29.月曜日の学校 ~日常と非日常~

 明けて月曜日。

 今日はいつもの3人+遥華で学校に向かうことにする。


「いやードワンさん達が装備を引き受けてくれて助かったよ。最近は質のいい装備、なかなか手に入らなくてな」

「それはよかったな。でも、素材持ち込みだろ? 素材を手に入れるアテはあるのか?」

「まずは金属装備の更新のために鉱山ダンジョン最下層付近を周回だな。その後で布系や皮系を集めるつもりだ。木材については……自分達で何とかするのは難しいから市場だよりだな」

「木材だったらトレント材って手もあるよ、陸斗さん。それだったらモンスター倒すだけで手に入るし」

「あー、プラント系のドロップって言う手もあったか。サンキュ、遥華ちゃん」

「どうでもいいけど、持ち込み分の素材は個人契約の買取とは別枠でもっておけよ。間違えて買取に出された分までは考慮しないからな」

「はいはい、わかってるって。それで、悠達は今日からはどうする予定なんだ?」

「とりあえず同盟と個人契約の売買リストを作成したから、それで問題ないかの確認。それが終わったらお店に出す分のポーション類を作成。さらに時間が余ったら鉱山ダンジョンに行ってスキル上げと鉱石集めかな」

「お兄ちゃんもなかなか忙しそうだねー。ちなみに、雪姉の予定はどうなってるの?」

「悠くんが作業している間は、料理の作り置きかな。それで悠くんが鉱山ダンジョンに行くことになったら、一緒に行くことになるのかな」

「……ダンジョンでデートって言うのもなんだかあれだね」

「いや、多分、鉱山ダンジョンに行くことになったら、いけるメンバー全員で行くからな。2人きりになることはないと思うぞ」

「……そこは2人きりで行くとかさぁ」

「あんな殺風景なところでデートなんかできるか」


 最近はこの4人で集まるとゲームの話題になることが多い。

 やっぱり全員で同じゲームをやっているというのが大きいのだろう。


「そういえば、2人は今どこら辺にいるんだ?」

「んー、わたし達は王都に到着したけど、その手前のMAPで狩りしてることが多いかな」

「俺達は王都周辺だな。だが、PT全体としての力量差はあまりないぞ。あえて言うなら、俺達の方が装備の質が若干いい分、強い敵と戦えてるぐらいで」


 ふむ、それはいいことを聞いた。

 それならについてもお願いして大丈夫だろう。


「それじゃあ、第4エリアのボス『白銀魔狼』ぐらいなら倒せるよな? あいつのドロップ品持ってきてくれれば多少色をつけて買い取るぞ?」

「え? 確かに周回出来る程度には倒せるけど何が欲しいの?」

「毛皮、牙、肉、レアドロップの尻尾、どれも全部買い取るぞ。ああ、ただクランとしての買取じゃないから持ってきて貰う必要はあるけどな」

「いや、白銀魔狼素材って事は現状、最高品質に近い革素材だから周回するのは構わないが……何作るつもりだ?」

「それは自分用の装備に決まってるだろう。もちろん、練習用もあるからかなり多めに買い集めてるけどさ。『白夜』にも素材買取お願いしてるし」

「どこまで本気だよ、お前……」


 そんなことを言われても欲しいものは欲しいのだ。

 こうして2人にも素材を依頼して、学校に到着するのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 遥華と別れて高校に入り俺達の教室に近づいてくると、教室が妙に騒がしいことに気がついた。


 ぎゃあぎゃあわめいてるこの声って……


「……おい、悠」

「わかってる、とりあえず雪音は少し廊下で待ってて……いや、学年主任の山神先生を呼んできてくれるか?」

「うん、わかった。気をつけてね悠くん」


「……さて、これで雪音のは防げるわけだけども」

「とりあえず教室の中を確認しないわけにはいかねえよなぁ……撮影は任せておけ」

「ああ……さて入るとするか」


 覚悟を決めて騒々しい教室の中に入っていくと、やはり先週雪音にもちょっかいを出していた園田某がクラスの女子相手にわめきちらしていた。

 相手は……うん、やはりと言うべきかアイラこと片桐 愛莉と、フレイこと鈴原 祈だった。


「うるさいな! お前達のせいで、俺は6週間のログイン禁止になったんだぞ! どう落とし前をつけてくれるんだ!?」

「そんなこと知らないわよ。アンタが勝手にハラスメント違反を行って、その結果がそれでしょう? わたし達は何もしてないじゃない。むしろ私達の方がアンタに付きまとわれて迷惑してたのよ!」


 まあ、口論の内容もおおよそ予想通り、ログイン禁止になった腹いせでの八つ当たりだった。

 ……ただ、ハラスメント行為で6週間ものログイン禁止って言うのは想像以上に長いが、何があった?

