第14話 二つのブルマ

「っぅ~~~~~っっ……。ぐっ、つ、次から次へと、何だってんだよっ⁉」


 痛みに立つことも儘ならない状況も、何とか体の向きを変えるなりキッと睨みつけようとした先で俺が目にしたものはというと、


「――――ッ⁉」


 真っ二つに折れた大根――はひとまず置いとくとして……。

 スラッと伸びる雪のような白い太ももの先にそびえるは、漆黒の闇――。

 否、濃紺の逆三角形とでもいおうか――。

 その逆さ富士以上の絶景に加え、葵先輩のブルマ同様、両サイドにわたって真っ直ぐ縦に伸びた純白の二本線ダブル・ラインがこれまた完璧なまでの黄金比ってやつを弾き出していて……。

 更にはソレに負けず劣らずの美尻を完璧な状態で包み込んでいて……。

 これまた非の打ち所がないというかなんというか……。


 人によって好みの差はあれど、甲乙つけがたい相反する二つのブルマの姿がそこにはあった。

 それこそ正に陰と陽……。太陽と闇、とでも表現できるのではなかろうか?

 あれれ? そういえば太陽と闇って……。

 確か太陽の方が負けたんじゃなかったでしたっけ?


 などと、そんなおバカなことを考えていたところへ、


「……全く、お仕事をサボって何をしているのかと思えば……」


 ヤレヤレといったそんな声に誘われるまま、視線を更にその先へと向けていったところ、


「――うおっ⁉」


 デデーンと、そんな効果音が相応しいほどの圧倒的な迫力でもってゼッケンを内側から押し上げてくる膨らみときたら……。

 それこそ、さっきまで五分五分だと思っていた両者の間に大きく水をあける形になるも……。


「――――ッ‼」


 ――が、しかしである。

 その全てを台無しにするかの如く、ゼッケンには『2-D結城』の文字が……。


 プシュゥウウウウウウウ……。


 ソレを目の当たりにした瞬間、シナシナとまるで体中の力が抜け落ちていくような感覚に襲われる中、


「コラ、ヒナちゃん、いつまでもそんなところに蹲っていないでサッサと起き上がりなさいっ‼」


 そんな不機嫌そうな声が響いてきたかと思えば、


 スッ――。


 今にもゼハハハと笑いだしそうな勢いでもって、琴姉が差し出してくる闇水くろうずにも似たその手のひらを、半ば強制的にも吸い寄せられる掴まされる形で立ち上がらせられるなり、


「もぉ~、ちょっと目を離すとすぐ浮気するんだから……。いっそのこと人工衛星でもハッキングして24時間、365日ヒナちゃんのことを監視でもしたいくらいだわ」

「人工――⁉ か、勘弁してくれよっ……。そ、それに浮気なんて、そんな大袈裟な……。ほんのちょこっとだけチラ見したくらいで……」

「チラ見ぃ~? チラ見、ねぇ……」

「な、何だよ……」


 ジト目にて琴姉がコチラを睨みつけてきたかと思えば、呆れたように呟いた。


「ハァ~~~ッ……。い~い、ヒナちゃん? チラ見っていうのはねぇ、あくまでも0.7秒以内での範囲の話であって、0.8秒以上見続けることを世間ではガン見というのよっ‼」

「う、嘘つけっ⁉ そ、そんな常識、今初めて知ったぞ!?」


 そんな琴姉の謎ルールはこの際置いとくとして、


「にしても、イテテテ……。そんな大事な弟の頭を大根で殴るかねぇ~。あ~あ~、すっかりグチャグチャじゃねーかよ」


 琴姉がその右手に握りしめている直に俺の後頭部を襲ったであろう真っ二つに折れた大根と地面に転がっている片割れを交互に見比べながら、そんな恨み言の一つも零していくも、


「べェ~~~っだ‼ ご心配なくぅ~、ちゃんと持って帰って今晩のお味噌汁の具材として有効活用しますから。ヒナちゃんしっかり食べてよね!?」


 ああ言えばこう言う姉に対して、半ば諦めにも似た感情を抱きつつも……。


 てか、そもそも、何でここに琴姉がいるんだよ、聞いてねーぞ俺は……⁉


 そんな非難めいた視線を葵先輩に向けてみたところ、


「ん? 当然だろうが? 琴葉に許可を得ないままお前を勝手に連れ出したりなんかしたら、後でどんな災厄が降りかかることか分かったもんじゃないからな……」


 さ、災厄って……。琴姉は自然災害か何かですか⁉


 そんな俺の疑問はさておき、最早葵先輩の中では俺は琴姉の所有物かペットのような扱いになってるのかもしれんな……。トホホホ……。


 そんなことを考えていた矢先、


 パンパンッ――。


 手のひらを叩くような音がしたかと思えば、


「さて、無駄話はこれくらいにして、今から本格的に取り掛かるとするぞ? 何も世間話をするために陽太お前を借り受けたわけではないのだからな!」

「そうだよヒナちゃんっ‼ それなのに来て早々にサボってるなんて、お姉ちゃんホント恥ずかしいよ……」


 そんな葵先輩に便乗するように琴姉が情けないとばかりに俺に対して苦言を漏らしてくる。


「だ、だから、さ、サボってなんかなかったって! お、俺のことより、琴姉はどうなんだよ? ちゃんと仕事してたのかよっ⁉」

「ブゥ~~ッ‼ 残念でしたぁ~、ヒナちゃんと違ってお姉ちゃんはちゃんとお仕事してましたよぉ~っだ‼」


 そう言って、可愛らしくも舌を出し、自らの成果とやらを俺に示してくる。


「あん? 何だあの穴は?」


 琴姉が指示さししめしたところ――。

 そこには丁度、大人二人分くらいがギリ入れそうな穴が掘られていて……。


「ま、まさか、俺を生き埋めにする為の穴じゃあるまいな……」

「…………そんなわけないでしょ? アレは焚き火用に掘った穴なんだから……」


 お、お~~~~~い、い、一体、何だ今の間はっ⁉


「……………………」

「……………………」


 琴姉の態度に急に不安になり、琴姉に対して改めて質問してみようとするも、


「コラ、お前たち‼ 今始めると言ったばかりだろうが? 早速脱線するんじゃないっ‼」


 ついに葵先輩の雷が落ちる。


「うぅ、め、面目ないっす……」

「やれやれ、本当に頼むぞ? それで、琴葉の方も準備はいいか?」

「ハイハ~~~イ♪ お姉ちゃんはヒナちゃんと一緒ならいつでも大丈夫でぇ~~~す♡ ねぇ、ヒナちゃん?」


 今しがたまでぷくぅっとむくれていたのが嘘のように……。

 それこそまるで気まぐれな飼い猫がコロコロと表情を変えるように俺の腕へと体ごとくっついてくる。


 むぎゅぅ~~~っ♡


「こ、コラっ、そんなにひっつくんじゃねーってのっ‼」

「ダァ~~~~メッ♪ 離れませんよぉ~~っだ♪ だってヒナちゃんはお姉ちゃんが目を離すとすぐ浮気しちゃう悪い子さんなんだからぁ♡」


 そんな俺たちのやり取りを目の当たりにし、すっかり呆れ顔の葵先輩。


「全く、どこまでが本気なのやら……。まぁいいだろう、それじゃあ琴葉&陽太‼ 今日はよろしく頼むぞ‼」


 そんな葵先輩の号令の下、俺たちはお昼過ぎまでの約7時間余り、みっちりと休むことなく働かさせられ続けることとなる――。

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