58.至高の魔弾を求めて 2

魔導銃マギマグナム』?

 また新しい銃種か?


「『魔導銃』は魔砲銃では出来なかった『弾丸に属性を込める』ことができるようになったのじゃ。これによりガンナーはさらなるステージへと進む事が出来るようになったのじゃ」


 確かに銃弾に属性が込められれば状況によって有利に戦えるであろう。

 だが……


「それってモンスターの耐性がある属性で攻撃した場合はどうなるんです? こちらの攻撃力が落ちることになるのでは?」

「その点は心配無用。『属性を込める』とはいっても元は純粋な魔力の塊。属性魔法のようにダメージの大幅な減衰は発生しないよ。……無論、多少は威力が落ちてしまうが」


 そこまで万能ではないけど、使い勝手が悪くなるわけではないか。


「では話を続けようか。まず魔導銃と魔砲銃の大きな違いは、銃身とグリップは専用のものを用意する必要があるという事じゃな。そして銃製造するときの魔石の数も2つから3つに増えておる」

「銃身とグリップが専用になるのは理解できますが、魔石が3つになるのはなぜですか?」

「良い質問じゃな。3つのうち2つは魔砲銃と同じく魔力を弾丸に変換して撃ち出すために利用される。儂はその部分を『機関部』と呼んでおる。そして、残りの1つは『機関部』から発射される弾丸に属性を付与するために用いられる。この部分は『属性部』と呼んでおるな」

「なるほど。それでは少なくとも『機関部』は魔砲銃と同じように、同じモンスターの魔石から作るのが望ましいと?」

「理解が早くて助かる。確かに『機関部』の作成には魔砲銃と同じ原理が用いられている。そのため『機関部』についてのみ考えれば魔砲銃と同じ理屈が通用するな」


 なるほど、すべてが新しい技術ではなくて既存の技術も流用していると。


「ここから先の説明は、まずレシピセットを渡してからの方が良いのでな。そちらを先に渡そう」


 オジジから魔導銃のレシピセットを受け取る。

 そこにあったレシピの数は合計5つ。

『魔導銃の銃身』、『魔導銃のグリップ』、『魔導銃の機関部部品』、『魔導銃の属性部合成』、『魔導銃の製造』の5つだ。

 しかもそれぞれの要求スキルレベル15以上、推奨レベルになるとスキルレベル25以上となっていた。


「見てもらった通り、魔導銃については必要となる部品も工程も多い。まずは『魔導銃の銃身』と『魔導銃の機関部部品』を鍛冶師に作成してもらい、また、『魔導銃のグリップ』を木工師に作成してもらう必要がある」

「はい、それはわかります」

「そうか、それで次からが錬金術師の作業になるが、『魔導銃の機関部部品』と機関部用の魔石2つを合成し『魔導銃の機関部』を作成する。そして最後に『魔導銃の銃身』、『魔導銃のグリップ』、『魔導銃の機関部』、属性部用の魔石1つ、以上の4つの部品を錬金術で合成すれば『魔導銃』の完成となる」


 これは思っていた以上に大変な工程だぞ。


「最後にそれぞれの部品の効果の説明だが、『魔導銃の銃身』は銃の耐久力、『魔導銃のグリップ』は扱いやすさ、『魔導銃の機関部』は銃の攻撃力、最後に属性部の魔石が攻撃属性を決定するものとなる」

「思った以上に大変な工程をふむんですね」

「だからこそ魔砲銃のさらに上を求めるものにしか教えないのじゃ」


 なるほど、これだけの工程を普通に作るのは難しすぎるな。


「それから魔石の属性についてだが、魔石3つの属性を全て同じ属性に揃えれば、その属性の魔力行使がしやすくなる。これは単純に属性魔法の攻撃力が割り増しになると考えればよい」

「ちなみに無属性で揃えた場合は?」

「着弾時に与える衝撃が大きくなる。攻撃力にはさほど影響を与えないが、本来の威力以上の衝撃が与えられる、と考えてもらえればよい」


 つまりヒットストップの効果が高くなると言うことか。


「ああ、もう1つ大事なことが。属性部の魔石だが、それなり以上の高品質品を用いれば『機関部』から発射される弾丸の威力を上げることができるのじゃ」

「つまり魔石は可能な限り魔力値を高めてから使った方がいいと」

「そういうことになるな。それからこれは全ての銃における基本だが、銃の攻撃力に対して銃身の耐久力が足りなければ壊れやすいことを忘れるでないぞ。魔石の魔力値を高めすぎた結果、簡単に壊れる銃になってしまっては本末転倒だからな」


 まあ、それは基本だが重要な事だろう。


「ちなみに、魔導銃を作る場合にもっとも適した銃身や機関部部品の素材って何になりますか? どちらも金属由来のパーツのようですが」

「そうじゃの、基本的には魔力伝導率が高い素材を使う方が良いものになる。簡単に手に入りそうなもので言えば、金属部は純ミスリル銀に、グリップはトレント系モンスター素材が良かろう」


 この辺も魔砲銃と一緒か。


「じゃが簡単にものを含めれば話は別じゃ」


 え、ここに来て新しい情報?


