スクールデイズ

「正常な人間を殺さないといけないんですよ」

 そう犯人おかすひとさんは我々に語った。

「なんでかってそりゃ

 あなたは実際に反省するんですか?

「反省するのは加害者の方でなければならないのでよく後悔の練習をしますよ」

 被害者が反省したらどうなるんですか?

「いやいやそれをさせないために警察に協力する探偵がいるんでしょ。とぼけないでください」

 とぼけてないです。では続きは刑務所でどうぞ。

「参ったね、こりゃ」



「階段だ」

「登るよ」黒音。

 異世界を体験するには現実で反抗すればいい。

 それだけで世界は暗黒に、暗闇に、光を求めるだけの探求と化す。


「こんにちは、幸福安心委員会です。心にナイフを持っている人間を救います。無駄な抵抗は止めて監視モニタリングを手伝ってください。人手不足なんです」


 最初は誰もが馬鹿にしていた。今さらパラノイアかよ。誰がナイフなんて心に持っているんだ。早くレーザー銃でZAPしろ。そういう時期だった。


 時代が変わった。今や馬鹿にしていた人が率先して委員会を手伝いその代わりに個人情報を使って反抗を制圧していくことを幸福だと思うようになった。


 確かに生徒の趣味は自由になった。表向きなんの偏見も無くなったように見えた。不真面目な生徒も真面目になり自分のことを喜んで話すようになった。


 なのに、とても、息苦しい。


 楽しく勉強しよう。それがクラスの総意になった。ほんの一部を除いて。

 誰もがいじめは悪いことだと認識していたし許せないことだと思っていた。

 クラスに馴染めない人間は

 コミュニケーションを放棄している陰湿な存在なのだ。


「おはよう栞と黒音」

「おはよー」カードから声が響いてくる。


 声をかけてきたのは見境奏みさかいかなで論蘭ロンラン

 クラスメイトを毎日虐殺している。おい決闘デュエルしろよ。


「奏、論蘭。おはよ」

「今日も元気そうね」黒音。


「今日もいつものやつを頼むよ」

「探偵ごっこを始めましょう」論蘭。


 なんでクラスメイトを殺したの?

 目障りだっから。自分の幸福が邪魔されると思ったんだ。


 あなたの幸福って何?

 自由な人生を送りたいね。独裁者として。


 それは虐殺をしなくちゃいけないものなの?

 反抗の芽を潰すことが大切なんだ。服従しているの見ても面白くない。


 クラスメイトは反抗したの?

 もちろん。見せかけだけの服従でどいつも自分だけは潜在的な能力があるか当たり前のように自分に権利が存在していると思っているんだ。だから公然と弾劾できる敵を与えてやれば倒すことが不可能でもかかってくるのさ。


 でも彼らにも才能があったよね。そんなに簡単に制圧できるの?

 有り余っていたさ。なんせ権力を取り込んで優位に就くことだけは一級だから仲間との連携もチート能力も使い放題だった。だが現実は権力の方がチートを賃貸システムで使えることに気づかなかったのさ。


 なんで私たちを殺さなかったの?

 何もないから。何も信じていないから。見せかけの服従も反抗の芽も心のナイフすらもないから。独裁者はなんでもないやつを殺せないんだ。だから探偵役さ。


 私は自分に潜在力があるって信じてるよ。

 そうだろうな。虚空の不毛さをな。

 

「「犯人はあなた達だ!」」

「「正解!」」


 笑う。笑い合う。笑える。笑わなくちゃいけない。


「まあクラスメイトは明日にでも復活するからニュースで確認しといてくれ」

「今日の復習を復讐として忘れちゃダメですよ」論蘭。

「今日はもう帰ろっか」黒音。

「うん」


 チャイムは鳴らない。

 独裁者は下校しない。

 歴史の時間は終わり。

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