 予想以上のハラスメント常習犯だったとかか?


「うるさい! うるさい! お前達がごねないで黙って俺達についてきていれば、こんな事にはならなかったんだよ!!」


 ……さっきから「うるさい」ばかり連発しているが語彙力は大丈夫か、園田某?


「黙ってついてきてればってねぇ……元々一緒に行く気がなかった私達を無理矢理連れ出したのが、アンタ達でしょう? 完全に自業自得じゃないの?」


 片桐さんよ、それは正論だが、この手のバカには正論をいくら言っても無駄だと思うぞ。


「うるさい! この、女だと思ってやさしくしてれば調子に乗りやがって!」


 ちっともやさしくなんてしてないと思うぞ。

 ……そろそろ止めないと手を上げそうだな、こいつは。


 腕を振り上げた園田に向かって、俺は一気に間合いを詰めて振り上げた腕を羽交い締めにするように妨害する。


「そこまでにしておけよ、園田。さすがに、手を出したら洒落にならないぞ」

「テメェは、都築……なんで邪魔しやがる!」

「そりゃ、教室で暴れてる人間がいたら止めるに決まってるだろう。知らないが、ここまでにしておかないと厳重注意程度じゃ済まされないぞ」

「うるせぇ、部外者がしゃしゃり出て邪魔するんじゃねぇ!」


 園田が俺の腕をふりほどこうとして暴れる。

 せっかく暴れてくれているので、ふりほどかれたをして、後ろに倒れた。


 いくつかの机と椅子をなぎ倒しながら床へと倒れ込む。

 ……さすがに、机や椅子にぶつかるのは痛いなぁ。


 女子の悲鳴がいくらか聞こえる中、


「おい! お前達、何をしてる!!」


 学園主任の山神先生が教室に入ってくる。


「あぁ!……あ?」


 再び腕を振り上げていた園田は、山神先生が出てくるとは思わなかったらしく、振り上げた姿勢のまま固まってしまった。


 うん、山神先生が入ってくるにはちょうどいいぐらいのタイミングだな。


「おい、この騒ぎはなんだ!」


 山神先生が辺りを見渡す中、幾人かの生徒が事情を説明し始めた。


 いわく、教室に入ってきた園田が片桐と鈴原を見つけるなり、大声で食ってかかったこと。

 そのまま口論となり、腕を振り上げたタイミングで俺が止めに入ったこと。

 そして、園田にふりほどかれた俺が椅子や机を巻き込んで倒されたこと。


 要点をまとめるとそのような内容だった。


「やれやれ、まったく入学早々問題を起こしてくれるものだな、園田」

「うるさい! 悪いのは俺じゃなくてこの女どもだ!」

「少なくとも周りの話を聞く限りは、お前が一方的に怒鳴り散らしていたようだが?」

「そんなこと知ったことか!」

「はぁ、話にならんな……」

「あ、せんせー、俺、この騒ぎ録画してましたよ? 俺らが教室についてからですけど」


 陸斗が騒ぎを録画していた事を山神先生に伝え、その様子を再生してみせる。


「……これは……お前、確か海藤の弟の方だったよな。ずいぶんと手回しがいいな」

「いやー、こういうには慣れているんで。こういうときは物証があった方がいいでしょ?」

「まあ、確かに助かるが。スマンがお前の携帯借りるぞ。園田、片桐、鈴原、それから都築も俺と一緒に来い」

「え、俺もですか?」

「ああ、お前も来い。一応な」


 とぼけてみせるがダメだったようだ。

 仕方ないので立ち上がり、周りの押し倒してしまった机などを元に戻そうとするが、


「後片付けは他の生徒に任せてさっさとこい都築」


 と言われてしまったので、大人しくついていくことにする。


「あ、悠くん」


 廊下に出ると雪菜がいた。


「それじゃあ、先生に呼ばれているからちょっと行ってくる。大人しくしてるんだぞ」

「うん、わかった。行ってらっしゃい」


 軽く言葉を交わして、俺は山神先生の後をついていった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「……なにか、つまりお前達はゲームのことでもめてあんな事になっていたと、そういう訳か」


