57.至高の魔弾を求めて 1

「地図によれば、この辺なんだけど……」


 俺はガンナーギルドでもらった地図を頼りに、森の中の獣道を歩いていた。

 場所は第2の街と第4の街の中間にある森。

 大体の位置関係としては、試練の大狼がいる湖より第4の街寄り、エリアボスより手前だ。


 こんな場所に獣道なんてなかった気がするが、そこはゲーム。

 何かクエストなどのトリガーを引いてないと発見できない類いなのだろう。


 とにかく、俺はもらった地図と自動記録式のマップを頼りに歩いている。

 たっぷり1時間は歩いただろうか、ようやく目的地であろう小屋を発見した。


「ごめんくださーい!誰かいますか!」


 俺は小屋の扉に向かって叫ぶ。

 だが人が反応する気配はない。


 念のためもう一度呼びかけて、ドアをノックしてみるが相変わらずだ。

 ひょっとして留守なのだろうか。


 クエストで訪れて、そこの住人が留守……ここの運営ならあり得そうだ。

 このままここで住人の帰りを待ち続けるか、出直すか。


 そんな事を考えていたそのとき、


「グガァァァァァ!!」


 小屋の裏手側よりモンスターのものと思しき叫び声が響いてきた。


「チッ、今の叫び声は、タイガーベア!!」


 ソロで相対するのはさすがに厳しいが、そんな事も言ってられない。


 俺はすぐにシリウスを召喚して小屋の裏手側にある森へと分け入る。


 するとそこには、予想通りタイガーベアと、もう1人老境に差し掛かったように見える人物がいた。

 タイガーベアは老人を遠巻きに威嚇し、老人の方もこれと言って動きがない。

 ただ、老人の方は訳ではなく、あえてでいるのだろう。

 そのたたずまいからは、歴戦の戦士を思わせるような、威風堂々とした雰囲気を感じる。


 俺はシリウスに命じて自分とは反対側に移動させて、タイガーベアと老人の様子をうかがう。


 先に仕掛けたのは、やはりと言うべきか、タイガーベアだった。

 老人はタイガーベアの突撃を受けて吹き飛ばされるが、難なく着地する。

 おそらくあれは、自ら後ろに飛んで衝撃を逃がしたのだろう。

 俺もよくやる手段だ。


 老人にほとんどダメージを与えられなかったのが気に入らないのか、タイガーベアはその両前足の爪で引き裂きにかかる。

 しかし、老人はそれを難なくかわした後、タイガーベアの懐に潜り込み、その巨体を吹き飛ばした。

 老人の手には1丁の銃が握られていた。


 吹き飛び方からしてみて、おそらくチャージショットを使用したのだろう。

 ただ、その威力は格別ではあったが。

 それにチャージショットを撃ちこんだはずなのに、その銃から発射された弾丸は巨大な火球のように見えたが……


 老人の実力がわかった以上、黙ってみている必要はない。

 明らかに老人の方が格上で、タイガーベアを倒すのは時間の問題だろうが、助けに入らない理由にはならないからね。


 俺はそのまま木の陰に隠れたままタイガーベアに対して拘束魔法を放つ。


「ライトニングバインド!」


 タイガーベアは吹き飛ばされて、ひっくり返ったままその身を拘束された。

 やっぱり俺の魔力INTなら難なくタイガーベアを拘束できるみたいだな。


 タイガーベアを拘束した後は、完全なワンサイドゲームだったよ。

 拘束に合わせてシリウスが飛び出し、タイガーベアに攻撃を加え、俺も追撃の魔法を放つ。

 そして老人の方からも追撃の銃撃が飛んできた。


 あれはフルバーストのようだな。

 ただし、威力は俺の知るフルバーストとは比べものにならなかった。

 それにやはり老人の銃から打ち出された弾丸は、普通の銃弾でも魔砲銃の弾丸でもなく火球と呼ぶべきものだった。

 もっとも、タイガーベアに着弾すると同時に消え去ってしまい、燃え広がるような事はなかったが。


 結局、タイガーベアはライトニングバインドの効果が切れる前にポリゴンとなって消えていった。


 インベントリを確認したが、タイガーベアのドロップは確認できなかった。

 やはりイベント戦闘扱いみたいだったようである。


「助太刀感謝するぞ、若いの」


 そんな事を確認していると老人の方から声をかけられた。


「いえ、気にしないでください。それに助太刀なんてしなくても1人で十分に勝てたでしょう?」


 そう、これは割り込む必要のなかった戦いだ。

 だからといって、ただ見ているのも何なので割り込んだだけだ。


「ほっほっほ、確かに儂1人でも勝てる相手じゃが、助太刀がなければもう少し時間がかかった。そういう意味でも、助太刀は助かったわい」

「それは何よりです。おじゃまをしたなら申し訳なかったですから」

