64.運営管理室室長との対話

「また、間の悪い時に届いたメールじゃな。差出人は誰じゃ?」

「あー、それが。運営管理室からだって」

「運営管理室じゃと? お主、今度は何をした?」


 失礼な。

 人をいつも何かをやらかしてるみたいに。


 とりあえず内容を確認してみるか。


 なになに、要約すると『あなたとお話ししたい方がいます。至急GMコールをお願いします』か。


 ……さすがに運営直々のメールだし、無視もできないか。


「それで、どうしたの、トワ」

「運営側で俺と話しをしたい人がいるんだってさ。ちょっとGMコールしてみる」


 仮想ウィンドウを開き、GMコールっと。

 やりなれてるから、ここまでの手順なんて覚えてしまってる。


『はい、こちらUnlimited World運営管理室です』

『あ、トワと言いますが……』

『トワ様ですね。少々お待ち下さい』


 対応、早すぎないか?

 そして、返答も早かった。


『これから運営管理チームの人間が一人そちらにお伺いします。少々お待ちください』

「えっ」


 GMコールが切れるやいなや。

 談話室の入口に一人の男性が現れた。


 本来転移できない環境から転移することが出来るのは、GMチームのみなのでこの人がこちらに来ると言っていたGMなのだろう。

 だが、が、本人であるなら……


「やあ、急な訪問になってしまってすまない。私は運営管理室室長、榊原直人だ。今日はよろしく頼むよ」


 まさかの運営管理室室長の登場に誰もが言葉を失ってしまった。


「あの、立ち話もなんですので、とりあえずこちらにどうぞ」


 いや、ユキ一人だけはいつも通りだった。


「急な訪問なのにすまないね。それでは失礼させてもらうよ」


 そう言って、室長は椅子に腰掛けた。


 え? この状況なに?



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「さて、今日、急に押しかけてしまうことになってしまった件なのだが、この動画を見たかね?」


 室長は1本の動画をこちらに向けて再生し始めた。


 なお、談話室にはライブラリメンバー全員が残っている。

 室長が『一緒に話を聞いてもらえると助かる』と言ったためだ。


 そして再生されている動画に映っているのは、先ほどライフルを買っていったロックンロールで……


「はぁ!?」


 柚月が動画内で起きた現象に声を上げる。

 声に出さなかっただけで、他のメンバーも同様に驚きを隠せていない。


「まず確認だが、この動画に映っている人物を知っているね?」

「知らないわけじゃないですね。先ほどあったばかりですから」

「結構、そして彼のもっている武器にも心当たりはあるね?」

「ええ、俺が作ったカスタムライフルですよね」


 そう、その動画にはロックゴーレムを1撃で倒すロックンロールの姿が映っていた。

 フルバーストを発動していたんで、1発ではなく3発ではあるが、ともかく一度のスキル行使でロックゴーレムに倒すシーンが映っていた。


「まず始めに。勘違いしないでほしいのだが、君を処罰するためにここに来たわけでないことを告げておこう。君がこのライフルを作成したときに不正行為がなかったことは、すでに調べがついているからね。もっとも、こちらの想定外の方法で作られているのは間違いないが」

「【魔石強化】ですか? むしろ、あれは銃の威力を強化するためのスキルでしょう?」

「ああ、その認識は間違いない。想定外だったのは、ライフルを作る際に使用することだったんだよ」

「? むしろ、ライフルのような複数の魔石を利用した銃向けのスキルに思えますが?」

「ああ、その認識も合っている。想定外だったのは、ライフルに使用した場合の攻撃力の上昇率だな」


 ライフルに使用した場合の上昇率が問題?

 どういう意味だ?


