63裏.アップデート日の運営管理室
「ようやく終わったな……」
「さすがに3回目の延長は避けたかったからな……」
アップデート作業終了後の運営管理室。
そこにはようやく終わったアップデート作業への安堵に満ちていた。
今回のアップデートで一番厄介だったのは、生産系の経験値テーブルの修正作業だった。
「まさか、今までの累積を捨てさせる訳にはいかなかったからな」
「そうそう。おかげで結果の確認に時間がかかっちまった」
「でも、何とか終わらせることが出来てよかったわ」
改めて実装されることになった経験値テーブル。
それは、累積経験値で言えば、レベルが2~3倍になるようなものだった。
本来であれば、レベルを1上げてお茶を濁すつもりだったのだが、そうもいかなくなってしまった。
そのための確認作業に追われ、実に2回のメンテナンス延長を強いられたのだ。
少しぐらいは気を緩めてもいいだろう。
……彼らには
一仕事終えた、そんな達成感に部屋全体が浸っているなか監視AIからの緊急アラートが鳴り響いた。
「!? 今度はなんだ!?」
「ちょっと待て! 今、アラームの原因を確認している! ……原因はこれか!!」
「原因はなんだ?」
「『ライフルによる射撃ダメージが基準値を大きく上回った』ためらしい」
「ライフル? そんな装備あったか?」
「何を言っているのよ……ガンナー向けの装備の1つでしょう?」
「ああ、そうじゃなく。メンテナンス前までに『ライフルの流通復活クエスト』はクリアされてなかったよな。それなのに何で今ライフルが原因のアラートが発生するんだ?」
「確認するからちょっと待て。……どうやらメンテ明けすぐに『ライフルの流通復活クエスト』がクリアされてたらしい」
「メンテ明けすぐか……クリアしたのは『彼』か?」
「ああ、もちろん『彼』だ。と言うよりも、『彼』以外にクエスト発生条件を満たしているプレイヤーは存在していないしな」
「だろうな……ガンナーギルド、不遇過ぎるだろう」
「ああ、だが本題はそこじゃない。『彼』のログを追っていたが、『魔導銃』のレシピと関連スキルも取得しているな。メンテ明けから今までの間に、だ」
「……つまり、クエスト発生の前提条件はアップデート前に揃っていたってのか……」
「……さすが、ガンナーの需要を一手に引き受けているプレイヤーね……」
運営管理室、というか現在集まっている対応チームに、何とも言い難い空気が流れる。
フェンリルの一件から、まださほど時を置かず、また発生条件の難しいクエストをクリアされたのだ。
いっそ、開発か運営が情報を流している、そう言われた方が納得できる内容だった。
「『魔導銃』関連のクエスト発生条件ってなんだったか……?」
「今調べてる……あった、『ガンナーギルドランク10以上で魔砲銃作成イベントをクリア済み、かつ、装備補正抜きでマスクデータを含むINT合計が200以上の場合』だとよ」
「……『彼』のINT値が気になるところね」
「もう調べてる。マスクデータ込みで260を越えてやがる」
「……どうやったら、そこまで行くのかしらね。ガンナーなのに」
「メインジョブ関連のギルドに関しては、メインジョブと同じギルドにしか所属できないからな」
「それを言い出したら、最初からガンナー・錬金術士の組み合わせだったことからだな……」
「本当に関係者に知り合いがいないのか疑わしいよな……」
「開発の連中が『ファンタジーで銃なら火薬よりも錬金術だ!』って言って実装したんだったよな……」
「そもそも狐獣人で魔法職以外を選ぶ理由がわからん……なんだよ、このロマンキャラ」
「錬金術で作られた銃を持って戦う魔法使い。開発が描いていたロマンそのものね」
「いっそのこと、一般プレイヤーじゃなく、運営側に引き込みたいな……」
場の空気がさらに重くなる。
だが、いつまでも『彼』のことを気にしている場合ではなかった。
「とりあえずライフルが開放された理由はわかった。それで、アラートが鳴る原因になったのはなぜだ?」