「そのような事は気にせんでよい。それでこのような人里離れた辺鄙な場所に何用じゃ? 迷子というわけでもあるまい」

「ええ、第4の街のアメリアさんからこの辺りの場所を示した地図を渡されまして。それで、ここにある小屋の主はあなたで間違いないですか?」

「さよう。して、アメリアからの用事とは何事かな? 孫が生まれたとかであれば嬉しいのだが」

「残念ながら、そんな話ではありませんよ。俺がここを訪れたのは、魔砲銃の作り方に詳しい人物がいると聞いて、第2の街のガンナーギルドマスター、メリッサさんから紹介された事が始まりですよ」

「なるほどのう。メリッサからの紹介か。それならば邪険に扱うこともできまい。儂の小屋に一緒に来るとよい。せっかくタイガーベアを倒せたのじゃ、熊鍋でもごちそうしてあげよう」


 ほっほっほと陽気に笑いながら小屋の中に入っていく老人の後を追い、俺も小屋の中へと入っていった。


「どれ、熊鍋を作ってやるので少し待っておれ。……そういえば名前を聞いてなかったの?」

「ああ、すみません。俺は異邦人のトワ。この狼はシリウスと言います」

「ふむ、その狼から感じる気配。その子狼はフェンリルの幼体じゃな? またすごいものを従えているものじゃ」

「運がよかっただけですよ。……ところでご老人、あなたのお名前は?」

「儂は世俗を捨てた身、名前も捨てたよ。……とはいえそれでは呼びにくいか。『オジジ』とでも呼んでくれ。これから熊鍋を作ってくるからそこに座って待っておれ」


 それだけ告げると、オジジは奥へと消えていった。

 このまま突っ立っていてもしょうがないので、言われた通り椅子に座って待つことにした。


 待ってる間にドワンとイリスから、頼んでいたものが完成したとメールが届いたりもしたが、待ち始めてから30分ほどでオジジは熊鍋を持って戻ってきた。


「さあ、儂から話を聞きたかろうが、まずは腹ごしらえといこうではないか」

「ええ、それではいただきます」

「うむ、たんと食べるがいい。そこの子狼にもわけてやろう」


 オジジは小皿に熊鍋を取り分けて、シリウスの前に置いた。

 シリウスは喜んで熊鍋を食べ始める。


 シリウスの様子ばかり見てないで、俺も熊鍋を食べることにしよう。


 ……

 …………

 ………………


 熊鍋を食べ終えた後、後片付けを終えたオジジは俺の対面へと座り、話始めた。


「まず、お主が何故より強い魔砲銃を求めているのか、聞かせてもらおうか。異邦人であるならば、より強い力を求めてのことじゃろうが……」

「それもありますが、一番の理由は目の前により大きな謎が転がっているからですかね。だって、魔法の力を使う銃と言うだけでも面白いのに、それをより詳しく教えてもらえるというなら飛びつかない理由はないでしょう?」

「つまりは知的好奇心を満たすためか」

「端的に言ってしまえばそうなりますかね。いけませんか?」


 オジジは少し考えるようなそぶりを見せるが、


「それならばなお良い。単に強さを求めるだけではないのじゃからな」


 どうやら俺の答えはオジジに気に入られたみたいだ。


「ふむ、普通であれば魔砲銃の構造について教えるだけじゃが、お主にはもう一歩踏み込んだ内容を教えてもよさそうじゃの。錬金術の腕前も初級とは思えないほど熟達しているようじゃしの」

「それはありがとうございます」

「よいよい。それでは奥の部屋で教えてやるとするかの。着いてこい。ああ、その子狼は送還してもらえると助かる」


 その言葉に従いシリウスを送還した俺は、オジジの後に続き奥の部屋に足を踏み入れる。

 そこは、所狭しと様々な資料らしき紙の山がおかれた部屋だった。


 その部屋にはテーブルと椅子がおいてあり、そこに座るように勧められたので椅子に座る。


「さて、まずは基本のおさらいじゃ。魔砲銃を作る際には同じモンスターの魔石を使わなければならない。それは知っておるな?」

「はい。それから、魔石の品質も合わせた方が性能が良くなることも知っています」

「ふむ、品質による性能の変化にも気付いておったか。……実験して確認をしたのじゃな?」

「ええ、そうです。この程度の実験なら、すぐにできる環境にいますので」

「結構、大変よろしい。では、次のステップに進もう。……その前にこれを覚えたまえ」


 オジジは2つのスキルブックを俺に渡してくる。


「これは?」

「『魔石鑑定』と『魔石強化』のスキルブックじゃ。儂しか製造方法を知らぬはずのスキルブックじゃな。……ああ、スキルブックは量産しようと思えばできるから気にせずに使いたまえ。それにそれらのスキルがないと、次のステップに移れないからな」


