Girl meets Dad
安心感やシスターがどうなったかといった不安で、溢れる感情は涙となり流れた。
「………うぅ……えぐっ………ふぇえ…」
「おぉおぉ、大丈夫。安心して。何があったのか教えてくれ」
「―――お姉さんが…たす…けて、くれて………でも、銃が………テロが……」
混乱する少女の言葉に戸惑っていると、後ろで端末を見ていた仲間が画面を見せに来た。
「隊長、何処かで見たことあると思ったら……ほらこれ、ドゥマライの
「あぁー本命じゃんか」
「いや、本命はコッチのテロ組織ですからね?」
「――………助けて…」
少し落ち着いたシィは、ダメ元で頼む。お姉さんを助けてください、と。
「場所は?」
男たちは、真っすぐな目をしていた。信憑性の欠片もない言葉、罠とも知れない少女の助けに、一瞬の逡巡もなく応えた。
きっと彼らになら任せてもいい、と。彼女は組織の本部の位置を教える。
ゆっくり車両を徐行させながら、二人がその影に隠れて進む。車道に面している『ドゥマライ派武装復刻戦線』本部の壁と正門。そして正門の前に倒れた女性を発見する。
「飯田、カバーしろ。あの
「了解」
車は停止させ、隊長一人で女性のもとへ向かう。防爆車両に乗せた少女に、近くで見せないために。
「大丈夫か?息はあるな」
「あ……なた…は?」
「喋るな、少女に君を救うよう頼まれた」
そう、あの子は助かったのね。言葉に出さずとも、安心した表情はそう語る。彼女は脚を撃たれて出血していたが命に別状はなさそうだ。すぐに止血をする。
―――と、思考がそこまでたどり着こうとしたとき、違和感が襲った。
何故、生きている彼女がここに放置されているのか。
「飯田!罠だ!」「ま、待ちなさい!」
そう、二人が叫んだのはほぼ同時。少女は車両を降り、シスターのもとへ走ってきたのだ。
<戦士長、釣られた男とシィがいます>
<撃て>
<どちらから?>
<シィだ>
乾いた銃声と共に、少女は―――倒れた。
「クソがぁあああああ!!!!」
飯田と呼ばれていた隊員は、すぐさま対戦車ロケットを監視塔へ撃ち込む。光学迷彩で隠れていた狙撃手は消し炭に。そのまま装填した二発目を正門に撃ち込む。
車両は急ぎ隊長と少女の壁になるよう移動した。
「おい!………出てきちゃダメだろう」
少女も脚を撃たれ、血を流す。普通ならショック死してもおかしくない激痛に耐え、尚もシスターを心配する。
「お姉さんが…お姉さんがぁ………」
少女を抱きかかえる隊長は、その娘の震えを感じた。強い娘だ。心の中でそう呟いた。
<あーあー、聞こえるかぁ?うちの
大音量で拡声器から響いた声に、車両に付いた拡声器で応える。
<お前なんぞにこの
あえて相手の国の言葉で煽ると、案の定、
爆音飛び交うなか、隊長が無声通信で聞いた。
<なぁ俺達の仕事って何だったっけか>
<証拠も残さず偵察を無かった事の様に済ませる事でしょう?うちはドンパチしていい隊じゃないんだから!もう!>
<一つ提案がある>
<嫌な予感しますが……何ですか?>
<この組織自体をを無かったことにしねぇか??>
<言うと思った!!>
迫りくる弾丸も、特殊防弾ガラスの前には非力。テロリスト組織の末端風情に、これを破れる装備なぞ無かった。タイヤから何から特別仕様のこの車両は、傷はつけどもビクともしない。(但しサイドミラーは吹き飛んだ)
タイミングを見計らっては反撃する二人。対し次々に増援が到着するテロ集団。埒が明かない、と。
―――隊長は一つの決断を下す。
<飯田、隊長命令だ。
<……!あなた一人でやるつもりか……>
困惑するように、睨むように、呆れたように。複雑な顔で彼を見る飯田は、
<またこんな時にばかり隊長命令使って……あなたらしいと言えばそうですが>
よくあることだ、と納得する。
了解、と短く返し、車両に乗り込もうとするも。
隊長に脚を掴まれ止められた。頭の上に「?」マークを浮かべていると――
<これから
<あぁー…はい、北の中継地で待ってます。ご無事で―――>
武器だけさっさと取られ、その場を後にした。