「……どうやら、本来魔導銃に使われるはずの強化魔石を使い、ライフルを作成したのが原因のようだ」
「どういう意味だ?」
「魔導銃を作る際には普通の鑑定では見えない魔力値を操作する必要がある。それをクリアするために【魔石鑑定】と【魔石強化】があるんだからな」
「……ああ、そんな仕様だったのか。それで、それがどうかしたのか?」
「銃を作る際の攻撃力はこの魔力値から算出される。その際に普通の拳銃やライフルで【魔石強化】を使用した場合、攻撃力が上がる仕様だ」
「なるほどな。それで本来のダメージ計算式以上のダメージが出た、と。しかし、それだけでアラートが鳴るほどの威力になるのか?」
「いや、これにはもう1つの仕様が絡んでいてな。魔力値が等しい魔石同士で作成した場合、製造クリティカルが確実に発生する仕様なんだ。このクリティカルが発生したせいで本来ありえない攻撃力が出てしまったみたいだ」
「……高い魔力値をもった魔石同士の製造クリティカルが発生して、ありえない攻撃力がある武器が出来て、それを使った結果アラートが鳴るほどダメージが算出された。そういう訳か」
「でも、製造クリティカルが発生しても素材のレア度による限界値があったんじゃなかったかしら?」
「ああ、その限界値が正しく動作していなかったようでな……」
「つまり、現在は低ランク素材からでも高火力武器が作れる不具合が発生してるのね?」
「武器についてはそうなる。問題はそれだけじゃないんだが」
「まだ、問題があったのか?」
「ああ、それもこっちは完全にバグだ。ライフルは本来の仕様だと連射系スキルを使用しても1発しか発射されないはずだった。だが、今ライフルを使っているプレイヤーは、連射系スキルを装弾数分使えてしまっている。仕様上の挙動を満たしていない、完全なバグだな」
「なんだそれ? 今までどうしてそんな簡単な……ああ、そういうことか」
「ああ、今日までライフルが使えなかったために、バグが放置されていたんだ。誰にも気付かれずにな」
「テスター班はなにをやってるんだ!」
「あっちはあっちで大変だったのは知っているだろう? 実質未実装だったライフルの仕様チェックが漏れていたんだろうよ。……で、今回の一件どうする?」
「どうするも何も……製造自体は仕様通りなんでしょう? 連射系が使えてしまうバグはともかく、その作られたライフル自体をどうこうするのは難しいんじゃないかしら?」
「連射系スキルが使えるバグを直すにもパッチを用意できるまで時間がかかるしな。……仕方が無い、室長に相談だ」
「わかった。俺の方は念のため外部ツールの使用や改ざんが行われていないか調べてみる。……『彼』の絡んだ案件である以上、シロなのは想像に難くないんがな」
「俺達は室長の判断を仰いでくる」
「ああ、任せた」
そして、ツール使用の有無を確認するチームを残し、男は運営管理室室長の下へと急ぐのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「来たかね。待ちわびたよ。例のライフルの件だろう?」
室長である榊原はどこか楽しげに監視チームの男に告げた。
「室長もすでにご存じでしたか」
「ああ、と言うよりも多くのユーザーが知ってしまっている、と言うべきだろうな」
「は?」
「例の……そうだな、仮に『魔改造ライフル』とでも呼ぼうか。魔改造ライフルを使ってロックゴーレムに穴を開ける動画が出回っているんだよ。すでにね」
「な……」
「ゲーム内の体感時間は2倍だからな。動画の拡散も早かったよ」
榊原は笑みを隠そうともしない。
「それで、君はどうするつもりかね?」
「どうと申しますと……」
「少なくとも『彼』は不正を行っている形跡はなかったのだろう? ならば、あの銃は量産できてしまうと言う事だ。まずはそれを止めないといけない」
「しかし、量産を止めるにしても方法が……」
「一番簡単なのは『彼』のアカウントロックだろうな。ログインできなければ量産もできない」
「しかしロックを行うには根拠がありません。ログからは仕様通りの結果しか検出されませんでした。想定外のスキルの使用は認められましたが」
