世界最強魔法使いの師匠は幼女でした~幼女と始めるドラゴン討伐~

烏丸 ノート

幼女とドラゴン討伐

プロローグ

「君には困ったものだね」

 ガラついた声を目先にいる青年に向けて放ち、顎に生えた立派なヒゲをさすりながら初老の男は言いました。

 初老の言葉に青年は俯きながら「はあ」と聞いているのかわからないような返事をしました。

「学年で君だけだぞ、魔法使いに弟子入り出来ていない生徒は」

「分かっていますけど誘いが来なかったものはしょうがないじゃありませんか」

「君の成績が低いのが問題なんだがな」

「精一杯やってるんですけどね」

 青年は頭に手をやりながら適当に答え、さらに初老の頭を悩ませました。

「精一杯やってこれだなんて、君は魔法使いになれないんじゃないのか?」

「え、それは嫌ですね。魔法使いの国で魔法使えないなんて、いじめの的になるどころか国追い出されますよ」

 表情を変えないまま声の調子だけを変えて言っているので、ほんとに嫌なのかが分かりません。

 しかし、この国に魔法使いでない人がいないのは事実、国を追い出されるかはわかりませんが、異質のものとして見られるのはまず間違いないでしょう。

 青年は何の焦りも持たないような表情で、初老を見つめます。また、その初老も青年を見つめました。睨む、と言った意味で。

「とにかく、このままだと本当に魔法使いになれないんだぞ、焦りや不安は感じないのか!」

「いや、それがですね。自分でも驚くほど焦りを感じておりません」

 スッキリした顔で青年は言いました。

 初老は青年に向けて火の玉を数発打ち込み、その顔を焼き払おうとしましたが、あえなく避けられ、ただ部屋に火が付いただけでした。

「いきなり危ないです、当たったらどうするんですか」

「灰になれ」

「学長の言うことじゃない……」

 初老は、国を代表する魔法学校の学長で、青年はその学校の生徒でした。

 睨み合う二人の間に一人の声が聞こえました。

「学長、学長宛に手紙が届いております!中へ入ってもよろしいでしょうか?」

 声の主は、学校の教師でした。

 教師はドアを開けると、火に包まれた部屋を目の当たりにしました。

「失礼しま、、え!火!?なんで燃えてるんですか学長!?」

「私が火の玉打ったから」

「またですか!?前にも打たないでといったはずでしょう?片ずけるのは水魔法を使える私だけなのですから」

 学長を怒りながら黙々と部屋の火を消していくその教師は、カリナ・シェーンと言う女性教師でした。

 火を消し終わり、服に付いた灰を落としてカリナは学長宛の手紙を渡しました。

「誰からだね、手紙なんて」

「それが、大魔法使いミリナ=へクセリア様からです」

「なっ、へクセリア様から!?」

 ミリナ=へクセリア。その名を聞いた学長は勢いよく立ち上がり、ガタッと大きめの音を立てました。

「なっ、内容は!?」

 青年と話していた時とは表情をガラッと変え、汗を大量にかき息が荒くなっていました。学長は”ミリナ=ヘクセリア”の名を聞いた瞬間から青年のことなど遠に忘れていました。

「まだ開いてないので承知しておりません」

「そ、そうか。では私が読もう」

 学長はカリナから手紙を受け取り、一枚の便箋びんせんを取り出しました。そして──

「あのー、ミリナ=ヘクセリアって誰ですか?」

 青年でした。ヘラっとした顔で問を投げかける青年。

 そしてその質問に対して学長、共にカリナは『まじかお前頭悪いにも程があんだろ?大魔法使いって言ってんじゃん馬鹿なのアホなのあほなのか?』

 みたいな顔で青年を見ました。

 青年はそれを察すること無く、頭の上にクエスチョンを浮かばせ「誰ですか?」と何度も聞きました。

 しかし、学長は青年それは置いておき、手紙を一文一文じっくりと読み始めました。

 手紙には、こうつづられていました。

『拝啓 春の日差しが暖かく私達を照らしてくれるこの季節、あなたはどのようにお過ごしでしょうか。この書き方よく分からないので適当に書いてやめときます。それでは本題に入ります。つい先日、弟子がどーとかと言う手紙がポストに入れてあることに気がつきました。日付を見ると、なんと三ヵ月前のものでした。すいません。弟子についてですが最下位の生徒が残っていると思うのでその方を寄越してはくれませんでしょうか?無理ならその人を退学にしておいてください。まあ、断ったら…ふふ。良い返事を待ちます。』

