15.始まりの街のエリアボス

「キラーマンティスか……うん、今のPTならいけそうだな」


 リクは俺の唐突な提案にも関わらず乗り気のようだ。

 実際、このPTならキラーマンティスに十分に勝てるだけのレベルに達しているだろう。


「キラーマンティスねぇ……いつかは挑まなきゃなんだし、ちょうどいいか」

「そうだねー、ボクもさんせー」

「負けても始まりの街に戻されるだけで、ちょうどお昼頃ですものね」

「トワくんがやりたいって言うなら、私も構わないよ」


 女性陣も反対はなしと、それなら挑まない理由はないな。

 それじゃあ移動して、キラーマンティスとの戦いに挑みますか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 途中でエンカウントするモンスターを倒しながら進むことおよそ30分、ようやくキラーマンティスのいる場所までたどり着いた。

 キラーマンティスについての情報は、すでに掲示板にも詳しく書かれているくらい有名なので、それを参考に作戦を立てる。

 と言っても、タンクであるリクが一人正面で攻撃を受け止めてる間に、他のメンバーが背後や側面からダメージを与えるという至極単純なものだ。

 なぜ他のメンバーが正面に立たないかというと、キラーマンティスの鎌攻撃の範囲が意外と広いということ、正面に対して衝撃波を放つ特殊攻撃があるため、正面はタンク一人で他のメンバーは側面や背後に回るべし、と言うのが一般的な攻略法になっている。

 そのほかにもいくつか特殊行動があるが、使ってくる確率が低かったり、距離を離せば問題なかったりと2日目にして攻略法の確立されているちょっとかわいそうなボスである。


 まあ、『キラーマンティスを倒せるところまでがチュートリアル』なんて言われているので、簡単に勝てなきゃあまり意味はないんだけど。


「キラーマンティスか……久しぶりに見るけど大きさだけは立派だよなぁ」


 リクがそんなつぶやきを漏らす。


「リク、あなたキラーマンティスと戦ったことがあるの?」

「ああ、ユキ姉は知らないんだっけ。βの時も最初のエリアボスはキラーマンティスだったんだよ」


 そう、2日目にして攻略法が確立されている最大の要因は、βテストの時もエリアボスとして存在していたからだ。

 最前線を突っ走っている、いわゆる攻略組と言われるメンバーによって、キラーマンティスはβテストの時とほぼ同じ行動しかしてこない事がわかっていた。

 正直に言ってしまえば、俺とリク、それからハルの3人が今のレベルで揃っていればまず負けることはない。

 それぐらい勝つのが簡単なボスなのだ。


「正直、わたし達3人でも勝てそうなぐらいのレベルだからねー。緊張しないでも大丈夫だよユキ姉」


 ついでに言うなら、ここに来るまでの移動中にボス対策はしっかりとレクチャーしておいた。

 よほどの油断がなければ、誰1人としてかけることなくクリア出来るだろう。


 あえて一番死にそうなのは誰かと聞かれれば、一番HPの低い俺だろう。


 弱い弱いと言われるキラーマンティスだが、1つだけ回避困難な特殊攻撃がある。

 それの使用頻度はあまり高くないが、それでも使われるとダメージを受けてしまうので、最大HPの低いプレイヤーは危険なのだ。


「そうは言っても、やっぱり初めてのボスって緊張しちゃうよね……」

「ユキさんもそうですよね。わたしも緊張してしまいます……」


 ユキとサリーの初心者コンビは少し緊張気味だが、戦闘を始めればすぐ調子を取り戻すだろう。


「さあ、いつまでもカマキリを眺めてても仕方が無い。そろそろボス戦を始めるぞ」


 全員が頷いた事を確認して、俺はボスフィールドに足を踏み入れた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ボスフィールドに足を踏み入れると、そこはインスタンスフィールドになっている。

