第15話 昼休み
「つ――疲れたぁ~~~……。も、もうこれ以上は、う、動けねぇ……」
気が付けば一張羅はすっかり汗と泥に塗れてぐちゃぐちゃだ……。
クソ、クリーニング代を請求したいくらいだぜ。
そんな俺の心の囁き読み取ったかのようなタイミングで、
「だからラフな格好で来いといったのに……。お前は一体何を聞いていたんだ?」
はい、アナタとのデートを夢見てすっかり舞い上がっていました。
俺同様、
「ちょっと、アオちゃん‼ ヒナちゃんをおバカさんみたいに悪く言わないでよね!? ヒナちゃんはね、お姉ちゃんとのデートだってきいたから張り切ってオシャレしてきたんだからねっ‼」
いえ、テキトーなことほざきやがらないでください。それどころかアナタまでやってくるなんて夢にも思っていませんでした……。
――てか、アナタたちは何故全然疲れたような素振りがないのでしょうか!?
「ゼェ、ゼェ、ハァ……。」
こ、こちとら、もう息も絶え絶えで……。声に出して反論するのもしんどいくらいだっつーのに……。
「それにしても、どうだ、陽太? 相当キツそうだな……。普段から体を動かしていない証拠だな……。せっかくだからこれを機に早起きでもしてジョギングでも始めてみてはどうだ?」
いやいや、アンタたちだって生徒会くらいで大して体なんか動かしてないでしょ? なのに何でこんなにも差が出るんだ?
「やれやれ、言葉もでんか……。仕方がないな、それでは、そろそろお昼にするとするか……。琴葉、準備の方を頼めるか?」
「ハイ、ハァ~~~~イ♪ お姉ちゃんがヒナちゃんの為だけに愛情をたぁ~~~~~っぷり込めたお弁当を用意してきましたからねぇ~♡」
そう言って琴姉が例によってどこからともなく取り出した重箱をこれ見よがしにも見せつけてくる。
「分かった分かった。それじゃあ私はひとまず道具を片してしまうから、お前はその間に大切な弟のために……。そうだな、あの辺りにレジャーシートでも敷いてすぐ食べられるよう支度を整えておいてくれないか?」
「アイアイサー♪ 了解しましたぁ~♪」
そう言うが早いか、琴姉は一気に指定された場所まで走っていくなり、レジャーシートをバサァーーーー……。
その後も、まるで熟練のお好み焼き職人さながらの流れるような無駄のない動きでもってテキパキと昼食の支度を整えていく。
一方、俺はというと……。
ハフゥ~~~~~、た、助かったぁああああああっ……。さ、流石にこれ以上は限界だったぜ……。
とはいえ、男としてこれ以上情けない姿を晒すわけにもいかず、
「くっ……‼」
男としての意地ってヤツか……。なんだかんだ言っても、実際のところはまだまだ大丈夫なんですよ的な表情とともに最後の力を振り絞って歩き出そうとした時だった。
ぐらっ――。
「――あらっ⁉」
そんな俺の意地など、ププッ、超ウケル♪ とばかりにばかりに膝がガクンと笑ったかと思えば、そのまま前のめりにも畑へ顔面ダイブしそうになるも、
「あ――危ないっ‼」
ザッ――。
ガバッ――。
運よくも、すぐ近くにいた葵先輩が慌てて駆け寄ってくるなり、間一髪のところで俺の体が倒れる前に支えることに成功――。
お陰で何とか事なきを得るも、ココで思いもしなかった事態が俺を襲うことになる。
「フゥ~~~、あ、危ないところだった……。陽太、大丈夫か?」
「あ、は、ハイ、済みませ――」
お詫びと一緒にお礼を言おうとしたその時だった。
フゥワァ~~~~……。
「――――⁉」
瞬間、甘いというか、それでいてどこか柑橘系のようなさわやかさも含んだ香りが俺の鼻腔全体に広がってきて……。
こ、コレってもしかして、葵先輩の汗の匂い?
ハフゥ~~~~……♡ ……や、ヤバ、なんつーイイ匂いなんだ……。くぅ~~~、嗚呼、出来ることならこのまま一生嗅いでいたい、そんな気持ちにさせられるも、
「――――⁉(ギクッ)」
――ハッ⁉ こ、コレは、さ、殺気!?
すっかり夢心地といった状態も、突如走った悪寒に慌てて顔を前へと向けてみれば、
「……………………」
そこにはすっかり支度を済ませ、真新しい極太の大根片手に笑顔を浮かべるマイ・シスターの姿が……。
「あ、うぅ、あう、そ、その……。あ、葵、先輩……。も、もうイイっす、だ、大丈夫ですから、離してもらって、け、結構っす……」
「ん? そうか? 遠慮しなくてもいいんだぞ? 何ならいっそこのままおぶって連れていってやっても構わないぞ?」
「と、ととととんでもにゃぁーーーーっ‼ そ、そんなことまでされたら……」
本気とも冗談ともつかない葵先輩の提案を丁重にお断りすると、俺は再び膝の様子を確認したのち、自らの足で琴姉のいる場所に向けてゆっくりと歩き始めた。
あ、危ないところだった……。これ以上は命に係わる……。
危うく今日の夕食が……。否、それどころか今後の弁当までもが大根オンリーになっちまうところだった……。
かつてのグリンピース事件が脳裏に過る中、何はともあれようやっと俺は、この日初めての食事にありつけることとなった――。
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