146.反省会 1

「それでは今日の反省会を始めるのである」


 教授の一言からレイドアタックの反省会が始まった。

 場所は『ライブラリ』の談話室、この人数が内密に話し合うにはちょうどいい場所だったためである。

 なお、この場にいる『ライブラリ』のメンバーは俺とユキのみ。

 ドワンと柚月はそれぞれ今回のレイドアタックで耐久値の減った全員の装備を修理している。

 イリスについてはいい加減遅い時間なのでログアウトさせた。

 ハルとリクのパーティは全員残っている。

 それから『白夜』と『インデックス』のメンバーも、それぞれのパーティリーダーを除いてそれぞれのクランに帰っている。

 そのメンバーの装備は白狼さんや教授が受け取って戻るそうだ。


「反省会って言っても具体的に何を話すんだ?」

「まあ、色々であるよ。少なくとも今日の結果を次の挑戦に活かせないといけないのである」

「次の挑戦ねぇ……」

「トワ君はもう挑まないつもりであるか?」

「そうは言わないけど……俺達は生産者クランなんだがなぁ……」

「そこはいい加減諦めるのである。少なくともトワ君は戦闘職としても上位のプレイヤースキルを持っているのである」

「そこを褒められても変わらないけどな……まあ、生産性のない話はここまでにしてとりあえず最初から振り返るか」


 いつまでも教授と問答していても仕方が無い。

 軌道修正して話し合いを始めよう。


「まず最初のステージ、というか最初の封印鬼戦までの間であるが……ここは可能な限り急いで敵を殲滅するだけでよいのであるな」

「そうだね。敵の強さも各パーティで対応できる程度でしかないし、レイドチームで戦う必要はないだろう」

「そうですね。一番戦力の低かった『ライブラリ』パーティでも問題なく倒していけるのですから、ここはなるべく駆け足で倒していくと言うことでいいでしょう」

「付け加えておくと、最初の部屋は敵を全滅させないと見えない壁で次に進めなかったという事を付け加えておくのである」

「そんな事試してたのかよ……」

「リク君、時間短縮のもっとも簡単な方法は『敵を無視すること』であるよ。そこを確認せずにどうするのである」

「うへぇ……さすがは検証好きの『インデックス』ってところか……」

「褒め言葉として受け取っておくのであるよ。ともかく、そういう訳なのでザコモンスターを無視して進む戦術は取れないのである。未確認ではあるが、おそらく最初の封印鬼戦前の扉も途中のモンスターを全て倒していないと開かない仕掛けぐらいはされているであろう」

