161.錬金アクセサリー作成

 明けて日曜日のログイン。

 午前中の間に家の用事は可能な限り済ませておく。

 昼食も終わり、夕食の支度まで何もしなくていい状態にしてからログイン。


 ログインしたらとりあえず日課の銃製造と練習素材の回収からスタート。

 いつも通り1時間ほどでクランホームに戻ってくる。

 スキル修練は夜に実演をしなきゃいけないから、とりあえずやらないで残しておく事にして……

 今日はまずアクセサリー錬成の練習からだな。


 練習に使う素材は、インゴットが銀インゴット★11、宝石はステータス上昇だけで選んだ★4を3つ。

 他のメンバーも含めて俺達のアクセサリーは全部宝石3つで作る予定だから、宝石3つで練習しないとあまり意味がない。

 とりあえず、どうしようか……まずは指輪で適当に作ってみるか。


 デザインはデフォルトでいいから錬成してっと……出来上がった。


 ―――――――――――――――――――――――


 トリプルアルケミストリング ★7


 錬金術によって作成された指輪

 素材としてアイオライト・オブシディアン・

 ターコイズが使用されている


 装備ボーナスSTR+16

       VIT+16

       DEX+16

       AGI+16

       INT+16

       MND+16


 STR+16 VIT+16 DEX+16 AGI+16 INT+16 MND+16

 耐久値:150/150


 ―――――――――――――――――――――――


 うん、いきなり★7は上々だろう。

 元の素材が★4の宝石と銀インゴットだったことを考えればかなり上出来だ。

 作ってみた感覚だが、練習すればもう少しなら品質が上がりそうだ。

 そして、完成品の見た目だが……宝石が3つ嵌まっている形じゃなくて、1つだけになっている。

 ただし、その1つの宝石が見る角度によって色が変わるという、不思議な色合いをしている。

 錬金術ギルドで宝石2つで作ったときは元の宝石が2個嵌まっている形だった。

 なので今回は3つかと思ったが……なんというか不思議な宝石に置き換わったものだ。


 とりあえず、後はこの調子で色々錬成してみようか。

 次は……ネックレスで行ってみよう。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 あの後、練習して25個までは完成した。

