君が進む先へ
甘味しゃど
第一部 真実
第一章 変動
1
海上を
乗船者は一人。全身に潮風を浴びるその青年は、何処か気の抜けたような穏やかな青年だった。快晴の空の下で、身に浴びる潮風に笑みを浮かべながらに、彼は
「んー……! やっぱり潮風が気持ち良いなぁ」
グッと
辺りは確かに快晴と水平線の一直線で、見渡す限りの景色は透明な青と真っ青の空。靡く潮風は肌に辺り、磯の臭いを漂わせる。海に来たと一言で伝わる海上の上で、青年はその自然の広大さを身に感じていた。
「もうすぐ付くだろうし、ちゃんと報告しないとな」
彼はモーターボートに取り付けられた無線機を取り出し、スイッチを押す。
……だが。
――ザザッ
「あれ? 故障かな……?」
不満げに首を傾げ、何度かコンッコンッと叩く。だが、一切変わる様子も無く、ノイズ音が海を渡る船の
「んー……?」
機械の故障か? と悩ましげに首を傾げながら、彼は仕方なく無線通信を諦める。そして未だ走るモーターボートの進行方向に目を移した。
「……あれって」
その目に映ったのは、目的地の島ではなかった。
まだ目に見えぬ島……それよりも、彼が気にしていたのは先の空から迫り来る黒い入道雲の群だった。
「ま、待って待って待って!? そ、そんなのあったっけ?!」
焦りながらに鞄を漁る。
がっさごっそとグシャグシャな中身の荷物を更に荒らして、そしてようやく見つけた携帯端末の画面を見る。
『圏外』
「……あ、そっか」
素っ頓狂な声を上げて自分を納得させる。
だが、そんな言葉で目の前の入道雲がなんとか出来る訳が無い。更に明らかに波も荒れ狂いだし、一艘程度のモーターボートなど簡単にひっくり返してしまうのでは無いかという波がその先にあるのだと、船の揺れが錯覚させる。
彼は更に鞄を漁り直しながら、中からビニールの何かを引き抜き始めた。
「よ……っとぉぉ!!」
その何の変哲も無い、半透明のビニールを身の上に被せだし、操縦桿をしっかりと握りしめる。
「こ、此所まで来たらやってやるぞぉぉ……!!」
声が少しずつ小さくなっていく。握りしめた手先が震えながら、入道雲の直下に突入した。
瞬間、バーッッ!! と雨粒が彼を襲う。雨粒はビー玉大程の大きさなのか、全身が叩かれるように痛い。唯一出ている顔も、水滴の連続に目を細める。波も荒れ狂い、握った操縦桿が時折腕に反した方向へと曲がり出そうと、強く抵抗してくる。
何度も波の恐怖に耐えながら、彼は進む。荒れ狂う海上の航海は、その激しさが増す事によって船が何度も跳ねる。
歯を食いしばり、握り続けた操縦桿の抵抗を抑えながら進むモーターボート。
そして、そのまま進んで行くにつれて、細めた目の先に何かを目撃した。
「あっ……!!」
島の影だ。
ようやく目的地に辿り着いた!! ……そう、思った矢先。
彼の緊張の糸が、その瞬間ぷっつりと切れる。抵抗を抑えていた操縦桿の手の力が抜け、勢いよくギュルルッと回転した操縦桿に
「……痛っ!!」
そのまま床に強く打ち付ける。
抑える力が失われた操縦桿は成されるがままに暴れ出し、船の揺れが一層強くなり出した。ぐわんぐわんと揺れる船内で彼は躰を維持する事が出来ないまま……そして。
ざっぱーんっ!! と、船は横転した。
「…………………………………………………………………………………………………………ぁ」
真っ逆さまにひっくり返り、彼の躰は水中に放り投げられる。
「……がばっ、がッごっ!!」
必死に躰を動かし海上に出ようとするが、荒れ狂う波の中では無力で、意図せぬ方向に何度も振り回される。酸素が急激に消えて行く彼は、そのまま意識が擦れていくのを悟った。
(此処で、終わってしまうのか……?)