障害物を失ったライバー、全速で壁まで駆け寄り射線を限定。見えた敵から撃ち抜いてゆく。雑に見えてなかなかの技術を要する戦いを見せるその男は、不敵に口端を持ち上げた。
「さぁて、御礼参りだ」
■■■
極秘部隊NOMAD
中継地
飯田は少女とシスターの応急処置を終え、周囲を警戒していた。ここまで来ると静かなもので、人影一つ見えない。
少女は目に涙を浮かべつつ、彼に質問する。
「あ……あの………あの人は……
「んー?……そうだなぁ、おっかねぇ化け物。かなぁ」
顎をさすりながら考える飯田の答えに、彼女は困惑する。
「えっ……こわいの?」
「敵に回したらな。味方としてはこの上なく安心でき――いや、この上なく厄介事に巻き込まれる」
「ふ、ふぅん……」
少女は俯いてぼそぼそと話す。
「安心……した…あの人の、腕……とっても………」
また隊長のお
別れてから一時間もしない内に、集合場所に隊長が現れた。
「早かったですね」
「あぁいう、ネットに惨殺動画上げるような
周囲の安全確保は、事態を聞きつけ到着した他の隊員がしてくれている。
壊れた噴水の前、タオルで顔を拭う彼に、恥ずかしそうにした少女が話しかける。
「あ、あの……ぁ……」
彼は再び膝を付き目線を下げた。
「なんだ?」
「ぉ……お名前…は………?」
目を伏したままの彼女に、NOMADの隊長は笑顔で答えた。
「ライバーだ、よろしく」
何とも微笑ましい状況を。瀧や飯田は眺めていた。戦場で疲れた目の保養という名目で。
「ら……らいばー…さん。ありがとう」
何とか目だけでも上げねばという思いから、上目使いになった彼女の頭を、ぽんぽんと撫でる。そして―――
「なぁ、一緒に暮らさないか?」
「待てェええい!!あんたいきなり何言ってんだあんたァ!!」
思わずツッコミを入れてしまった瀧に続き飯田。
「え、隊長そういう………」
興奮気味に荒ぶる二人を見て、ライバーは呆れ顔を見せた。
「この娘は戦場を知っちまったんだぞ?銃の撃ち方も、殺しも、殺される恐怖も。そういった世界で育ったんだ。今この娘に必要なのは押し付けられた
そう言われるとそんな気がして来るといった具合に、変な風に捉えていたことを反省するや否や。
「で、どうだ?」
と、姿が完全に
膝を降り、手を差し伸べる。さながら白馬の王子様だ。義体は真っ黒のくせに。
「冗談多すぎてどれが本当のあんたか時々分からなくなるぜ」
やれやれと首を振って、つまらなそうに瀧は周囲警戒に戻った。
飯田はまだその異様な光景を見届けている。
「ところで、君の名前は?」
肝心なことを知らない隊長は、改めて聞くが……。
「……シ………――」
少女は、のどに突っかかった言葉を飲み込んだ。
『はぁ?『
『売ったらいくらになると思う?はっははは!』
嫌な記憶ばかりフラッシュバックする。
「分からない……」
地面を見つめて、また、目に涙がたまってきた。
「じゃあ、俺がつけてあげようか」
そんな悲しみを蹴とばすように、かるーく言い放たれた言葉に、名もなき少女は顔を上げる。
「『アイビス』、なんてのはどうだ?俺の『ライバー』と同じ、この世には居ない鳥の名前だ」
「この暗くて火薬の匂いに満ちた
「あいびす………あいびす…、その名前……すき」
「!……そうか」
彼女は、初めて笑顔を見せた。まだ純粋な子供。世界の影に生まれ落ちた、悲しい定めを背負った少女。目を腫らし、にっこりと笑う姿を見て、黒い鳥は何を思っただろうか。
「じゃあ、俺が名付け親だな」
「親………お、…………ぉ―――」
名もなき少女、改め、アイビスの頭で声が響く。
『あなたを想って、守って、娘は絶対にやらん!ってムキになってくれる人。ちょうど、この王様みたいに』
『お前なんぞにこの娘はやらんわ!ド腐れ野郎!!』
優しい王様にしては、ズボラで、乱暴。
悪い魔女の様に真っ黒で、森の化け物の様に凶暴で。
でも彼女にとって、その男は………まごうこと無き―――
「―――――お父さん…………」
で、あった。
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