 品質の内訳は★7が12個、★8は13個。

 ただ、ここ最近の5個は連続で★8になったし大体安定したと考えていいだろう。

 そして、直感的な話になってしまうが、★4の宝石ではこれ以上の品質のものは望めそうにない。

 ★9以上を作りたければ、宝石の品質を★5以上にしなきゃダメっぽいな。


 種類は色々作ってみたが、指輪と腕輪だと丸い宝石が嵌まっている形、ネックレスとイヤリングはティアドロップ型の宝石をぶら下げている形がデフォルトのようだ。

 うーん、ユキに渡す分の指輪とイヤリングはデフォルトじゃなくてオリジナルデザインにしたいな……

 とはいえ、デザインにはあまり自信がないんだよな……どうしたものか。


「トワ、いる?」


 デザインについて悩んでいたら、柚月の声がドアの向こう側から聞こえてきた。


「ああ、いるぞー」

「私とイリスの分のデザイン見本が完成したから渡しに来たわ」

「了解、適当に入ってくれ」

「それじゃ、お邪魔するわ」


 柚月が工房の中に入って来て、俺の隣へと立つ。

 柚月の視線は、机の上に放置された大量のアクセサリーに向けられている。


「またずいぶんと作ったわね」

「まあ、練習用だしな。数を作って適当に売ってしまえばそれでいいかと思ってな」

「まあ、間違いじゃないわね。それで性能の方はどうな訳?」

「うん? 鑑定できるようにしたから適当に見てくれ」

「そうさせてもらうわ。その前に、はい、これがデザイン見本ね」


 渡してきたのはイヤリングとネックレスのデザイン画。

 さすが柚月、細かい所までよく描けてるし、これなら作るときも作りやすい。

 それじゃあ、せっかくだし1個このデザインでイヤリングを作ってみるか。


「ふうん、品質は★7と★8に落ち着いてる訳ね。これって★8が限界?」

「多分、宝石の質を上げない限り★9は無理だと思うぞ」

「って事は★7の宝石を買ったのは正解だったって訳ね……って、それ私のデザインしたイヤリング?」

「そうだけど、こんな感じで大丈夫か?」

「そうね……うん、これなら大丈夫でしょう。さすがに見本があるとキッチリ作ってくれるわね」

「見本があればな。作るのは頭の中でイメージするだけで良い訳だし、そこまで苦労することはないさ」

「普通の人なら仮想インターフェースを開いてイメージ画を描くんだけどね。やっぱりデッサンは苦手かしら?」

「柚月の描いたイメージをそのまま表現するのは無理。俺の画力じゃそんな細かいのは描けない」

「その割には頭の中でイメージするとキッチリ仕上げられるのよね。慣れれば普通に描けるようになるんじゃないかしら」

「そう言うものかね?」

「そう言うものよ。何事も練習あるのみ、ってね」

「……俺はデッサン力が必要な仕事に就く予定はないし、練習しなくても良いかな……」

「何事も出来た方が便利よ? まあ、実際にやるかどうかはあなた次第だけどね」

「そう言うものか。……とりあえず、イヤリングのデザインがそれで大丈夫ならそれで作るよ」

「ええ、構わないわ。それで、この試作品っていくらで売るつもりだったの?」

「んー、まだそこまで考えてなかったな。いくらぐらいが妥当なんだろうな」

「そもそも錬金アクセサリー自体、まだあまり出回ってないものね。ちょっとマーケットボードで相場を見てみるわ。試作品を借りていくわよ」

「どうぞどうぞ。それじゃ俺はイリスのネックレスでも練習しておくよ」

「そうして頂戴。それじゃあまた後でね」


 柚月は試作品のアクセサリーのうち、★7と★8を1つずつ持って出ていった。

 さて、イリスのネックレスに取りかかるとしますか……



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「トワ、大体の値段は決めてたわよ……って、何をしてるの?」

「んー、オリジナルのデザインを練習してるんだけど上手くいかなくてな……」


 柚月が帰ってくる頃には、イリスのネックレスの試作品は既に完成していた。

 問題はユキに渡す分のデザインな訳で……自分が作った錬金アクセサリーであれば、MPを消費することで形を変える事が何度でも出来る事を利用して色々なデザインを試してみていた。

 だが、やっぱりどれもしっくりくるデザインじゃない。

 はてさて、どうしたものか……


「とりあえず値段は調べてきたわ。……錬金アクセサリーじゃなくて普通に細工で作ったアクセサリーを基準にだけどね」


 デザインは行き詰まってるし、そっちの話を進めるか。


「それで、いくらぐらいにするんだ?」

「その前に使ってるのって★4の宝石3つと銀インゴット1つよね?」

「ああ、間違いないぞ」

「となると平均原価は5万ちょっとだから……うん、★7が12万、★8が20万ってところね」

「それはまた原価に対して高くでたな」

「正確に言うと、これぐらいの値段にしないと他の錬金アクセサリーを駆逐してしまうのよね。今の現状、宝石が2個の錬金アクセサリー★4で4万から5万になってるから」

「……なるほど、それ位高くしないといけない訳だ」

「そう言う事ね。実際、これでも安い方だと思うのだけど、正直、性能が微妙でね……錬金アクセサリーって」

「それは仕方が無いな。自分で作ってても思うことだから」


 実際問題、普通の★8アクセサリーだったらステータス上昇は40ぐらいあるし、★8なら2つ目のステータスボーナスが付くから40の25くらいの上昇値は付いてくる。

 それにわずかばかりの物理防御と魔法防御が付いているはずだから……錬金アクセサリーはステータスの種類こそ豊富だが、1つ当たり上昇値は結構低いことになる。


「ああ、でも、このステータス上昇が46ある指輪だけは別枠ね。これは普通に★8のアクセサリーと同じ……というか普通のものよりも上昇値が高いから」

「……確かにな。それだけは別枠扱いか」

「ちなみに、これって何で出来てるの?」

「オブシディアンが3つかな。ドワンの依頼してきた品の試作品」

「なるほどね。同じステータス上昇を3枚重ねると普通のアクセサリー以上になる訳ね」

「そう言うことらしいな。問題は有効な組み合わせが少ないだけで」

「ステータス上昇が2枚になってる宝石って何種類あったかしら?」

「ちょっと待って……ええと、7種類だな。特に有効そうなのは、スピネルのSTR・INTにクリスタルのVIT・MND、それからオブシディアンのSTR・VIT、アイオライトのINT・MNDかな」

「ふむ、それらの組み合わせはかなり強力よね。★8ですら46ずつになるんだから」

「そうなるな。……で、それはいくらぐらいで売るんだ?」

「そうね……普通のアクセサリーで40万ぐらいだからそれよりも少し高くして50万ぐらいってところね」

「それくらいが妥当か……それじゃあ、それについてはそれで決まりだな」

「そうね、そうしましょう。あと、装備名とフレーバーテキストを変更して宝石3つから作ったって事と素材の宝石名はわからないようにしておいてね。……それで、そっちはどういうのが作りたい訳かしら?」