 そういうことなら、使うしかないだろう。

 スキルブックを使用して【魔石鑑定】と【魔石強化】を覚えたのを確認したオジジは、続きを話し始める。


「さて次のステップじゃが、まずこれらの魔石を『魔石鑑定』で鑑定してみよ」


 渡されたのは★2と★3のウルフの魔石、それから★2のキラーマンティスの魔石だった。

 ここは素直にオジジの言葉に従い魔石鑑定でこれらの魔石を鑑定してみた。


 ―――――――――――――――――――――――


 ウルフの魔石 ★2


 ウルフの体より取り出された魔石


 属性:無属性

 魔力値:4


 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――


 ウルフの魔石 ★3


 ウルフの体より取り出された魔石


 属性:無属性

 魔力値:6


 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――


 キラーマンティスの魔石 ★2


 キラーマンティスの体より取り出された魔石


 属性:風属性

 魔力値:24


 ―――――――――――――――――――――――


 その鑑定結果には、普通の鑑定では表示されていない『属性』と『魔力値』と言う項目が追加されていた。

 ちなみに、普通の鑑定でウルフの魔石を鑑定してみた結果はこれだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 ウルフの魔石 ★2


 ウルフの体より取り出された魔石


 ―――――――――――――――――――――――


「普通の鑑定結果に属性と魔力値という項目が追加されているはずじゃ。魔砲銃を作成する場合には、これらの内容が重要になってくる」

「オジジ、この鑑定結果は?」

「そうはやるでない。今から説明する。『属性』というのは、その名が示す通りその魔石が持っている属性じゃな。基本的に魔石の元となっているモンスターと同じ属性であることが多い。『魔力値』はその魔石がどれだけの力を持っているかを示す値じゃ」

「これらと魔砲銃の間にどのような関係が?」

「まず、大前提として、魔砲銃を作る際に別のモンスターの魔石が使えなかったり、魔石の品質が違うことにより性能が下がるのは、魔力値が異なるためじゃ。魔力値が大きく異なれば作成そのものが失敗するし、多少でも違えば完成品の品質が下がる。細かい内容については後で資料を渡すのでそれを確認するとよい」

「わかりました。それで属性とはいったい何ですか?」

「属性は魔砲銃を作る際にどの魔力に変換されるかを決める項目じゃ。もちろん、魔砲銃を作成する際に別の属性同士を混ぜ合わせようとすると反発しあい、魔砲銃の作成は失敗する。それから魔砲銃では、属性がある魔石同士を使って魔砲銃を作成しても、属性の効果が弱く、無属性の弾丸しか発射されないがの」