「金属部については純ミスリルのインゴットと純金のインゴットを錬金術か鍛冶で混ぜ合わせた『ミスリル金』で作れば、より効果は高くなるぞ。ミスリル金はとても柔らかいため、普通の武器に使うには不向きだが、魔法触媒系の武器を作る際には役立つ。なにせ、魔法伝導率が極めて高く、魔法の行使においてはほとんど耐久値を消費しないからな」


 ……これってさらっととんでもない情報なんじゃなかろうか。


「それから優れた鍛冶師ならば『ハードコート』と呼ばれるスキルを扱えるはずじゃ。完成品に『ハードコート』をかければ、物理的な接触に対しても優れた耐久性を示すじゃろう」


 さらにすごい情報が出てきたな。

 これは帰ったらドワンに報告しないと。


「ちなみにその『ミスリル金』のレシピは手に入りますか?」

「ミスリル金の製法はそれぞれ錬金術ギルドと鍛冶ギルドの取り扱いになる。相応の実績がなければ手に入らないだろうな」

「そうですか……」


 これはギルドランクを上げるべき案件か?


「なに、ミスリル金のレシピがほしいのであれば紹介状を書いてやろう。錬金術ギルドと鍛冶ギルド両方のな。少し待っておれ」


 そう言ってオジジは奥の机に向かい、そこで紹介状を書いてくれているようだ。

 問題はそれでどこまで融通が利くかだな。


 しばらくの間、魔導銃の製造についてあれこれ考えていると、オジジが紹介状を2通持って戻ってきた。


「ほれ、これが紹介状じゃ。こっちが錬金術ギルド用、こっちが鍛冶ギルド用じゃ。……あと、それから魔導銃を作りたいなら上級の錬金セットがないと厳しいぞ。一般的な品質程度で良ければ中級錬金セットでも十分じゃが、高品質な魔導銃を製造したければ上級錬金セットは必須じゃろうな」

「……本当ですか?」

「嘘をついても仕方があるまい。まあ、上級錬金セットが必要になってくるのは最後の魔導銃製造の部分だけで、他の中間部品については中級生産セットで十分じゃがな」


 ……錬金設備の更新か……

 お金は何とかなるだろうけど、問題は売ってもらえるかだよな……


「なに心配には及ばん。錬金術ギルド向けの紹介状に上級錬金セットの融通についてもしたためておいた。ギルドに十分認められていれば、そちらも都合してくれるじゃろう」


 問題は『十分な』レベルがいくつかだよな……

 ギルドランク12に上がったばかりだけど、それで足りるかな……


「さて魔導銃についても講義はこれで終了じゃの。何か質問はあるかね?」

「じゃあ、金属部の部品をミスリルとアダマンタイトの合金で作った場合、純ミスリルと比べてどうなりますかね?」

「そうじゃの、金属としての強度は上がるので耐久性は上がるが、魔力伝導率は下がるな。それゆえ、攻撃時の反動による銃身へのダメージと攻撃力の低下が考えられるな。儂はそのような合金で作ったことはないので想像になるがの」

「そうですか、わかりました」


 うん、第一候補だったミスリル・アダマンタイト合金は却下と。


「他には何かあるかね?」

「……じゃあ直接は関係ないことですが、なぜこんな場所で隠居生活みたいなことをしてるんですか?」


 ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「……ふむ、それについてはガンナーギルドとの意見の食い違いというやつじゃ」


 意外と重い話だったりするのか?


「儂は自分で開発したこの魔導銃の良さを広めるためにギルドでも取り扱うように掛け合った。だが、他のもの達は反対してな……それ故、儂はガンナーギルドを抜けここで暮らしているというわけじゃ」

「……その割にはアメリアさんはこの場所を簡単に教えてくれましたが」

「儂の目的は魔導銃の普及じゃからな。魔導銃を求めるものには門戸を開いておる。それにアメリアとは月に一度程度は会うのでな」

「……ちなみに反対したのって?」

「儂以外の妻や息子、娘達全員じゃな」


 つまりは家族喧嘩かよ。


「……まあ、他のもの達の言い分もわかるのじゃがな。魔導銃これを組み立てるには、相応の腕前を持った職人達が多数必要じゃ。それに、他の銃に比べて多数の魔石が必要なのでな。『原価が高くて売り物にならない』と言われてしまえばその通りじゃ」