 そりゃ気になるよな、指輪とイヤリングのほとんどが形を変えていれば。


「うーん、そもそもモチーフが決まらないんだよな。ユキってどちらかと言えば、可愛いアクセサリーよりも綺麗なアクセサリーの方が似合いそうだし」

「それは同意ね。猫の手型のアクセサリーとか可愛いと思うけど、ユキのイメージには合わないわね」


 試作品の1つ、猫の肉球指輪を手に取りながら柚月に指摘される。

 ……うん、それは個人的にもないなと思った品だから。


「そうなるとどういう形にすればいいのか悩んでしまってな……」

「それで色々迷走してた訳ね」

「ああ、そう言う訳だ。……おかげでスキルレベルが1上がったぞ?」

「それはおめでとう。で、どんなのが作りたいのかお姉さんに言ってみなさい。私もこれから暇だし、デザインに協力して上げるわよ」

「うん? いいのか?」

「まあね。それにカノジョに良い格好したいって気持ちはわからなくもないし?」


 柚月がニシシとでも言わんばかりの含み笑いでこっちを見てくる。

 ……別にそう言う訳でも……いや、一応はあるのか?


「それじゃ、手伝ってもらうとするか。よろしく柚月」

「はいはい。それじゃあ、とりあえずこの試作品達はデフォルトの形に戻しましょうか」

「そうだな、そうしよう」

「……ああ、これはイリスのネックレスの見本ね。……うん、こっちも完璧に近い出来だわ」

「それはどうも。……でも自分でデザインできないのはなぁ……」

「あら、この猫の手だって形としてはよく出来てるわよ? 単純にどういったものを作りたいのかって言う部分が慣れてないだけでね」

「そこが出来ないって言うのが最大の問題のような気がするがな……」

「まあ、トワは普段デザインが必要なアイテムを作らないしね。……ああ、でも今後はアクセサリーを作る事もあるのよね」

「……そのときは、デザインは柚月に任せるからデザイン料をそっちで収めてくれ」

「それはそれで構わないけどね。……さて、時間はあると言っても有限だし早く始めましょう?」

「……その前にユキ以外のメンバーの本番を作ってしまって構わないか?」

「それもそうね。それじゃあ、ちゃっちゃと作っちゃって」

「了解、それじゃあ始めますか」


 そうして作り始めた本番の品は全て★10で揃えられた。

 ……多分宝石の質的に、出来たとしても★11が限界かな?

 製造クリティカルでも出ない限り、★11は出来ない気がするしこれはこれで良しとしよう。


 その後、柚月に付き合ってもらう事、1時間強。

 ようやく、ユキのイヤリングと指輪のデザイン画が完成した。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 そして、夜のログイン。

