145.レイドアタック 2 ~ボス戦 3 ~

 封印鬼との戦闘に戻って来てからはそれぞれ攻撃に参加して封印鬼のHPを地道に削っていく。


 あの黒い衝撃波攻撃は、溜め動作中に頭部へのノックバック攻撃でキャンセル出来ることが数回の検証でわかった。

 そのため予備動作が見られたら俺が速攻で潰すことで割と安全にダメージを重ねることができた。


 そして十数分後、HPバー1本目の半分を削りきったそのとき、封印鬼が空高く飛び上がった。

 そして封封印鬼は空から金棒を地面に叩きつけようとしていた。


「全員退避! 衝撃波が来るはずだからそれに備えて!」


 前衛陣は蜘蛛の子を散らすようにその場から離脱し、後衛もダメージに備えて防御姿勢を取る。

 かくいう俺も吹き飛ばされないようにしゃがんで様子を窺っているところだ。


 そして、空高くジャンプしていた封印鬼が急降下してきて金棒を地面に叩きつけると同時に、そこから衝撃波が広がり全員にダメージを与えていった。

 俺のダメージ量は……3割弱と言ったところか。

 他の皆のダメージ量を見てみると物理防御の高いメンバーの方がダメージ量が少ないようだから物理ダメージ判定か……

 どちらにしても叩きつけられる金棒そのものを受けない限りは、そんなに深刻なダメージにはなりそうにないな。


 そんな事を分析している間にも、柚月のエリアヒールで俺達の傷は回復している。

 他のパーティもそれぞれの回復役がエリアヒールなどでダメージを回復していた。


『教授、今の攻撃はそちらにも被害があったかい?』


 白狼さんがレイドチャットで被害状況の確認をしている。


『うむ。こちらにも衝撃波のダメージは届いたのである。ただ、妖精の繭にはダメージが入らなかったのでそちらは心配しなくても大丈夫であるよ』

『ただ、悪い知らせです。北側と西側から叫び声が聞こえてきました。おそらく二方向同時に攻撃が来るかと思われます』

『このタイミングだとHPバーを半分削った結果のギミックと考えた方が良さそうだね。済まないが第1と第4で西の敵を対処してほしい。第2と第3は北を頼む』

『了解である』

『了解です』

『うん、了解だよ』

「了解しました」


 衝撃波による全体攻撃だけじゃなくて増援も同時に呼び寄せるのか……面倒な仕掛けだな。

 ともかく、西側の増援の対処を任された以上、そちらの処理に向かわないとな。


 途中ハル達のパーティとも合流して西側へと移動すると、小鬼達が森の中から飛び出してくるところだった。


「お兄ちゃん、あの小鬼達のレベルは?」

「ちょっと待て……レベル42だな。先ほどまでの増援より少し強いくらいか」

「それに前衛型の小鬼が8体ですね。後衛型が少ないのは楽とみるべきでしょうか」

「とりあえず今まで通り、前衛陣は前衛型の小鬼を足止めしながら撃破。後衛は杖小鬼優先で撃破だな」

「了解、行くよ皆!」

「ハル、1人で先走らないでください!」

「プロちゃん、ハルちゃんの援護を!」

「オウン!!」


 一団からハルとプロキオンが飛び出して前衛型の小鬼達のターゲットを取って足止めする。

 その間も後衛型の小鬼達は立ち止まらずに攻めてくる。

 ……ハルの暴走のおかげで後衛が前衛よりも前に出てくる形になったな。


「仕方ない。まずは全員で弓と杖を攻撃して仕留める。回復役は先に行ってハルとプロキオンの援護を頼む」

「うん、了解!」

「わかったわ」

「わかりました!」


 支援役であるユキと柚月、それからハルパーティの柊が先行して残りのメンバーは先行してきた小鬼達に襲いかかる。