ゆっくりと口から溢れる空気が途切れ、瞳の光も薄れ行く。
そして、その途切れかけている視界が閉じていく中で、彼は何かを思える事無く、意識が途切れた。
2
ざぱーん……。
砂辺にて、波打つ音が連鎖する。なんとも冷たくも生暖かい物が足先から腰に書けて何度も往復する。日照りのような暑さが背中を刺し、湿った空気が息を詰まらせる。
「……っ」
波打ち際に打ち上げられた青年は、目を覚ます。
ボンヤリと視界には薄黄色のような物が全体を覆っている。善く善くと見渡し、ぼやけた視界が次第に戻されて行くと、そこは砂浜だった。足下がまだ海に浸かっている性か、未だ生暖かい。全身が痛む中で、青年は匍匐前進のように前へと進み波から足を出す。
息絶え絶えに躰を回して、仰向けになってもう一度海を見渡した。
「……はぁ、はぁ」
目線の先は、水平線。波打ち際を見渡せば、パンパンになっている鞄と、少し遠くにはモーターボートが座礁している。息を切らしながらに、彼は切迫した呼吸を一度立て直すように上向きに頭を下ろす。
「……生き、てる?」
幻か。
その命が未だ繋がっている自分の躰に疑問を持ってしまう。
だが、確かに胸に手を当てれば鼓動が鳴っている。肌に感じる砂が、湿気を帯で頬に付く。視線の先の陽射しに、意識が一瞬揺らぐ。
目を細め、そして、拳を握る。躰にグッと力を入れ、青年は身体を起こす。砂浜で立ち上がり、水平線の先を見つめ乍らに、吐き捨てる。
「……まだ生きてる。なら、まだ進める」
自分に言い聞かせるように、優しく自分の胸に手を当てる。温和で、和やかで、優しい顔立ちの青年は、彼なりに目に力を入れ、自分の行うべき事を再度確かめる。
「よーしっ、まずは確認だ!」
彼は鞄の元へと向かい、波際から放し開ける。案の定水浸しにされていた性か、全体的に壊滅状態だった。電子機器はもちろん、紙媒体の物や、筆記用具もインクが抜け出している。唯一鉛筆は生きているが、書く物が無い。替えの服も同じく、生きているのは缶詰の食糧だけだ。無論、数日が限度だろう。
「……絶望的だな~」
苦く笑い、缶詰と巾着袋を取り出し別けるように取り出す。周りを見渡し、浜辺の先がジャングルのように広がっているのを見つけると、そこに服や雑貨などを干すように掛け出す。自身の来ている服は最早諦めが付いているのか、脱ぐ事は無い。
「さて……次は」
彼は次に、打ち上げられたモーターボートに取りかかる。
中は水が既に乾いたのか、潮がジャリジャリと音を鳴らす。試しにエンジンを掛けるが……掛からない。ガソリンはまだ余分はあるが、機械系がおじゃんらしい。
「……つまり僕は、もうこの島から出られない?」
自分の中でとある結論に辿り着きながら、首を傾げ目を丸くする。汗を酷く垂れ流し、青ざめる自分の表情をブルンブルンッと振り回し、自分を見失わないように言い聞かせた。
「そ、そうだ!! まだ何もかも終わった訳じゃ無いんだ!! 幸い島に居るという事は、まだ住人が居るかも知れない!! もしかしたら人が居る島に辿り着いたかも知れない!!」
淡い期待だ。と、誰かが蔑むかも知れない言葉だ。だが、下手に意気消沈するよりは良いかも知れない。そんな微かな希望を胸に、彼はふと先程の雑木林を見据えた。あの先には何かあるかも知れない。そう、胸に抱いて。
「よし、行ってみよう!」
彼は、グチャグチャと鳴り響く靴の音と共に、その先へ進み出した。
3
木々が並ぶ、森林地帯のような場所。
足場には雑多に生えた草木が生え、歩くには困難な場所だ。
「……、」
その場所で、何処かを見つめる何かが居た。
「……っ」
少女にも見えるソレは、何かを感じ取ったかのように……何処かへ走り出した。
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