各都市へのプレイヤー分布は基本的に均等になるように割り振られます。
こちらのイベント期間は8月15日から24日までの準備期間、そして25日および26日の決戦日の計12日間の予定となっております。
どちらのイベントに関しても、詳しくはこの後公式ページにて公開されるお知らせをご確認ください」
夏休みイベントねぇ……
「お兄ちゃん、夏休みイベントはどうするの?」
「んー、少なくとも前半戦の方はパスかな。余り気分が乗らないや」
「えー……じゃあ後半の方は?」
「そっちも微妙だな……まあ、気が向いたら参加という事で」
「なんだかつまらないなぁ……まあ、気が向いたら参加してよね」
「気が向いたらな」
夏休みイベントは気が向いたらの参加でいいや。
特に欲しいものもないし。
「そうそう、これを忘れるところでした。
プレイヤー人口の増加に伴い、各街に用意してあったホーム数が足りなくなっています。
それを緩和するために『ホームエリア』を設置することになりました。
こちらはプレイヤーホーム専用の街と言った形になります。
アクセス方法は王都の転移門を開放することで、ホームエリアにも行くことが出来るようになります。
ホームエリアはチャンネル制になっておりますので、しばらくの間はこれで凌ぐことができるかと思います。
ホームエリアには普通に一軒家を購入する方法と、マンションのような集合住宅に入居する方法があります。
ただ、マンションの方はワンルームマンションといった形になり、工房の設置や生産セットの配置はできませんのでご了承ください」
ホームエリアの増設か、確かにそれは急務だろうな。
最近だとアクセスがやたら不便か、やたら高くて手が出せないか、どちらかの物件しか残ってないと聞くし。
その後も榊原室長の説明は続いていった。
スキル仕様の変更や、細部の仕様修正、それから現在のサービス利用者数やプレイヤーごとの職業分布などの説明が行われた。
……地味にガンナーのプレイヤー比率が上昇しているな。
個人的には喜ばしいことだ。
細部の仕様調整で俺に直接関係がありそうなことと言えば、銃レシピの入手難易度の緩和か。
今までは『レシピセット』という形でガンナーギルドのみの取り扱いだったが、関連する職業である、鍛冶・木工・錬金術の各ギルドでもそれぞれのパーツごとに取り扱いを始めることになったらしい。
正直、上級ランクの銃の販売市場をほぼ寡占状態になっているのはよろしくなかったし、個人的には嬉しい対応ではあるかな。
他の銃製造者については知らんが。
「さて、メンテナンス作業も順調なようですし、ここからは少し雑談でもして質問タイムに移りましょうか。
今回のメンテナンスが長時間にわたっている理由は、マップの拡張がとても広大になっているからです。
実際、今までに実装されていたマップの数倍の広さが今回のアップデートで実装される事になりますので、これからは全部のマップをくまなく調べるというのにも数ヶ月はかかると予想しています。
それから、職業の話についてですが、先程は『複数の2次職をレベル上限に達していないと出現しないジョブ』もあると言いましたが、それだけでは転職出来ないジョブもあります。
特定のスキルだったり、別の条件だったりを満たす必要のあるジョブが存在すると言うことですね。
これらはβテスターの皆様なら記憶にある方もいると思いますが『超級職』と呼ばれるジョブです。
超級職へのジョブチェンジ方法は皆様で探していただきたいと思います。
……それでは、質問タイムに移りましょうか。
何か質問がある方はコメントでお願いいたします」
話が質問タイムに移ったので、とりあえず生放送を注視するのを終わらせることにする。
質問関係は……興味があるもの以外は聞き流すとしよう。
「質問も基本的には新しい国についての事ばかりだね」
「まあ、しゃーないだろ。今回のアップデートの目玉みたいだし」
「新しい国かぁ……何があるんだろうね、悠くん」
「さてなあ。詳しい内容は、このあと公開される運営からのお知らせやリリースノートを参照という事だったし」
「それで、お兄ちゃん達は新しい国に行くの?」
「わからん。行くことになったら行くだろうし、行く必要がなければしばらく行かないだろうし」
「なんからしいといえばらしいよね」
「うーん、新しい国に行くの場合の適性レベルは50前半以降か……第6エリアや第7エリアを超えなきゃ行けないと考えると当然か?」
「それで、お兄ちゃん、『羅針盤』2つってどうするの? お兄ちゃん達も入手フラグは大丈夫だよね?」
「うん? 俺の方は両方とも大丈夫だな。雪音の方はどうだ?」
「私も両方とも入手できるよ。……ランサーギルドは結構ギリギリだったけど」
「それならアップデート明けてすぐに取りに行こうよ。私達も3次職のために必要だったし」
「そうだな。悠と雪姉がいてくれるなら心強いぜ」
「構わないが、そっちのパーティはどうするんだ? お前達だけ先に取りに行って大丈夫なのか?」
「そこは大丈夫だと思うよ。……まあ、1人1回しか参加できないとかだとちょっと考えなきゃだけど」
「さすがにそれはないだろうからな。先行偵察の意味でも先に取りに行くのもありだぜ」
「まあ、事情はわかった。それなら一緒に取りに行くか」
「でも、その前に陸斗は宿題だからね」
「……うう、わかってるよ、雪姉」
「まあ、今日頑張れば明日以降は楽になるんだ。頑張って行けよ」
その後、生放送は終了時刻まで視聴して、それから宿題へと取りかかることになった。
陸斗がもう少ししっかりしていれば楽なんだがな、色々と。
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