 普段は前衛陣が剣小鬼と斧小鬼の足止めをしてから後衛を仕留めているので、隊列がおかしくなっているがそれでも連携して4体の小鬼を一気に仕留める。

 あとは、前衛型の小鬼を片付けるだけだが……


 そのとき東側の森から叫び声が木霊してきた。

 これは……


『まずいですね! 時間経過による増援の出現は別枠ですか!』

『うむ、こちらの処理には少々時間がかかるのである!』

『参ったね、封印鬼側からもこれ以上の増援は難しいよ!』

「なら俺達の方から何人か向かいますよ!」

『だが逆方向だろう? 時間がかかるんじゃないのか?』

「プロキオンに騎乗して移動すればプロキオンと他に2人だけなら高速で移動できる!」

『それじゃあ、そちらの人選はトワ君に任せるよ!』

『こちらもできるだけ早く対処して救援に向かいます!』

『第2パーティからも何人か人を向かわせているのである! よろしく頼むのである!』


 話はまとまったのですぐさま行動に移らないと……

 連れて行くのは……


「ユキ、プロキオンに乗れ! タンク役はハル達に任せても大丈夫だな!?」

「うん、大丈夫! 行って、お兄ちゃん!」

「よし、来いプロキオン」

「ワフ!」


 プロキオンの背にユキと2人乗りしてフィールドを駆け抜ける。

 普通にダッシュスキルなどで移動するよりも早く駆け抜けることができたが、どうやら敵の方が早かったようだ。

 既に後衛の弓と杖は攻撃を始めている!


「プロキオンは前衛の足止め、ユキは他のメンバーが来るまでプロキオンのサポートだ。俺は弓と杖を仕留める!」

「うん、わかった。プロちゃん行くよ!」

「オン!」


 俺はプロキオンから飛び降りてユキとプロキオンはそのまま小鬼の前衛陣にぶつかっていく……というかユキがプロキオンから飛び降り、プロキオンは加速した勢いそのままに体当たりを繰り出した。

 うん、まあ、敵の前衛のヘイトを取れれば何でもいいや。

 プロキオンは体当たりの後、咆吼でヘイトをかき集める。

 ユキはプロキオンにバフをかけた後、俺にもバフをかけてくれている。


 俺は既にハンドガンの間合いに入っている杖小鬼にに対して攻撃を仕掛ける。


「ウェポンチェンジ・双華! フルバースト!」


 後衛型は魔法防御より物理防御の方が低いだろうと考えハンドガンでのフルバーストを叩きこむ。

 現在覚えているハンドガンスキルの最大ダメージ技であるフルバーストを叩きこまれた杖小鬼は、一撃の下に砕け散った。

 どうやら時間経過で出てくる増援はレベルが上がっていなかったらしい。

 余裕がなかったので確認してなかったが、改めて確認するとレベル40だった。


「精神集中! からのラピッドショット!」


 フルバーストはリキャスト待ちなのでハンドガンスキル『精神集中』で攻撃力を高めてラピッドショットをもう1体の杖小鬼に叩きこむ。

 こちらも何とか一撃の下に撃破することができた。

 さすがにフルバースト10発を2丁やラピッドショット8発を2丁には耐えられなかったらしい。

 後は弓小鬼だが……

 弓小鬼に攻撃を仕掛けようとしたとき、背後の方から矢と魔法が飛んできて弓小鬼の1体を倒した。


「遅れました! これから支援します!」


 どうやら第2パーティからの増援が駆けつけてくれたらしい。


「わかった、もう1体の弓は俺が倒すから、前衛型の小鬼を頼む!」

「わかりました!」


 もうすでにラピッドショットのリキャストタイムは終了している。

 後はラピッドショットをもう1体の弓小鬼に叩きこむだけだが……

 弓小鬼は複数の矢を同時に弓から放った。

 これは……アローレインか!