「質問、いいかしら?」

「ああ、構わないよ。そのために君達全員に残ってもらっているのだからね」

「それはどーも。上昇率が問題と言うけど、そういうのってテストしてあるんじゃないの?」


 柚月がもっともな質問をする。


「ああ、それなんだが。今、調べ直させているが、テスト漏れだったようだ。本当に申し訳ない」


 頭を下げる室長殿。


「テスト漏れっって……それじゃ、何で今頃になって発見されたのよ?」

「あー、それは俺が答えられるな。俺がたまたま今日、2つの銃種を開放してしまったことが原因でしょう?」

「遠因になるがそうなるな。まさか『魔砲銃』だけではなく『魔導銃』の製法をこのタイミングで入手するとは、誰も考えてなかった事態だったからな」

「誰も考えていなかったからって……俺は普通にクエストをこなしていたらチェインクエストとしてつながっていただけですよ?」

「そのチェインクエストを発生させるトリガーが問題だったのだよ。今更なので説明するが、『魔導銃』入手クエストのトリガーは、『ガンナーギルドランク10以上で魔砲銃作成イベントをクリア済み、かつ、マスクデータ含むINT合計が200以上の場合』だからね。このような条件を満たせるプレイヤーがいるとは考えていなかったのだよ。運営管理室は。」

「……マスクデータ含む合計INT200っていうのが引っかかりますが……」

「詳しい計算方法は明かせないが、君のINTは260を越えているよ。装備抜きでね」


 うわー、そこまでINTお化けだったのか。


「ちなみにだが、トッププレイヤー達の中にはもっと上のものもいるから安心してほしい」

「……安心できる要素が1つもないわね……」

「まあ、君のレベルでそこまでのINTを持つプレイヤーはいないかな」

「でしょうね。それで、わざわざ室長がおこしになった理由はなんでしょう?」

「そう邪推しないでくれたまえ。私が来たのは、私が最高責任者だからだ。交渉内容をいちいち上の人間に確認をとる必要がないからな。……あと、それから個人的に君のプレイスタイルが興味深いと言うのもあるかな。是非、会って話がしたかったのだよ」


 かなりはっちゃけてきたな。

 つまり、興味があるから仕事にかこつけて会いに来たと。


「……プレイスタイルと言われても、自分が楽しいと思えることをやっているだけですよ。他人に迷惑をかけない範囲で」

「迷惑はかけられていないが、驚かされてはいるのう」

「そうだねー。今日もまさか室長が来るとか考えたこともなかったよ」

「……まあ、そんなことはいいから。早く続きを」


 このまま放っておくと言いたい放題言われそうなので、先を促す。


「そうだね。では仕事の話をしようか。君にお願いしたいのは、まずあの改造ライフルの販売を自粛してもらいたいのだよ。あれは安い素材で、あまりにも強い武器が出来てしまっているからね」

「……自粛自体は構いませんが、いつまでですか? こちらも職人プレイをしてますのでずっととはいきませんよ」

「そこについては問題ない。本当に今し方なのだが、開発の方と修正パッチの開発・適用について話がまとまった。5月1日の午前中に極めて短い時間のメンテナンス作業で対応予定……というか本決まりだな。そのときまで、製造と販売を自粛してほしい」

「ちなみにパッチの内容は聞けるんですか?」

「構わないよ。どうせ、あと数十分もすれば公開される内容だ。過剰魔力を注がれた銃に関して、耐久度の減少幅を修正、と言う名の下方修正だな、それを行う。具体的には、今回のような改造を行った場合、2発で耐久値が全損するようになる。合わせて、こちらはバグ対応なのだが、ライフル系装備の場合、速射系スキルが1発しか発射されないようになる。こちらの対応は完全に我々のバグだったのでね」

「逆を言えば2発は撃ててしまいますが、それは問題にはならないんですか?」

「それぐらいは容認するさ。職人が考えて作り出した装備を全否定することも出来ないからな。それに、やろうと思えば、同じアイアン装備で同等の攻撃力をもつ近接武器だって作れるからね。必要筋力が1000を越えるけど」