「まあ、ずっと一本道が続くからね。やり過ごすくらいなら殲滅していった方が早いわけだし、そこは問題ないかな」


 確かに、隠れる場所もない一本道だ、倒さないでやり過ごす方が大変だろう。


「次は最初の『妖精郷の封印鬼』戦であるが……これも一般的なボスモンスターと一緒であるな」

「そうだね。都合2戦したわけだけど、特別きついギミックがあるわけでもないし普通のボスモンスターかな」

「そうだよね。最初の封印鬼は戦いやすい普通のボスだったよね」

「そうだね。最初は楽だったんだけどね……」


 ハル達は最初のボス戦はよく戦えていたからな。

 あそこで特に苦戦する理由はないな。


「問題があるとすれば咆吼スタンからの衝撃波攻撃でダウンを取られることであるが……」

「それは、そういうものだと思って耐えるしかないんじゃないかな? 一応、1回しか使ってこないなら『幻狼の腕輪』っていうスタン対策はあるけれど……」

「普通に2回以上使ってこられたのであるからなぁ……『幻狼の護り』は使うとしてもこの場面ではないのである」

「そうなると、可能な限り攻撃力を高めて速やかに倒す、しかないのか」

「究極的にはそうであるな。注意すべきは金棒を振り回す範囲攻撃であるが、それは前衛陣が各自で気をつけてもらうしかないのである」

「一応、予備動作中にノックバック技を叩きこんだけど止まらなかったからな」

「それを言うならスタン技もダメだったぜ。あれは止めらんねーって考えた方がいいだろ」

「あとはバインドを使うかどうかだけど……」

「……そう言えば今日は試していなかったのであるな。次に行ったときは試してみるのである」

「了解。忘れなかったら使ってみるよ」

「忘れていたら私が言うので大丈夫である」


 とりあえず、最初のボス戦まではこんな物だよな。

 正直、移動時間が長かったぐらいで、それ以外は特に苦戦したという要素もない。

 ……問題はここから先なんだが。


「さて、問題はここから先である。最初の封印鬼に勝った後、それぞれのパーティに分かれて『妖精の繭』を防衛するところである」


 そう、ここから先が問題なんだよな……

 実際、リクやハルのパーティは沈んだ雰囲気だ。


「ああ、リク君やハルちゃん達をつるし上げるつもりはないから安心して。どうやったらあそこを乗り切れるかを考えるための打ち合わせだからね」

「その通りである。まずは被害の少なかった『ライブラリ』と『白夜』からその要因を分析してもらいたいのである」


 ふむ、まず俺達からか……


「そうだな、俺達は職業バランスがよかったからとしか言えないな」

「そうですね。トワくんが杖小鬼を先制攻撃で倒してしまって、そのあと弓小鬼をトワくん、イリスちゃん、柚月さんの3人で一気に倒してしまう。そして最後に、残りの小鬼を全員で倒すってサイクルで全部倒せましたからね」

「そういうことだな。守り切れなかった1つについても、出現場所が真逆で移動が間に合わなかったってのが大きいからな。この辺はランダムみたいだし対策は考えてるよ」

「その対策とは何であるかね?」

「移動速度増加ポーション。これを飲んでおけば間に合わない事はないだろうからな。あとは、【ダッシュ】のスキルブックを買って覚えるぐらいか」

「ふむ、【ダッシュ】の効果時間は短いが短時間の移動であれば有効であるな。それから、移動速度増加ポーションは量産して全員分用意してもらう事は可能であるか?」

「楽勝だな。移動速度増加ポーションの材料は市場で簡単に揃うし、効果を高めるポーション瓶も武闘大会前に量産してあるからまったく問題ない」


 実際、移動速度増加ポーションは量産が可能なんだよな。

 効果が微妙で余り売れそうにないから売るつもりがなくて店にも市場にも出していないだけで。

 今日だってハルパーティの分しかなかったのは、単にあまり作ってなかったからだし。


「市場で簡単に揃う素材で作れるポーションにしては市場で見かけたことはねぇんだけどな……」

「その理由は簡単であるよ。特殊ポーションの類いは【中級錬金術】で中間素材を作成し、【中級調合術】で調合する必要があるのである。しかも、それぞれ覚えたてでは効果の低いポーションしか作れないのである。そう言った理由が原因で余り外に出ないのであろうなぁ。そもそも、【中級錬金術】も【中級調合術】もまだまだ持っているプレイヤーが少ないわけであるからして」

「多分、生産系の大手ギルドに頼めば作ってくれると思うよ? まあ、値段はわからないけど……」

「はっきり言って、そこまでして手に入れたいものでもないからな、特殊ポーションの類いって。なけりゃないで何とかなる場面の方が多いし」

「つまり、今回みたいな移動速度がほしいって場面は稀って事だね……」

「そういうことだ。今回だって、こう言うギミックがあるんだったらちゃんと人数分のポーションを揃えておいたよ」


 今のスキルレベルだったら作るのは楽だからな。

 人数分を複数セット用意する事だって楽勝だ。


「では『白夜』の2パーティからはどうであるか?」

「うーん、僕達もトワ君達と同じかな? 近接3、遠距離3でパーティを揃えているから、まず遠距離タイプの小鬼を先制して倒して、それから近接タイプの小鬼を倒す、これの繰り返しだったよ。繭を1つ破壊されたのも、最初に反対方向に現れた時の対処が遅れたって言う理由だからね。移動速度増加ポーションを用意してもらえるなら被害0も狙えると思うよ」