 どうやら弓小鬼を倒すのが遅れると弓小鬼も範囲攻撃をしてくるらしい。

 カバーできる人間がいれば問題なかったのだが、もちろんそんな人間はいない。


「ともかくこれ以上の被害は出さないようにしないと……ラピッドショット!」


 残っていた弓小鬼にラピッドショットを叩きこむとHPの9割以上は削れたが倒しきれなかったため、チャージショットを追加で撃ちこみ弓小鬼を倒す。


 そしてアローレインの被害を確認するが、どうやら妖精の繭を3つほど破壊されてしまったらしい。

 すると、そこにレイドチャットから報告が入ってきた。


『なんだ!? 封印鬼のHPが回復したぞ!?』

『攻撃力も増している! 何が起こった!?』

『落ち着いて! HPが回復したわけじゃない、レベルが上がったんだ! 最初52だったレベルが、今55に上がっている!』

『戦闘中にレベルが上がるってどういうことだよ!?』


 レイドチャットは突然の事態に混乱気味だ。


 今破壊された妖精の繭の数は3つ。

 ……そしてレベル上昇が3と言うことはおそらく……


「報告だ。東側の増援の対処に当たっていたが、妖精の繭を3つ破壊された。おそらく封印鬼のレベル上昇はそれがトリガーだと思う」

『なるほどね、さすがにトワ君達でも間に合わなかったか』

「ああ、3つだけだが破壊されてしまった。あと、弓小鬼だが時間経過なのかはわからないがアローレインを使ってくるようだ。こっちも長時間放置はできないな」

『了解である。北側の増援は片付いたのである』

『西も今終わったよ。すぐに封印鬼に戻るね!』

「……東の増援も片付いたようだ。白狼さん、パーティの割り振りはどうする?」

『済まないが第1パーティと第3パーティを入れ替えて対処してくれ。さすがにレベル55に上がった封印鬼の攻撃はきつい』

『わかりました。第3パーティは封印鬼に向かいます』

『第1も了解よ。それじゃあ、中央部で合流しましょう』

「わかった。それじゃあ、中央部で合流する」


 ……さすがに今の攻撃はタイミングが悪かったとしか言えないな。

 ともかく一度中央部に戻らないと……


 俺達東側を担当したメンバーが中央部に戻ると、他の第1パーティと第2パーティのメンバーは既に揃っていた。


「お疲れ様である。さすがにこのペースでは今回の攻略は難しそうであるな」


 教授にそう言われて確認してみるとレイドクエストの制限時間が残り2時間を切っていた。

 ……このペースでダメージを与えれば削りきって倒せないこともないだろうが、消耗が気になるな。


「……悔しいけど今回はここまでにした方が消耗が少なくて済むか……そういえば増援のタイマーは大丈夫なのか?」

「十夜君と時間を合わせてタイマーを起動しているので大丈夫である」

「さて、そうなるとここからどこまで粘るかだが……」

「白狼君に相談であるな」


 すぐさまレイドチャットに切り替えて白狼さんと相談に入る。

 相談の結果、とりあえずHPバー1本目を出来る限り削ってみるという事で話はまとまった。


 敗戦処理みたいで士気は下がってしまったが、しばらくしてHPバーの1本目を破壊できたと連絡が入った。

 封印鬼の方を確認すれば再び空高く舞い上がり衝撃波攻撃を繰り出そうとしている。

 そして衝撃波攻撃が終わった後、これまた再び敵の増援が二方向から現れる。


 今回も10匹編成、レベルは43か。


『報告である。やはりHPバーを削りきったタイミングで先ほどと同じように増援が二方向から来たのである。レベルは43、数は10、剣と斧が4ずつ、弓と杖が1ずつである』

『わかったよ。それじゃあそのまま増援は放置して妖精の繭を破壊させてみてくれ。それで封印鬼のレベルが上がったら因果関係がはっきりする。トワ君はそっちの確認が終わったらレイドクエストの放棄を選択してほしい』

「了解……って言ってる間に繭が1つ、いや2つ破壊されました」

『こっちも封印鬼のレベルが2上昇したのを確認したよ。そして、タンクが攻撃を受け止めているけどこの調子じゃ持ちそうもない。トワ君、レイドクエストの放棄を』

「了解、レイドクエストを放棄します」


 俺はクエストメニューからレイドクエストの放棄を選択。

 これでクエスト失敗となり、俺達はレイドエリア入口の前まで戻されたのだった。


**********




~あとがきのあとがき~



という訳で2度目のレイドクエスト失敗です。


あきらめが早すぎると思う方もいると思いますが、調査目的だったので消耗を抑えるために早めの離脱としました。

ついでに言うと、封印鬼のレベルが55まで上がった時点でタンク的にはギリギリで第6パーティ以外のヒーラーからも回復を受けていたという裏事情もあるわけで……

プレイヤーレベルが45に抑えられてスキルレベルやステータスも下がっている状態でレベル10も格上の相手をするのは厳しいという話です。


普段、『白夜』が潜っているレイドエリアの中でも最大レベルは65であってプレイヤーレベルとの差は5でしかないですからね。

それに装備の性能が制限されるなんてこともありませんし……

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