「逆を言えば、属性が同一で魔力値が近い魔石2つであれば、魔砲銃の作成は成功すると?」

「そうなるな。しかし、モンスターの強さが異なれば基本的に魔力値は大きく異なる。例えある程度近かったとしても、魔石の相性というものに阻まれて作成は成功しない」

「それでは魔力値を鑑定できても意味がないのでは?」

「そこを補うのが『魔石強化』じゃ。試しに★2のウルフの魔石に魔石強化を使い、魔力を込めてみよ」


 言われるがまま、ウルフの魔石に魔力を込めてみる。

 すると、ウルフの魔石の魔力が高まっていくことが感じられ……魔石が粉々に砕け散った。


「魔力を込めすぎじゃ。……いや、魔力が高すぎるがゆえの弊害か。常人ではこんなに早く、魔石が砕けるほどの魔力を込めることはできないからな」


 こんなところで魔力INTが高い弊害が出るとは。


「新しいウルフの魔石を渡そう。今度はもっとゆっくり少量ずつ魔力を込めてみせよ」


 オジジの指示に従い、先ほどよりも少量の魔力をゆっくりと魔石に注ぎ込む。

 数秒ほど魔力を込めてみたが、今度は砕け散ることはなかった。


「ふむ……おそらく、その品質の魔石では限界に近い量の魔力が込められているようじゃが……とりあえず魔石鑑定で結果を確認するとよい」


 そう言われたので魔石鑑定を魔力を込めた魔石に対して実行する。


 ―――――――――――――――――――――――


 ウルフの魔石 ★2


 ウルフの体より取り出された魔石


 属性:無属性

 魔力値:11


 ―――――――――――――――――――――――


 すると、鑑定結果の魔力値が4から11に上がっていた。

 最初の魔石は壊れてしまったが、後から受け取った魔石も★2だったので元の魔力値はほぼ同じだったはずだ。


「魔力値が上がっているのが確認できたようじゃな。魔石強化はこのように魔石内に込められている魔力量を制御する技術じゃ。魔石強化といっているが、逆に魔石から魔力を抜き出すことで魔力値の値を下げることも可能じゃぞ」


 試しに★3ウルフの魔石からほんの少しだけ魔力を抜き出してみる。

 その後の鑑定結果はこれだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 ウルフの魔石 ★3


 ウルフの体より取り出された魔石


 属性:無属性

 魔力値:3


 ―――――――――――――――――――――――


 ほんの一瞬の抜き取りだったが魔力値が3も下がってしまっていた。


「無事、魔力を抜き出すことに成功したようじゃな。どの魔石にどれぐらい魔力を込めることができるのかは自分で研究してみるがよい。それでは次に、魔力値を合わせた別のモンスターの魔石同士を使った魔砲銃の作成だが……これは実際にやって見せた方が早いな、少し待っておれ。すぐに準備する」


 部屋の隅にあった箱の中から魔石2つと銃身、それからグリップを取り出したオジジはテーブルの上にそれらを並べた。


「まずはこれらの魔石を魔石鑑定してみるとよい。違う種類のモンスターの魔石であるが魔力値が同じになっているのがわかるはずじゃ」


 言われるがまま魔石鑑定を行う。

 すると、この2つの魔石がグレイウルフとウルフという違うモンスターの魔石であるにもかかわらず、同じ魔力値であることがわかった。


「同じ属性かつ同じ魔力値の魔石同士で魔砲銃を作成すれば、魔砲銃の作成は成功する。試しにやってみるがよい」


 指示に従い錬金術を発動し魔砲銃製造を試してみる。

 すると魔石の種類が違うにもかかわらず銃の作成は失敗せず、魔砲銃が完成した。


「結果はみての通りじゃ。同じ魔力値に仕上げるのは修練がいるが、揃えることができてしまえばこの通り魔砲銃を作成できると言う事じゃな」


 これは今までの前提条件を覆す内容だな。

 だがしかし……


「まあ、気がついてると思うがこんな方法で魔砲銃を作るのは、非常に手間がかかる上に難しく、はっきり言って割に合わない。しかし、ここからが大事な内容になる」


 オジジは一度間をおき言葉を続けた。


「魔石の魔力値を上げた魔石同士で作成した魔砲銃は素材になった魔石の魔力値が高いほど攻撃力が増す、そういう性質を持っている。もちろん同じモンスターの魔石同士を組み合わせるときもな。そのときもやはり、力値は近い方が好ましい。同じモンスターの魔石であれば多少の誤差は問題ないがな」


 つまり『魔石強化』で魔力値を上げれば、今までよりも強力な魔砲銃を作れるということか。

 魔石強化を練習して、1ポイント単位で合わせる必要があるから要練習だが良い情報だな。

 あとは、どの程度の魔力を込めると魔石が壊れるのかも調べないといけないな。


「さて、ここまでが魔砲銃についての説明になるが……ここまでで質問はあるかね?」

「いえ、質問はありません。後は帰ってから実践で試してみたい事ばかりなので」

「結構。ではに移ろう」

「次のステップ? 魔砲銃の事についてはもう終わったのでは?」

「うむ。魔砲銃については話し終えた。なので魔砲銃のについて説明しようと思ってな」


 魔砲銃の先ってなんだ……?


「魔砲銃の先にあるもの。すなわち、魔砲銃を改良した魔砲銃のそれこそが君に伝えるべき技術、『魔導銃マギマグナム』じゃ」



 **********


 ~あとがきのあとがき~


 魔砲銃(マナカノン)と魔導銃(マギマグナム)。

 名前は似ていますが中身は全くの別物です。


 ……なんでこんなややこしい名前をつけたんでしょうね()

(作者も時々間違えてる)


 それぞれの銃の特徴については次回のあとがきのあとがきで説明します。

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