Unlimited World ~生産職の戦いは9割が準備です~
あきさけ
序章 正式サービス開始前
1-4.Unlimited World スタート
これは序章として公開していた1話から4話の再編集盤です。
基本的に話を短くしただけなので内容的にはさほど変わっていません。
よろしくお願いします。
**********
「Unlimited World?」
春休みも間近に迫った3月某日の昼休み、俺、
Unlimited World、それはこの春から正式サービスが開始されるVRMMORPGだ。VR技術が広く普及し一般的になった現在、オンラインゲームの分野においてもVR系のゲームは多数存在していた。Unlimited Worldは、そのようなVRMMORPGの1つとして開発されたゲームである。
「確かそれって悠くん、
そう、俺と俺の妹の遥華、それに雪音の双子の弟の陸斗の3人は冬に開催されていたβテストに参加していた。正確には、俺達4人でβテストに参加しようと申し込み、雪音『だけ』が落選して参加出来なかったのだ。
「そう、それ。正式サービスがもうすぐ始まるんだけど、今度は雪音も一緒にどうかなと思って」
「それは一緒に遊びたいけど……。もう予約段階で一次出荷分の販売は売り切れって聞いたけど……」
「そこは大丈夫、自分の分と、もう1つ別にソフトライセンスあるから」
雪音がこのゲームに興味を持っている、というよりも自分だけ仲間ハズレになっているのが面白くなかったのは、3人全員の共通認識だ。βテスト参加者には優先でソフトが購入出来るが、オプションでもう1本分のライセンスが追加購入できる権利があったのだ。これのおかげで、苦労せずに雪音をUnlimited Worldへと誘うことができた。
「そういうことなら一緒に遊びたいな。冬休みは私一人だけ仲間ハズレだったし……」
「あー……それはゴメン。でも、その分はしっかりフォローするから」
「うん、じゃあしっかりフォローしてもらうと言うことで。悠くんはやっぱり生産系なの?」
俺の場合、MMORPGでは生産系の職業でプレイするのが恒例となっている。もちろん、生産系と言っても生産ばかりではなく戦闘もするのだが、メインは生産という具合だ。
「ああ、主に消耗品を扱う錬金術と調薬って感じでプレイする予定」
「そうなんだ。じゃあ私も生産系で……料理ってあるよね?」
「ある。βの時の仲間には料理メインの生産者はいなかったから、料理をやってもらえると助かるかな」
「そっか。なら私は料理人を目指すね!」
ちなみに、雪音が生産職を選ぶのも恒例である。もっとも、雪音の場合は俺に合わせてくれているという側面が強いので、俺が戦闘職を選べば雪音も戦闘職を選ぶだろう。雪音が料理を選ぶのは、雪音の趣味兼特技が料理と言うことで想像出来ていた。どの程度の趣味かと言えば、料理のVRシミュレーターを買ってプレイしてるほどで、味についても文句なしの出来栄えである。
俺達が生産職を選ぶのは、戦闘が苦手だからと言うわけではない。むしろ俺達の場合、子供の頃の『ある事件』をきっかけに武術を学んでいたため、リアルスキルが要求されがちなVRMMORPGの戦闘は得意ともいえる。俺達が生産職を選ぶ理由は、わざわざ仮想現実の空間で戦闘に明け暮れるつもりはない、もっといえば、普段できないような生産活動がしたいという理由である。
「それでUnlimited Worldってどんなゲームシステムなんだっけ?」
俺達4人がVRMMORPGで遊ぶのはこれが初めてというわけじゃない。サービス開始から始めようとするのは初めてだが、今までもVRMMORPGで遊んだ経験は少なからずある。
「Unlimited Worldはスキル制のRPGだな。キャラクターはレベルよりも、どんなスキルを覚えて行くかで方向性が決まる感じだよ」
「職業はないの?」
「職業はある。戦闘系ジョブを選ぶメインジョブに、生産を含むそれ以外のジョブを選択するサブジョブって感じ」
「じゃあ料理スキルをメインで上げても料理人がメインジョブって事にはならないんだ」
「システム上はそんな感じかな。βテストの時は、自分の得意分野で名乗ってたな」
「そっか~。じゃあ、料理スキルが高ければ料理人て事になるんだね。がんばって料理人目指さないとだね!」
「ん。無理しない程度にがんばろう」
「は~い。あ、そろそろ昼休み終わるから自分の席に戻るね。続きは放課後にお願い」
「わかった。それじゃあまた後で」