 うん、魔砲銃の時点でピーキーなのに、それ以上にピーキーかつ原価が高い銃なんて作ってられないよな。

 こればっかりは、他の家族の方が正しいと思うよ。


「……さて、愚痴はここまでにして質問がなければ実践に移ろうかの。まずはレシピセットから、錬金術師用のレシピを取得するが良い」

「はい……取得しました」

「結構、それでは実践じゃ。ここに全ての部品がそろっておるので、これより魔導銃を完成させるがよい」


 おれは渡された素材を全て確認してみる。

 ……アイアン製の銃身と機関部部品にアカヒグマの魔石が3つか。

 これは魔石強化で、強化してしまうと銃身と機関部がもたないな。

 そして品質は全て★4か。


「そうそう、ここに携帯用じゃが上級錬金セットがあるのでこちらを使うがよい」


 渡された携帯上級錬金セットを使い、まずは機関部を合成する。

 出来たのは『魔導銃の鉄製機関部(アカヒグマ)』の★4品。

 ここまではまずまずの結果か。


「ほう、初めての合成で★4とはなかなかの腕前じゃな」


 これで最終組み立ての部品が、全て★4でそろった事になる。


 よし、魔導銃製造に移ろう。


「ほほう、これはなかなかやりおるわい」


 なんだ、このMP消費は!

 久しぶりに錬金術で引き摺られるような感覚を味わってるぞ!


 1回の錬金術で使用されるとは思えない量のMPを消費して、出来たのがこれだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 アイアンマギマグナム(アカヒグマ) ★3


 鉄の銃身とアカヒグマの魔石からできた魔導銃


 攻撃属性:火

 火属性攻撃ボーナス小


 MATK+40

 耐久値:100/100


 ―――――――――――――――――――――――


 MPを確認してみると合計150近いMPを消費していた事がわかった。

 魔導銃の外観はマグナムの名にふさわしく、リボルバー式の大口径ハンドガンといったところか。

 こちらも実銃よりSFっぽい外観になっているな。


「大抵の者はMP枯渇で製造に失敗するというのに。よく完成させることが出来たものじゃ」


 そういうことは早く言ってほしい。

 だが、MP150消費というのは、普通のプレイヤーじゃまかなえないんじゃなかろうか。


「とりあえず、出来ました。……攻撃属性が火になっているのはアカヒグマの魔石が火属性だったからですか?」

「なんじゃ、魔石鑑定はしておらんかったのか。アカヒグマは火属性じゃよ。と言うよりも、一定以上の強さをもったモンスターであれば、大抵何かしらの属性をもった魔石をもっておる。たとえ、普段はその属性を扱えなかったとしてもな」


 ……意外と無属性の強力な魔石って少ないんじゃなかろうか。


「それでは実践も終了じゃな。その魔導銃はお主が持っていくがよい」


〈チェインクエスト『至高の魔弾を求めて』をクリアしました〉

〈魔導銃を入手したことにより【銃】スキルの派生技能に【魔導銃】が追加されました〉

〈条件をクリアしたため、1次職に【魔導銃士】が追加されました〉


 ―――――――――――――――――――――――


 チェインクエスト『至高の魔弾を求めて』


 クエスト目標:

  第2の街のガンナーギルドにて紹介状を受け取る

  第4の街のガンナーギルドで紹介状を『アメリア』に渡す

  とある場所にいるガンナーに会い、その教えを受ける

  実際に魔導銃を製造し完成させる

 クエスト報酬:

  魔導銃

  1次職【魔導銃士】への転職可能


 ―――――――――――――――――――――――


「さて、一通り魔導銃について教え終わったわけじゃが。他に何かあるかの」

「……そういえば、錬金術師じゃないガンナーがここを訪れた場合、最後の魔導銃製造部分の実践はどうするんです? まさか、錬金術師と一緒に来てもらうんですか?」

「そういうことになるな。ガンナーにとっては優れた職人との縁は大事な要素であるがゆえ。他に聞きたいことはあるかね?」

「……いえ、今日のところは大丈夫です」

「そうか。それでは約束の資料を渡そう。また何かあればここを訪ねるとよい」

「はい、そうさせていただきます」


 俺はオジジの小屋を後にした。

 MPの急激な消費による軽い貧血のような症状を抑えるため、MPポーションを1本飲み干す。


 その後、錬金術ギルドに向かうため、第4の街へと戻るのだった。



**********


~あとがきのあとがき~


魔砲銃(マナカノン)と魔導銃(マギマグナム)の特徴の説明です。

これがないと何が何だかよくわからないと思いますので。


魔砲銃

魔力を弾丸にして攻撃・クリティカルダメージに補正(マスクデータ)・攻撃属性は無属性魔法扱い


魔導銃

魔力を弾丸にして攻撃・魔法使用時に威力増幅効果(マスクデータ)・攻撃属性は作成時の魔石の属性による


ざっくりまとめ

武器として殴るのに使うなら魔砲銃、魔法の増幅装置として使うなら魔導銃

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る