 学長は読み終えた手紙を、机にある鍵付きの頑丈そうな引き出しにしまい、何も無かったかのように青年に語りました。

「やはり君には困ったものだね」

「待ってくださいなんて書いてあったんですか」

「何の事だ?」

「まじかおっさん」

「学長……」

 青年はあからさまにバカにする様子で、カリナはガッカリしたような様子で言いました。

 二人が哀れんだ目で学長を見ていると、後ろの扉からキィと小さな音がなりました。

 二人は後に振り返り、扉の方を見ました。

 するとそこには、一人の小さな女の子が立っていました。年はまだ十歳ほどの小さな女の子でした。しかし、綺麗な顔立ちにキリッとした青と赤色の瞳、その場所にだけ雪が降っているかのように思わせる銀の髪色から、大人らしさを感じさせました。

 そして、少女は口を開き、学長に向けて言いました。

をなかったことにするなんて、酷いじゃないですか」

 学長が無かったことにしようとした手紙、その執筆者、大魔法使いミリナ=ヘクセリア。

 その手紙を書いたのは、まだ十五にも満たない十歳の少女。学長、青年、カリナの目の前にいる、小さな小さな女の子でした。

「学長、なんで私の送った手紙をないことにするんですか、それはまぁ、三ヶ月放置した私も悪いですけど、ちゃんと返事は書きました」

 学長の机の前に行き、小さな体では見えぬ高さにある学長の顔を見上げて言いました。

「いや、その、それはですね……」

「ん?」

「……そこにいる青年が最下位の生徒です」

 言い訳を考える間もなくミリナに圧倒された学長はすぐに青年を差し出しました。

 一方で、青年は状況を理解していませんでした。青年にとっては、幼女が学長室に侵入し、何か自分のことを話し学長が弱っていっている。という意味のわからない構図が頭の中で完成していました。

 理解出来ぬまま青年はミリナに話しかけられました。

「あなたがこの学校の最下位の生徒ですか?」

「そうだけど…学長なんすかこの生意気なガキ。突然現れて俺をディスってくるって相当ヤな子じゃないすか。親の顔見てみたい」

「お前失礼だぞ!このお方は──」

 ミリナは口元に自分の人差し指を持っていき、「しー」と学長に言い、自分の紹介を止めさせました。

「自己紹介くらい自分でできます。学長は黙っていてください」

「は、はい……」

 しゅんと縮こまる学長。未だ現状を理解しない青年、話に入れないカリナ。このカオスな状況の中、ミリナは自己紹介を始めました。

「私の名前はミリナ=ヘクセリア。この国で大魔法使いをやらさせていただいてます。よろしくお願いします」

 ぺこりと綺麗にお辞儀をした後、「あなたの名前は?」と青年に聞きました。が、その言葉は青年の耳に届かず、青年はただただ固まっていました。

 数秒硬直した後、青年はミリナの方から目をそらし、学長の顔を見ました。あきらかに表情を変えていました。その上声を震わせながら学長に訪ねました。

「え……この幼女が大魔法使い?学長、これはりありーですか?」

「残念ながら、りありーだ」

 あまりの驚きにピクリとも動けない青年の肩に、学長は手をかけました。

「てことでお前今日からヘクセリア様の弟子な」

「まじかおっさん、何が『てことで』ですか」

「誰がおっさんだ、大魔法使い様がお前を指名したんだ光栄に思え」

「俺に幼女の弟子になれと言うんですか」

「言葉を慎めバカめつるし上げられたいのか」

「いいでしょう表に出てください。俺のサンダーマシンガンが火を吹くぜ」

「雷なのか火なのかはっきりしろや」

「どっちでもいいでしょう」

 言い争いをする二人は、もはやミリナの事を忘れ勝負する流れになっていました。

 いつの間にかカリナも部屋からいなくなっており、残っていたのはいがみ合ってる青年と学長と無視をされ放置されているミリナだけでした。

 ミリナは二人の争いが止むのを待っていましたが、一向に止む気配がないことを察し、二人の間に割って入りました。

「あのすみません!私まだあなたの名前を教えてもらってないです!無視しないでください!」

 少し涙ぐんだ様子で青年の前に立ちました。

 泣きそうな姿を見るとなんだかちゃんと子供なんだな……。そんな事を思いながら青年は学長との争いを止め、ミリナに名乗りました。

「俺の名前はルーカス=ヘグゼヴィア。よろしくお願いします、師匠……?」

「し、師匠だなんて、照れますねぇ…。」

 頬を赤らめながらもじもじとするミリナ。

「それにしても──へ、ヘグゼビア?私の名と似ている感じがしますね。あと発音しにくいです」

「ヘクセリアとヘグゼヴィア…。なんとなく似てますね。どーでもいいですけど。とりあえず、これからご指導ご鞭撻べんたつのほど、よろしくお願いします」

「はい、承りました。あなたは今日から私の、ミリナ=ヘクセリアの弟子です。誇りに思い、精一杯腕を磨きなさい」

 青年──ルーカスは、大魔法使いミリナ=ヘクセリアを師とし、正式に弟子となりました。

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