こうして、雪音をUnlimited Worldに誘うという第一目標は達成されたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「お、雪姉、悠! 今帰りか!」
雪音を無事Unlimited Worldへと誘えた日の帰り道、俺達を呼ぶ声が後からかけられた。
「陸斗か。この時間にこの方向に歩いてるんだから帰り道に決まってるだろ」
声の主は陸斗。雪音の双子の弟で俺の幼なじみの一人であり親友だ。
「いやまあ、そりゃわかってたけどさ。ちゃんと雪姉は誘えたのか?」
「心配せずともちゃんとOKしてもらえたよ。なあ」
「もちろんでしょ、陸。むしろ誘ってもらえなかったら怒るよ?」
「それもそうだろうけども。雪姉ソフトの予約ができなかったってへこんでたじゃん」
そう、なぜ俺が誘う形になったかと言えば雪音が予約抽選に漏れたからである。βテスターの追加ライセンス申し込みが予約抽選の結果発表より後だったのは本当に助かった。あるいは、雪音のようにβテスターの知り合いで予約出来なかったユーザーへの救済措置だったのかもしれないが。
「そんなことよりも陸。陸もβテスターだったんだから私にライセンスくれてもよかったじゃない。なんで陸がくれないの?」
「いや、だって、やっぱり雪姉には悠から渡してもらった方が喜んでもらえるかと思って……」
「素直に追加ライセンスまでお金が足りなかったって言えよ陸斗」
「わ、バカ! ばらすなよ悠!」
「り~く~、あなたまた無駄遣いしてるんじゃないでしょうね?」
「無駄遣いなんてしてねーよ、ただちょっと欲しいゲームが色々あっただけで……」
そう、陸斗は俺達4人の中で最もゲーム好き、と言うよりもゲームが3度のメシより好きというゲーム馬鹿だ。Unlimited Worldを4人で始めようと決めて以降も色々とゲームを買いあさっていて、追加ライセンスまで買う余裕がなくなっていたと言うオチだ。もっとも、雪音の追加ライセンスについては俺からプレゼントしようと言うことは妹も含めた3人で話あって決めた事なので俺としては何の問題も無いのだが。
「まったくあなたはすぐお小遣い使い切って……。悠くん、ゴメンネ。ゲーム代は後でちゃんと払うね」
「あー、それについてはいいよ。普段から色々してもらってるしそのお礼と言うことで。たいした額じゃないし」
「……うーん、じゃあもらっておくね。ありがとう悠くん」
「それじゃこの話についてはこれで解決って事で! それで、今日はこれからキャラメイクかな、お二人さん」
小遣いの話について蒸し返されたくない陸斗は強引に話をそらそうとする。まあ陸斗の財布事情はどうでもいいので、ここは陸斗の話に乗ることにしよう。
「キャラメイクというかスキル関係について話すつもりではあるけどな。雪音、この後どうする? うちに来るか、それとも雪音の家に行こうか?」
「えーと、じゃあ私の家でいいかな? いろいろ聞きたいし、キャラメイクもできるならしたいから」
「了解、じゃあ一度家に帰ってソフトもって雪音の家に行くよ」
雪音や陸斗とは色々あって今では家族ぐるみでつきあいがあるという仲になっている。なので、お互いの家に遊びに行くというのも割と普段からあって、そこを意識するような事はほぼない。家も割と近所なので両親がともに不在の時などは一緒に御飯を食べたりもしている。
……とそんなことを話してる間に俺の家の前に着いてしまった。
「じゃあ先に家に帰って待ってるね。……陸、あなたは後でお小遣いの事についてお話ね」
「ちょっ、雪姉、待ってくれよ! 悠、お前からも何か言ってくれ!」
「……小遣いを使い切ったのは自業自得だろ。それじゃあまた後で」
姉に怒られることが確定した陸斗を残し、俺は自宅の中へと入っていくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「おかえりお兄ちゃん」
玄関を開け家の中に入ると、声がかけられた。
確認するまでもないが、うちの2つ年下の妹、遥華だ。
「ただいま。えっと……」
「雪姉はちゃんと誘えた? なら雪姉のキャラメイクだよね。晩ご飯までには帰ってこれそう?」
「そこまで長居をするつもりはないよ。晩ご飯は……どうしようか」
うちの両親は共働きのため、2人の帰りが遅い日は兄妹どちらかが作ることにしている。
ちなみに今日はその帰りが遅い日である。
「うーん、今日は私が作っておくから大丈夫だよ。でも、明日も遅かったらお願いね」
「わかった。だけどお前の方はいいのか?」