 俺以外の3人から事情聴取を終えた山神先生は、そう簡潔に結論を述べた。

 実際、そういう訳だからそれ以外に説明のしようもないのだろう。


 ちなみに、俺が事情聴取を受けていないのは、あくまでも途中で止めに入っただけということになっているからだ。

 学校にきてからの事を見る限り、俺の接点はそれだけなんだから、俺に事情聴取をしたところで「園田が暴れていたので止めに入った」としか言えないのは事実だし。


「はぁ……たかがゲームのこととは言わないが、ゲームのもめ事を現実に持ち込むな」


 うん、正論だな。

 園田もさすがに教師には反論できないのか、苛立たしげにしているが黙っている。


「事情はわかった。片桐、鈴原、都築は教室に戻っていいぞ。園田、お前はもう少し話がある」

「なっ、俺は被害者だぞ!」

「何を寝ぼけたことを言っている。お前はだろう、少なくとも学校ではな。ゲームのことはゲーム会社が裁定を下しているんだろう。ゲームのことまで、学校は面倒を見るつもりはない」


 園田の反論を山神先生は冷徹に返し、まったく取り合わない。

 うん、まあ『ゲームのことはゲームで解決しろ』というのは正論だな。


「ふざけるな! 俺がどれだけ……」

「もういい、わかった。とにかくお前達3人は教室に戻れ、いいな」

「はい、それでは山神先生、失礼します」


 開放された俺達3人は指示されたとおり教室へと戻るのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 時は流れて昼休み。

 結局、園田は教室に鞄だけ取りに来てすぐに去って行った。


「とりあえず、助けてくれてありがとう、都築くん」


 雪音と弁当を食べていると、片桐と鈴原がこっちに来てお礼を言ってきた。


「どれに対してのお礼かはわからないけど、受け取っておこう。そして気にしないからもう行っていいぞ」

「そんなこといわないで、ね。お昼一緒に食べていい?」

「……別に仲良くする必要はないと思うんだがな。どうする雪音」

「……今日だけなら別に構いませんよ」


 渋々といった感じで許可を出す雪音。


「……とりあえず、今日のことは本当に助かったわ。まさかあんな事までしてくるとは思わなかったもの」

「すごい勢いだったよね、園田くん」

「まあ、あれはさすがに異常だと思うがな。あれじゃあ救いようがないな」

「結局、全部自業自得ですよ」


 どこまで行っても雪音の態度は素っ気ない。

 あれに親しみを感じろと言うのも無理な話だろうが。


「都築、いるか?」


 山神先生が教室にやってきた。


「はい、なんでしょう?」

「すまんがちょっと一緒に来てくれ。すぐ済む」

「……わかりました」


 先に弁当食べてしまいたかったんだけどなぁ。

 しょうがないので行ってくるか。


「悪いけど、先に食べておいてくれ」

「うん、わかったよ」


 片桐と鈴原も何か言いたそうだったが、特に何も言わなかったのでそのまま山神先生についていく。


「すまんな、都築」

「いえいえ、わざわざ呼んでくれるってことは、今回の一件について何か報告でも?」

「ああ、本当なら当事者以外に教える事じゃないんだがな。先に教えることにした」

「で、どうなったんです?」

「1週間の謹慎処分だな。親御さんにも連絡して事情説明もさせてもらった」

「それは、結構。でも1週間の謹慎処分で大丈夫ですか?」

「暴れたとは言っても、けが人は出てないわけだしな。それが精一杯だ」


 俺としては、直接被害が出ていないのでどうでもいい事ではあるんだが。


「……それで、お前は園田がこれで大人しくすると思うか?」

「思いませんね。余計、鬱憤うっぷんをためるんじゃないですか?」


 俺がそう答えると山神先生は深いため息をついた。


「……どうにかならんものかねぇ」

「どうにもなりませんよ。ああいう、我が儘な人間はどうにもなりません」


 改めて俺がきっぱりと切り捨てる。


「はあ、もうわかった。後のことは任せてもいいんだな?」

「俺のこととは関係ないと言えばないんですが。一応、連絡はしておきますよ。対応よろしくお願いします」

「わかった。それじゃあ、済まないが片桐と鈴原を呼んできてもらえるか。事情を説明しなければいけないからな」

「はい、わかりました。それでは失礼します」


 そして俺は山神先生の伝言を2人に伝えて、昼食に戻った。

 昼休みが終わった後は、特に何事もなく放課後を迎え、帰宅するのだった。


 **********


 「面白かった」「これからも頑張れ」など思っていただけましたらフォローや評価をお願いします。

 作者のモチベーションアップにつながります。


 ~あとがきのあとがき~


 リアル陰謀はなし、それがこの作品のスタイルですが、裏側の人間のつながりはかなり黒かったりします。

 雪音には関係ないんですけどね。

 基本的に、雪音に害が及ぶ前に全ての処理を周りが全て終えてしまう、そんな感じです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る