 今日はまず、俺の【魔力操作】の実演とユキの【気力操作】の実演から始まったが……


「うん、さっぱりわからないわね」

「うむ、わからんのう」

「わからないねー」


 という結果になった。


 感覚的なものだからしょうがないかと思いつつ、以前ユキがやったように直接体に気力や魔力を流してみることに。

 柚月達3人は『何となくわかるけど出来るかはわからない』という結論だったが、ユキに俺が魔力を流してみると、


「うん、わかった気がする!」


 という事になり、実際にやってみると【魔力操作】を習得してしまった。

 ……やっぱりこういう感覚的なことはユキにはかなわないらしい。

 なお、俺の方はまだ【気力操作】を覚える事は出来ていない。


「さて、それじゃあ次は錬金アクセサリーの配布ね!」

「気合いが入ってますね、柚月さん」

「まあね。久しぶりにアクセサリーのデザインをやったからかしら?」


 柚月がこちらを見ながら含み笑いをしてくるけど、とりあえず無視。

 柚月には昼の間に渡しており既に身につけているので、まずはユキと柚月以外の2人に渡してしまう。


「ほう、これがデフォルトデザインか。涙型とはのう」

「気に入らないなら変えることも出来るけど?」

「いや、構わんぞい。どうせ服や鎧の中に入ってしまうので一緒だしのう」

「んー、ボクは服の外に出して使うけどなー」

「そこはアクセサリーの扱いの差じゃのう」


 ドワンはデザインには興味を示さず、イリスは大満足と言ったところか。

 イリスのデザインは柚月とイリスで考えたものだからな、それが再現されていれば当然か。


 さて、残りはユキの分なのだが……


「うん? トワくん、どうかした?」

「あー、これがユキの分だから」

「うん? 箱入りなの?」


 そう、柚月から「どうせカノジョに渡すんだからしっかり体裁も整えなさい!」という事で、収納箱も用意する事になってしまった。

 収納箱は雑貨屋で買ってきた見た目のよさげな小物入れだ。

 柚月曰く「指輪とかを入れる専用の化粧箱の方がいいのに」との仰せだったが、さすがに見つけられなかった。

 ……というか、そう言うのって【道具作成】で作るものじゃないかと今更になって気がつく。

 まあ、今更だし、【道具作成】のリストにもなかった気がするから、オリジナルレシピ扱いだろうし諦めよう。


「ねえ、開けてもいい?」

「ああ、どうぞ」

「うん。……うわぁ、綺麗!」


 小物入れに入っていたのは、指輪が1つとイヤーカフが1セット。

 そう、ユキは猫獣人で耳が頭の上側に付いていることから「イヤリングじゃなくてイヤーカフの方がいい」という話になり、急遽イヤーカフを作る事になったのだ。


 イヤーカフのデザインはそれぞれ翼を広げるようなデザイン、そして指輪は一対の翼に挟まれるように宝石が埋め込まれている形となった。

 翼をイメージしたものがいい、と案を出したのは俺だが、このデザインを起こしたのは柚月である。


「ねえ、着けてみてもいい? トワくん」

「ああ、ユキのものだし付けてもらえるといいな」

「うん、それじゃ着けてみるね!」


 後ろで柚月が「着けてあげなさいよ!」と小声で言ってるがとりあえず無視だ。


「うん、どう? 似合うかな?」

「ああ、似合ってる」


 さすがは柚月のデザインと言うべきか、ユキにバッチリ似合っている。


「……ねえ、このデザインって柚月さんのだよね?」

「……ああ、そうだな。さすがに俺1人じゃそこまでのデザインは出来ないからな」

「いや、そこは嘘でも自分で作ったってかっこつけるとこでしょ?」

「大丈夫ですよ。トワくんがデザインを起こすのが上手くないのは知ってますから。ありがとうございました、柚月さん」

「……はあ、まあいいわ。どういたしまして」


 さすがに嘘をついてまで格好をつけるつもりはないからな。

 ともかく、錬金アクセサリーの配布はこれで終了した。

 ……やっぱり、こういうアクセサリーのプレゼントは照れくさい。



**********



~あとがきのあとがき~



Unlimited Worldにしては珍しい、というか、おそらく初めての糖度の高いお話。

いや、似合わないとは思うんだけど、アクセサリーを作るとなるとこれくらいやらなきゃいけないかなって。

たまにはこう言うのもありでしょう。



それから、トワが作った錬金アクセサリーの性能と名前をついでなので書き出しておきます。

データが気になる人向けなので飛ばしてもらっても構わないですよ。


トワ:指輪×2

エメラルド・オパール・ルビー:ドライエレメントリング

AGI+30 INT+30 火属性効果上昇・小 風属性効果上昇・小 雷属性効果上昇・小


アイオライト・ターコイズ・ラピスラズリ:ドライフィジカルリング

DEX+45 AGI+30 INT+45 MND+30



ユキ:指輪・イヤリング

ダイヤモンド・パール・ムーンストーン:フェザーイヤーカフス、フェザーリング

INT+30 MND+45 光属性効果上昇・微 回復効果上昇・微 神聖属性効果上昇・小

(イヤーカフスもリングも性能は一緒)



柚月:イヤリング

アクアマリン・オパール・トパーズ:リーフエレメントイヤリング

INT+30 火属性効果上昇・微 水属性効果上昇・微 風属性効果上昇・微 土属性効果上昇・微 雷属性効果上昇・微 溶属性効果上昇・微 氷属性効果上昇・小 樹属性効果上昇・微



イリス:ネックレス

オブシディアン・スピネル・ターコイズ:チェリーブロッサムペンダントネックレス

STR+45 VIT+30 DEX+30 AGI+30 INT+30



ドワン:ネックレス

オブシディアン×3:ドライオブシディアンネックレス

STR+69 VIT+69



なお、普通のアクセサリーで★10品だった場合、1つ目のステータス上昇+80、2つ目のステータス上昇+60、物理と魔法防御+10ずつくらいです。

広く浅くになりがちな錬金アクセサリーと、特定のステータスに特化できる細工アクセサリー。

どっちが良いかは個人の好みでしょうね。

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