遥華も追加ライセンスを購入して友達を誘っているのである。
遥華の方は事前に話を通していて、ライセンス分の代金は別途もらうことになっていたはずだ。
いくらそんなに高くないとは言え、ゲームを友人にプレゼントするのはお互いそれなりに気を遣うものだ。
ましてそれが中学生ともなればなおさらだろう。
そういう意味では、俺と雪音の関係の方が特殊だと思う。
「うん、沙央理ちゃんにはもう一式渡してるから平気だよ。キャラメイクも帰ったらするって言ってた」
「そっか、なら大丈夫だな」
「キャラネームの決定は早い者勝ちだからね~。雪姉の名前も取れてるといいんだけど」
「まあ、そればかりはしょうがないからな」
基本キャラクターネームが重複不可能なゲームの場合、キャラクターネームは早い者勝ちだ。
βテスターの使っていたキャラクターネームについては引き継げるので問題ないが、βテスター以外の新規プレイヤーはこの競争に参加しなくてはならない。
……とはいえ、実際の所はβテスター以外の抽選で漏れたプレイヤーも、仮登録という形でキャラクターネームを登録出来ていたので、そこまで熾烈な争いが今から始まるわけではないのだが。
雪音もβテストに申し込みはしていたのだから、キャラクターネームはおさえているはずである。
「それじゃ、俺は着替えてゲーム一式もって雪音の所に行ってくる」
「はーい、気をつけてねー。っていっても、すぐそばだけど」
妹の間延びした声に送られて、俺は自室に戻り海藤家に行く準備を進めるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
ゲーム一式を持って海藤家を訪れた俺は、早速雪音のキャラメイクを始めた。
キャラクターネームの設定まではスムーズに終わったが、スキル選択のところでスキル選択画面で手が止まった。
「スキル選択まで来たけどスキルどうしよう?」
「基本的にスタート時に選べる最大スキル数は10個まで。そのうち最低1つは職業に合わせた戦闘用スキルを選ぶのが基本だな」
「そうなの?」
「戦闘用スキルが無いとそもそもまともに戦えないからな、このゲームでは。そういう訳で最低1つは戦闘用、というか武器スキルを選ぶ必要があるんだ」
「そうなんだ……。じゃあ私、
雪音はリアルで薙刀を使った護身術を習ってる。薙刀とは言っても、実際に使うときは棒状のモノであれば応用が利くので雪音は意外と強い。もちろん、素手での立ち回りもできるので武器になるモノがなくても相応の強さはある。だが、初期スキルには【槍】は存在するが【薙刀】は存在しなかった。
「薙刀か……。βだと【剣】の派生で【刀】があることは確認できてるから、あるとしたら【槍】の派生かな……」
「じゃあ武器スキルは【槍】で大丈夫そうだね。槍も薙刀も似たような感じだし。他のスキルはどうしよう?」
「一応おすすめスキルはあるけど、雪音はどういうプレイがしたい?」
「悠くんのサポートができるプレイスタイルがいいかな」
「……ってなると前衛から中衛よりのスタイルになるけど、平気か?」
「うん、いつもの事だし大丈夫だよ」
雪音が前衛系のプレイスタイルをとるのはいつもの事だ。これは俺が後衛系のプレイスタイルを選ぶ事が多いからなのだが。
その後2人で話あった結果、雪音の初期スキルは以下のようになった。
【槍】【鎧】【魔力】【風魔法】【回復魔法】【付与魔法】【体力上昇】【敏捷性上昇】【料理】【生産】
――――――――――――――――――――――――――――――
自宅に帰った俺は晩ご飯を食べ、寝る支度を調えた後に自分のキャラクリエイトをすることにした。初期スキルについてはβテストの時の経験からすでに選択済みなのでアバターの作成のみになる。そしてVR装置を取り付け『Unlimited World』を起動した。
俺のスキル構成はβテストのときの経験から既に決まっていた。具体的には以下の通りだ。
【銃】【格闘】【魔力】【水魔法】【風魔法】【回復魔法】【魔力回復上昇】【錬金】【調合】【生産】
生産をする上で便利な【器用さ上昇】はないが、序盤の生産アイテムについては【器用さ上昇】がなくても対応できる。序盤を過ぎればそれ以外の【錬金】【調薬】【生産】と言ったスキルボーナスで十分に補える……はずだ。
そして、正式版から追加になった種族選択で『獣人(狐)』を選択する。『獣人(狐)』の詳細としてはINT・MND・AGIが高く、STR・VITが低いと言う種族だ。STRとVITが低いと言う点が気になるが、魔法攻撃力が上がるINTが高いというのが魅力的だった。INTが高ければ何かとMPを消費する【錬金】や【調薬】でも活躍してくれるだろう。