「それではアカウントロックする理由にはならないな。スキルをどう使うのかは個人の判断にゆだねられている。あえて言ってしまえば、そのような抜け道があったことに気がつかなかった我々の落ち度だ」
「はい。それは理解しております。ですが……」
「ガンナーは今回のアップデートで大幅な強化を行われたばかりだからな。大騒ぎになるのは目に見えているだろうよ」
「はい。ですが、それを止める有効な手立ては……」
「まずは、この動画に対しての見解を運営として示すのが先決だな。すでに多くの問い合わせがきている」
「……そうですね。『この動画については不正はなかった。ただし、仕様チェック漏れのバグがあった。』と言った回答でしょうか」
「そうなるな。そして、バグの内容を公表して利用中止を呼びかけるしかあるまい」
「では、すぐにそのように手配いたします。それで『彼』と『魔改造ライフル』ですが……」
「『魔改造ライフル』についてはすでに手配をしている。GMコールがきていたのでな。その対応として『魔改造ライフル』に譲渡不可属性をつけることになった。あとは所有者に、修正対応が終わるまでこれ以上使わないようにお願いするしかあるまい」
「そうですね……あとは、『公式からのお知らせ』として周知することでしょうか。まず、バグの内容を公表し、『あのライフルが出来たのはバグではない。しかし、攻撃時のスキル挙動にバグがあることが確認された。これ以上の該当バグの利用は不正行為と見なす』とでも発表しましょう」
「それぐらいだな我々に出来るのは」
「それで『彼』の方はどういった対応を?」
「そちらについても考えている」
それだけ言うと、榊原はおもむろに立ち上がった。
「あの、どちらに?」
「決まっているだろう。
**********
~あとがきのあとがき~
と言うわけで、トワが家具選びをしている裏側での運営の騒動でした。
正直、こういった裏側のお話を書く方が早いのはなんででしょうね。
(この話も普段の半分ぐらいの時間で書き上げた)
あと、話の中で何回か出てくる『アラート』ですが、
『武器の攻撃力から算出される限界ダメージ量を超えた場合にアラートが上がる』
という、監視システムです。
たまに馬鹿強い人がふざけて最弱装備で遊んでるときにアラートが出たりしています。
その場合はすぐに原因がわかるので問題はないのですが、今回は問題だらけでしたね。
主な原因は武器製造クリティカルの限界値が設定されていなかったせいですが、アラームが鳴ったのはフルバーストでゴーレムに穴を開けたときですね。
そして、ドンドン形を失っていくプロットェ……
今回の話で問題になってる仕様・バグが多いのでちょっとまとめ
1.銃作成時の【魔石強化】スキル使用
これはバグではなく仕様。
この方法を使えば本来の魔石では作れない攻撃力の銃を製作可能。
2.製造クリティカル発生時の攻撃力キャップ
本来は素材によって上限があるはずの上限値が正常に働かなかったバグ。
さすがに第2エリアザコの魔石で攻撃力300はありえないです。
3.ライフルで連射系スキルを使用したときに連射できてしまう
本来は連射系スキルを使用しても単発しか発射できないはずなのに連射できてしまっているバグ。
これはもう仕様を満たしていないので完全なバグですね。
4.武器使用時の耐久値消耗に上限がかかっている
本来なら武器使用時の耐久値消耗は使い方によって一発全損もありえるが一回の消耗に上限がかかっているバグ。
本来であれば魔改造ライフルの耐久値消耗はあんな少量ではないのですが、このバグによって最大耐久値の10%に抑えられていました。
これは他の武器種でも発生しているバグです。
社内テスト時に使っていたテスト用仕様が残ってしまっているバグですね。
……改めて並べてみるとバグ多いな()
ちゃんとテストしようぜ(
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