三 いいつたえ
お通夜が終わった日の夜は、今までの腹の探りあいをするような雰囲気とは一変していた。
まるで宴会のような賑やかさで、一瞬戻る家を間違えてしまったのかと、本気で思ったくらいだ。
大人たちはお酒を飲み、次々と出されるご馳走をつまみながら楽しそうに談笑している。
さっきまで大泣きしていた女の人たちも、今は何事も無かったように、実に美味しそうにお煮しめやお刺身を頬張っているではないか。
まだ小さな親戚の子供達も、大人たちの間を縫うように走り回って、本当にお祭りのようだ。
さっきの白々しいお通夜の空気も苦手だが、大人たちが馬鹿みたいに騒いでいる酒の席も苦手だ。だからと言って、子供達の輪にも入れるわけもない。
同じ年頃の親戚もいるようだけれども、わたしの素性を知っているのだろう。遠くからわたしを値踏みするような目を向けて、聞こえているとわかっていて内緒話を始める。
そんな人たちと仲良くだなんて無理に決まっている。わたしだって、人を馬鹿にするような人たちと、と仲良くなんてできそうにないし、したいとも思わない。
結局、この家でわたしはひとり。他の人たちも、最初のうちはわたしを珍獣のように眺めていたけれど、飽きてしまったのか、すぐに談笑とお料理に夢中になっていた。
さっさとこの宴会から逃げ出したかった。でも、その後どこへ行けばわからない。
ここへ来てまだ間もないせいもあって、わたしは客間で寝泊りしていた。でも今日はたくさんの親戚がやって来るから、今夜は違う部屋に移ってもらうかもしれないと言われていたからだ。
誰かに聞こうにも、家の人は皆忙しそうで、とても相手になどしてくれなさそうだ。
仕方がない。
宴会の片隅に身を置くと、わたしは雨が叩きつける硝子戸を見つめていた。
昼間はあれほど良いお天気だったのに、日が暮れる頃になると急に雨が降り出してきた。そのうち止むだろうと思っていたけれど、雨は一向に止む気配はない。
(今夜は寺に運ぶのは難しそうだな)
ふいに誰かが低く囁いた。
(これだけの雨では敵わない)
(とは言え仏さんをここに置いておくのは)
(馬鹿らしい、ただの迷信だ)
(いや……だがしかし)
代わる代わる大人たちが口にする。一体何の話をしているのだろう。
じっと聞き耳を立てていると。
「大人たちの話が気になるのか?」
背後からの声に惹かれて振り返る。若いの男の人が、背後から覗き込むように立っていた。
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