種族を選択すると目の前のアバターが獣人のそれに変化する。頭の上には狐耳、そして背後には狐の尻尾と言った具合だ。身長や体型については見てわかるほどの変化はなかった。そこからさらに細部の変更が可能だったので、耳の先と尻尾の先の色を白に変えてみる。
そして初期職業をβ版の【メイン:
――――――――――――――――――――――――――――――
全員のキャラメイクが完了した後、俺達4人でそれぞれのフレンド登録をすませた。公式HPからVRギアを使い専用チャットルームにログインしていれば、サービス開始前でもフレンド登録可能だったのだ。
準備が終わった後は、3月下旬のサービス開始日まで学校に行ったり、春休みに入ってからは家事を色々したりなどして過ごした。俺達は高校への進学となるため、その準備もしっかりと行った。
そして、待ちに待ったサービス開始当日の朝となる。
「じゃあお兄ちゃんは、サービス開始と同時にログインじゃないんだ」
「ああ、開始後すぐの混雑の中じゃ雪音とも合流しづらいしな。1時間遅らせてログインすることにした」
「ふーん、私はサービス開始直後にログインして、スタートダッシュきめる予定だけど!」
「俺はそこまでするつもりないからな。どっちにしても次の街でつまるのは確定だろうし」
「まあそれはそれだよ。最初の街で装備更新できないとまともに戦えないもの」
「初期支給の初心者装備でもやり方次第でベアぐらいまでなら狩れるんだがなぁ」
「そこは効率の問題だよ、お兄ちゃん!」
妹と話をしていると12時が近づいて来たため、遥華は自分の部屋へと戻っていった。その後、俺は昼食の後片付けや晩ご飯の食材の確認などをしていると雪音から電話がかかってきた。
「こんにちは、悠くん。今大丈夫?」
「ああ、平気。どうかしたか?」
「えっと、たいしたことじゃないんだけど、向こうでの予定を確認しようと思って」
「ん、了解。まず最初にログインすると【始まりの平原】っていうフィールドに出るんだけど、そこで基本的なチュートリアルを受けることになるから、それをクリアする。その後はナビに従って移動すれば【始まりの街】に到着するからそこで合流しよう」
「わかったよ。でも、チュートリアルフィールドでは合流できないの?」
「チュートリアルフィールドは個人ごとに専用フィールドを作るはずだから、始まりの街まではプレイヤーとは合流できないはずだな」
「それじゃあチュートリアルが終わったらメッセージ送るね」
「ああ、了解。それじゃ向こうでな」
「うん、また後でね」
電話でのやりとりを終えると13時近くになっていたので自分もゲームを始めることにする。VRギアを装着し、ゲームスタートを選択する。すると少しの浮遊感とともにUnlimited Worldの世界へとログインしていくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ようこそ『Unlimited World』へ」
いつも通りな無機質な声がログインした俺を出迎えてくれた。しかし、いつもなら目の前にいた妖精型のサポートAIは見当たらない。バグというわけではなさそうだけど、何かあったのかな。
「こんにちは。それでいつもはサポートAIがいた気がするけどそれはどこに行ったのかな?」
キャラメイクの時のAIは簡易AIであるとは公式が明言しているので回答が帰ってくるとは思えなかったけど、一応聞いてみた。
「はい。今現在、多くのプレイヤーがログインしてきているため、混雑緩和のため事前にキャラデータを作成していただいている方にはサポートAIをご用意しておりません。必要でしたらご用意いたしますが、どうなさいますか?」
今更、あのサポートAIに出てきてもらってもなにもないしなぁ……と言うことでサポートAIは呼ばないでおくことにする。
「いやサポートAIはいいや。それよりゲームスタートを頼む」
「かしこまりました。生体認証確認……『トワ』様、キャラメイク時のデータでゲームを開始なさいますか?」
「もちろん。よろしく頼むよ」
「承知致しました。それでは『トワ』様、よき旅路をお祈りしております」
そのセリフとともに目の前が光輝き、再び軽い浮遊感のなか自分の体が転移させされていくのがわかった。
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