「それ、バカでかい鉄塊で殴るだけじゃ?」

「そうとも言うね。とにかく装備条件を無視すれば、同じような武器は作成可能なんだよ。実際、今回の装備だって必要筋力に足りていないため、1発撃つごとに体を持って行かれるからね」


 銃の反動を抑えるのってSTR依存だったのか。


「本来ならDEXも相当じゃなければ使えなかったのだが……こちらについては装備で何とかしたようだ」

「ともかく来週の火曜日まで、あのカスタムライフルを作らなければいいんですね」

「そうなるな。それに火曜日のメンテナンスでカスタム結果についても上限を設ける予定だ。あのような壊れた性能の武器はもう作れないよ」

「別に作る気はありませんよ。……安い部品じゃなければ作れるんでしょう?」

「まあ、そういうことだ。部品の質さえ上がれば上限も上がる。ただそれだけだ」


 それなら問題はなさそうだ。


 自分用の武器は豪華な素材で作る予定だからな。


「それで、話はそれだけですか?」

「いや、まだある。まずはこの会談の内容について公表しても構わないかな? どちらかと言えば君にとするもの達を遠ざけるための処置になるが」

「構いませんよ。話してまずい内容は話したつもりありませんし」

「では、この会話の記録をとっている管理者に、会談内容をお知らせとして流すように伝えよう。それから次に、運営から君達に対する補償だ」

「補償? 私達補償を受けなきゃいけないような被害を受けてたかしら?」

「これから起こるであろう騒ぎに対する補償だな。いわば前払いだ」

「なるほどのう。それで補償とやらはどうするのかね?」

「これが難しい。君達にはゲーム内通貨を渡してもあまり意味がないし、素材を渡すとどうなるかわからない。何かほしいものの案はないかね?」

「いきなりほしいものと言われてもねぇ……」

「確かに。いきなり言われてもこまるのう」

「うーん、トワくんは何がいいと思う?」

「俺か、そうだな……」


 うーん、ほしいものか、言うだけならただだし、言ってみるか。


「上級生産設備、1人1つずつっていうのはどうだろう?」

「ふふ、そうきたか」

「無理なら無理で構いませんよ。入手方法は知ってますから」

「あら、トワももう知ってたの? 教授から聞いたのかしら?」

「普通に錬金術ギルドで聞いたよ。ギルドランク10以上で王都に行けば買えるって」

「ふむ、わしが聞いた情報と同じじゃな」

「私のとも一致するわね。……でも1人につき1つでいいの?」

「ああ、俺はもう錬金設備については頼んだから。ちょっと裏口から」

「……いったいどうやったのよ」

「ちょっとクエストのつながりで手に入った」

「ほう、そうだったのか。……うん、君達ならば後は王都にいければ手に入るようだからね、それでよければ用意させるよ」

「だそうだが、意見のあるものは?」

「まあ、ただでもらえるって言うんだから拒否する理由はないわね」

「そうじゃのう。むしろ、もらいすぎな気もするがの」

「ボクもさんせー」

「私もそれで構いません」


 なんだかんだ言っても、皆、上級生産セットはほしかったようだ。

 上級になれば品質限界もさらに上がるはずだし。


「それでは用意させるが、確認だが、調合・鍛冶・裁縫・木工・料理、以上5種類で間違いないかな」

「ええ、大丈夫よ」

「ああ、間違いないな」

「……それでは各自に対してアイテム付きのメールを送らせてもらうよ」


 その言葉と同時にメールが着信した。

 差出人はGMで中身は補償のためのアイテムとして上級生産セットを送ると言った内容だ。


 全員が着信したようで、それぞれ確認をとっている。


「……無事、送信されたようで何よりだ」

「ええ、確かに受け取ったわ」

「……さて、次のお願いなんだが……」


 室長は言いにくそうにしながら、やがて口を開いた。


「パッチ適用が終わるまでの間、アバターを変更してもらえないだろうか」

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