「私達もパーティは同じ構成ですね。繭を破壊された原因は、最後の方で連携をミスしてしまったためですが……」

「やっぱりコツとしては、どれだけ早く遠距離タイプを倒せるかだろうね。ヘイトコントロールによる足止めが効かないから、遠距離タイプだけは速やかに倒さないと繭にダメージが入ってしまうし近距離タイプの討伐にも時間が掛かってしまうからね」

「理想としては出現から25秒程度で全滅させて中央部まで帰還することでしょうか。いくら広場が円形だからといって、中央部から迎え撃てる体勢を整えることができれば最高ですね」


 さすがは『白夜』と言ったところか、隙がない。

 でもそんなパーティ構成ができるのは攻略組の大手クランだからだろうなぁ……


「では次は我々であるな。我々の場合は単純な攻撃力不足であるな。最初のうちは大丈夫であったのであるが、だんだん処理が追いつかなくなり、最後は2つ破壊されてしまったのである」

「という事は教授達は装備の増強が必要?」

「できればそれが一番であろうな。我々はそこまで良い装備を持っている訳ではないのであるからして」

「ふむ、それじゃあ、ドワン達が戻ってきたら相談だな」

「よろしく頼むのである。今の装備で弱体化されていた場合はまた別であろうが」

「まあ、そこは試してみるしかないだろう。それじゃあ、次はリクのパーティか」


 ここからは辛いだろうなぁ、半分以上破壊された訳なんだから。


「俺達も主な原因は移動力不足と攻撃力不足だな。正直、30秒で倒すのがやっとで次の襲撃までに備えて戻るなんて事ができなかったからな。最後のランダムパターンが最悪だった事も含めて、対応が後手後手に回った感じだな」

「そうだよな。攻撃しても普段よりもかなり攻撃力が落ちてる感じだし、今の装備じゃ多分きっついぜ」

「下手をすれば最後のランダムパターンで全滅もありえるからな。移動速度増加ポーションを支給してもらえるなら本当にありがたい」

「そうね。移動力不足は本当にきつかったからね……」

「……走り回るの大変だった……」


 なんか哀愁が篭もってる感じだなぁ。

 とりあえず、ここも装備は応相談だな。


「最後はわたし達なんだけど……わたし達はもう色々足りなかったとしか言えないかな……」


 そして妹様の番が回ってきた感じだがこっちはもう泣きそうだな……


「私達も8回目の攻撃まではノーミスで防げていたんですが、9回目の襲撃から12回目の襲撃までの4回で4つ破壊されてしまって……」

「ボク達は遠距離2の近接4だったから本当に大変だったよ……ハルちゃんはダッシュのクールタイムが終わる度に使っていたし……」

「正直、今の私達では荷が重いです。せっかく移動速度増加ポーションも支給していただいていたのですが……」

「それ以上に遠距離攻撃の手段が足りなかったという感じね。さすがに私と柊の2人じゃ厳しいわ……」

「それに私は余り攻撃魔法が得意じゃないですからね……」


 うーん、ハルのパーティは悩みが深刻だなぁ……

 ただ、遠距離攻撃の手段の少なさは何とかできるかも知れないな。



**********


~あとがきのあとがき~



話し合いが思いのほか伸びてしまい2話構成になってしまったんじゃよ……

最初は大したことないなと思ってたけど、書き始めると書くことが出るわ出るわ……

細かいプロットのない回はこれがあるから地味にきつい。


あと、中央部で待ち構えて対処すれば良いじゃん、って意見が出そうなので先に潰します。

中央部まで敵が進軍してくるまで大体10秒かかります。

その上で遠距離タイプの杖小鬼と弓小鬼は攻撃態勢に入ってしまうので、ノーダメクリアが難しくなります。

というわけで、迎撃に走り回るしかないわけですね。


それから、『白夜』はともかく『ライブラリ』が1個破壊で切り抜けられたのはライフルの超火力ブッパによるものです。

結構攻撃力下がっていても十二分な破壊力があるので……

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