 そのため、一度ボスフィールドに入ってしまえば、勝つか負けるかしない限りここから出る事はできない。


「ギルルル……」


 それからボスとは確実に発見状態から始まってしまうため、【奇襲】スキルが発動出来ない事も難点か。


「さて、それじゃ始めますか! 『かかってこい』このカマキリ野郎!」


 早速、タンク役のリクが【挑発】スキルを使いながら、キラーマンティスの裏側に回り込む。

 挑発によってターゲットがリクに向いているため、キラーマンティスはこちらに背後を向けてしまう。


「さてここからは打ち合わせ通りに行くぞ! フレイムランス!」


 俺は背を向けたキラーマンティスに向かって【火魔法】を放ちながら、リクの姿が見える位置まで移動する。

 今回の作戦では、俺はヒーラー兼アタッカーのため、リクに回復魔法を使える位置をキープしなければいけないのだ。


 どのスキルにも共通して言えることだが、スキルを使う対象の姿が目視出来ないとスキルは使えない。

 そのため、俺はリクの姿を視認出来るキラーマンティスの側面に回り込む必要があるのだ。


 残った4人は、背後から隙の少ないスキルを中心に使用して攻撃している。

 リクも時折挑発スキルを放つことを忘れずに、スキル攻撃を当てながらキラーマンティスの攻撃は盾でブロックする、というタンクとしての基本行動をしっかりと行っている。


 そして俺は、リクのHPが減ったらヒールを使って回復させつつ、銃スキルで攻撃している。

 ヒーラーとしての役割があるため、あまりMPを消費する魔法スキルでの攻撃は行わないようにする必要があるのだ。


 ターゲットがぶれることもなく着実にキラーマンティスのHPバーを削り、残り6割程度まで削ったとき、キラーマンティスの体が浮かび上がった。


「踏みつけ攻撃! 全員退避!」


 キラーマンティスの特殊行動の1つ、ホバリングからの踏みつけ攻撃が放たれた。

 この攻撃は近距離全周囲攻撃だが、ホバリングの滞空時間がそこそこあるため、動きを見てからさけることができる攻撃だ。

 実際、今回の攻撃は俺の号令で全員が距離を取ったため、完全に空振りとなっている。


 初めから効果範囲外にいた俺以外の全員が、攻撃を空振りして死に体となっているキラーマンティスに威力の高いスキルを放ちたたみかける。

 俺も、火魔法や風魔法などの威力の高いスキルをキラーマンティスに叩きこみ追い打ちをかけ、MPポーションをあおる。


 このラッシュでキラーマンティスのHPは残り3割程度まで一気に削ることができたが、同じ攻撃をするにはクールタイムがあるためすぐにはできない。

 行動パターンが元に戻ったキラーマンティスに、全員が最初と同じように堅実にダメージを与え、HPバーが残り2割を切った頃、改めてキラーマンティスの行動パターンが変化する。

 いわゆる発狂モード、最後の馬鹿力的な攻撃モードである。


 激しさを増したキラーマンティスの鎌による攻撃に対し、リクは盾を使うことで受けに専念する。

 他のメンバーは、威力の高いスキルを連発し一気呵成に責め立てる。


 俺もリクを回復しつつ、キラーマンティスに攻撃を仕掛ける。

 だが、HPが残りわずかになったとき、キラーマンティスがいきなり高空に飛び上がった。


(まずい! 全方位衝撃波!)


 俺が一番恐れていた全周囲攻撃の準備にキラーマンティスが入った。

 高空へ飛び上がってしまったため、魔法攻撃ができないメンバーは攻撃が届かず、魔法攻撃ができるメンバーの攻撃だけでは残りHPを削りきることはできそうにない。


「一か八か! フレイムランス!」


 俺も残りわずかなHPを減らすためフレイムランスをキラーマンティスに叩きこむ。

 すると、キラーマンティスのにフレイムランスが直撃し、キラーマンティスが墜落した。


「…………あー、キラーマンティスって羽を部位破壊できるんだ……」


 目の前で起きた墜落事故に、一瞬全員があっけにとられるがすぐに追い打ちをかけてキラーマンティスを撃破したのだった。


〈エリアボス『キラーマンティス』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「お兄ちゃん、最後のあれって……」


 ハルが何か言いたげなまなざしでこちらを見てくる。


「ああ、羽部分の部位破壊の効果だな、きっと。羽を攻撃出来るタイミングが、踏みつけと全周囲攻撃の2つしかなかったから、今まで知られてなかったんだろう」


 妹よ、そんな目で見ないでくれ、俺だってたまたま攻撃が羽に当たっただけでこうなるとは思わなかったんだ。


「まあ、全周囲攻撃の対処方法が1つ増えたって事でいいんじゃね? そんな悩むことでもねーよ」


 リクが軽い言葉で返してくる。

 これ、教授に教えたら頭抱えるだろうなぁ……検証が面倒で。


「そんなことより【第2の街】に急ごうぜ。そろそろお昼になっちまう」


 時刻を確認するとゲーム内時間で午前11時、現実時間で午前11時半だ。


「そうだな、第2の街も見えてることだし早いとこ向かうか」


 妙に疲れたボス戦を終えた俺達は、第2の街へ向かい冒険者ギルドでクエストを清算。

 この街の転移門をポータル登録したところで解散となった。


 **********


 誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。



 ~あとがきのあとがき~


「『キラーマンティス』を初めて撃破しました」とありますが、全プレイヤー中最初と言う意味ではありません。

 そのプレイヤーが初めて倒したときのボーナスになります。

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